平成30年4月 1日

一般社団法人全国銀行協会
会長 藤原 弘治

会長就任挨拶

 みずほ銀行の藤原です。4月より平野前会長の後を受け、全国銀行協会の会長を務めさせていただくことになった。これから1年間、皆さまのご協力、ご支援を賜りながら、この大役にしっかりと取り組んで参りたいと考えている。どうぞよろしくお願い申しあげる。
 まず、就任に当たって抱負を申しあげる前に、この場を借りて一言、平野前会長にお礼を申しあげたい。平野前会長におかれては、大変強いリーダーシップで業界を牽引され、多岐にわたる課題に取り組んでこられた。心からの敬意と感謝の気持ちを表したいと思う。本当にありがとうございました。

 さて、バブル崩壊以降の日本経済は、「失われた20年」などと後ろ向きの表現で語られることが多いが、一方で、経済や社会の構造の変化、さらにはデジタルテクノロジーの進展など、この20年には新しい潮流も生まれてきている。それらの変化をチャンスとして活かすことができれば、これからの10年あるいは20年、日本を再び強くできる、そのために銀行界に今なしうることがあると強く感じている。
 本日は、そういった新しい時代の息吹を感じながら、私の抱負を申し述べたい。

 まず、内外の経済環境について概括すると、米国経済は、税制改革が消費や投資を刺激するなか、好調であり、ユーロ圏経済も雇用増による消費拡大を背景に復調してきている。また、中国経済は、規制強化に伴う調整が想定されるものの、外需や消費が下支えとなり、足元は順調ということだと思う。日本経済は、政策効果がしっかりと定着するなど、マクロ的には堅調である。
 一方で、「適温相場」の反動リスクや米国の鉄鋼・アルミ輸入制限をはじめとした保護貿易への傾倒、あるいは地政学的なリスクの常態化など、さまざまな不確実性を抱えた状態であるという点には、引き続き注意が必要である。また、日本については、マイナス金利政策がさらに長期化する可能性もある。
 こうしたマクロ経済情勢の循環的な動きに加え、世界では地殻変動とも言われる大きな構造変化が生じつつある。新たな時代の流れとして、三つのポイントに触れたいと思う。
 まず一つ目は、世界的な高齢化の進行である。世界の総人口に占める高齢者の割合は今後飛躍的に高まり、特に先進国においては、2015年の17%から2060年には27%に達すると言われており、このようななか、消費、住宅、サービス、金融など、高齢者の新しいニーズがあらゆる分野で広がろうとしている。
 二つ目は、デジタル化に伴う社会の非可逆的な変化、デジタルエコノミーの進展である。インダストリー4.0やソサエティー5.0という言葉に象徴されるような急速なデジタライゼーションによって利便性は飛躍的に高まり、生産性向上も始まりつつある。その一方で、サイバーセキュリティや情報主権、情報格差の問題など、新たな課題も浮上している。
 三つ目は、グローバルなフローの加速である。ヒト・モノ・資本・情報がこれまでと異なった次元の規模やスピードで世界を行き来するなか、TPP11や日欧EPAなど、国を超えた連携・ルールづくりも進みつつある。
 その一方で、貿易不均衡や格差拡大、移民流入への反発等を背景に、保護主義的な動きも見られているのが昨今の情勢である。
 また、社会が成熟していくなかで、例えば気候変動や災害、格差問題等への意識の高まりも見られる。このような問題への取組み主体は、これまでの「政府」から「民間を含む全ての人々」に広がり、地球規模で「社会・経済・環境を調和させる」取組みが求められている。

 新たな時代の流れを踏まえ、わが国においては構造的・社会的課題に取り組む必要がある。
 二つのポイントを申しあげる。
 まず一つ目は、少子高齢化、人口減少である。
 具体的には4点ある。まず1点目は、健康寿命の延びに合わせた資産寿命の延伸である。日本人の平均寿命は現在80歳台だが、例えば、今10歳の子どもは平均107歳まで生きるとも言われている。寿命が延びるということは、もちろんうれしいことであるが、同時に人生100年時代に合わせて「資産寿命」を延ばしていくことが、ますます重要になってきている。
 2点目は、中小企業等の後継者対策である。中小企業等には、地域経済、日本経済を支える原動力となっていただかなければいけないが、高齢化に伴って、その後継者対策は、一刻の猶予も許さない深刻な課題となっている。実際、後継者不足で廃業した企業の半数程度は、生産性も高く、また黒字企業であったという調査結果もある。
 3点目は、地方創生である。地域経済活性化に向けて、これまでも粘り強い取組みが続けられているが、空き家等を活用した「まち」の集約・活性化に加え、「しごと」が「ひと」を呼び、「ひと」が「しごと」を呼び込む好循環を確立することが求められている。
 4点目は、全ての世代が活躍できる社会の実現に向けて、切れ目なく質の高い教育が求められているということである。

