Q. 「相続時精算課税制度」を活用したいのですが、注意すべき点は?

〈私、悩んでいます〉

相続よりも贈与の非課税制度を上手に使った方が、より有利に資産を子どもや孫に遺せると考えています。できれば、2,500万円まで贈与税が発生しない『相続時精算課税制度』を活用したいのですが、場合によってはこの制度を使っても税金は発生するとも聞きました。活用する上で、どういう点に注意すればいいでしょうか?(73歳/男性)

ファイナンシャル・プランナーからのアドバイス

  • 早期にまとまった資金が必要な子や孫に贈与できる
  • 制度を一度選択したら撤回できない
  • 贈与時は非課税でも、相続時に相続税が発生する可能性がある
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申告と一緒に「相続時精算課税選択届出書」の届け出が必要

「相続時精算課税制度」とは、受贈者が2,500万円まで贈与税を納めずに贈与を受けることができ、贈与者が亡くなった時にその贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額とを合計した金額から相続税額を計算し、一括して相続税として納税する制度です。

計算の結果、相続税の納税を要しない場合には、遡って贈与税がかかることはありません。なお、2,500万円を超えた分の贈与には、贈与時に20%の贈与税がかかりますが、相続税を計算する際に支払った贈与税相当額は控除されます。 

具体例で説明します。例えば、母親から2,000万円を贈与されたとします。相続時精算課税制度を利用すれば、この時点では贈与税は発生しません。数年後、母親が他界し、相続された資産が5,000万円だとすれば、先に同制度を使って贈与された2,000万円を加算し、計7,000万円に対して相続税が計算されるということになります。

もし、贈与が3,000万円であれば、相続時精算課税制度を利用することで2,500万円までの贈与税は非課税、残り500万円に贈与税が発生します。この際、支払った贈与税100万円が、相続税が発生した場合にその額から控除されます。

この制度は、1人の贈与者からの贈与額の合計が2,500万円になるまでは、何回贈与を受けても非課税となります。また、贈与者ごとに利用できるため、例えば両親からそれぞれ贈与を受ければ、最大5,000万円まで贈与税が発生しないことになります。

適用要件は、贈与者は贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母または祖父母、受贈者は贈与を受けた年の1月1日において20歳以上の者のうち、贈与者の直系卑属(子や孫)である推定相続人または孫です。贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日までの贈与税の申告期間内に、贈与税の申告と一緒に「相続時精算課税選択届出書」の届け出が必要です。

「暦年贈与」との併用は不可

「相続時精算課税制度」を理解する上でのポイントは、同制度を利用して贈与した分が、相続発生時に相続税の対象額として再計算されるという点。つまり、贈与の際は非課税となっても、将来、相続する額によっては、相続税が発生するということです。

仮に、相続人が1人だとすれば、相続税の基礎控除額は3,600万円ですから、贈与額と相続した資産の合計額がそれを超えれば、原則、相続税は発生することになります。 

その上で、この制度のメリットを考えれば、やはり早期にまとまった額の資産を贈与することができるということ。上手に活用すれば、贈与税、そして相続税も非課税のまま、子や孫が資金を必要としている時期に合わせての贈与が可能になります。

気をつけるべき点としては、相続時精算課税選択届出書を一度提出すると、撤回できません。相続時精算課税制度は、同じ贈与者からの贈与について、年間110万円の贈与税の非課税枠となる「暦年贈与」との併用が不可となっていますので、この制度を選択した時点で、それ以降、暦年贈与は利用できないことになります(ただし、別の贈与者からの贈与は利用可能)。

また、同制度を選択することで、「小規模宅地等の特例」も利用できません。この特例は、居住用等の宅地が相続される際、一定の要件を満たしていれば、その評価額を80%減額して税額が算出される規定。宅地の評価額が高ければ、大きな節税につながります。将来、宅地を相続することが想定される場合は、どちらを選択するか、十分検討するべきでしょう。