2006年7月20日

各 位

全国銀行協会

金融調査研究会第2研究グループ報告書
「わが国の財政のあり方と財政再建の影響」について

このたび、金融調査研究会では、標記の報告書を刊行いたしました。
金融調査研究会(座長:貝塚啓明中央大学教授)は、金融・財政分野における研究者をメンバーとして、全銀協により昭和59年2月に設置された研究会です。
本研究会では、2つの研究グループを設置し、第1研究グループ(主査:清水啓典一橋大学教授)は金融分野、第2研究グループ(主査:井堀利宏東京大学教授)は財政分野のテーマの研究を行っています。
標記報告書は、平成17年度の第2研究グループの研究成果をとりまとめたもので概要は下記のとおりです。
なお、本報告書は研究会としてのもので、全銀協として意見を表明したものではありませんので、念のため申し添えます。

  1. 趣旨
    国・地方を合わせて700兆円を超える公債残高を抱えて、少子高齢化社会を迎える中、歳出・歳入一体改革に向けて財政再建の必要性が政府・国会など各方面で論議されている。こうした状況を踏まえ、諸外国の財政再建への取り組みを検証し、今後のわが国の財政のあり方と財政再建への道すじについて、具体的なプランを固める時期にきている。こうした問題意識に立ち、「わが国の財政のあり方と財政再建の影響」をテーマとして取り上げた。
    研究会では、わが国の財政の現状等を概観した後、望ましい歳入改革のあり方、財政再建を進める過程における金融政策との関係、地方分権と両立した地方財政の見直し、歳出・歳入一体改革の戦略のあり方、といった幅広い視点から具体的な検討を行った。本報告書は、研究会における各メンバーの研究成果であるが、学術面だけでなく、政府等における財政再建に関する実際の戦略策定においても、有益な成果が得られる内容のものと信じている。
  2. 概要
    報告書の各章の概要は以下のとおりである。

第1章 わが国の財政の現状と欧米主要国における財政再建の取り組み

(事務局)

わが国の財政の現状について概観した後、1990年代の欧米主要国における財政再建の事例等を概観し、政策的含意の検討を行っている。具体的には、財政再建にあたっては、国民の合意を得た形で歳出抑制ルールを導入すること、また、財政再建の過程では内需主導の自律的な景気回復が重要であること、等を指摘している。

第2章 歳入面から見た課題

(吉野直行 慶應義塾大学経済学部教授)

税収の変化が財政赤字の変化をどの程度説明できるかについて考察した後、近年の税制改革による歳入面の影響について分析し、望ましい歳入改革のあり方について検討を行っている。その結果、近年の税制改革は所得税および法人税の所得弾力性を低下させ、租税の自動安定化機能を弱める方向に働いたこと、を指摘している。そのうえで、歳入面の改革にあたっては、(1)租税の自動安定化機能を回復する観点から、所得税について累進度や税率の引き上げを行う、(2)安定した税収が確保でき、水平的な公平性の高い消費税の引き上げを行う、といったことが考えられるが、どちらも一長一短あるため、最終的には政策的に判断する必要があること、等を指摘している。

第3章 今後の財政政策・金融政策の運営のあり方について

(中里透 上智大学経済学部助教授)

財政の健全化と金融の正常化に関する最近の議論の動向を踏まえつつ、今後の財政政策と金融政策の運営のあり方について検討を行っている。その結果、(1)財政政策と金融政策のポリシーミックスについては、金利の非負制約を考慮に入れて慎重なペースで財政健全化を進めていくことが必要であること、(2)財政健全化を進めていくにあたっては、「負債による規律付け」を活用して、増税よりも歳出削減に重点を置くことが適切であること、(3)財政の健全化について明示的なコミットメントを行うことが必要であること、等を指摘している。

第4章 財政健全化と地方分権を両立させる地方財政改革

(土居丈朗 慶應義塾大学経済学部助教授)

国の財政健全化を、地方財政の分権的な運営といかに両立する形で進められるかについて検討を行っている。その結果、国と地方が協力して歳出削減に取り組むという方針の下、地方交付税総額の削減を出発点にして、国と地方の権限・事務事業の再配分、地方が担う事務事業の効率化を検討することで、地方の行財政改革を進めるべきであること、等を指摘している。また、中長期的には、地方交付税の算定を簡素化するとともに、国庫補助負担金を洗練化させる必要があること、等を指摘している。

第5章 2025年に向けての財政運営の戦略

(岩本康志 東京大学大学院経済学研究科教授)

歳出・歳入一体改革の手順の組み立て方、および選択肢の提示等のあるべき姿について検討を行っている。その結果、(1)これまで積み上げてきた巨額の債務残高対GDP比率を引き下げ、将来にわたって持続可能な財政運営(債務の安定化)を目指すため、基礎的財政収支の黒字幅(対GDP比)は3%以上が必要であること、(2)収支改善を達成するための具体的な手段としては、まず歳出削減がどこまでできるかを考え、目標達成に足りない部分を負担増で補うという組み立てをすることが妥当であること、(3)歳出削減については、OECD諸国との比較を通じて削減項目を検討した結果、公共事業支出を他国並みに削って、教育支出を若年人口の減少にあわせて縮小し、さらに社会保障費を含めたその他の支出の削減に努力するのが妥当な選択肢であること、等を指摘している。

(本件に関するご照会先)
金融調査研究会事務局
全国銀行協会 金融調査部 今津
電話 03-5252-3789