 日本が向き合う課題の二つ目は、生産性向上と稼ぐ力の強化である。世界経済フォーラムによる世界競争ランキングで、日本はこの3年間、残念ながら年々順位を下げている。また、時間当たりの名目付加価値で見た労働生産性、これはOECD加盟国35ヶ国中20位と、決して高いとは言えない順位である。
 一方、お客さまと話していても、現場では、企業業績は足元、極めていい状況という手応えもあり、日本にはまだまだ伸びる余地があると、私は強く感じている。未来への投資、ガバナンスの改革といったことを通じて、日本企業の強みを、さらに伸ばしていかなければいけない局面だと思っている。
 以上申しあげたとおり、技術の進化だけではなく、人口動態等の社会構造の変化、またそれに伴うニーズや価値観の変容といったものなど、我々は今、あらゆる局面で大きな転換期にいる。
 そのなかで、銀行に求められるニーズもますます拡大していて、多様なものとなっている。かつてピーター・ドラッカーや渋沢栄一も、「事業」というものを「社会的な課題を担い、社会に利していくための存在」と定義しているが、世の中が変わりゆくなかで、社会の要望に応えていくこと自体が、我々の存在意義ではないかと考えている。

 そこで全銀協としては、今年度を、「時代の転換期にあたり、社会的課題の解決に貢献する一年」と位置づけたいと思う。さまざまな課題解決に取り組んでいく結果、銀行は、その信頼感と存在感をお客さまにしっかりと感じていただける、そういう1年にしたいと思っている。
 具体的には、これから申しあげる三つの柱に沿って、取組みを進めていく。

 まず、第1の柱は、金融サービスを最大限に活かした「社会的課題解決への挑戦」である。
 我々が取り組むことは、金融のための金融であってはならない。つまり、金融サービスの提供を通じたお客さまの課題解決が先にあり、金融ビジネスとしての収益はその結果としてついてくる、こういう順番でなければいけないと考えている。
 特に3点申しあげる。1点目は、まず、国民一人一人の資産形成や資産活用を支えること、特に将来を見据えた若い世代の投資活動の拡大、あるいは高齢者向けの金融サポートの充実である。言い換えれば、あらゆる世代に対する顧客本位の業務運営に他ならない。
 具体的には、つみたてNISAの普及促進等により、投資になじみの薄い若い世代の資産形成を幅広く促していくとともに、高齢者の方々には、お客さまの状況に適した金融サービスを提供していく。なお、民法が改正された場合の成年年齢の引下げへの対応にも、十分留意していきたいと考えている。
 また、いわゆる金融リテラシーの向上のために、金融経済教育も積極的に行っていく。お客さまの状況に適した金融サービスという観点では、銀行のカードローンやアパートローンに関しても、信用情報機関や貸付自粛制度等も活用しながら、引き続き顧客本位の業務運営を徹底していく。
 2点目は、生産性向上による「強い日本の復活」である。この鍵となるのは、まず、中小企業等の後継者対策である。2025年までに70歳を迎える中小企業や小規模事業者の経営者は約245万人おり、そのうち約半数の方々については、後継者が未定であると言われている。事業承継税制の拡充等も活用しつつ、円滑な事業承継のサポートを加速していく。また、企業の事業内容をよく理解したうえで、必要な資金を「担保保証に依拠しない事業性評価融資」というかたちで提供することは、まさに地方創生などに向けて銀行が力を発揮できる分野だと考えている。外部支援機関や地方の自治体・民間企業とも連携し、この問題に取り組んで参りたいと考えている。
 また、ライフサイクルに応じた資金供給機能とコンサルティング機能を駆使した「複合的な金融仲介機能」を発揮することで、未来への投資を後押ししていく。
 3点目は、これら課題解決の先にある経済、社会の持続的発展である。国連の持続的な開発目標、いわゆるSDGsへの意識が高まるなか、例えばバイオマス原料による熱供給システムを核にコンパクトタウン化を推進する北海道下川町の取組みなど、SDGsに向けた動きが各地域や各業態に広がりを見せている。全銀協でも、先月に「SDGsの推進体制および主な取組項目」を策定した。各行でも、気候変動関連の開示強化など、社会の要請に積極的に応えていく方針である。
 また、震災復興に関しては、継続的な取組みが必要であり、被災者の自立や事業再建の支援に引き続き全力で臨みたいと考えている。

