平成29年12月14日

平野会長記者会見(三菱UFJフィナンシャル・グループ社長)

髙木専務理事報告

 本日の理事会において、お手元の資料のとおり、来年度の副会長が内定した。
 次期副会長は、10月に内定している次期会長と同じく、理事会での正式な選定手続きを経て、来年4月1日付で就任予定である。

 

会長記者会見の模様


(問)
 間もなく2017年も終わるが、今年1年、日本の銀行界にとってはどのような年だったか。漢字一文字で表すならどのような年だったかもお答え頂きたい。また、来年の見通しも示していただきたい。
 2点目、今年は春以降、日本の銀行界では構造改革などが話題になった。この先5年後、10年後に日本の銀行、金融界がどのようになっているか、イメージがあれば伺いたい。
(答)
 今年を振り返ると、日本の経済自体は底堅く回復し、企業部門全体の業績も好調だった。しかし、銀行業界にとっては、マイナス金利の影響に加え、少子高齢化といった社会的な構造変化が、いわばボディブローのように効いてきていることもあり、一層厳しさを増す1年であった。また、そうした環境下で、強い危機感を持って将来に向けた事業改革に正面から取り組まなければならないことがより明確になった1年だったと思う。
 今年の全銀協の活動を簡単に振り返ると、今年度は「日本の持続的成長の実現に貢献する1年」と位置づけ、三つの柱を掲げて活動してきた。第1の柱、「日本の経済成長・成長戦略への一層の貢献」に関しては、各行が顧客本位の業務運営に関わる取組方針を公表した。KPIを設定し、施策を開始するほか、つみたてNISA等の普及促進に取り組んでいる。また、中小企業等の事業力や成長力に着目した新たな金融仲介モデルの構築にも努めている。さらに、足元ではESG、あるいはSDGsの取組みも開始している。一方、今年大きな話題となった銀行カードローンに関しては、広告・宣伝、審査のあり方等、業務運営の見直しを進めてきた。
 第2の柱、「IT技術の革新も踏まえた、顧客利便性が高く、安心・安全な金融インフラの整備・構築」については、オープンAPIへの対応、XML電文への移行準備、ブロックチェーン連携プラットフォームの実証実験などを進めるとともに、手形・小切手の電子化、税公金収納の効率化に関する検討を開始した。
 第3の柱、「公正・健全な金融システムの維持・進化」では、TIBOR改革を実施、バーゼルIIIの見直しにおいては、海外当局等に対する積極的な意見発信を継続、今般ようやく合意に至った。
 以上をまとめると、銀行界全体としては、今後の発展・成果につなげるための土台が整いつつある。また、地銀では役務収益が増加するなど、新たなビジネスモデルの構築が進むほか、メガでは構造改革への取組みも見られる。
 そこで今年の銀行界を漢字一文字で表現するということであるが、これはなかなか難しいが、厳しい経営環境に立ち向かいながら将来に向けての礎を築きつつある、あるいは、新たな世界を切り拓く取組みが始まったことから、「礎(いしずえ)」、あるいは「拓(ひらく)」の文字が当てはまるのではないか。
 来年については、引き続き厳しい事業環境が続くことが予想される。今申しあげた礎を早期に固め、新たなビジネスモデルの構築に挑戦することで、この危機を乗り越え、成長への道筋を見いだす強い意志と努力が求められる。従来型の預貸ビジネスを超える、例えばグループ機能を統合的に活用したソリューションの提供や、金融仲介・事業仲介を通した地方創生への貢献、あるいはデジタル化を活用した改革など、新たな事例が数多く生まれてくるのではないかと見ている。2018年は、日本の持続的成長の実現に向けて、今年にも増して重要な1年になると思う。内外の政治経済情勢に目を配りながら、安定的な資産運用への支援、質の高い金融仲介機能の発揮、金融インフラの整備等を通して、その実現に向け貢献できるようしっかり取り組んでいきたい。
 二つ目の質問はさらに長尺の5年後、10年後についてであるが、これだけ動きが激しい、変化が激しい世の中で5年先、10年先を見通すのはなかなか難しい。中長期的な姿を考えるうえでは、まずは構造的な側面、すなわちお客さまや競合相手の変化、消費・サービスあるいはビジネスプロセスを支える技術の進展をイメージする必要がある。
 まず、お客さまの変化については、例えば国内リテールでは少子高齢化、長寿化、あるいは地方の過疎化が一層進む一方、いわゆるITリテラシーは確実に高まると思う。また、大企業は海外での事業買収等を通じたグローバル化をさらに進め、日本経済を支える中小企業に関しては世代交代を通じ、新しいアイデアで自社の技術や、観光、農業といった地方の資源、特性を活かした事業も活性化していくと思う。さらに、デジタル化が進むなかで、個人、企業を問わず、あるいは企業規模を問わず、デジタルツールを利用するシーンが大幅に増えるだろう。
 他方、競合相手の移り変わりに関しては、FinTechを活用した他業態による金融サービスへの参入が加速するだろうし、海外からの参入も増えるだろう。また、技術の変化については、IoTが網の目のように社会、世界をつなぎ、AIやビッグデータの活用も飛躍的に伸びると思う。
 5年後は、2020年のオリンピックを終えて、日本経済の一段の底上げが実現されていることを期待する。景気の動向次第では、日銀の金融政策にも変化が現れているかもしれない。仮にデフレマインドが払拭され、消費が高まるとすれば、そのときの鍵は、新たな商取引、コマースの流れを支えるCtoBの決済ネットワークであり、銀行もこのような流れに合わせたプラットフォームを提供していくことが求められる。そして、そのプラットフォームの構築に当たっては、FinTech企業あるいはIT事業者等と競争しているかしもれないし、アライアンスを組んでいるかもしれない。両方あり得ると思う。
 また、若い世代によるライフプランニングや資産形成のニーズが高まり、さらに、高齢者取引が銀行ビジネスの柱の一つに育ってくるだろう。チャネルはバーチャルとリアルの融合モデルが浸透し始める。企業取引においては、デジタライゼーションの進展により、手形・小切手や、税・公金納付のペーパーレス化が動き出し、ビッグデータを活用した与信審査のAI化の取組みも本格化しているだろう。
 10年後の予想となるとさらに難しい。今申しあげたような変化が一段と進展、定着し、また、IoTの展開により大量の取引に紐付く課金や決済サービスのニーズが出てくるのではないかと見ている。キャッシュレス化も一段と進み、公共サービスや地方自治体も含め、社会全体の金融機能が大きく変わっているはずである。このころまでには、銀行の決済インフラあるいは店舗網が新しいかたちにおそらく置き換わっているのではないかと思う。社会的な課題に対して、銀行が提供するソリューション自体が変わっていくことで、それを通じて日本の経済成長、あるいは課題である生産性改善にも貢献できるのではないかと思う。
 また、企業のグローバリゼーションのさらなる進展に関して、一部の金融機関は海外においてリテール事業を拡大するなど、グローバルに商品・サービスの幅を拡大する動きも出てくるだろう。アセットマネジメントのグローバル化も進む可能性がある。ただし、このような大きな変化を支えるうえで極めて重要なことは、やはり従業員の研修、育成、あるいは再教育、リスキルである。
 いずれにしても、5年後においても10年後においても、社会的な課題やニーズの変化に対して有効なソリューションを提供することで、新たな価値を生み出し続け、提供していく。そして、そのためには、既存の概念に捉われることなく、柔軟に変化を遂げ続けていくことが、金融機関に求められているのではないかと思う。


