ファイナンシャル・プランナーからのアドバイス
- 人生に必要な資金を必要な時期に合わせて、計画的に備えることが大切
- 20代は「先取り貯蓄」で、確実に貯める習慣を身につける
- 資産形成として一部、運用を取り入れることで将来のリスクに備える
「来年、大学を卒業します。これから社会人になり、自分で稼いで生きていくことを考えたとき、仕事の収入だけで足りるのかどうか、不安になってきました。およそ人の一生で、どの程度のお金が必要で、それをどのように用意していけばいいのでしょうか?(男性/21歳)」
人生にはどの程度、お金が必要なのでしょうか? もちろん、それは人によって異なります。どのような人生を歩むのか、その中身によってかかる支出にも大きな違いが出るからです。ただ、ひとつの目安として将来、結婚し、子育てや住宅購入も行い、そして夫婦で老後を迎えるというライフプランを設定すれば、およそ2億円は必要と考えられます(図参照)。
対して、収入はどうでしょうか。もちろんこれにも個人差はありますが、勤務先からの給与やボーナスに、老後に手にする公的年金等を加算すると、平均で約2億5,000万円。2つの数字を単純に比較すれば、人生に必要な資金は足りることになります。ただし、これでひと安心というわけではありません。
住宅購入を例に考えてみましょう。仮に、住宅購入にかかるすべての費用が4,000万円だとします。望ましい自己資金を2割とするなら800万円。35歳に購入するとして、それまでにこの資金が用意できるかどうか。
教育資金も同様に考えてみると、例えば、幼稚園~大学まですべて国公立に通った場合で約790万円、すべて私立(大学は文系)であれば約2,400万円(文部科学省「平成30年度子供の学習費調査」、「国立大学の授業料その他の費用に関する省令」、「私立大学等の令和元年度入学者に係る学生納付金等調査結果」等より試算。なお、2019年10月以降は幼児教育保育の無償化により、教育費は上記額より下がる可能性あり)。子どもが2人ならこの倍。この時期までに、この資金を用意しなくてはなりません。
また、老後の生活費については、例えば高齢の夫婦無職世帯(※)の、税金と社会保険料を含む1カ月の生活費は平均で約27万1,000円(総務省総務局「家計調査報告(家計収支編)2019年(令和元年)」より)。このうち、公的年金等の社会保障給付を差し引いた、いわゆる不足分が約5万4,000円。老後生活が30年あるとすると、老後資金として1,944万円が必要ということになります。さらに、今後高齢化が進むなかで、セカンドライフまでに用意した資金を使い果たしてしまうという「長生きリスク」も意識して、現役時代からより十分に準備をしておく必要があるでしょう。
つまり、人生に必要な資金には、明確に必要な時期があります。そして、とくに「人生の3大資金」と言われる教育資金、住宅資金、老後資金は、一朝一夕で用意することが難しい大きな金額です。そこで、大事なのが資金計画、つまり事前に準備をすることです。個々のライフイベントに対して、必要となるおおまかな金額を把握し、いつ頃から準備をすればどのくらい用意できるのか。自分なりの資金づくりプランを描き、早い時期から準備していくことが重要となるのです。
とはいえ、大学生にとって将来のライフプランはなかなか正確には描きづらいもの。たとえば、老後は40年以上先の話で、不確定要素も多く、細かく資金計画を立てることは極めて困難です。結婚も、人によってする年齢は異なりますし、ずっと独身という人もいるでしょう。したがって、まずはおおまかなプランを描いたうえで、状況が変わったり、将来のビジョンがより具体的になった時点で、そのつど資金づくりプランを見直し、適切に修正をすればいいのです。
(※)夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯
では、どのように資金づくりをすればいいのでしょうか。
20代であれば、まずは貯蓄習慣を身につけ、かつ確実にまとまった貯蓄をつくるために、毎月一定額を積み立てていくのがいいでしょう。具体的には、給与からの天引きや口座振替によって自動的に毎月積立てができる商品が、便利で効率的です。重要なのは、先に貯蓄分を差し引き(=先取り貯蓄)、残った収入で生活をやりくりするということ。「余ったら貯蓄する」という形では、つい目先の生活を優先し、貯めづらい状況になりがちです。
また、貯蓄ペースをしっかり維持することができ、貯蓄額がある程度まとまってきたら(生活費の半年~1年分)、将来のための資産形成として、一部を運用に充てることを考えてみましょう。元本保証の貯蓄商品も、インフレになれば資産が目減りする可能性があります。さらに、少子高齢化による社会保障への不安や、長生き“リスク”にも備えたいところ。それをカバーするうえで、運用を上手に取り入れることは有効な手段なのです。
例えば、月3万円貯蓄しているなら、そのうち5,000~1万円を運用に回すなど、定期的に一定額を投資する方法が考えられます。あるいはボーナスから年2回、10万円ずつ運用してみるといった方法もあるでしょう。生活に必要な資金をしっかりと確保したうえで運用を検討しましょう。
もちろん、運用は貯蓄商品と異なり、価格が変動するリスクがあります。しかし、リスクのある運用も、若いうちから始めることで、時間を味方にしてリスクを低減することもできるのです。長期的な観点で運用することにより、価格変動リスクをある程度抑えることができ、また長期運用により複利効果も期待できます。NISA(少額投資非課税制度)やつみたてNISA、iDeCo(個人型確定拠出年金)といった税制優遇制度を活用することも、上手に運用をしていく大事なポイントでしょう。
総務省「家計調査」から一生涯に稼ぐお金、使うお金を試算
〈試算の前提条件〉
・総務省「家計調査報告・2016年平均速報結果」より、収入は可処分所得 支出は消費支出をデータから試算
・試算設定として、22歳で就職、30歳で結婚、65歳になるまで勤務、65歳から無職世帯となり、平均寿命である夫81歳、妻87歳まで生存。夫婦は便宜上同い年とする
・22~29歳(8年間)は「単身世帯・勤労者世帯の家計収支」の家計収支
・30~64歳(35年間)は「二人以上世帯のうち勤労者世帯」の家計収支
・65~81歳以降(17年間)は「二人以上世帯のうち高齢無職世帯」の家計収支
・82歳~87歳(6年間)は「単身者のうち高齢無職世帯」の家計収支