平成30年10月18日

藤原会長記者会見(みずほ銀行頭取)

岩本専務理事報告

 事務局から1点報告する
 本日、理事会に先立ち自粛勧告等委員会を開催し、10月5日に金融庁から行政処分を受けたスルガ銀行への対応について審議を行った。その結果、全銀協として同行を「注意処分」とする措置を決定した。今回の事案は、全銀協行動憲章の精神に著しく反するものであり、誠に遺憾であることから、スルガ銀行に対し、強く反省を促すとともに、再発防止策の徹底による信頼回復に全社をあげて取り組むよう要請した。
 

 

会長記者会見の模様


(問)
 1点目、足元で日米の長期金利が上昇している。地銀も含めた、銀行業界への影響についての考えを伺いたい。
(答)
 ご指摘のとおり、このところ日米の債券市場で長期金利の上昇がみられている。米国の10年国債利回りは3.2%近傍と、2011年春以来約7年半ぶりの水準に上昇している。また、日本の10年金利も、今月4日には0.155%と、日本銀行がマイナス金利政策の導入を決定した2016年1月29日以来、約2年8ヵ月ぶりの水準まで上昇した。
 米国の長期金利上昇には、もちろん景気の強さが背景にある。今日も米国金融機関の経営者とディスカッションしたが、足元の力強い景気を力説していた。こうした景気の強さに加え、原油価格の上昇などを受けてインフレ懸念が徐々に高まっていることや、トランプ政権の財政拡張政策とFRBによるバランスシート縮小を受けて国債の需給悪化懸念が燻っていることなどが金利上昇の背景にあるとみている。一方、日本の長期金利上昇は、米国の金利上昇に対する「連れ高」の側面が大きいのではないかと考えている。
 こうした日米の長期金利上昇による銀行経営への影響には、直接的ルートと間接的ルートを通じたものがあると思う。
 まず間接的ルートからは、マクロ経済あるいは金融市場を通じた影響がある。米国経済の堅調な拡大は好ましいことではあるが、それに伴う米国の長期金利の上昇が、新興国からの資金流出・通貨安を通じて新興国経済を悪化させるリスクや、グローバルな金融市場に混乱をもたらすリスクには引き続き注意が必要だと考えている。また、住宅市場や設備投資の下押しを通じて、好調な米国経済自身を下押しする可能性もある。
 先週、株価の急落があったが、米国の長期金利の上昇で割高感の強まったハイテク株やグロース株の下落が顕著にみられたのが特徴的だ。長期金利上昇の影響が株式市場に及ぶ構図が明確になっており、今年の2月に生じた世界的な株安局面を思い起こさせる動きだ。こうしたグローバルなマクロ経済・金融市場への悪影響が、日本経済や邦銀にも及んでくることが、間接的ルートである。
 次に、直接的ルートからは、日米の長期金利上昇に伴い、邦銀が保有する債券等に生じる潜在的損失が拡大する影響がある。米国の長期金利上昇は、保有する米国債や米ドル建て社債の評価損益の悪化につながる。また、日本についても10年国債の利回りの上昇幅はそれほど大きくないが、20年や40年など超長期の金利は、足元の上昇幅が相対的に大きくなっている。超長期の国債を多く保有している金融機関では、保有債券の時価に対する影響がより大きくなるとみられる。
 こうした日米の金利上昇の影響を直接的に受ける債券等の有価証券の保有状況は、個別銀行によって異なるが、日銀の金融システムレポートによれば、全体として円債・外債ともに減少傾向にある。
 金利上昇の影響は、当局とともに、我々銀行界においても以前から目線を高く持って認識してきたがゆえに、足元の金利上昇が、銀行経営に対して直ちに大きな混乱を惹起するとは思わない。ただし、FRBによる継続的な利上げが示唆される状況下、米国の長期金利は今後も上昇が進む可能性がある。各行が対象となる有価証券のリスク特性を正確に把握したうえで、それぞれの経営体力やリスクコントロール力に見合った適切な運用・管理を行っていくことが、一段と必要になってくる局面だと思う。