(問)
 今日、与党が税制改正大綱をまとめるタイミングであり、そこで賃上げの実施と引き換えに法人税を減免するという、賃上げ減税が盛り込まれる見通しだが、これを受けて、例えば企業がボーナスではなくベアで賃上げを実施することにつながるのか、また企業が固定費としての人件費の増加を受け入れるインセンティブにこの施策がなり得るのかどうか、そのような観点から会長の評価をいただきたい。
 もう一つ、先般固まったバーゼルIIIについて、概ね日本がこれまで主張してきた内容に沿った着地になったと思うが、どのように受け止めているのかを教えていただきたい。
 関連して、持ち合い株について、政策保有株を持っているコストが非常に高まり、これまでも3メガを含めて目標を立てて縮減してきたが、今後、今掲げている数字以上に踏み込んで減らしていく、もしくはゼロまで持っていく必要性を感じているか。もしくは、そこまではいかず、残しておく意味があると考えているのか、その点について教えていただきたい。
(答)
 まず、税制改正、そしてベア、賃上げ等についてのご質問に関してお答えする。
 政府は、一貫して官民一体での成長戦略の実施、あるいは社会保障制度の改革などを通じて、いわゆる需給ギャップ、家計所得の改善によるマインドの改善を図ってきた。これによって企業、そして家計双方における将来にわたる不安を取り除き、成長のモメンタムをつくっていくということをやってきたわけである。そうしたなかで雇用の改善は確かに進み、企業業績の回復もこのところ顕著である。ただ、個人消費が本格的にその力強さを増しているとは言えない状況にある。そういった状況のなかで個人の所得の増加を図るための賃上げ、あるいはベアという話が出てきており、それを促すような税制が提案されていると理解している。税制が企業に与える影響についてはさまざまあり得るので、今、私がその有効性について正確に評価することは難しいところであるが、政策の意図についてはそういうことだと理解している。
 ベアに関して言うと、毎回申しあげているが、ベアないしは賃上げは、各企業が現在の業績、あるいは将来の見通し、そして従業員に対する取組みを総合的に判断して決めるものである。私ども銀行業界に関して言えば、先ほども申しあげたとおりで、現在、構造改革が急務になっている。ただ、一方で、将来に向けた新たな取組みにもチャレンジしなければならない状況にあるので、従業員のモラルや動機づけにも配慮する必要があり、これらを総合的に考慮しつつ今後の対応を検討していくことになるのだろうと考えている。今のところは決まったことはないとご理解いただきたい。
 二つ目はバーゼルに関してだが、一言で言うと、これまでなかなか決まらないということが、将来的な事業運営、あるいは戦略を策定するうえでの一つの阻害要因となっていた。そういう意味で全銀協としても早期の国際合意を求めてきたわけであり、今回漸くではあるが、国際合意ができたことを歓迎している。
 バーゼルIIIの今後の見通し等について少し申しあげれば、銀行の内部モデルによってリスクの評価にばらつきが生じるなどの問題があり、2013年から長きにわたって議論されてきたわけである。ビジネスモデルとか、それに伴うリスクの状況が、銀行あるいは地域で相当異なるなかで、リスクアセットの計測手法のリスク感応度、簡素さ、比較可能性のバランスを調整するのが大変難しかったということである。結果的には、特に海外の当局が銀行の実態を理解したうえで、今回適切な枠組みができあがったのではないか。官民一体の努力が結実したと考えている。特に日本の当局においては大変な努力があり、かつ今回の合意に向けての議論をリードしてこられたことに敬意を表したいと思う。
 影響については、各行ごとに違うので一概に申しあげることは難しいが、新たな基準によると、内部モデルの利用が一部制限される、あるいはフロアが設定されるといったかたちで、従来よりもリスクアセットの計測の自由度は制約される内容になった。この結果、一般的に言えば、欧、日においては、リスク・ウェイテッド・アセットが増加する銀行が多いと見られている。
 今後の課題としては、とりわけ各国間、法域間の規制の不整合、あるいはフラグメンテーション、分断化を避けるためにも、各法域、各国がタイムリーに一貫性のあるかたちでこの規制を導入していってほしいと思っている。少し適用の開始が遅れたが、銀行界としても、これに向けて適切な対応に努めていきたいと思っている。
 関係する質問として、株式の話があったが、今回の250%という決定自体はサプライズではない。これも個別行によって影響は異なるので一概には言えないが、政策保有株式の削減の方針、あるいは目標については、各会員行とも従前から国際金融規制の強化などの環境の変化に備えて、コーポレートガバナンス報告書等において公表をしてきたところである。今回、それ以外の規制も出揃ったので、それらも含めて、改めて自己資本比率に与える影響、かつ取引先企業との今後の関係の構築を見極めたうえで対応していくということだと考えている。


