2006年1月 4日

全国銀行協会
会長 前田 晃伸

年頭所感

 平成18年の新春を迎えるにあたり、所感の一端を申し述べ、新年のご挨拶に代えさせていただきます。

 昨年を振り返ると、いわゆる「3つの過剰」がほぼ解消し、年半ばからは、民間需要中心の緩やかな回復が続くなど、ようやくデフレ脱却が展望できる状況になってきたと思います。昨年4月の全銀協会長就任にあたり、「力強い一歩を踏み出す」ことをこの1年間の目標に掲げましたが、実際、長年の懸案であった不良債権処理もほぼ終わり、ペイオフ解禁後も大きな混乱はなく、また、公的資金の返済についても、メガバンクでは完済の目処が立つなど、銀行界を巡る状況は、大きくフェーズ転換を始めたと感じております。こうした状況下、銀行界としては、以下のような課題に取り組んでまいりたいと思います。

 第一の課題は、お客さまのニーズに対応した最高の金融サービスを提供していくために金融市場のさらなる活性化に取り組むことです。
 一段と高度化・多様化が進むお客さまのニーズにお応えし、より利便性の高い魅力ある金融商品・サービスを提供していくためには、個々の金融機関の取り組みに加えて、残された規制の緩和や公的金融セクターの縮小・見直し等、市場環境の整備を行い、金融市場のさらなる活性化を図っていくことが重要であると考えております。
 昨年来、銀行における保険窓販の拡充、銀行代理店制度の見直しが行われておりますが、本年もこうした規制緩和の流れを受けてお客さまへのサービスを充実させていくことが必要であります。これらの結果、ワンストップショッピングの実現による利用者利便の向上に資することができればと考えております。
 次に、市場環境の整備を進めていく上では、引続き公的金融セクターの改革を着実に進めていくことが重要であります。郵政改革については、最終的な民営化に至る10年という大変長期に亘る移行期間において、公正な競争条件が確保されるよう、全銀協としても適切なフォローをしていきたいと考えております。政策金融改革についても、引続き、「民間にできることは民間に委ねる」との構造改革の原則に則った取り組みが行われるとともに、民営化される場合には、民間金融機関との競争条件においてイコールフッティングが実現されることを強く要望してまいりたいと考えております。

 第二の課題は、金融市場への信頼をより強固なものとするため、利用者が安心できる体制の整備やリスク管理・ガバナンスの高度化へ向けた取り組みを一段と推進していくことです。
 まず偽造・盗難キャッシュカード犯罪問題については、預金者保護法が本年2月に施行されますが、今後銀行界、さらには個別金融機関においても注意事項を預金者に周知し、啓蒙を図るとともに、キャッシュカードのIC化・生体認証方式の導入等、セキュリティーの一層の強化に努めるなど、お客さまの預金を犯罪者から守るために不断の努力を行っていく必要があると考えております。また、「投資サービス法」制定の議論については、利用者が安心して投資できるルールが整備されるとともに、利用者利便がより向上するよう、銀行界としても積極的に意見を発信していきたいと思います。
 次にリスク管理の点について、不良債権は概ね終息に向かっておりますが、不良債権問題を二度と繰り返さないために、バーゼルⅡ対応等を含めリスク管理の一層の高度化を実現することが不可欠であると考えております。
 また、お客さまからの高い信頼を得る上では、銀行のもつ公共的使命の重みを常に認識し、確固とした企業倫理の構築と法令遵守体制を強化することも重要な課題であり、昨年制定した「行動憲章」に則り、コンプライアンス体制のさらなる充実に努めるとともに、CSRへの具体的取り組みとして、環境問題や社会貢献活動へも積極的に取り組んでいく所存です。

 以上、新年を迎えるにあたり金融界における課題について申し述べてまいりましたが、最後に一言申し上げます。本年こそ、景気回復の足取りがより確かなものとなり、日本経済が輝きを取り戻すことが期待されていると思います。まだまだ安心できる状況ではありませんが、財政改革などの構造改革をさらに進めるとともに、民間の創意と工夫によって、わが国経済の活力を高め、国民レベルで実感できるような持続的な成長につなげていくことが重要と考えております。
 日本の金融界は、新たな成長過程に入りましたが、お客さまのニーズが何かを見極め、サービスのさらなる向上と新商品の開発、適切なリスクマネジメントを通じて、真の顧客サービスの提供を追求し続けることが成長の鍵になると考えております。お客さまや株主の方の意見に謙虚に耳を傾け、しっかりと経営に反映させること、これが基本だと思います。そういう意味では「辛口意見」こそが大切ではないかと改めて痛感しております。
 こうした取り組みにより、金融界としてもわが国経済の活性化、持続的成長に多くの貢献をしてまいりたいと思います。また、本年が金融界にとって大きな前進の年となることを祈念しております。