2003年9月15日

各 位

全国銀行協会
会長 三木 繁光

平成16年度税制改正に関する要望

1.金融・産業の一体再生の推進
  1. 欠損金の繰越控除・繰戻還付制度の拡充および不良債権の無税償却基準の見直し
  2. 早期事業再生のための税制措置の拡充
2.金融・資本市場の活性化と国際的取引の推進
  1. 株式投資促進税制の更なる拡充
  2. 確定拠出年金税制の見直し
  3. コマーシャルペーパー(CP)に関する税制の整備
  4. 資産流動化関連税制の拡充
  5. 東京オフショア市場における源泉所得税免除措置の恒久化・適用期限の延長
  6. 外国金融機関等との債券現先取引に係る利子非課税措置の恒久化・適用期限の延長
  7. 非居住者等に対する公社債の非課税措置の拡充等
3.経済活性化と課税の適正化
  1. 住宅投資の促進に資する税制措置の拡充
  2. 土地税制の見直し
  3. 登録免許税の軽減・簡素化
  4. 印紙税の軽減・簡素化
  5. 各種金融資産間の課税の実質的権衡の確保
4.適切な経営環境の確保
  1. 連結納税制度の見直し
  2. 金融機関の組織再編成の円滑化のための税制の見直し
  3. 外国税額控除制度およびタックスヘイブン税制の見直し

1.金融・産業の一体再生の推進

現在、わが国の金融機関は不良債権問題の解決を最重要の経営課題と位置付けて懸命の努力を続けている。しかしながら、その一方で、デフレの長期化や民間需要の冷え込みなど、わが国経済は低迷を続けており、金融機関を取り巻く環境は大変厳しい。不良債権問題の解決と金融システムの信頼回復に向け、引き続き金融機関の自助努力が必要なことは言うまでもないが、デフレ脱却に向けた政策を総動員するとともに、税制面でも、不良債権問題の解決を後押しする施策が重要である。具体的には、不良債権処理の促進に資するよう、「欠損金の繰越期間の延長」「欠損金の繰戻還付の凍結解除と繰戻期間の延長」および「不良債権の無税償却基準の緩和」をパッケージとして実現することが不可欠である。

また、不良債権処理は、過剰債務の削減を通じて企業再生・産業再生に繋がらなければ、日本経済の活性化は実現しない。これまで法制面の整備や私的整理ガイドラインの策定、産業再生機構の設立など、企業再生・産業再生に向けた様々な枠組みが整備されてきたが、こうした動きを税制面でも更に支援することで、金融・産業の一体再生を推進していく必要がある。

(1) 欠損金の繰越控除・繰戻還付制度の拡充および不良債権の無税償却基準の見直しを行うこと。具体的には、

  1. 欠損金の繰越期間(現行5年間)を少なくとも10年に延長すること。
  2. 欠損金の繰戻還付制度の凍結措置を解除し、繰戻期間(現行1年間)を少なくとも2年に延長すること。ただし、金融機関の繰延税金資産に関する監督規制に何らかのルール変更が行われる場合には、金融機関について、16年に延長すること。
  3. 金融機関が実施している自己査定に基づき、幅広く無税償却を認めること。少なくとも担保物の処分等の無税償却要件に係る税務上の取扱いを見直すこと。

法人税における欠損金の繰越控除・繰戻還付制度は、事業年度ごとの課税負担を平準化し、経営の中長期的な安定性を確保するうえで重要な制度であり、企業再生および不良債権処理を促進するためにも不可欠である。

しかしながら、現行制度では繰越控除は5年、繰戻還付は1年に限定されており、しかも繰戻還付は平成4年度以降凍結されているなど、十分な期間が確保されているとは言いがたい。また、欧米主要国との比較においても、わが国の制度は国際的にみて著しく見劣りする。例えば、米国では20年間の繰越と2年間の繰戻が認められており、さらに、経済情勢の変化に対応して、2001年および2002年に終了する課税年度に発生した欠損金については、時限措置として5年間の繰戻しが認められている。また、1976年から1993年までの間においては、金融機関(1987年からはその不良債権処理)に限り10年間の繰戻しが認められている。

また、わが国の税制の原点ともいえる昭和24年9月のシャウプ勧告においては、法人の欠損額は所得で相殺されるまで繰越を継続するものとされており、繰戻還付の効果についても高く評価している。経済の長期低迷が続く今こそ、こうした原則を再認識すべきである。

