2005年7月29日

各 位

金融調査研究会

金融調査研究会第2研究グループ報告書「政策金融改革のあり方」について

このたび、標記金融調査研究会報告書を刊行いたしました。
金融調査研究会(座長:貝塚啓明中央大学教授)は、財政・金融分野における研究者をメンバーとして、全銀協により昭和59年2月に設置された研究会です。

本研究会では、2つの研究グループを設置し、第1研究グループ(主査:清水啓典一橋大学教授)は金融分野、第2研究グループ(主査:井堀利宏東京大学教授)は財政・政策金融分野のテーマの研究を行っています。

今回の報告書は、平成16年度の第2研究グループの研究成果をとりまとめたもので概要は下記のとおりです。
なお、本報告書は研究会としてのもので、全銀協として意見を表明したものではありませんので、念のため申し添えます。

1.趣旨

企業部門が資金余剰主体となっているわが国経済社会の現状のなかで、国が民間部門の資金調達に果たす役割とは何か、資金の流れを「官から民へ」と見直す観点から、今後の政策金融のあるべき姿を具体的に検討する時期にきている。このため、その理論的なバックグラウンドを提供する観点から、「政策金融改革のあり方」をテーマとして取り上げた。

研究会では、90年代の資金の流れが「民から官」に流れており是正が必要なこと、このため、政策金融に関する(1)対象分野の見直し(事業再生分野を例示)、(2)実施方法の見直し、(3)組織形態の見直しについて具体的な検討を行った。本報告書は、研究会における各メンバーの研究成果であるが、学術面だけでなく、政策面においても有益な成果が得られるものと信じている。

2.概要

報告書の各章の概要は以下のとおりである(執筆者の肩書は2005年3月現在)。

第1章 資金の流れと公的金融改革

(跡田 直澄 慶應義塾大学商学部教授)

郵政民営化や財投改革、政策金融改革等による資金の流れの改革により日本の資金循環がどのように変化するかを数量的に明らかにし、一連の公的金融改革の全体像を示している。その結果に基づき、民間金融機関がその金融機能を十分に発揮できるようにするため、公的金融の役割は民間金融の補完に限定し、その手法も革新し、規模的にも組織的にも必要最低限のものに変革すべきであること、また、政策金融のあるべき姿としては、対象分野の限定が不可欠であること、さらに、政策金融の存在意義が認められるごく限られた場合でも、最も低コストの金融手法を選択すべきであること、等を指摘している。

第2章 事業再生と資金市場への政策介入

(三井 清 学習院大学経済学部教授)

事業再生を促進するための公的な取り組みの政策効果を検討するため、債権者間の協調の失敗に着目し、それによりもたらされるマイナスの効果を抑制してプラスの効果を可能な限り残すための政策手段について、二期間モデルを用いて分析を行っている。その結果、(1)信用保証制度は、資源配分の効率性を高めないケースも存在すること、(2)政策金融機関が信用枠を設定する形でDIPファイナンスを行うことにより、協調の失敗を回避して効率的な資源配分を実現できるが、同様の効果は最優先弁済性の制度を整備すること等でも実現できること、(3)また、DESの枠組みを整備することにより、協調の失敗のケースにとどまらず囚人のディレンマのケースに関しても、効率的な資源配分が実現できるケースが存在すること、等を指摘している。

第3章 融資・保証・補助金をめぐる政策金融に関する比較分析

(土居 丈朗 慶應義塾大学経済学部助教授)

直接融資、信用保証、補助金給付の3つの政策手段を統一的な理論モデルで描写して定性的な分析を行うとともに、そのモデルを基に数値解析を行い、政策金融の妥当性を議論している。その結果、同じ租税負担を前提とすると、社会厚生は補助金給付のケースが最も高くなるが、給付に伴うコストの度合いによっては、必ずしも最も望ましい政策手段ではなくなる可能性があること、また、金融的手段として政策金融機関による直接融資と信用保証を比較すると、直接融資より信用保証の方が経済厚生は高くなること、等を指摘している。

第4章 公的金融機関の企業統治と組織形態

(岩本 康志 一橋大学大学院経済学研究科教授)
(現:東京大学大学院経済学研究科教授)

特殊法人や独立行政法人などの公的機関の類型を整理し、そこで得られた考え方を公的金融機関に応用することにより、公的金融機関を改革した後の望ましい組織形態について理論的分析を行っている。その結果、直接融資の必要がないとされた機関は廃止ないし民間金融機関に転換されるべきであり、直接融資の必要性が認められる機関は、効果的な企業統治を働かせるための組織形態を選択する必要があること、を指摘している。そして、公的金融機関として存続する必要性が認められた機関については、市場で金融サービスを供給し、民間企業で類似の業務を行っていることから、課税法人とすることが適当であり、独立行政法人ではなく、国が支配株主となる特殊会社とすることが望ましいこと、等を指摘している。

(本件に関するご照会先)
金融調査研究会事務局 全国銀行協会 
金融調査部 今津
〒100-8216 東京都千代田区丸の内1-3-1
電話 03-5252-3789
FAX 03-3214-3429