平成25年1月17日

佐藤会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ社長)

和田専務理事報告

(なし)

会長記者会見の模様


(問)
 11日に安倍政権で緊急経済対策が決まり、15日に補正予算案として出てきたが、官民のファンドの活用やいろいろな経済対策の方向性が打ち出されていると思うが、ご覧になって、どんな所見を持っているか教えてほしい。
(答)
 経済対策に対する評価については、個人的な見解になるが、大きく三つのポイント、一つ目は「経済対策の発動のタイミング」、二つ目は「大きさ・規模」、三つ目は「具体的な中身」に分けてお話したいと思う。
 一つ目の「タイミング」については、基本的には適切であったと思う。昨年末から年明けにかけて、製造業において増産計画が一部出てくるなど、日本の景気が少し上向いてきたところであり、タイミングとして非常に有効であると思う。加えて、欧州経済は引き続き停滞しており、中国経済についても、各種計数では底を打ったようにも見えるものの、依然として不透明な状況が続いているといった海外情勢を考えると、国内景気の回復を確かなものとする観点からも、経済対策として非常にタイムリーであると思う。安倍政権が発足してから本当にわずかな期間でこうした対策を速やかに決定されたことは、非常に心強く感じている。
 二つ目の「規模」については、ご承知のとおり、今回の経済対策は、事業規模ベースでは20.2兆、国費では10.3兆に上るという点で、かなり思い切った大型の経済対策であると思う。今年前半の景気がこの経済対策によって、おそらく大きくサポートされていくであろう。他方で、今回の対策を受けた補正予算では、建設国債が5.5兆、年金の国庫負担分に対応したつなぎ国債を合わせると、約8兆円の国債が増発されることになる。政府も財政規律に対する非常に強いインタレストを表明しておられるが、財政規律に対する市場の信認低下を招かないよう、中期的な財政再建の取り組み姿勢と具体的な方向感についても、しっかりと示していくことが必要であると考えている。
 最後に対策の「中身」であるが、補正予算の約5割が公共事業に向けられる。ご承知のとおり、公共事業は景気対策として非常に即効性が高く、また、足元の日本の状況を考えると、社会インフラの更新は重要な課題であり、半分が公共事業に投入されることだけをもって、バラマキなどと批判すべきではないと思う。他方、財政事情が非常に厳しい中では、できるだけ民間資金を活用していくというスタンスが重要であると思われるが、今回の対策においては、防災・復興対策のためのインフラ整備に対して国費を重点投入する一方で、首都圏の交通インフラなど、国際競争力の強化のためのインフラ設備に対しては、PFIの推進など、民間資金の活用についても、しっかりと盛り込まれていると認識している。先月もこの場で申しあげたが、今回の経済対策の中にこうした社会インフラに対して、PPPあるいはPFIといったファイナンス手法を使った民間資金の活用という視点がはっきり盛り込まれている点は、非常に心強く感じている。
 また、地域の活性化支援、日本企業の海外展開の支援、あるいは一次産業の農林漁業の成長産業化など、様々な目的を持った官民連携ファンド等の組成・拡充なども掲げられている。前回、あるいは前々回の会見でもこうした分野に対するリスクマネーの供給は日本経済にとって必要であると申しあげたが、このように官民連携によるリスクマネーの供給が盛り込まれた点も然りであると思う。産業競争力の強化という観点からも、今後、官のサポートと我々の民間の努力のベストミックスによって、日本経済の再生・復興に繋げていくことが重要であり、今回の経済対策は、こうした官民の協力という点も含めて、しっかりと方向感を示していただいていると思っている。
 最後に一言だけ加えさせていただくと、今回の経済対策によって日本の景気は当面下支えされるであろうと思うが、対策の効果が長期にわたって持続するか否かという点までは、はっきりとは分らないので、併せて、安倍政権が中期的な成長戦略をしっかりと立案し、それを実行に移していくこと、また、日本経済の持続的な成長に向けた強い意志を示していくことがわが国の経済発展にとって極めて重要であると考えている。