これらを踏まえ、平成11年4月1日以後開始する事業年度において生じた欠損金について、繰越控除制度については、現行5年間の繰越期間を少なくとも 10年と大幅に延長するほか、繰戻還付制度についても、凍結措置を早急に解除し、現行1年の繰戻期間を延長することを要望する。繰戻還付の延長期間については、全産業ベースで少なくとも2年以上、金融機関の繰延税金資産に関する監督規制に何らかのルール変更が行われる場合には、政策の一体性・整合性の観点から、金融庁の要望も踏まえ、金融機関について、16年の還付実施を要望する。なお、この場合、合併法人の欠損金を被合併法人にも繰り戻して還付できるようにするとともに、繰越欠損金についても繰戻還付の対象とすることを要望する。

一方、不良債権処理に係る税制については、平成10年に債権放棄に関する法人税基本通達の改正が行われるなど、これまでも適宜その見直し・明確化が図られているところであるが、現行税制の下では、金融機関が積極的に不良債権処理に取り組むことにより、企業会計上の取扱いと税務上の取扱いの乖離が拡大し、繰延税金資産が積みあがる事態が生じている。

金融機関は、平成13年4月の「緊急経済対策」、平成14年4月の「より強固な金融システムの構築に向けた施策」、同年10月の「金融再生プログラム」等に基づき、不良債権の最終処理を更に迅速に進めることを要請されており、税制面においても、欠損金の繰越控除・繰戻還付制度の拡充と合わせて、これを支援することを要望する。

具体的には、金融機関が実施している自己査定に基づき、破綻先および実質破綻先について幅広く無税償却を認めること等、米国等並みに、金融機関における財務上の不良債権処理の実態に即した税制を整備することを要望する。少なくとも、現行の法人税基本通達に定める無税償却要件に係る税務上の取扱いについて、担保処分前であっても、回収見込額を控除した残額の無税直接償却が出来る仕組みを設けることや、保証人の保証履行能力の判断基準等いわゆる実質的無担保の基準の明確化を要望する。

(2) 早期事業再生のための税制措置を拡充すること。具体的には、

  1. 私的整理ガイドラインや産業再生機構等を活用した企業再生において、債務者側における資産評価損、債務免除益等の取扱いについて、会社更生法等適用時に準じた取扱いとすること。
  2. 私的整理ガイドラインや産業再生機構等を活用した企業再生において、手続開始時の債権者側における貸倒引当金計上の取扱い等について、会社更生法等適用時に準じた取扱いとすること。

在、わが国では、金融面において不良債権問題の解決が喫緊の課題となる一方で、産業面において過剰債務企業が抱える優良な経営資源の再生が大きな課題となっている。このため、金融と産業の一体再生に向けた政策の一環として、本年4月に改正産業活力再生特別措置法および株式会社産業再生機構法が公布・施行され、これらに係る税制上の措置も合わせて講じられた。

不良債権処理の促進と早期事業再生は表裏一体の関係にあり、今後、これまで以上に、産業再生機構や整理回収機構といった公的機関が関与した事業再生、さらに平成13年9月に「私的整理に関するガイドライン研究会」がとりまとめた「私的整理に関するガイドライン」等を活用した私的整理により、早期事業再生への取組みが幅広く行われることが、わが国経済の活性化のために必要である。

事業再生において、早期に再生計画を達成するためには、再生に取り組む企業や関係者の自助努力が最も重要であることは言うまでもないが、金融・産業の一体再生が求められている現下の経済情勢においては、税制面においても、再生に取り組む企業を積極的に支援することが必要である。

具体的には、「私的整理に関するガイドライン」等を適用した私的整理において、債務者側における資産評価損の損金算入を可能とすることを要望する。また、債務免除益等と繰越欠損金の相殺について、現在、会社更生法を適用した場合には、期限切れとなった欠損金を優先的に充当できるが、こうした取扱いを「私的整理に関するガイドライン」を適用した私的整理や、産業再生機構等を活用した事業再生にも認めるよう要望する。

一方、債権者側における貸倒引当金の計上基準についても、「私的整理に関するガイドライン」や産業再生機構等を活用する場合には、手続を開始した時点で、会社更生法と同様に債権者が無担保債権への一定割合について貸倒引当金を計上できるよう要望する。