 ただし、日本の長期金利については、やや上昇したとはいえ、総じてなお非常に低い水準にある。地域銀行も含めた銀行経営への影響という観点からは、こうした状況の長期化を背景に、利鞘縮小による厳しい経営環境が続いているということを改めて申しあげておきたい。現時点では、低金利政策の長期化に伴う副作用として金融仲介機能への影響が生じているとはみていないが、長引く低金利による累積的な影響が、いずれ銀行の資金供給力の変化につながっていく可能性もある。こうした時間軸にも十分注意していくことが肝要だと思う。
(問)
 2点目、9日に全銀ネットのモアタイムシステムが始まり、10日近く経った。利用の状況など、足元の状況を教えてほしい。関連して、安倍総理が未来投資会議で資金決済業者の送金上限100万円を見直す考えを表明した。モアタイムも含めて、仮に資金決済法が見直された場合、銀行での送金利用に将来的にどういう影響があるのか。
(答)
 前段のモアタイムに関して申しあげると、全銀システムの稼動時間拡大は、約500の金融機関が参加し、10月9日に無事スタートした。今後は毎年4回の参加タイミングを設けることとしており、最終的には約9割の銀行が参加を予定している。
 10月9日以降におけるモアタイムでの銀行間振込の利用状況は、開始初日の夕方から翌朝までに24万件程度の振込があり、それ以降はコアタイムも含めた全体件数のうちの3~4%程度がモアタイムの振込になっている。時間帯別の傾向としては、平日は朝7時頃から21時頃まで、休日は朝10時頃から18時頃までの間に、活発に振込が行われている。これらは、平日の日中からのシフト、あるいは現金支払いからのシフトなどが考えられるが、まだ始まったばかりであり、今後も必要に応じ動向をフォローしていきたい。
 現在の決済サービスの中核を担う全銀システムと、送金サービスを提供する資金移動業者を比べた場合の評価であるが、私は網羅性、利便性、そして極めて高い安全性・信頼性という点で、全銀システムに強みがあると思う。国内のほぼ全ての金融機関の口座とつながっており、法人と個人を跨いだ全ての経済主体が利用可能であるという網羅性。また、モアタイムも含めると24時間365日リアルタイムで振込が届くという利便性。さらに、1973年の稼動開始以降45年間にわたって一度も運用時間中にオンラインを停止していないという極めて高い安全性・信頼性。これらの点で、ほかの送金手段との棲み分けは可能であり、お客さまの利用シーンや決済の安全性に対する意識等に応じ、選択肢を提供できると考えている。
 次に、資金移動業者の送金上限100万円の件であるが、まず、未来投資会議での表明は、誰でも、どこでも、キャッシュレスで支払・送金サービスを受けられる社会を実現するため、金融法制の見直し、金融機関との連携促進などを検討するということだったと理解している。
 そのうえで、現時点での個人的な見解を申しあげる。為替取引の基盤は経済活動の基礎をなす重要な社会インフラであり、利便性と併せて利用者保護や決済システムの安定性確保の観点を忘れてはならないと思っている。顧客資産の保全や取引の確実性が不十分な場合、あるいは事業者が破綻した場合等の社会的・経済的影響は甚大であり、仮に送金上限100万円を緩和の方向で見直す場合には、リスクに見合った安全性の確保や、例えばマネー・ローンダリングに対するリスク管理態勢の高度化なども当然必要になってくる。
 銀行や全銀ネットでの送金への将来的な影響については、送金上限100万円の見直しの有無はさておき、お客さまの利用シーンや安全性に対する意識等に応じた決済サービスの棲み分け、あるいは銀行と資金移動業者等の協調などを通じ、利用者利便の向上につながっていくと考えているし、つなげていかなければならない。
 なお、未来投資会議の資料においては、「銀行を介さなくてもスムーズに送金できるよう制度的障害を取り除く」とされている。銀行のエゴを申しあげるつもりはないが、この記載は、銀行を介す・介さないということではなく、金融システム全体のあり方として利便性の高い送金サービスが安心・安全に提供されるべきという趣旨だと信じている。
 イノベーションを促進するための規制の見直しは、我々も働きかけており、前向きに受け止めているが、それと利用者保護とが両立されるよう議論が進んでいくことを期待している。必要に応じて、しっかりと意見発信をして参りたい。