(問)
 2点お伺いする。1点目は、先般、日銀の黒田総裁が講演で、金融システムの安定性の重要性について触れる場面があった。そのなかで、地域金融機関などが金融仲介サービスをしっかりやっていくうえでは、それに関する適切あるいは適正な対価について国民に十分に説明をして理解を得ていくことが重要だというご発言があった。これに関し、口座維持手数料などについて、国民のなかにはサービスが無償だという一般的な通念があるのではないかということを指したのではないかという指摘があった。この点について今後どういう方向性になっていくか伺いたい。
(答)
 口座維持手数料を含めた手数料に関する考え方ということだが、すでに日本の国内でも口座維持手数料を導入している金融機関はある。ただ、この質問に関しては、各個別行の事業戦略そのものであるので、私が全銀協の会長としてその是非についてコメントすることは差し控えたいと思う。
 ただ、手数料についての一般論を申しあげれば、業種は問わず、サービスの提供をする事業者がお客さまに喜んでいただけるような高品質なサービスを提供することで、お客さまから、サービスに費やしているコスト、あるいは提供価値に見合った手数料をいただく、というのが基本的な考え方だと思う。したがって、別の言い方をすれば、質と価格の両面で競争力がある、お客さまからも納得していただけるような努力をして、それをお客さまにご理解いただく、そのうえで必要な手数料をいただく、という考え方で一般論としては取り組んでいくことが適当ではないかと考えている。
(問)
 2点目はビットコインについて、先物取引の上場がアメリカで始まり、CMEでも来週始まるという流れがある。一方で、分裂もあったり、価格の急騰、バブルではないかという指摘もあるが、改めてこのビットコイン、仮想通貨の世界についてどのような評価をしているか教えていただきたい。
(答)
 これまでもこの場で何度か申しあげているが、仮想通貨の課題というのは三つあると思う。一つ目は、仮想通貨の仕組み、あるいはその運営主体に対する信頼性の問題である。二つ目が過度な価格の変動、三つ目がマネー・ローンダリングを含む悪用のリスクである。
 日本に関して申しあげると、9月末に改正資金決済法における仮想通貨交換業者の登録に関する移行措置が終了し、10月から実質的な登録制度が開始された。これによって、先に申しあげた三つ目の点、すなわち利用者保護や、マネー・ローンダリングに関する一定の体制整備が行われ、さらには一つ目の点、仮想通貨取引の安全性や信頼性が高まった、ということは言えると思う。実際、日本の交換所における取引のボリュームが、世界シェアで4割になっているという報道もある。
 しかし、その一方で、今もご指摘があったとおり、ビットコインはいわば乱高下を繰り返しているし、イニシャル・コイン・オファリング、ICOと呼ばれる仮想通貨技術を使った資金調達においては、投資家が、やや投機的な問題として、十分な情報のないままに投資を行って損失を被るというリスクもあるなど、投資家保護の仕組みに関する課題はまだまだ残っているということである。
 したがって、仮想通貨を決済手段、あるいはそれ以外の目的に、より一層普及させようとするのであれば、残った課題に対して対応をしていく必要があるということだと思う。ただ、私は仮想通貨がなくなることはないと思っている。