2.金融・資本市場の活性化と国際的取引の推進

実体経済活動と金融・資本市場の動きはいわば表裏一体の関係にある。実体経済の回復を後押しする意味でも、税制面の措置を通じて、金融・資本市場の活性化を図ることが大切である。具体的には、株式投資促進税制の更なる拡充や確定拠出年金税制の見直し等を通じて、個人投資家層の裾野を拡大することや、CPや資産流動化関連等の税制を見直すことで、市場参加者にとって使い勝手が良く魅力的な金融・資本市場を構築していく必要がある。

また、グローバル化の進展やIT技術の発展に伴い、内外金融・資本市場の一体化が一段と進んでおり、市場間競争が激しさを増している。わが国金融・資本市場のプレゼンスを一層高めるためにも、非居住者に関わる税制措置の見直し等、国際的な金融取引の推進に資する税制措置の実現が求められる。

1.株式投資促進税制を更に拡充すること。具体的には、

  1. 個人投資家育成等の観点から、例えば、株式等譲渡益課税について、一定の要件の下で非課税とする等、株式投資促進税制の更なる拡充を図ること。
  2. 公募株式投資信託について、他の公募株式投資信託との損益通算を可能とするとともに、損失繰越控除制度を創設すること。

経済の活性化のためには、わが国の金融システムは、価格メカニズムの下でリスクが適切に管理・配分される市場機能を中核としたものとなっていくことが必要である。しかしながら、現状のわが国証券市場は、実体経済の停滞がその背景にあるとはいえ、依然として活力に乏しいのが実情である。

こうしたことから、政府は、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」(平成14年6月25日閣議決定)において、「預貯金中心の貯蓄優遇から株式・投信などへの投資優遇への金融のあり方の転換」を掲げ、これを受けて、平成15年度税制改正において、株式の配当金、譲渡益、株式投資信託の分配金に係る課税が見直された。また、本年5月には、「証券市場活性化関係閣僚等による会合」がとりまとめた「証券市場の構造改革と活性化に関する対応について」の中で、喫緊の課題として、個人投資家層拡大に向けた取組みが必要との認識が示された。

もとより証券市場の活性化や個人投資家層の拡大は税制のみにより達成されるべきものではないが、一方で、税制においても、個人投資家が株式投資を行いやすい環境を更に整備することが重要である。例えば、海外の例をみると、サッチャー政権下の英国では、年間一定限度までの計画的な株式投資について、譲渡益および配当を非課税とする「個人株式投資プラン」(パーソナルエクイティプラン)を創設し、個人株主数の増加に繋がった。こうした事例も参考に、株式等譲渡益課税について、一定の要件の下で非課税とする等、株式投資促進税制の更なる拡充を図ることを要望する。

また、株式投資信託に係る課税も15年度改正において見直され、償還(解約)損と株式譲渡益との通算が認められたが、個人の株式投資促進のため、同措置を更に拡充し、株式投資信託間の損益通算や、株式について認められている損失繰越控除を、株式投資信託にも認めることを要望する。

2.確定拠出年金税制を見直すこと。具体的には

  1. 確定拠出年金制度の拠出限度額を大幅に引き上げるとともに、マッチング拠出を認めること。
  2. 退職年金等積立金に対する特別法人税を撤廃すること。

高齢社会における自助努力による老後の生活保障を図る観点から、公的年金を補完するものとして、確定拠出年金は大変重要である。

また、昨今は、厚生年金基金の解散が急増するなど、既存の企業年金を取り巻く環境にも厳しいものがある。

こうしたことから、確定拠出年金に係る税制は、欧米における同種の年金と同様に、拠出時・運用時非課税、給付時課税を基本として、十分な優遇措置が講じられるべきである。

したがって、老後に必要とされる生活資金の水準や、確定給付年金制度に拠出限度額が設けられていない等を勘案し、確定拠出年金の拠出限度額を、例えば、米国の水準(現行年間上限4万ドルまたは報酬の100%のいずれか低い額)等を参考に、大幅に引き上げること(少なくとも現行の2倍程度)を要望する。また、あわせて、老後に必要な資金を自助努力により用意する観点から、米国と同様に、企業型年金加入者に、個人による追加拠出(いわゆる「マッチング拠出」)を認めることを要望する。