(問)
 補正予算に伴って、国債が少し増発されるということで、市場の一部からは金利が上昇するのではないかというリスクを懸念する声があると思うが、金融機関はたくさんの国債を保有している。その点について、先ほども少し触れていたが、もう一度伺いたい。
(答)
 先ほども少し触れたが、13兆円規模の補正予算の財源として、公共事業に対応した建設国債や、基礎年金の国庫負担分に対応したつなぎ国債を中心に、総額約8兆円の国債が増発予定と認識している。長期金利について申しあげると、代表的な指標である新発10年国債利回りは、ご指摘のように0.7%を下回る水準から年明けに一時0.8%台になるなど若干上昇してきている。この点について、日本の債務拡大が影響しているのではないかと懸念する声がマーケットの一部にあることは私自身も承知しているが、むしろ麻生財務大臣が仰っているとおり、今回の緊急経済対策は「経済再生を最優先した」ものであり、財政健全化の議論とは切り離して捉えるのが相応しいと思う。
 長期金利がなぜ上がっていくのかということについては、様々な要因があろうかと思う。私の個人的な見解であるが、国内要因のみならず、米国経済の回復に伴う米国の長期金利上昇に引きずられるかたちで日本国内の長期金利が上がっていっているところが大きいと思う。したがって、今申しあげた長期金利の若干の上昇が全て国内要因、特に今回の経済対策の国債の増発によってもたらされているということではないと思う。一つの見方として、例えば日本国債のCDSマーケットのプライスの動きを追ってみると、安倍政権が誕生して経済対策が打たれていく過程のなかで、それほど大きくは動いていない。そういう点から考えると国債の増発によって日本国債の信用力が落ちて、それを国際的な金融マーケットから問題視されているという徴候は必ずしもはっきり見えていないということだと思う。しかしながら、この問題については、日本国政府の財務規律に対する強い意志が継続的に示されることが非常に大事だと考えている。ファンダメンタルで申しあげると、未だ日本の対外債権は世界最大級であるし、引き続き国債の90%以上を国内で消化している、あるいは消費税等の増税余地があるということから長期金利が急激に上がっていく環境ではないと思うが、足元、海外投資家を含めてマーケットでは、日本政府の財政再建に対する意志、政府の強いコミットが、どの程度であるのかということを試しにきている面もあるので、その点は非常に重要なポイントであろうと思う。
 ただ、安倍総理自身も財政規律は極めて重要であると度々仰っているし、また麻生財務大臣も現行の財政健全化の目標である2015年度のプライマリーバランスの赤字を、GDP比で2012年度比で半減することについては、引き続き大きなターゲットとして考えていると随所で仰っているので、安倍政権の基本的なスタンスとして、この財政規律の問題については、強い関心と、強くコミットしていこうという姿勢が受け取れる。注視していく必要がある分野ではあるが、足元において今回の経済対策等を含めて、従来と異なる危機的な状況が起こっていると認識する必要はないと考えている。