(問)
 アメリカのFRBが利上げを発表したが、日本とアメリカの金利差が開くなどの影響が考えられる。実際、これに対する受止めと、今後どういうところを注視しているかをお聞きできればと思う。
 2点目が、これまでもいろいろお答えいただいているが、日銀の金融緩和政策が長引くことで金融機関への影響が大きく出ているが、それに対する懸念と、今後、銀行界としてどう稼いでいくべきかを改めて伺いたい。
(答)
 まず、Fedの利上げに関してだが、今回の利上げの背景には、皆さまもご承知のとおり、米国経済が緩やかな拡大基調を維持しているということがある。7-9月期の実質GDPの成長率は前期比で年率3.3%の増加で、4-6月期の3%を超える高い水準になった。一時、ハリケーンの影響等で統計の数字が大きく振れたが、足元では概ね落ち着きを取り戻しているということである。10月に開始されたバランスシートの縮小を含め、フェデラル・リザーブ・ボードが金融政策の正常化を進めているのは、米国経済の先行きが見えてきたということだと思う。
 一方で、賃金の上昇率は、日本もそうだが、アメリカもそれほど高まってはいない、そしてインフレ率もFRBが目標としている水準には達していないということであり、潜在成長率の伸び悩みに伴って、いわゆる景気に中立的な金利水準、自然利子率も以前より低下しているということであるから、この先の利上げのペースも緩やかなものになるだろうと思っている。したがって、利上げの進展をきっかけにしてアメリカの経済が大きく変調を来すリスクはさほど大きくはないと見ている。
 米国の利上げが日本へ与える影響だが、まず、経済に関して言えば、米国の景気が緩やかな拡大基調を保つのであれば、それほど大きな影響が出るわけではない。ただし、金利差の拡大による為替の動きには、この先、留意が必要だろうと思っている。
 また、今後、米国金融政策の正常化のペースが仮に加速するようなことがあった場合には、リスク性の資産や新興国からの急速な資金の流出が起こり、グローバルに金融・経済に変調を来すリスクもあり得るということには留意すべきだと思う。
 次に、米国の利上げが日本の金融政策へ与える影響だが、これまで黒田総裁もおっしゃっているが、金融政策は基本的にわが国の経済、物価あるいは金融情勢に応じて決められるものであって、海外の金融政策動向に直接的に影響されるものではないと思うが、先ほども述べたような、米国での利上げに伴って、仮に日本の経済、物価、金融等に変化が現れるのであれば、その時々にタイムリーな施策判断を下していかれるのだろうと思っている。
 最後に、日銀の金融緩和が長引くことの私ども金融業界に与える影響というご質問だが、これは従来から申しあげていることだが、日銀の金融緩和政策は、日本の経済をより活性化させるための三本の矢として導入された金融政策であるので、その趣旨は理解しているが、仮に超低金利が長く続く場合には、現時点では問題はないが、将来においてそれが累積的な効果となり、金融機関の経営体力が徐々に消耗し、必要な社会インフラとしての金融の力、あるいは金融システムに障害が出てくる可能性があると思っている。
 これに対して銀行がどのように対応するかということだが、先ほど冒頭でも述べたが、金融機関としての基本的な機能をしっかり維持しながら、つまり社会インフラとしての決済機能や、お客さま、つまり法人・個人の経済活動あるいは生活をしっかり支えるという基本的な使命を維持しながら、一方では大胆に、ビジネスモデルのあり方、あるいは新しい商品・サービスの投入、そして抜本的な経営効率の改善に取り組まなければいけないと考えている。