さらに、現在、平成17年3月末までの時限措置として課税が停止されている退職年金等積立金に対する特別法人税については、これを撤廃することを要望する。

3.コマーシャルペーパー(CP)に関する税制を整備すること。具体的には、

  1. 外国法人が発行する電子CP(いわゆるサムライ電子CP)の償還差益に係る源泉徴収を国内CPと同様に免除すること。
  2. 約束手形方式で発行されるCPに係る印紙税の特例措置(1通5000円の定額税率)の適用期限(平成16年3月末)を延長すること。

コマーシャルペーパー(CP)は、昭和62年11月に市場が創設され、現在では企業の資金調達手段として、また、短期金融市場商品として重要な地位を占めるに至っている。

CPについては、証券決済システム改革の第一弾として、国内CPのペーパーレス化を目的として、その振替制度の創設に係る法整備が行われ、本年3月末からペーパーレスのいわゆる電子CPの発行が開始された。

こうした法整備に合わせて、内国法人が発行する電子CPについては、平成14年度税制改正において、償還差益の源泉徴収免除が認められた。しかしながら、外国法人が発行する電子CP(いわゆるサムライ電子CP)については同措置が講じられていない。国際的にも開かれたCP市場育成のために、また、企業の新たな資金調達手段としてすでに不可欠な存在となっている資産担保CP(いわゆるアセットバックCP。外国法人が発行するCPの形態が主流)市場の継続的発展のためには、サムライ電子CPについても、国内電子CPと同様の取扱いとすることが必要であり、償還差益に係る源泉徴収免除を要望する。

また、上述のように、電子CP市場は本年3月末に創設されたばかりであり、かつ、サムライ電子CPについては償還差益に係る源泉徴収が行われる現状から事実上発行できない状況にあり、未だ約束手形方式のCPの発行について企業のニーズは強い。現下の経済情勢において、企業の多様な資金調達手段を確保する観点から、少なくとも、サムライ電子CPを含め、わが国において電子CPの発行が定着するまでの間(少なくとも1~2年)、平成16年3月末に到来する現行の印紙税の特例措置の適用期限を延長することを要望する。

4.資産流動化関連税制を拡充すること。具体的には、

  1. SPC(特定目的会社)等を通じた資産流動化における所有権等の移転に係る登録免許税の特例措置の適用期限(平成16年3月末)を延長すること。
  2. SPC等が支払う利益配当について、損金算入が認められる要件を緩和すること。

資産流動化はリスク分散・管理のための極めて有力な手段であると同時に、一般企業や内外投資家に対しても多様な資金調達手段や投資商品の選択肢を提供するものである。こうした観点から、平成10年9月からいわゆるSPC法が施行され、さらに平成12年5月に、SPC法および投信法の改正が行われた。また税制面においても、SPC等(以下、特定目的会社(SPC)と投資法人の両者を「SPC等」と総称する)を通じた資産流動化における所有権等の移転に係る登録免許税の軽減等の措置が講じられたほか、配当可能所得の90%超を配当する等の要件を満たす場合、当該配当を損金算入する規定の整備が図られた。

流動化資産の受皿にすぎないSPC等に担税力はなく、課税はただちにこれらの発行する証券の利回り低下をもたらし、資産の流動化を阻害する。経済活性化の観点から、金銭債権や不動産等の資産流動化促進が求められるなか、こうした資産流動化のツールであるSPC等の税負担は、極力軽減されることが必要である。

したがって、SPC等を通じた資産流動化における所有権および抵当権等の移転に係る登録免許税について、少なくとも現行の軽減措置の適用期限(平成16年3月末)を延長することを要望する。

また、SPC等の利益配当について損金算入が認められる要件について、例えば米国等並みに、事後的に配当が配当可能所得の90%以下となった場合の宥恕措置を導入する、特定社債券や優先出資証券を発行しないSPCについても設立当初等の一定の間損金算入を認める、さらには、一定の要件の下でマザーSPCを認める等、資産流動化のために国内SPC等をより一層活用する観点から、更なる緩和措置を講ずることを要望する。

5.東京オフショア市場における源泉所得税免除措置を恒久化すること。少なくとも適用期限(平成16年3月末)を延長すること。

東京オフショア市場は、本邦金融市場の国際化、円の国際化の促進に資するため創設されたものであり、取引の自由度や利便性が海外の主要オフショア市場にできるだけ近いことが重要とされたことから、源泉所得税についても租税特別措置として免除措置がとられてきた。