(問)
 全銀協会長の肩書きではないと思うが、政府の産業競争力会議のメンバーに選ばれて、金融界の代表として、いろいろな意見を求められると思うが、政府に対して、どういうところで訴えていきたいとお考えか。
(答)
 このたび、産業競争力会議のメンバーの一人としてご指名を受け、来週の水曜日には第一回の会合が開かれる予定である。これは、一企業経営者として指名いただいたと認識しており、全銀協会長会見の場でコメントするのは相応しくないが、せっかくのご質問であるので、現時点で私なりに考えているところを申しあげたいと思う。
 まず、第一に、産業競争力会議の位置付けに関して申しあげると、安倍政権の三つの矢、すなわち「金融政策」「財政政策」「産業政策(成長戦略)」のうち「産業政策」そのものに関する議論の場であると認識している。したがって、「日本経済の再生のために何を実行していかなければならないのか」ということについて、単なる抽象論に留めず、具体的な実行計画を立案し可及的速やかに実施する、という視点で議論が進むことが非常に重要であると思う。すなわち、キーワードはおそらく「具体的」、「スピード感」であり、とりわけ「実行計画」であるという点が、非常に重要であると思う。
 次に、議論の内容に関してまだ提示をいただいている段階ではないが、私なりの推測を申しあげると、おそらくその一つはわが国の産業が抱えている、「六重苦」あるいは「九重苦」とも言われる、事業環境上の問題をどのように解決するのか、ということが大きなテーマになり得ると思う。また、戦略的な海外投資や資源開発などのほか、製造業のみならず、サービス産業、一次産業も含めたわが国の産業が、特にアジアを中心に国際業務を展開する際の具体的な戦略をどのように描いていくのかということもテーマとして考えられる。
 その他にも、社会インフラの整備、先端技術力の強化、あるいは国内雇用の確保のための新産業の育成等に関して、具体的にどのように進めていくのかということもテーマになるのではないか。
 また、ご質問にあった金融に関して申しあげると、例えばアジアの債券市場育成において日本の金融機関が存在意義を示し、それが日本の金融力の強さを伴って、どのように日本経済に対してプラスの影響を与えるのかという点や、社会資本の充実に関して、PPPなど民間資金を活用する際に、具体的なスキームをどのように構築するかという点、また特に重要なテーマとして1,500兆円の個人資産を本格的に活性化するためのスキームや制度についても議論されるのではないかと思う。
 こうした点については、金融界からのメンバーとして、専門的な視点から、金融機能の戦略的な活用という点も含め、この会議の中で議論を展開させていただきたいと考えている。
 産業競争力会議については、多面的でかつ具体的な議論が展開されていくことを私自身も大いに期待している。
 失われた15年、あるいは20年とも言われるが、日本経済の過去の歴史における金融機関の関わりを強く意識したうえで、今回の役割について、具体的な実行計画に結実していくことができるよう、微力ではあるが、日本経済再生のために全力を尽くして参りたいと考えている。


(問)
 金融円滑化法について伺いたい。期限の延長などを巡る議論が政府内で起きているが、改めてこの円滑化法について3年間の総括、今後についての道筋もお願いしたい。また併せて、銀行に対するメリット、デメリットもあれば伺いたい。
(答)
 中小企業金融に対する円滑化は、会見の場でも何回か申しあげているが、金融機関の果たすべき本来業務であると思う。金融円滑化法の施行により、そうした本来業務に対する金融機関の取組み・役割について、お取引先にかなり幅広く周知されたという点で、非常に大きな意味があったのではないかと考えている。
 ご承知のとおり、今年が最後ということで金融円滑化法が延長されたわけだが、足元で再延長という話が出ていることは承知している。しかし、今申しあげたように、金融円滑化法の有無に関わらず、我々金融機関にとって中小企業金融の円滑化は本来業務である。これまでも、単なる資金供給に留まらず、個々のお取引先とかなり突っ込んだ議論をさせていただき、将来に向けた事業計画等に関して最適なアドバイスを行う等、いわゆるコンサルティング機能を発揮しながら、対応させていただいている。今回の金融円滑化法の再延長という議論に関わらず、我々としては、今後も中小企業金融の円滑化について特段の努力を続けながら、しっかりと対応していかなければならないと考えている。
 今後の対応として、例えば地域金融機関の中には、中小企業金融の円滑化のためにファンドを作って、エクイティ性の資金を供給するという工夫をしているところもある。また、企業再生支援機構の改組により地域経済活性化支援機構を設置するというプランについても、中小企業金融の円滑化という観点から、有効に活用されていくと思われる。大切なのは、金融機関のコンサルティング機能を強化しつつ、様々な制度や枠組みを活用し、金融当局とも緊密に協力して、中小企業の皆さまへの円滑な資金供給を従来以上にしっかりと行っていくということである。
 金融円滑化法が終わりになることを理由として、我々の融資スタンスが厳しくなるとか、そういったことは一切ない。昨年11月に全銀協はこの点について会員各行で申し合わせをしているが、金融円滑化法が切れる、切れないに関わらず、全銀協としても3月に向けて、中小企業に対する金融の円滑化において我々金融機関が果たす役割について、もう一度しっかりと申し合わせをしていきたいと考えている。