(問)
 先般、安倍総理が来年10月からの消費税の対策について言及したときに、中小の小売店に対して増税分の2%を、キャッシュレスで決済したお客さまに対して還元するといった発想を披露した。まだわからないところもいろいろあるが、業界としてはこれをどう受け止めているか。準備は間に合うのか、費用負担はどうするのか、その辺のご所見をお聞かせいただきたい。
(答)
 安倍総理から来年10月の消費税率引上げに伴う対策として、中小小売業に対し、ポイント還元といった新たな手法による支援を行うことの言及があったと承知している。
 報道によれば、商品を購入する際に、クレジットカードなどのキャッシュレス決済手段を利用した方々に対し2%分を還元するということだが、個人的見解を申しあげると、増税による「景気への影響抑制」という点で前向きに捉えている。加えて、我々が進めようとしている「キャッシュレス化推進」に弾みがつくのであれば、歓迎したい。
 近年、クレジットカードだけでなく、スマートフォンも利用したさまざまなキャッシュレス決済手段が出てきている。利用者の多様なニーズに応える決済手段の拡充がキャッシュレス化推進のひとつの鍵だと考えており、できるだけ多くのキャッシュレス決済手段が今回のポイント還元策に対応できる仕組みとなることが望ましい。
 対象となる業種や規模等の線引き、あるいは多様なキャッシュレス決済手段への対応など、整理すべき課題はあると思うが、「景気への影響抑制」および「キャッシュレス化推進」の趣旨を踏まえた制度となるような議論を期待したい。
 折りしも10月15日には、キャッシュレス推進協議会の創立大会が開催され、私は副会長を拝命している。本件については、是非とも今申しあげたような趣旨を踏まえた議論をしていただきたいし、私ども銀行界としても必要に応じ意見発信をして参りたい。
(問)
 今、幕張でCEATEC(シーテック)という家電見本市をやっている。昔は家電メーカーが技術を披露する場だったが、今回はメガバンクグループ3行とも何がしかのグループ企業が出展して新技術を見せている。金融業界にとっての先端のIT技術の重要性といったところについて改めて所感をお聞かせいただきたい。
(答)
 デジタルテクノロジーといった先端技術を活用していくことは、将来も銀行が社会インフラとして意義ある存在であり続けるためには必要不可欠であり、当面の経営戦略の最重要項目の一つであると考えている。日本は今、人口減少や少子高齢化、地方創生など構造的かつ社会的な課題を抱えている。全銀協としても今年度を「時代の転換期にあたり、社会的課題の解決に貢献する1年」と位置づけている。
 そのような課題の解決に社会インフラとしての銀行がどのように貢献できるかを考える際には、テクノロジーの活用が大きな鍵となる。言い換えると、テクノロジーの活用は、銀行自身の変革に向けた大きな契機にもなるだろう。例えば、キャッシュレス決済を始めとして、先端的なデジタル技術を介して、金融が日常生活のあらゆる場面と繋がる世界はそう遠くないところまで来ていると思う。また、その先にはデータの利活用がある。データサイエンスを駆使したデータ利活用は、産業活動や生活を「スマート化」するなど、社会的課題の解決に向けた一つの大きな鍵になるだろう。
 CEATEC(シーテック)の展示では、2030年までに700万人の生産労働人口の減少が見込まれる中、例えば無人コンビニ、AIガードマン、AI秘書など、人手不足などの社会的課題の解決に向けた取組みや顔認証や音声認識を用いた事例が紹介されており、非常に心強く思っている。金融は、厚い顧客基盤を持ち、顧客保護のための厳格な情報管理態勢にも力を入れてきた。それに裏打ちされた社会からの信用をベースに、次世代技術と融合した先進的な金融サービスを創出する大きな可能性を秘めている。その実現のためには、銀行が自己完結的な発想にとどまることなく、「協調」をキーワードに、スタートアップやベンチャーを含む高い技術力を有するFintech事業者と連携することも不可欠であり、両者が力を合わせていくことで日本の未来が築かれると強く信じている。