わが国金融市場は、国際金融センターとして一層の発展が期待されており、そのためにも、東京オフショア市場において、先進主要国のオフショア市場と同様、将来にわたって源泉所得税を課さないことを明確化するため、現行の源泉所得税免除措置を恒久化することを要望する。少なくとも、現行の免除措置の適用期限(平成16年3月末)を延長することを要望する。

6.外国金融機関等が特定金融機関等との間で行う債券現先取引(いわゆる外債レポ取引)により支払を受ける利子の非課税措置を恒久化すること。少なくとも適用期限(平成16年3月末)を延長すること。

わが国金融機関は保有する外債をもとに特定金融機関等(証券会社等)を通じて外国金融機関等から外貨を調達しているが、この一連の取引の中では、特定金融機関等と外国金融機関等との間で、外債を使った債券現先取引(いわゆる外債レポ取引)が行われている。平成14年度税制改正において、債券現先取引で支払われる利子は原則課税とされる一方で、円滑な国際金融取引の確保等の観点から、外国金融機関等が特定金融機関等との間で行う債券現先取引により支払を受ける利子については、時限措置として非課税措置が創設された。

わが国金融機関の円滑な外貨資金調達やわが国金融・資本市場の国際化等の観点、並びに取引の安定性確保等の観点から、同措置の恒久化を要望する。少なくとも現行の特例措置の適用期限(平成16年3月末)の延長を要望する。

7.非居住者等に対する公社債の非課税措置を拡充すること。具体的には、

  1. 外国法人および適格外国投資信託等が適格外国仲介業者経由でTB・FB等を保有する場合についても、非課税措置の対象とすること。
  2. 非居住者等が、適格外国仲介業者を通じて国債を保有する場合、本邦におけるカストディ銀行の各人別帳簿管理を不要とする等、事務負担を軽減すること。
  3. 非居住者等の受け取る国債以外の振替制度を利用した公社債の利子について非課税措置を設けること。

外投資家によるわが国国債への投資の円滑化は、わが国金融・資本市場の国際化、円の国際化、国債市場の流動性向上等に資するものであり、こうした観点から、平成11年9月に、海外投資家(非居住者等)が保有する一括登録国債(現在の振替国債)を対象として、利子非課税措置が講じられた。その後、平成13 年度税制改正においては、適格外国仲介業者(いわゆるグローバル・カストディアン)を経由して国債を保有する場合についても、非課税措置が適用されたほか、平成14年度税制改正においては、適格外国投資信託が国債を保有する場合についても、非居住者等が保有する場合と同様に、非課税措置が適用された。

以上のような数次の改正は行われているが、現行の非居住者等に係る利子非課税制度の対象となる債券には、TB・FB等は含まれていない。これらについては、日本国内の金融機関を通じて保有する場合には非課税措置が認められているだけに、本制度創設の趣旨に鑑み、外国法人および適格外国投資信託が、適格外国仲介業者経由でTB・FBを保有する場合にも、非課税措置を適用することを要望する。また、本年1月から発行が開始されたストリップス債(分離振替国債)については、適格外国投資信託が保有する場合には非課税措置が適用されない。外国法人がストリップス債を保有する場合には非課税措置が適用されており、適格外国投資信託が保有する場合についても、同様に非課税措置を適用することを要望する。

あわせて、非居住者等が適格外国仲介業者経由で国債を保有する場合における、日本国内の金融機関(サブ・カストディアン)の各人別帳簿管理を不要とすることや、所有期間明細書や支払調書の簡素化・廃止等、欧米の制度に比べて事務が著しく煩雑となっている点について、その改善を要望する。

さらに、わが国証券市場の活性化と国際化を進める観点から、国債以外の公社債の振替制度が17年度にも整備されることに合わせて、非居住者等が同制度を利用した国債以外の公社債についても非課税措置が適用されるよう税制上の措置が図られることを要望する。

3.経済活性化と課税の適正化

デフレの長期化や民間需要の低迷など、わが国経済の現状は引き続き厳しい。わが国経済の活性化を早期に実現するためにも、住宅投資の促進に資する税制措置の拡充や土地税制の見直し等により、民間部門の投資・消費需要を喚起することが重要である。