(問)
 2点ある。一つは、為替相場について、11月以降かなりのピッチで円安ドル高が進んできて、輸出企業のように、もっと円安でもいいという見方がある一方で、急激な円安の弊害を指摘する声もあるのだが、最近の為替相場の動きをどのようにご覧になっているのかということについてお聞きしたい。
 もう一つは、日銀総裁人事について、これから人選が本格化していくと思われるが、どのような人物が日銀総裁に望ましいとお考えになっておられるか、この2点をお願いしたい。
(答)
 為替相場の動きについてのご質問だが、影響を受けて動いていると思われる株式市場の動きと併せてお答えしたい。ごく最近については逆の動きもみられるが、昨年末以降、今年に入ってからも暫くは円安株高の動きが続いていた。これにはおそらくいくつかの要因があると思っている。
 一つは、より積極的な金融緩和政策について、新政権が日本銀行に対して求める、あるいは、政府と日本銀行が歩調を合わせて行っていく、ということに対する期待感がやはり大きいのであろうと思う。特にドル円の為替相場について申しあげれば、元来、日米の金利差が非常に大きな変動要因であるとされている。
 もう一つは、先ほど金利という形で少し触れたが、日本と米国との経済面での相対的な位置関係という要因があると思っている。特に、昨年末注目された、いわゆる「財政の崖」は、その半分が解決し未だ半分が残っているような状態であり、容易に推測はできないものの、マーケット参加者の大半は、およそ半分を乗り越えた姿を見て、おそらく米国は残りの「財政の崖」も乗り越えていくだろうと感じ、リスクテイクを開始しようという雰囲気が市場全体に広がったのではないか。これは、すなわち米国経済の先行きを非常に明るいと見ているということだと思う。私自身も大まかに言えば同様の考え方を持っているが、米国経済が強くなるということは、暫く金融緩和が続いている米国も将来どこかのタイミングで金利が上昇するかもしれない、あるいは、少し先になると思うがQE3と言われている現在の金融緩和政策が変更されるかもしれない、という機運を高める大きな要因になるということであろう。この市場センチメントが米長期金利上昇の一つの要因となり、米国経済の回復期待と重なって、日本円がドルに対して相対的に弱くなっているという動きに繫がっていると思っている。
 この動きがどの程度続くのかということに関して言えば、為替相場の動向は予断を許さないものであると承知しており、今ここで具体的な数字を申しあげることはできないし、する必要もないと思っている。ただし、一つの大きな注目点は、米国は「財政の崖」を本当に乗り越えることができるのかということであると思うし、マーケット参加者はおそらくここに注目している状況だと考えている。これは、今年の2月から3月にかけてかなり状況が明らかになってくるとみている。また、米国における雇用者数の伸び、失業率の低下、といった経済指標の先行きについても、米国経済の強さ、回復の確度というものを占ううえで重要となってくる。これら改善傾向が確認されるにしたがって、対円でドルがもう一段高くなっていく可能性があると考えている。
 それから、株式市場について、足元の株高が何によって引き起こされているのか、これもいくつか要因がある。まず第一に、これまで日本株は買い控えられてきたということが挙げられる。 私自身もIRなどの場での海外投資家との会話を通じて日頃感じていたが、「日本株を買いたい」という意思は以前からあったものの実行していない、最終的に決断するうえで何かきっかけが欲しいと思っていた、こういうことではないかと理解している。野田内閣が消費増税を決定した際に一度その決断のタイミングが到来し、何割かの海外投資家は実際に動いた。日本の政府は決断ができる政府なのか、ということが一つのポイントであったということは以前も申しあげた。このような状況で、安倍政権という、物事を決めていく内閣がいよいよ誕生した、というポジティブなセンチメントのもと、買い控えていた日本株の購入に踏み切っているというのが大きな要因だろうと思っている。
 為替相場と組み合わせてお話すれば、円安進行に伴って輸出型の企業の収益が上昇するだろうということは、もう一つ別の要素として当然考慮に入ってきている。仮の計算となるが、例えば、昨年11月時点のドル円相場の水準はおよそ82円であったが、仮にこれが90円レベルで定着すれば、計算上、日本のGDPは年率で0.3%程度くらい上昇するであろう。より重要なことは企業収益であるが、これは、円安のメリット・デメリットをトータルして考えてもおそらく3.8%くらい引き上げられると見ている。このような試算はあくまでもマクロベースの数字であるが、投資家は皆注目して見ており、円安に伴う日本企業のネット収益向上という面も当然のことながらこの株高の動きの背景にあると思う。
 したがって、今後の株式市場の展望についてお話すれば、かなり為替相場の動向に影響を受けるということであると思う。加えて申しあげれば、株と為替に対しては金利も密接に関係しており、先ほど触れたような、長期金利の上昇が続いた場合、これには「良い金利上昇」と「悪い金利上昇」があると思うが、どのような要因で金利が上昇していくのかということに対して引き続き注意を払う必要があろう。為替、株といった動きを、まさに「良い金利上昇」へと結びつけていくために何が必要かといえば、冒頭の質問でも触れたが、日本経済再生に向けた具体的でスピーディーな経済対策の実行が必要とされるため、これから6月ぐらいにかけて、財政規律を伴ったうえでの成長戦略の具体的な実行が、足元の円安株高といった動きを持続可能なものとするうえで大きな要因になってくると考えている。
 日銀総裁の人事に関して言えば、どのような人が良いかということについて、何ら見識を持ち合わせていない。政府との会話、あるいは日本が置かれているデフレ経済の現状についての深い見識であるとか、当たり前の話ではあるが、そうしたことが極めて重要であると思っており、それ以上のことは付言しないということである。