(問)
 今更の感はちょっとあるが、投信販売の共通KPIについて伺いたい。個社の発表がほぼ出ているが、まずその結果の受止めと、それと同時にKPI公表に対する各社の姿勢などを聞いていると、どちらかというと後ろ向きで、あまり公表したくないと見えるが、KPI公表そのものに対する藤原会長のお考え、評価などをお伺いしたい。
(答)
 KPIの公表は、金融機関が、お客さまに対してどのような付加価値を提供できているかということを、真剣・真摯に振り返る機会でもあり、私は前向きに捉えている。
 2017年3月に「顧客本位の業務運営の原則」が公表されて以降、自主的なKPIと金融庁が定めた「比較可能な共通KPI」の公表による見える化が進んでいる。「比較可能な共通KPI」のみならず、金融機関が創意工夫のもとで、自主的なKPIの公表をさらに進めていくべきとも思っている。ちなみに、みずほ銀行では、フィデューシャリー・デューティの実践、お客さま等の支持・評価、成果の3つの観点から、17項目のKPIを自主的に設定・公表している。
 業態別の状況、あるいはその評価についてのコメントは差し控えるが、KPIは、お客さまが金融機関のパフォーマンスを比較し、選択する際の有用な情報となり、その設定・公表は、投資家の裾野拡大につながる取組みだと思っている。
 なお、お客さまに対しては、金商法にもとづく取引残高報告書の送付に加えて、日証協の規則にもとづくトータルリターンの通知を行っており、各金融機関はお客さまの損益の状況をしっかりと管理しているものと認識している。
 KPIの公表に際し、必要な情報の集約や、金融機関ごとのシステムの違い等により、場合によっては時間を要したケースがあったかもしれないが、金融機関が後ろ向きの姿勢であるということではないと思っている。自ら進んでKPIを設定し、取組みの見える化を進め、透明かつ公正な開示に努めることにより、お客さまの信頼を得る一助にするという考え方が大事だと思う。
 いずれにしても、銀行界にとっては「顧客本位の業務運営」の定着が最も重要であり、不断の取組みを続けていきたい。