(問)
 キャッシュレス化についてお聞きしたい。銀行界において、キャッシュレス化は大きな課題として考えているか、また、全銀協で何か取組みを行うことはあるのか。
(答)
 キャッシュレス化の効果であるが、一言で言えば、現金の取扱いに関する社会的なコストの削減ができることであるが、もう一つ重要だと思っているのは、現金で捕捉できなかった家計、企業の金融行動をデータ化して活用することで、新たな価値・サービスの創出が可能になるということである。別の言葉で言えば、キャッシュレス化というのは社会全体の生産性、あるいは顧客利便の向上に資することであり、銀行界としても極めて重要な課題として、これに取り組んでいかなければならない。
 全銀協では、すでにさまざまな取組みを進めているところである。例えば、来年10月から全銀システムの24時間365日稼働化を予定しているが、土日、あるいは深夜の即時決済が可能になることで、現金から振込みというキャッシュレス決済へのシフトに効果を発揮するものと期待している。また、この場でも何度か話題になったとおり、一部の金融機関では、デジタル通貨を活用した新たな決済サービスの提供が検討されているところである。
 一方で、考えておかなければいけないのは、やはり高齢者を中心に、現金に慣れ親しんでこられたお客さまも存在するということである。したがって、そうしたユーザーへの配慮も怠ることなく、日本のキャッシュレス化の促進をいかに図っていくか、知恵を絞っていきたいと思う。
(問)
 例えば、中央銀行によるデジタル通貨の発行を促進する考えなどはあるか。
(答)
 全銀協は中央銀行ではないため、私が申しあげることではないが、ご参考までに申しあげると、各国の中央銀行において、デジタル通貨の研究が極めて熱心に行われていることは事実である。ただ、法定通貨をデジタル化した場合にどういうメリットがあり、また、課題があるのか、さまざまな影響が考えられるので、これはこれからの調査、研究、検討の成果を見ていきたいと思う。