また、金融取引を含む各種の経済取引には、その担税力に着目して、登録免許税や印紙税等の流通税が課せられるケースが多い。しかし、デフレが進行するなかでは、そうした税負担が相対的に重くなり、経済取引そのものの活発化を阻害している面がある。税率の軽減・簡素化により負担を軽減することで、取引の活発化を図ることが必要である。

なお、現在、平成17年度からの固定資産に対する減損会計の導入が議論されている。減損会計の導入に伴い、財務会計と税務の乖離が一段と広がることのないよう、「財税一致」を原則に検討を行うべきである。

1. 住宅投資の促進に資する税制措置を拡充すること。具体的には、

  1. 現行の住宅取得促進税制を拡充すること。少なくとも現行制度(平成15年12月末期限)を延長すること。
  2. 住宅ローン利子の所得控除制度の創設を検討すること。

住宅は国民の重要かつ基盤となる資産である。住宅投資の拡大に伴う経済活性化の効果、また、わが国経済の喫緊の課題であるデフレ脱却の観点からも、住宅投資の促進が求められている。

現行の住宅借入金等の特別控除制度は平成15年12月末までの居住を期限とするものであり、これを拡充することが必要である。少なくとも現行制度を延長し、16年以降居住分について、15年居住分と同様の減税措置を講ずることを要望する。

また、今後の住宅取得促進税制の恒久化等を視野に入れて、住宅借入金の利息に係る所得控除制度の創設を検討すべきである。

2. 固定資産税の課税方法を地価動向と整合性のとれたものに見直す等、土地税制を見直すこと。

デフレ脱却・経済活性化の観点から、土地取引の活性化を図ることが必要である。こうしたことから、課税のあり方が妥当なものか、また、納税者の負担が適正なものかといった観点から、土地税制の見直しが急務である。

平成15年度税制改正においては、不動産の登記に係る登録免許税の税率引下げ、不動産取得税の税率引下げ、および、特別土地保有税の課税停止等の改正が行われた。一方、固定資産税については、平成6年の評価換え以降、地価が下落するなかで税収は増加傾向を続けるなど、その課税のあり方が納税者にとって理解しづらいものとなっている。このため、その見直しによる減税が検討されたが、見直しは行われなかった。

固定資産税の見直しについては、平成14年12月にとりまとめられた与党3党の「平成15年度税制改正大綱」において、「土地に係る固定資産税のあり方については、今後の土地を巡る諸情勢や地方税体系全体のあり方等を踏まえつつ、幅広い観点から、直ちに具体的な検討を進める」こととされており、平成16 年度税制改正において、固定資産税の課税方法を地価動向と整合性のとれたものに見直す等、土地税制を見直すことを要望する。

3.登録免許税の税率をその手数料的な性格から低額の定額税率とする等、軽減・簡素化すること。特に、貸出債権取引市場の発展のため、(根)抵当権の移転に係る登録免許税を軽減すること。

現行の登録免許税は、手数料的な性格を持つ流通税であるにもかかわらず負担が極めて重く、わが国経済の構造改革のために必要な企業の組織再編成や不動産取引等の経済取引に影響を与え、経済の活性化を阻害している面がある。

平成15年度税制改正においては、土地取引の活性化等の観点から、不動産登記に係る登録免許税のうち、所有権の移転等に係る税率は引き下げられたが、金融機関にとって関係の深い(根)抵当権の移転に係る税率は見直されていない。

平成14年9月の金融審議会答申「中期的に展望した我が国金融システムの将来ビジョン」において、行政として証券化の流れを支援するための税制についても検討していくことが必要であると指摘され、同年10月の「金融再生プログラム」および同年11月の「作業工程表」においても、貸出債権の取引市場活性化の重要性が謳われた。こうしたなか、全銀協では、関係省庁等の協力を得て幅広い関係者が参加した「貸出債権市場協議会」を設置するなど、わが国における貸出債権市場発展のための取組みを進めているが、担保権付貸出債権の取引を行う場合、その貸出債権に係る(根)抵当権の移転登記に係る登録免許税(現行 1000分の2)の負担が重く、円滑な取引を阻害する大きな要因となっている。

したがって、登録免許税が持つ手数料的な性格を踏まえ、低額の定額税率とする等、税率構造を大幅に見直すことを要望する。特に、不良債権処理をはじめとする資産流動化に資する貸出債権取引市場の発展のため、平成15年度税制改正において見直されなかった(根)抵当権の移転に係る登録免許税を大幅に軽減することを要望する。