(問)
 円安の悪影響、デメリットについて、まだそれほど意識する必要のない水準感か。
(答)
 為替相場の水準について、どのレベルになったらどうなる、ということに関しマクロ的な分析がいくつかあると思うが、手元計算ベースで申しあげれば、例えば、ドル円相場で言うと90円が一つの境目なのであろう。当然のことながら、円安は、特にエネルギーの輸入について考えれば日本経済に対してマイナスの影響を与える訳であり、一部の大企業のように為替変動による影響がニュートラルとなるように調整している会社もすでに多数存在する。最近の日本のGDPに占める輸出の比率は17%程度であり、一方的な円安が良いというよりは居心地の良い水準は90円程度、という方もたくさんおられると承知している。
 先ほどの「良い金利上昇」「悪い金利上昇」の話とも繫がるが、例えば、ドル円相場が90円を遥かに超え、100円をも超えていくような円安ともなれば、おそらくマクロ的に見た場合の日本経済に対するマイナス要因が、主としてエネルギーの輸入の観点から拡大してくることがあろうかと思う。したがって、青天井の円安が望ましいということにはならないのであれば、どのレベルが一番良いのかということについて、各々の産業によっても大きく異なるため、マクロ的な分析だけではあまり意味をなさないが、おそらく現在の90円レベルに近いところが居心地の良い水準なのではないかと個人的には考えている。
 大事なことは、ご質問のように、「円安が進むのであれば水準は問わない」ということではないとしっかり認識しておくことであろう。特に、円安の要因が先ほど申しあげたような日米の金利差などに起因するのであれば非常に論理的であるが、そうではなくて、例えば、貿易赤字が悪化を続けるといったこと、また、日本の産業構造そのものが世界の中で競争力を失っていく結果を反映したものであること、さらには、財政規律への懸念が表面化したもの、といった事象が、現在は生じていないものの、仮に将来円安の要因となってくれば、これは極めて警戒すべき動きだと思う。このあたりは安倍政権もよく理解されていると思うし、我々も注意深く見ていきたいと思っている。