 第2の柱は、「金融・デジタルインフラの進化」である。
 金融は、社会システムの重要な一部であるとの強い自覚を持ち、あらゆる利用者にとって「安心・安全」、かつ利便性の高いプラットフォームの構築を目指していく。これは、サービスはかたちを変えても、その中心にある「安心・安全」は変わらないということ、そして、サービスの進化に際しては、あらゆる利用者のために利便性を追求していくことを意図している。
 この変わらぬ「安心・安全」を提供するという観点は、重要なポイントだと考えている。あらゆるもののデジタライゼーションが進むなかで、サイバーセキュリティの強化に向けた不断の努力や対応力強化を行うとともに、BCPの実効性向上にも努めていく。こうしたデジタル化に伴う犯罪の増加やその形態の変化への対応も大きな課題である。マネー・ローンダリングやテロ資金の供与の防止については、2019年にはFATFの第4次審査も予定されている。日本の態勢が国際的に認められるものとなるよう、官民を挙げてしっかりと対応していく。また、金融犯罪の撲滅や反社会的勢力との関係遮断についても、引き続き徹底していく。
 このように、「安心・安全」をしっかりと確保したうえで、革新的技術も活用し、あらゆる利用者にとっての利便性を追求していく。各行が進めているFintechに向けた取組みに加え、全銀協でも決済高度化・キャッシュレス化をさらに進めていく。例えば、全銀システムの稼動時間を24時間365日に拡大し、夜間や休日にもリアルタイムで送金がご利用いただけるようにする。また、ある企業では、売掛金の消込みに毎月140時間もの時間を費やしていると聞いているが、全銀EDIシステムの稼動開始により、中小企業を含む事業者の皆さまの決済事務効率化などにつなげていきたいと考えている。
 こうしたサービスの高度化に向けては、「全銀協ブロックチェーン連携プラットフォーム」の活用といった業界内の取組みにとどまらず、オープンAPIの普及等によるオープンイノベーションの拡大など、業界横断的なアプローチも使っていきたいと思う。また、でんさいの利用促進も含む手形・小切手機能の電子化や税・公金収納の効率化、金融分野における決済等データの利活用も検討していく。

 第3の柱は、「健全で強固な金融システムの構築」である。
 これまで申しあげた第1の柱、第2の柱を実行していくためには、その大前提として、金融システム自体が健全で強いものであり続けなければいけない。そのためには、規制・制度対応を着実に進めるとともに、銀行自ら持続可能なビジネスモデルへと変革をしていかなければいけないと考えている。
 金融システムの安定化に向け、リーマン・ショック後の金融規制見直しの方向感もようやく固まり、必要な態勢整備を引き続き進めていく。
 また、金融システムの全体最適を追求するという観点からは、公的金融のあり方や、さまざまな業態の企業が金融へ参入するなかで、機能別・横断的な金融規制整備の検討、また、LIBOR廃止の可能性や金利指標改革などは、極めて重要なテーマだと考えており、銀行も当事者として、建設的な意見発信を行っていく。
 そのほか、マイナンバーや休眠預金の活用、各種法令・制度対応についても着実に進めていく。コーポレートガバナンス改革に関しては、「形式から実質への進化」に向けた議論が行われているが、銀行界も各行の実状を踏まえた取組みを進めていく。
 そして、最後に最も大事なことは、銀行自身が変わるということである。「唯一生き残ることができるのは、変化できる者である」というダーウィンの言葉がある。このように急速に変わりゆく時代のなかで、銀行自らが変化をつくる、持続的な成長に向けた「ビジネスモデルの変革」に果敢に挑戦していかなければならない、それなくしては、この場で申しあげた「三つの柱」で目指していることはなし得ないと考えている。
 我々は、お客さま、そして社会にとっての「課題解決のベストパートナー」でありたい、また、そうならなければならない、それが「銀行の矜持」であると信じている。
 日本、そして世界の明るい未来に向けて、皆さまと力を合わせて、新しい時代を切り拓いていければと思っている。この1年、よろしくお願い申しあげる。

以上