(問)
 先ほど出た消費税増税対策のポイント還元策について改めて聞きたい。
 導入するうえでの対応の部分では、カードやスマホの保有が前提となっていて、高齢者や低所得者が恩恵を受けにくいという部分や、小売店も決済ごとにカード会社に支払う手数料などの負担が生じるといった課題も多く指摘されている。金融業界としてこうした課題をどう捉えていて、今後、金融業界としてどういう対策を講じることができるのか、考えを聞きたい。
(答)
 ご指摘のとおり、対象範囲の切り分けの難しさ、あるいは税の公平性などは難しい論点だと思う。ただ、キャッシュレス推進は、Society5.0を目指す政府の未来投資戦略2018における具体的施策の1つとなっており、課題を乗り越えて推進していかなくてはいけない。私ども金融界としても、キャッシュレス化を進めることで、生産性向上や業務効率化のみならず、金融サービスのさらなる多様化に貢献をしていきたいと思っている。
 これから、業種・規模等の線引きや多様なキャッシュレス決済手段への対応とともに、税の公平性といった論点も含めて議論が深められていくと思うが、我々も必要な意見発信を行って参りたい。
(問)
 もう一つ別の話をお願いしたい。情報銀行について、この6月に総務省と経産省がまとめたガイドラインで、民間団体が情報銀行に参入して、企業が財務条件とか情報セキュリティの対応の要件を満たしているか、審査・認定する制度が近く始まる予定である。消費者が安心して活用するためには体制整備が必要になってくると思うが、民間団体を通じた自主規制だけで消費者保護を徹底できるのかという観点もあるし、一方で要件が厳しくなるほど参入障壁が高くなってビジネスが普及しにくくなる側面もあると思う。情報銀行のあり方とか規制に対する考え方をお願いしたい。
(答)
 今のご質問は非常に大事であり、イノベーションの促進と、個人情報の厳格な管理や透明性の確保とを両立させなければならないと思っている。個人的な見解だが、今さまざまな分野でパーソナルデータが利用されることによって生み出される新たな価値には、先ほどの質問でもお答えしたように、非常に大きな可能性を感じている。情報銀行はその一つのモデルとして、データの提供者と利活用者をつなげてデータの価値を最大化する運用機能の中枢の役割を果たすかもしれない。
 ご質問の認定制度は、そもそも個人情報保護法等の必要な法令を遵守していることを大前提として、情報銀行を営む事業者に適切な業務運営の能力があるか、あるいは情報セキュリティに関する機能が備わっているか、ということを第三者機関が認定するものである。認定主体となる日本IT団体連盟は民間の団体であるが、認定の基準は、総務省と経産省による「情報信託機能の認定スキームの在り方に関する検討会」が取りまとめ、2018年6月に公表した「情報信託機能の認定に係る指針」にもとづくものであると認識している。
 規制に関しては、まだ黎明期ということもあり、アイデアの段階からビジネスの芽を摘むことのないよう、過度に厳しくせず、イノベーションの促進に柔軟な環境を整備するという観点も重要だと思う。
 もちろん、冒頭に申しあげたとおり、個人情報の厳格な管理や透明性の確保の重要性は言うまでもなく、改善に向けた不断の努力を怠ってはならない。
 情報銀行ビジネスの発展には、利用者あるいは社会からの信頼の確立が鍵である。今回の認定制度の定着を通じて、今後、パーソナルデータの安全かつ活発な利活用が広がっていくことを期待している。


(問)
 冒頭にあったスルガ銀行の不祥事を受けての質問だが、一連の不祥事の背景には組織に蔓延していた過度な収益至上主義があったかと思う。一方で、厳しい収益環境が続くのは他の銀行も同様だし、業界全体として他人事として済ますべき問題ではないのかなと思う。そこで、適正な収益の確保と不正行為の防止、これを両立するには具体的にはどのような対応策が必要と考えているか、所見をお聞きしたい。