(問)
 先ほどの話のとおり金利上昇リスクで国債価格の下落という銀行にとってのリスクは意識されているようだが、逆に金利上昇による総合的なメリット・デメリット、例えば金利上昇によって貸出金利が上がる、というようなメリットのほうもお聞きしたいが、それに併せて、総合的に見た場合、ただ貸出金利に繋がるのはラグが生じるので、やはり金利上昇は短い期間においては銀行にとってはデメリットが大きいのかをお聞きしたい。
(答)
 ご質問について金融機関の立場で申しあげれば、急激な相場の変動は、上昇・下落のいずれも好ましくない。我々のお取引先にとっても同様と思われるが、特に金融機関にとって相場が急激かつ一方的に振れていくことは、我々自身のリスクマネジメントの観点からも、望ましい状態ではないと考えている。
 ただし、中期的に「良い金利上昇」が景気回復とともに次第に広がっていくのであれば、金利の上昇は銀行収益にとって決して悪いことではない。むしろ、たくさん預金をお預かりしている今の状況で申しあげれば、基本的、論理的には金利の緩やかな上昇は、銀行収益にとってプラスに働いてくるはずである。ただし、最初に申しあげたとおり、それが非常に急激な変動であり、お取引先の事業にも大きな影響を与えるものであれば、別の形で銀行収益に影響をもたらすのではないかと考えている。いずれにしても、理想論で言えば、「良い金利上昇」かつ、緩やかな金利上昇が銀行収益にとっては一番望ましいと思う。
 我々銀行の経営としては、急激な相場の変動が起こった時に、それがどのような要因で発生したのか、またその急激な変動の先に何が発生するかという点について、様々なシナリオを想定し、絶えずストレステスト等を通じ備えてはいるものの、できる限り今申しあげた理想的なかたちで日本経済が回復していくことが、銀行にとってはベストであると思っている。