4.印紙税について、金融取引に悪影響を及ぼさないよう、軽減・簡素化すること。特に、企業金融の円滑化のため、手形に係る印紙税を軽減すること。

印紙税は、本来軽微であるべき流通税としては極めて高い税率となっており、金融取引に悪影響を及ぼさないよう、その整理、簡素化を図るべきである。

特に、手形については、10年以上にわたりその流通量が大きく減少してきているが、その一因として、印紙税の負担の重さを指摘する声は多い。最近では、売掛債権の流動化等、企業の資金調達手段の多様化に向けた様々な取組みが進められているが、事務が煩雑な売掛債権の流動化に比べ、裏書による流動化が可能な手形は法的安定性も高く、そうした観点からも、有効活用を図る視点が重要である。

手形に関わる印紙税の税率は、昭和56年の引上げ(2倍)以降長年にわたり据え置かれており、現下の経済情勢においては、企業金融の円滑化の観点から、大幅に軽減することを要望する。

また、郵便貯金や政府系金融機関に関する書類(通帳、証書、受領書等)に対しては印紙税が課されておらず、民間金融機関の印紙税負担との間に大きな不権衡が生じているため、早急にその格差是正を図ることを要望する。

5.各種金融資産間の課税の実質的権衡を確保すること。

金融資産の多様化が進む現在、各種金融資産に対する課税のあり方は個人の貯蓄行動に大きな影響を与えており、郵便貯金をはじめ各種金融資産間の課税の実質的権衡が確保されることが必要である。

こうしたなか、本年6月の政府税制調査会答申「少子・高齢社会における税制のあり方」において、今後の金融資産性所得に対する課税のあり方を検討する方針が示された。

今後、同答申に基づき具体的な検討を行う際には、簡素かつ公平で、課税の方法が金融商品間の有利・不利につながらないよう配慮するよう要望する。

4.適切な経営環境の確保

厳しい経営環境の下、わが国金融機関は、内外の子会社等も含めた効率的な経営体制の構築や収益体質の強化等に向け、合併・統合等を通じた組織再編成を積極的に行っている。しかしながら、こうした過程で多大な税負担が発生し、円滑な再編の阻害要因となるケースもあり、税制面での配慮は不可欠である。

また、平成14年度に導入された連結納税制度については、効率的なグループ経営実現のためにも重要な制度ではあるが、厳しい適用要件や連結付加税の存在等を理由に、金融機関のみならず全産業ベースでも導入している企業グループは少ない。制度導入の趣旨に鑑み、直ちに見直しを行うことが期待される。

1.連結納税制度の見直しを行うこと。具体的には、

  1. 連結納税制度の見直し
  2. 金融機関の組織再編成の円滑化のための税制の見直し
  3. 外国税額控除制度およびタックスヘイブン税制の見直し

連結納税制度は、わが国企業の組織再編成に対応し、経済構造改革に資することを目的として、平成14年度税制改正において創設された。

わが国金融機関は、欧米と同様、既に本格的なグループ経営の時代に突入しており、グループとしての競争力強化のためには、経済環境の変化に応じて組織形態を柔軟に変更し、経営資源を効率的に活用することが求められている。この意味で連結納税制度が創設されたことは、金融機関にとっても、経営の効率性向上、国際的競争力の維持・強化のため意義あることである。

しかしながら、連結納税制度の採用に当たっては、いくつか障害となる規定がある。具体的には、同制度創設に伴う財源措置のため、2年間(16年3月末まで)の時限措置として連結付加税(2%)が課税されており、連結納税を採用する企業の税負担が重くなっている。また、銀行および銀行持株会社においては、特に子会社が新規に加入する際の資産の時価評価や、連結納税採用時等の子会社の繰越欠損金の使用制限等が、連結納税の採用を思いとどまらせており、現状では、多くの金融機関が連結納税を採用していない。

したがって、制度創設の趣旨に照らし、連結納税制度の利用を促進する観点から、(1)連結付加税を期限どおり確実に撤廃すること、(2)連結納税グループへの子会社の新規加入時の資産時価評価について、円滑な金融再編を阻害しないよう措置を講ずること、(3)連結納税採用時等における繰越欠損金の使用制限を緩和する等、銀行持株会社に係る連結納税制度を見直すこと、を要望する。