(答)
 一般論として、長引く金融緩和や人口減少、あるいは地方創生に苦慮している地域があるなどにより、地域金融機関を取り巻く環境は非常に厳しいと認識している。私も地方に出張した際には、現地のお取引先や地域金融機関の方と意見交換をするが、やはり、大都市圏以外の地域では非常に環境が厳しいという声を多く聞く。
 もっとも、当然のことながら、今回問題とされている書類改ざん等の不正行為や顧客の利益を害する業務運営、あるいはガバナンスの欠如は、あってはならないことであり誠に遺憾である。銀行ビジネスの土台はお客さまからの信頼であり、その大前提となるのが、法令等遵守、顧客保護および顧客本位の業務運営のための態勢等の徹底と確立である。持続可能なビジネスモデルの構築を進めるのはもちろんのこと、こうした態勢の徹底に不断に努めていかなければならない。
 適正な収益の確保と不正行為の防止は両立すべきであって、決して二律背反となってはならない。不正行為を防止する態勢を整え、しっかりとした業務運営を行うことによって、お客さまからの信頼を獲得し、ビジネスが増え、適正な収益につながっていくのだと思う。
 厳しい時こそ真価が問われる。大切なことは、環境を理由にするのではなく、まずは自らをしっかりと振り返る姿勢だ。そのうえで、自己改革や構造改革、経費削減等に取り組み、短期的な収益ではなく、持続可能なビジネスモデルを追求していくことだ。銀行自らの努力が問われているのだと思う。また、デジタルテクノロジーの活用も、次世代のビジネスモデルを構築していくうえで非常に大きなポイントである。社会から求められていることに真摯かつ愚直に向き合うことによって、お客さまから評価をいただき、最終的には、それが自らの収益につながるのではないか。
 改めて申しあげるが、今回の事案を、銀行界全体が「自らを顧みる機会」にしなければならない。
(問)
 もう1点は、不動産融資の動向に関しての質問だが、オフィスなどの商業用不動産の売買市場が活況なことを受けて、金融機関の不動産業向け融資の残高も伸びていると思う。日銀の統計では2018年3月末の銀行の不動産業向け融資の残高は76.5兆円で、過去最高を記録している。今後の不動産業向け融資の動向をどのように見ているのか、ピークが近付いていると捉えているのか、それともまだ伸びしろがあると捉えているのか、その辺のご所見を聞かせてほしい。
(答)
 ご指摘のとおり、不動産業向け貸出残高は全体として増加傾向が続いている。一方で、日本銀行の調査によれば、例えば、2017年度第4四半期の新規貸出額は前年同期比8.5%マイナスとなっており、増加傾向には一服感が見られる。オフィスの空室率や着工新設住宅戸数等のマクロ指標を見てみると、不動産市況が急速に悪化するような兆候は見られないものの、個別行においては引き続き不動産市況の動向に十分留意している。
 リスクアペタイト・フレームワーク等が大手行を中心に導入され、地域金融機関においても普及しつつあるが、そのなかでモニタリングの仕組みが構築されている。こうしたリスク管理の枠組みは、我々がバブル崩壊あるいはリーマン・ショックを経験して得た教訓のうち、最も重要なポイントの一つでもある。
 具体的には、地価や金利の動向、物件の空室率や在庫状況、あるいは他行動向など、さまざまな指標をモニタリングして予兆管理を徹底していくことに尽きる。モニタリングを通じてクレジットサイクルをしっかりと捉えることや、金融市場あるいは不動産市況の変化の兆候を見極めることを通じて、早目にアラームを鳴らし、必要に応じて不動産業向け貸出をコントロールができるよう常日頃から感度を上げておくことが重要である。


