2006年7月20日

各 位

全国銀行協会

金融調査研究会第1研究グループ報告書
「金融のコングロマリット化等に対応した金融制度の整備」について

このたび、金融調査研究会では、標記の報告書を刊行いたしました。
金融調査研究会(座長:貝塚啓明中央大学教授)は、金融・財政分野における研究者をメンバーとして、全銀協により昭和59年2月に設置された研究会です。
本研究会では、2つの研究グループを設置し、第1研究グループ(主査:清水啓典一橋大学教授)は金融分野、第2研究グループ(主査:井堀利宏東京大学教授)は財政分野のテーマの研究を行っています。
標記報告書は、平成17年度の第1研究グループの研究成果をとりまとめたもので概要は下記のとおりです。
なお、本報告書は研究会としてのもので、全銀協として意見を表明したものではありませんので、念のため申し添えます。

  1. 趣旨
    わが国の政策課題のひとつとして金融のコングロマリット化に対応した金融法制の整備等が掲げられているが、先行する欧米では業態の垣根を越えた金融機関の事業展開が円滑に進められる体制が整備され、金融機関の経営の選択肢が広い。
    また、欧州では金融業と一般事業の融合も見られ、わが国でもIT関連企業や流通・ノンバンク・メーカー等の銀行・証券・保険への参入等が活発に行われている。
    今後、金融分野における競争を促進し、利用者利便の向上や金融市場の活性化、国際競争力の向上、公正な競争条件の確保を図るためには、銀行・証券・保険等金融業態間の垣根の見直しとともに、銀行・商業間の規制のあり方の見直しも求められる。
    こうした観点から、欧米の事例等を踏まえて研究を行ったものである。
    研究会では、金融機関で実務に携わっている方々からのヒアリングによって、様々な最新の情報を得て研究を進めることができた。また、年度末には、金融コングロマリットの論点を法制面から研究した金融法務研究会と合同で、コンファレンスを開催した。
    (注)
    コンファレンスの模様については、全銀協機関誌「金融」2006年4月号に掲載。
  2. 概要
    報告書の各章の概要は以下のとおりである。
金融調査研究会第1研究グループ研究総括「金融のコングロマリット化等に対応した金融制度の整備」

平成18年3月10日に開催された金融調査研究会・金融法務研究会合同コンファレンスにおける、清水主査からの報告資料である。
論点を、「金融コングロマリット」と「銀行と商業の分離規制」の2つに大別して研究会での検討結果を整理し、情報共有規制や業務範囲規制といった事前規制を極力少なくし、金融監督を、市場規律を効かせるためのルール整備等に限定していくこと、商業から銀行業への参入のみを認める現行の“One Way” 規制を見直し、利用者へのメリットが大きいと考えられる分野を中心に、相互に参入を認める“Two Way”とすること、等を望ましいとしている。

第1章 銀行と商業の分離規制 -青い鳥はどこに-

(清水啓典 一橋大学大学院商学研究科教授)

世界の銀・商分離規制の歴史と現状を整理した上で、その理論的根拠を分析し、飛躍的な情報・通信技術の進歩が金融市場の産業構造を変革しつつあるという視点から、その成果を生かす金融制度のあり方と金融機関の対応について検討したものである。現制度下でニーズのある境界領域開拓の必要性と、不動産業とのシナジー効果を指摘している。

第2章 銀行の業務範囲規制について

(渡辺努 一橋大学経済研究所教授)

世界銀行が作成したデータに基づいて、銀行の業務範囲規制の世界的な動向を分析したものである。その結果、日本では規制緩和の余地があること、商業から銀行への“One Way”規制の問題は世界的な傾向であること、世界的に見ると、業務範囲規制の緩和は銀行収益の改善に資すること、さらに業務範囲規制の緩い国で金融危機が生じにくい傾向があること、等を指摘している。

第3章 銀行業の兼業規制に関する理論的整理

(柳川範之 東京大学大学院経済学研究科助教授)

銀行の兼業規制の意義や今後のあり方に関して、その根拠となる(1)金融システムの安定性確保、(2)規制レントの拡大防止、(3)銀行による集中力排除、という論点を巡って理論的整理を行っている。その上で、“One Way”規制に関しては再検討の余地はあるものの、他の規制やルールとの併用や、銀行の慎重な経営判断が必要となることを指摘している。

第4章 金融コングロマリットと市場規律

(前多康男 慶應義塾大学経済学部教授)

複雑化した金融コングロマリットに対して市場規律を働かせる方法として、劣後債発行を義務づける方法の有効性等について検討したものである。欧米における実証的分析の結果、劣後債発行は市場規律付けとして機能しており、銀行や銀行を含む金融コングロマリットに対する監督・規制体系も市場規律を前提としたものに変換できるであろうとしている。

第5章 金融コングロマリット化と保険会社 -保険会社は金融コングロマリットのなかで融和できるか-

(小藤康夫 専修大学商学部教授)

保険会社に焦点を絞って、保険業に関する多様な側面を国際的に比較検討して、保険会社を含む金融コングロマリットが成功する条件を探ったものである。そのためには、範囲の経済の活用が鍵となるが、銀行と保険業との間の情報共有規制がシナジー効果を減殺しているため、情報共有規制の緩和が必要である点等を指摘している。

(本件に関するご照会先)
金融調査研究会事務局
全国銀行協会 金融調査部 世良
電話 03-5252-3741