(問)
 先ほどの手数料の件で、業種を問わず手数料はサービスの対価として見合ったものをいただくという考えとのことだが、例えば個人の預金口座に対して手数料を設定することが、金融機関によってはあり得るのか。
(答)
 先ほども申しあげたとおり、すでに預金口座の維持手数料を設定している銀行はあり、制度としてはすでに存在する。ただし、実際に手数料を設定するかどうかは各個別行のポリシーないしは事業戦略の問題である。


(問)
 個別行の話だが、先日、三菱UFJフィナンシャル・グループが、クラスター弾の製造企業に対して融資を全面的に禁止すると発表した。一方で、全銀協では資金使途を製造使途に限定してという限定付きであり、まだ全面禁止というかたちでは出していない。全銀協としても今後何らかの対応をすべきか。
(答)
 ご指摘のとおり、個別行の話ではあるが、三菱UFJフィナンシャル・グループでは、従来は、クラスター弾の製造が資金使途である場合は、貸出を行わないという方針だった。これが今ご指摘のあった平成22年の全銀協の申し合わせに沿った対応だった。今回そこから一歩踏み込んで、クラスター弾の非人道性を踏まえたうえで、資金使途に限らず、そもそもクラスター弾をつくっている企業に対する与信をしないことを決めた。
 現在、全銀協でこれ以上踏み込んだ対応を検討しているわけではない。ただ大切なことは、先ほども簡単に触れたが、ESG、SDGsといった今の社会、あるいは世界の大きな流れを踏まえた対応が、経営にとって非常に重要になってきているということである。こうしたことを踏まえれば、クラスター弾に限らず、各個別の企業、あるいは金融機関においては、融資に関するポリシーを明確にし、開示していく努力が必要なのではないだろうか。これは全銀協の公式見解ではなく、会長としての私の意見である。
 全銀協としては、会員行のESG、SDGsに関する取組みを調査し、有識者を招いた勉強会の開催など、会員行をサポートする取組みを開始したところである。
 加えて、全銀協には行動憲章があるが、これに関してもESG、SDGsの概念に照らして見直すべき点があるのではないかと思っている。これらの検討も進めていきたいと考えている。