(問)
 サウジアラビアの関連の件だが、ご存じのとおり、先日、トルコの大使館でジャーナリストが殺害されたとみられる事件があり、サウジアラビア自体が何かの関与をしていたという報道も出ている。そのなかで、来週行われる予定の「フューチャー・インベストメント・イニシアチブ」という大きな金融業界の国際会議が行われる予定だが、外銀、IMF、例えばJPモルガンのダイモン氏など、相次いで欠席を発表しているところだが、そこで日本の銀行業界としてそういった会議に出席すべきなのか欠席すべきなのか、今のところ対応は十分なのかというところをまずご意見を聞かせてほしい。
(答)
 サウジアラビアの著名なジャーナリストであるジャマル・カショギ氏の失踪については、G7の外相声明で、「完全で、信頼が置け、透明性のある、迅速な捜査を期待する」と述べられており、私もこの趣旨に同感である。今、さまざまな情報が出てきており、目まぐるしく状況が展開するなかで、我々もしっかりこの状況を注視、フォローアップしていきたい。まずは情報収集に努め、注視していくとしか今のところは申しあげられない。


(問)
 キャッシュレスについて、消費増税にも絡むが、キャッシュレスで、特にQRコードで20近くも業者が乱立して、互換性もない。さらに、手数料や入金サイクルもばらばらな状況で、消費増税にキャッシュレスをつなげるというのはどうかと思うが、そのなかで一つ、規格統一に関して、協議会に藤原会長も入っているので、その辺はどう進んでいると考えていいか。
(答)
 キャッシュレス推進はわが国にとって重要なテーマであり、私自身、心からこれを推進しなければいけないと思っている。それは、お客さまの利便性はもとより、将来的に国家あるいは企業のデータ戦略にも大きな影響を及ぼすテーマだからである。
 QRコードに関しては、規格統一というプラットフォームの部分とアプリなどのサービスの部分は分けて考えた方がいいと思う。
 ご指摘のとおり、規格については、より多くの店で同じように使えるシンプルな決済手段を目指すことが、利用者の利便性のみならず、加盟店の裾野の広がりの観点からも重要で、そのためにはオールジャパンでのQRコード規格の標準化が極めて大事だと思っている。8月から、キャッシュレス推進協議会傘下の「QRコード決済の標準化プロジェクト」において、3メガを含む金融界や関連業界を跨ぐ産業横断で、QRコードの規格統一に向けた議論を進めており、今年度中に技術仕様のガイドラインを作成することを目指している。
 一方、スマホアプリなどのサービスあるいはユーザーインターフェースは、競争領域、あるいは協調的競争の領域であるべきだと考えており、これは乱立とは捉えていない。各企業が利用者の好みやニーズに応じた多様なサービスを開発し競い合うことも、利用者への付加価値を最大化するためには重要なことだと思う。 さまざまな特性を持つキャッシュレス決済手段の中から、利用者が好みやシーンに応じて自由に選択できる世界を創り出せれば、キャッシュレス化推進の弾みになると思う。
 利用者本位の目線がなによりも大切であり、複数の決済手段が併存しても、「シンプルで、かつ多くの店で同じように使える」、「異なる決済手段間でシームレスな交換もできる」、さらには「将来のデータ利活用の柔軟性・拡張性を妨げない」といったものを目指すべく、協働すべき領域では連携していきたい。


(問)
 冒頭にも出たモアタイムシステムに関連して、天皇陛下の退位に伴って、来年4月末から10連休となる見込みである。この間、モアタイムに接続していない金融機関では、10日間にわたって振込先への入金ができなくなることも想定される。銀行界としては、この10連休の振込やATMの利用など、この辺の対応を現時点でどうしていくお考えか。
(答)
 過去の大型連休を遡ると、おそらく銀行界で今まで一番長かったのは6連休で、直近では2012年の年末から2013年の年初だったと思う。このような大型連休の経験はあるものの、改元対応と合わせて、万全の準備をしなければならないということが大前提である。
 10連休になった場合でも、お客さまにご利用いただけるサービスは、通常の土日と基本的には変わらない。例えば、ATMを利用した現金の引出し、あるいはデビットカードのご利用などは可能である。連休が長くなることで、窓口での口座開設や振込など、平日しかご利用いただけないサービスに関してはご不便をおかけする場合もあるが、利用者の皆さまにはご理解を賜りたい。
 全銀協としても10連休の対応に向けた検討に着手しており、今後、会員行向けに留意事項を取りまとめて還元するなどの対応を行っていく。また何より、広くお客さまへの事前のご案内が重要であり、前もってお金を引き出す、送金をするなどについて、しっかりとご案内して参りたい。
 なお、銀行振込については、今般の全銀システムの稼動時間拡大により、連休中であっても、昼間の時間帯であれば約7割の銀行においてリアルタイムで振込ができるようになり、利便性が向上している。
 また、祝日の新設に伴い、例えば、先日付の振込日や定期預金の満期日、融資の返済予定日、将来の銀行営業日を指定して行う取引などに係るシステムの改修も必要になり得る。さらには、10連休中に発生した取引に係る事務処理を翌営業日の朝にまとめて行うということにも備えなければならず、事務・システム面の手当も含めて、万全を期すべく取り組んでいきたい。


(問)
 先ほどのサウジの件で追加質問である。これは確認だが、今のところ行くとも行かないとも決まっていないのかというのが一つと、逆に他国の人たちがたくさん取り止めになるなかで、態度を鮮明にされないことが、逆に邦銀のスタンスというのが強い表明になっている気がする。軽々にキャンセルできないというのは、やはりサウジという国とのこれまでの歴史的な関係性、今の関係性も含めて、早々に行かない、行くというのを決められないということか。理由をお聞かせ願いたい。
(答)
 先ほど申しあげたG7の外相声明にもあるとおり、まずは「完全で、信頼が置け、透明性のある、迅速な捜査を期待する」という段階であり、これについては、我々も全く同じ考えである。個別行としても、その考え方に同感したうえで、どう対処するかということになろうかと思う。
 状況が目まぐるしく展開していくなかで、まずは事実解明の進展、あるいは捜査の展開を注視していきたい。

以上