1.金融機関の組織再編成の円滑化のための税制を見直すこと。具体的には、

  1. 銀行持株会社の受取配当の益金不算入の特例措置の適用期限(平成16年3月末)を延長するとともに、適用要件を緩和すること。
  2. 金融機関等が会社分割・合併等を行った場合における(根)抵当権の移転に係る登録免許税を非課税とすること。少なくとも、会社分割を行った場合における登録免許税を合併を行った場合と同等とすること。

法人税法における受取配当の益金不算入制度本来の趣旨からすれば、配当に係る二重課税の排除が全面的に認められるべきである。しかしながら、平成14年度税制改正において連結納税制度創設に伴う財源措置として、受取配当の益金不算入制度が縮小された。その際、収入のほとんどを子会社(銀行等)からの配当が占め、制度縮小の影響が甚大である銀行持株会社については、金融機能の早期健全化等の観点から、平成16年3月末を期限として特例措置が設けられた。ついては、引き続き金融機能の早期健全化等の観点から、同特例措置の適用期限を延長するとともに、銀行の組織再編成の進展に合わせて、適用要件を緩和することを要望する。

また、わが国金融機関は、経営体力の強化、グループの競争力向上等のため、会社分割・合併等による統合・再編を積極的に行っているが、こうした組織再編成を行った際に、企業側にとっては組織の再編であっても、税法上の規定により多額の税負担が発生する場合がある。具体的には、銀行や銀行の子会社等である住宅ローン保証会社は、その業務の性質上、膨大な件数・金額の(根)抵当権を設定しているが、こうした(根)抵当権者である金融機関等が会社分割・合併を行った際には、事実上、形式的な(根)抵当権の移転のために多額の登録免許税負担が発生する。今後、会社分割・合併等の組織再編成が引き続き予想されるなかで、こうした登録免許税の負担は円滑な組織再編を阻害しかねない。したがって、金融機関等の組織再編成の円滑化の観点から、登録免許税の非課税化が必要であり、少なくとも会社分割について講じられている現行の軽減措置を拡充し、会社分割についても合併と同等とすることを要望する。

3.外国税額控除制度およびタックスヘイブン税制を見直すこと。具体的には、

  1. 外国税額控除の繰越控除限度額および繰越控除対象外国法人税額の繰越期間(現行3年間)を延長すること。
  2. 間接外国税額控除の対象を曾孫会社以下まで拡大すること。
  3. タックスヘイブン税制における課税対象未処分所得の計算にあたり、
    「配当可能利益を構成しない利益」を控除すること。

海外拠点の新設、統廃合、企業買収・売却等が積極的に行われるなか、外国税額控除制度は、国際的な二重課税を排除する制度として重要な役割を果たしている。昨今では、わが国金融機関においても、事業再構築の一環として、海外子会社の売却等が進められており、海外において売却益が発生するケースも生じている。しかしながら、わが国の現行の外国税額控除制度においては、控除限度額等の繰越期間が3年とされていること等から、部分的に国際的な二重課税が発生するケースが生じている。

また、組織再編成の一環として、海外において従来の事業持株会社の上位にさらに統轄持株会社を設立し、その結果、事業持株会社傘下で実際に事業を行う会社の形態が、従来の孫会社から曾孫会社に変更になる事例も発生している。しかしながら、曾孫会社は間接外国税額控除の対象とならず、国際的な二重課税を回避できないという問題が生じている。

したがって、外国税額控除の繰越控除限度額(余裕額)および繰越控除対象外国法人税額(限度超過額)の繰越期間を少なくとも5年に延長するとともに、間接外国税額控除の対象を曾孫会社以下まで拡大することを要望する。

さらに、タックスヘイブン税制において、同制度の対象となる特定外国子会社の課税対象未処分所得にデリバティブ取引等に係る時価評価益が含まれる一方で、同子会社の所在国の法令等により、当該評価益が配当可能利益に含まれない場合、現行のわが国のタックスヘイブン税制のもとでは、当該評価益が他の所得に比べ将来にわたって損金に算入できない不利な取扱いとなっている。

したがって、タックスヘイブン国にある特定外国子会社の課税対象未処分所得に時価評価益等の「配当可能利益を構成しない利益」が含まれる場合には、これを控除することを要望する。