(問)
 来年に節目を迎えることで一つ伺いたい。来年は銀行で投信窓販が全面解禁されてから20年を迎える年である。当初の解禁の目的だった裾野拡大という点では、銀行界も役割を果たせていると思う一方で、顧客本位の販売という点では、金融庁からも厳しい指摘が出ている。改めてこの20年間を振り返って、会長自身が感じていること、また現状の課題についてどのように捉えているか教えてほしい。
(答)
 1998年12月に銀行窓口での投信販売が解禁されたときの公募株式投信の純資産総額は11兆円であったが、今年10月末時点では94兆円にまで増加している。そのうち銀行等の残高が28兆円と約3割のシェアとなっており、ご指摘のとおり銀行における投信販売が、日本の投信マーケットの成長あるいは投資家の裾野拡大に役割を果たしてきたと思う。
 他方で、日本の場合、欧米に比べると、引き続き家計における株式や投信等の投資資産の割合、あるいは、家計の金融資産そのものの伸びが依然として低く、投資資産へのシフトを通じた中長期的・安定的な資産の形成が引き続きの課題だと考えている。
 こうした課題への対応としては、まず第1に、フィデューシャリー・デューティーの実践を通じて、お客さまの安定的な資産形成に資するような商品をご案内すること、あるいはつみたてNISA、iDeCo等の「長期・積立・分散投資」に適した制度を浸透させていくことが柱になるだろうと思っている。
 このうち、つみたてNISAに関しては、普及の状況やお客さまの理解が進むのであれば、取扱商品の範囲を拡大するなど、制度の弾力化によって一層この制度が活発に利用されるようにしていく努力も必要ではないかと思っている。
 もう1点、中長期的な視点から見ると、国民の金融リテラシーの向上に向けた、金融経済教育の充実が大切だと思っており、当協会の今期の一つのテーマでもある。そこで、銀行、証券、保険といった業態がばらばらに取り組むのではなく、協力して共通教材をつくろうということを働きかけ、今月、日銀の金融広報中央委員会が主催する金融経済教育推進会議で合意形成された。加えて、全銀協自身も、従来、中学、高校向けの出張講座等を行なっていたが、現在はその上の世代である大学生、あるいは、若い社会人向けの金融経済教育のスマホ用アプリの作成に取りかかっている。
 先ほど述べたESG、SDGsに関する業界の柱をいくつか立てようと思っているが、金融経済教育をそのうちの一つの柱として、これからも活動を強化していきたいと考えている。


(問)
 先ほどキャッシュレス化についての取組みの質問があったが、顧客データの保護やプライバシーの保護について何か取り組まれる考えはあるか。
(答)
 先ほど申しあげたとおり、キャッシュレス化が進むということはデータの集積が進む。これは個人、また個人のデータと言っても、名前が特定できる個人データと、一般的、集合的な個人データに分けられると思う。これは、各国によって取組みが違い、アメリカとヨーロッパでは相当違うし、日本の近隣国でもさらに異なるということで、社会的な個人情報に関する考え方に即した取組みが重要だと思う。
 それと同時に重要だと思うのは、データを使ったら何ができるのか、つまり、どういった利便性、あるいはより優れた商品・サービスを事業者は提供するのかを、お客さま、個人に対して十分説明をしていくことが必要だと思う。それは民間の事業者だけでなく、公共事業体においても同じようなテーマがある。そういった点を踏まえて、これから私どもも意見の発信をしていきたいと考えている。