(問)
 2点質問したい。1点目は、来週日本銀行の金融政策決定会合で2%の物価上昇率というものについて、議論されるということであるが、現在物価上昇率0%付近にいるところで、2%を掲げるということで、デフレ脱却に向けて有効なのかどうか。
 2点目は、協会長という立場で答えづらいことだと思うが、ボーイング787の事故が相次いでいることに関連して、すでに航空会社では運行の見合わせを行っているが、この問題が長期化した場合、部品メーカー、3割以上が日本のメーカーも関わっているといわれているが、長期化した場合、産業界にどういう影響があるか所見を聞きたい。
(答)
 1点目の、2%の物価上昇率に関する評価であるが、もともと日本銀行では1%を物価安定の目処としているが、これを2%にすることの定量的な影響は、個人的にはさほど大きいものであるとは考えていない。1%から2%になることでどのようなことが生じるかと言えば、現政権があるいはこれからの日本経済がデフレの脱却や物価上昇に対して非常に強い意志を持っていると市場が認識することであると思われる。この一種の期待効果・アナウンスメント効果は、非常に大きな効果を発揮する可能性があり、プラスに働く要素であると思う。
 ただし、このことに関しては同時にしっかりとした分析が必要である。企業や消費者など、それぞれの経済主体が、今の物価状態がデフレの状態にあると考えて行動しているのかどうか、2%の物価上昇をどのように受け止めるかなどの点について慎重な議論が必要だと思う。アナウンスメント効果として、先ほど申しあげたことが真に発揮されるためには、物価上昇が実際にそれぞれの経済主体の投資意欲、消費マインド、あるいは将来の見通しに対して具体的に結びついていくことがどうしても必要である。そのためには繰り返し申しあげているとおり、国内の投資機会あるいは雇用機会が複合的に創出されることによって、初めてアナウンスメント効果が本当の実体経済の上昇に結びついていくと考えている。やはり翼の両ウィングが必要だと思っている。
 2点目のボーイング787については、ご承知のとおり開発に時間を要して、予定より遅れたものの、高い前評判を伴って導入された最新鋭機である。非常にすばらしい形をしており、炭素繊維をふんだんに使った初めてのエアクラフトであるが、いよいよ量産体制に入るタイミングで、今回いくつかの事故が起こった。私は専門家ではないのでその前提で申しあげるが、現段階では事故がどのような要因によるものか、事実関係が十分に把握されていないと思われる。人命に関わる問題であり、一義的には可及的速やかにこの原因をはっきり特定することが極めて重要だと考えている。したがって、直接的な事故の影響として日本の部品メーカーにどのような影響が及ぶのか、まだお答えできる状況にない。
 別の観点で申しあげると、787の製造コストのおそらく半分弱は、もう少し比率が高いかもしれないが、日本の部品メーカーが納入していると記憶しているが、量産体制に入ろうとしていた状況下で、もし、この事故が原因で、787の生産のスピードが低下していくことが仮にあるとすれば、もちろんそうなるかどうか不明だが、これはおそらく納入している部品メーカーにおいては生産のスピードが低下するあるいは販売量が減少し、売上に対して大きな影響が生じる可能性はあると思われる。しかしながら、これも全て原因が特定出来ない限り、影響の有無も含めて判断ができかねるので、可及的速やかな原因の解明にご努力いただきたいと考えている。


(問)
 安倍政権になってさらなる金融緩和ということになるが、民主党政権時代も金融緩和を徐々に始めていたと思うが、それがなかなか結果として表れていなかったということかと思う。銀行としては、さらなる金融緩和が進んだ場合に、貸出はさらに増えていくというような感触はあるのか。
(答)
 貸出が今後増えていくかどうかというご質問であるが、これは資金の需要と供給の関係がベースにあるが、我々金融機関としては、これまでも貸出需要に対して積極的に対応しようとしてきたし、このスタンスについては、今後も変わらない。
 金融緩和によって、貸出需要に対応できる金融機関の手許現金が潤沢になるため、積極的な貸出姿勢を維持しやすくなるという効果は当然あると思う。しかし問題は、それだけではなく、実際に貸出先があるかどうかということである。先ほど三本の矢と申しあげたが、金融政策と産業政策(成長戦略)はリンクしており、具体的な貸出需要を喚起するような有効な産業政策が必要になってくる。以前から申しあげている国内雇用の確保や資金需要の確保という点は、今後、産業競争力会議のテーマになると思われるが、新しい資金需要をどこで生み出していくのか、さらに、不必要な投資に資金を回すのではなく、日本の新しい産業構造を創る、あるいは日本の地域経済の活性化に繋がるような、本当に意味のある資金需要を生んでいくためには、金融政策のみならず、産業政策が非常に重要な役割を担うことになると思う。
 以前も農業や高齢化ビジネス等といった例について申しあげたが、その他にも、エネルギー政策と結びつくところで、たとえばメガソーラーや風力発電等といった自然エネルギーのプロジェクトをどのように立ち上げていくかといったテーマもあると思う。こうしたプロジェクトは雇用を創出するため、地方の活性化にも結びついていくと考えられる。問題は、こうしたアイデアは概念的な整理はできているが、それをどのようにすれば具体的なプロジェクトとして結実させ、それぞれの地方で立ち上げていくことが可能となるのか、真剣に考えていかなければならないということである。
 今般の産業競争力会議は、「具体的」「実践的」ということが政府の建付けと認識しているが、こうしたプロセスを通じて、実際に意義のある資金需要が生み出され、金融緩和と相まって資金が有効に回転し、雇用が、そして消費が生まれるといった好循環に繋げていくことが非常に大切であると思っている。
 一金融機関、みずほ銀行としても、こうしたプロジェクトについては積極的にリスクテイクして資金を供給していきたいと考えているが、このことこそ、金融機関の大きな役割であると思う。先ほど「失われた15年、20年」について言及したが、その意味は、今こそ金融機関は不良債権処理に留まらず、日本経済の再生のために、産業知見を活かし、取ることのできるリスクを果敢に取っていくというスタンスが求められる時期に来ているし、それが金融機関の使命ということである。このように、資金需要と金融機関のリスクテイクが結びつくなかで、金融緩和も有効な手段として実際に機能していくことになるのだろうと考えている。


(問)
 先ほど、個人金融資産の有効活用という話があったと思うが、先日、政府の方で税制大綱の方で日本版ISA制度を決めるということで、大体中身ができてきていると思うが、これについての評価について教えていただきたい。
 また、ずいぶん長い間貯蓄から投資へということが言われながらもなかなか進んでこなかったなかで、今後こうしたことについてどのようにお考えか伺いたい。
(答)
 個人金融資産1,500兆円をどう有効に投資へ繋げていくかという点は、産業政策と直接関係するものではないものの、私は経済の再生にとって非常に重要なテーマであると考えている。この点は当局も同様の問題意識を以前より持っており、様々な形で協力してきたし、これからも議論が必要な課題であると認識している。
 このように個人による投資を促進する観点から、日本版ISAについて、全銀協は税制改正要望の中でも重点要望項目に位置付け、その拡大と恒久化を要望してきている。現在、期間延長や金額拡大等が検討されていると伺っており、制度普及の観点からもその意義は大きいと考えている。
 また、その他の税制改正の項目について申しあげれば、例えば、祖父母から孫に対する教育資金の一括贈与については、1,500万円まで贈与税を非課税にする措置など、いくつかプランが出されている。これらは、65歳以上の世帯が1,500兆円の60%以上を保有しているという統計もあるとおり、高齢者の方々が持っている資金を活性化してできる限り消費に繋げていくということが眼目であるが、こうした世代間の資産移転のスキームも有効であると思われる。
 また、税制のみならずいろいろなアイデアを出し、試行錯誤はあるものの具体的に機能するようにスキームアップしていくことが、金融機関の大きな役割であると思う。
 例えば、前回申しあげた社会資本の整備、特に道路や空港などキャッシュを産む事業について申しあげれば、PPPというファイナンスの手法を使い、エクイティとメザニンに分割し、そして最後にシニアポーションの部分で個人資産を入れていくことは理論上可能である。そのようなことも大いに議論させていただき、スキームを考えていきたい。
 資本主義国家が成熟化して債権国になると、イギリスもそうであったように、概して投資により国富を増やすことが行われるが、日本経済あるいは日本という国においては、国富である1,500兆円が有効に活用されているとは言えない状況にあると思う。これには様々な理由があり、金融機関として反省が必要な点もあると思うが、適正なリスクは取っていくことが重要であると思う。
 個人としては難しい場合でも、例えば、個人のお金をお預けいただいている金融機関、あるいは年金の運用機関がプロとしてリスクを取り、運用益を上げていくことで、資産を増やしていくことが、個人がリスクをとる以上に国富の増大に繋がっていくと考えている。リスクのプロ、あるいは取り得るリスクを果敢に取っていけるような経済主体を作っていくことが、これからの日本経済にとって非常に大きなテーマであると思う。
 したがって、これから金融をひとつの戦略産業と位置付けるなかで、個人、年金、企業など主体をいくつかに分け、それぞれのキャッシュを有効に活用しながら富を増やしていく方法について大いに議論していくことになると思うし、我々自身も知恵を出していきたいと考えているところである。

以上