(問)
 銀行業界ではリストラモードが漂っているが、銀行は構造不況業種なのか伺いたい。利益の絶対額で見ると、メガバンクの収益は、世間から見たら非常に大きな額である。そのなかで人員の削減や、ベンダーの経費を削減すると、部分最適にはなるが、経済全体が縮んでしまうのではないか、国破れて3メガあり、にならないかとも思うが、いかがお考えか。
(答)
 いつも申しあげていることだが、金融あるいは銀行は、金融機能を通じて国、国民、あるいは産業界の経済活動を支える事業であり、私は「金融は経済を映す鏡である」と言ってきた。今後、経済が本格的に回復してデフレ脱却が実現すれば、銀行の業績も好転するはずであるが、わが国における状況は、そう簡単ではないと覚悟しなければならないと考えている。
 第1に、少子高齢化あるいは人口減少が進行するなかで、日本経済の潜在成長率が近い将来に大幅に上昇すると期待するのは楽観的に過ぎる。
 第2に、超低金利環境も、仮にこうした成長力の低下を反映したものだとすれば、早期には収束せず、資金仲介を収益の源泉とする伝統的な商業銀行モデルは従来の姿では成り立たない。
 第3に、先ほどから話題になっているEC事業者をはじめとする異業種の参入がとりわけBtoCやCtoCの領域における決済事業を脅かす存在となりつつある。したがって、店舗やシステム等の高コストのレガシーインフラを抱えたままでは既存の銀行業態の競争力が低下することは避けがたい。
 第4に、国際金融規制の影響も無視できない。
 そうした事情から、会員各行においてはさまざまな構造改革の動きが活発化しているが、必ずしもリストラだけではない。例えば、地域金融機関においては、地域の再生や取引先の成長をサポートすることでビジネスチャンスをつくり出そうとしており、そうした活動をお客さまに評価していただくことで、手数料収入につなげる動きもある。また、主要金融機関ではテクノロジーを大胆に活用して、新たな決済のプラットフォームをつくり出そうという動きも先ほどご紹介したとおりである。
 さらに、店舗網に関してもリアルとバーチャルをシームレスにつなげて利便性が高く、かつ効率性も高いチャネルを開発しようという動きも本格化している。
 そして、今質問にもあったが、銀行において膨大なマンパワーを要している多くの業務プロセスを、AIやロボティクスによって代替することで生産性を向上させる余地は、ほかの業態、業種にも増して大きいと思っている。
 加えて、先ほども申しあげたが、銀行は社会インフラを支えつつ、厚い顧客基盤を持ち、お客さまからの信頼・信用を頂戴している。また、資本規制等を踏まえ厚い資本を備えており、こうした点は新たに金融サービスへの進出を図る他業種との差異化、あるいは他業種との提携やオープンイノベーションに取り組むうえでも大きな強みだと思っている。
 したがって、長い歴史のなかで培った信頼・信用をベースに最先端の技術を活用したビジネスモデル改革、時代に即した金融サービスの開発、経営の大胆な効率化を進め、お客さまの暮らしや企業の成長に貢献することで、銀行自身も持続的な成長を遂げるような循環をつくり出していくことは今後も可能だと思うし、そうしなければならないと思っている。
 例えば、銀行において徐々に作業量が減ってくる場合に、要員はどうするかというと、まずは今申しあげたような新しいサービスを社内で開発する、あるいはお客さまと向き合う時間を増やすといった、より創造的な仕事に振り向けていくこともできる。社会全体として見れば、新しく生まれてくる、よりダイナミックな成長力を持った産業分野により数多くそうした人材が今後供給されていくことは、日本経済全体にとってもむしろ良いことではないかとの見方もできると思う。


(問)
 元号の変更の対応について伺いたい。天皇陛下の退位日が2019年4月30日で正式に決まった。銀行業務では和暦や西暦を並行して使っていることも多いと思うが、全銀協として改元にどう対応していくのか。また、全体の方針がまだ決まっていなければ、個別行でも構わないので、西暦に寄せるという判断があるのかどうかを教えていただきたい。
(答)
 銀行界における改元の影響であるが、例えば手形・小切手などの決済に関して、改元以前の旧元号が記載された現物をどう取り扱うかは全銀協で決めなければいけない。ただ、システムに関して言うと、全銀システムにおいては、すでに振込みなどに関する電文のやりとりは西暦で行っているので、そういった点での改修の必要はない。
 各行における取組みということだが、これは申しあげるまでもなく、帳票、申込書、契約書、あるいは店頭のポスター、パンフレット等について、和暦を使っているものも多いので、お客さまとの日付の認識相違などが発生しないように、新たな元号が決まれば、差替え等を行う必要がある。
 西暦に全部揃えたらどうか、そういう趣旨の考え方はないのか、というご質問であるが、今申しあげたとおり、日付の計算などのシステムに関してはすでに西暦化されている。一方で、お客さまからご提示いただく運転免許証などの公的書類に関しては和暦を使用していることが多い。また、銀行が税務署等、公的機関に提出する書類、資料も、原則和暦である。したがって、現時点では和暦も使用する必要があり、銀行だけがどちらかに統一するというのは大変難しい。仮に西暦の採用を推進していこうということであれば、国全体で対応する必要があると考えている。

以上