2006年10月26日

各 位

金融法務研究会

金融法務研究会第1分科会報告書
「金融持株会社グループにおけるコーポレート・ガバナンス」について(金融法務研究会)

今般、標記金融法務研究会報告書を刊行いたしました。
金融法務研究会(座長:前田 庸学習院大学名誉教授)は、金融法務分野における研究者をメンバーとして、全銀協により平成2年10月に設置された研究会です。
本研究会では、2つの分科会を設置し(第1分科会主査:岩原紳作東京大学大学院法学政治学研究科教授、第2分科会主査:能見善久東京大学大学院法学政治学研究科教授)、金融法務・法制に関するテーマの検討を行っています。
本報告書は、第1分科会における平成17年度の研究成果をとりまとめたもので、概要は下記のとおりです。
なお、本報告書は研究会としてのもので、全銀協として意見を表明したものではありませんので、念のため申し添えます。

  1. 趣旨
    近時、頻繁に金融グループの組織再編が行われ、それに伴い銀行持株会社を中心とする金融グループにおけるコーポレート・ガバナンスについて現実の問題となる中、金融持株会社グループにおけるコーポレート・ガバナンスの法的問題を検討した。特に、金融持株会社を規制する銀行法等の金融監督法による規制と、金融持株会社に適用される会社法による規制の両者の関係を主な課題として検討を行った。
    なお、年度末には、金融コングロマリットの論点を経済学・金融論の観点から研究した金融調査研究会と合同で、コンファレンスを開催した。
    注.
    コンファレンスの模様については、全銀協機関誌「金融」2006年4月号に掲載。
  2. 概要
    報告書の各章の概要は以下のとおりである。

第1章 EU・英国の金融コングロマリット規制について

(森下哲朗 上智大学助教授)

本章では、EU・英国における金融コングロマリットに対する監督法的な規制の状況について概観し、そこから導かれる金融コングロマリットの監督規制の主要な視点について指摘している。
まず、金融コングロマリット規制に関する国際的な取り組みとして、BISやIOSCOなどのレポート、検討状況等を概観し、そこで明らかにされた金融コングロマリット規制の諸原則について報告されている。
ついで、そうした国際的な検討等を受けて制定されたEUコングロマリット指令の概要、さらに当該指令を国内において実施した英国における状況と実務的な影響について報告がされている。
さらに、EU・英国の規制実施状況を踏まえ、金融コングロマリット規制の重要なポイントとして、補足的性格、柔軟性および国際性を掲げて、結んでいる。

第2章 金融グループにおける利益相反問題

(神田秀樹 東京大学教授)

本章では、銀行持株会社を中心とした金融グループを念頭に、金融グループにおける利益相反問題について、監督法および会社法の双方における対応のあり方について、基本的な問題の分析、整理を行っている。
まず、金融グループにおける利益相反の類型として、(1)「会社」グループにおける利益相反(会社法上の問題)、(2)顧客と金融機関との利益相反(監督法上の問題)を挙げ、(2)について検討を行っている。
利益相反に係る業法規制のスタイルとして、法人格分離や他業禁止などの事前規制と損害賠償請求などの事後規制を挙げ、規制の趣旨としては、リスク遮断等が指摘されてきたが、規制のエンフォースメントコストという観点が重要であると指摘している。
さらに、近時の動向として、金融機関への健全性規制との関係で、金融グループ単位のリスク管理が求められていること、銀行の証券仲介業などワンストップサービスが認められてきていること、また、コーポレート・ガバナンスの議論を挙げ、こうした動向と利益相反規制とは両立するものであり、規制のスタイルが変化しても、基本的な利益相反規制は存続すべきであると結んでいる。

第3章 持株会社システムにおける取締役の民事責任

(山下友信 東京大学教授)

本章では、持株会社とその取締役の子会社管理に係る民事責任の問題をとりあげ、持株会社の取締役の任務遂行のあり方について、分析、検討が行われている。
まず、親子会社関係と親会社・親会社取締役の責任に関する裁判例を概観するとともに、学説の動向について、持株会社解禁以前・以後で整理し、持株会社解禁後の学説では、親会社取締役の子会社管理に関する対親会社責任が急浮上してきたことを指摘している。
さらに、親会社取締役の子会社管理に関する責任について、管理類型(法的管理・事実上管理など)に分類し、親会社取締役の当該法的責任を検討するうえでの要素として、子会社の独立性、子会社取締役の存在および親会社取締役の経営判断を掲げている。そのうえで、親会社取締役による子会社に対する法令違反の指図があった場合など具体例をとりあげ、親会社取締役の責任を検討している。

第4章 持株会社による子会社の支配と管理 -契約による指揮権の確保-

(前田重行 学習院大学教授)

本章は、持株会社による子会社の支配・管理は会社法的に如何に可能になるかという問題を、ドイツ株式法におけるコンツェルン法を参考に検討している。
まず、持株会社の子会社に対する指揮権、指図権について、実務や業法上の監督規制の取扱いと会社法における取扱いとを比較検討し、両者に乖離のあることを明らかにしている。
そして、持株会社の子会社の支配・管理の法的問題について、ドイツのコンツェルン法をとりあげ、持株会社の子会社に対する統一的指揮権の確保という観点から、また法的拘束力の有無という観点から分析し、法的根拠を有する支配契約を締結している「契約コンツェルン」と、事実上の支配力による「事実上のコンツェルン」について概観している。
以上を踏まえ、わが国における会社法の観点から、契約による持株会社への指揮権の付与として、特別の経営委任契約について、そのメリット、要件、当該契約に基づく指揮権行使の問題、当該契約における持株会社等の責任について検討している。

第5章 金融持株会社による子会社管理に関する銀行法と会社法の交錯

(岩原紳作 東京大学教授)

本章では、各章の検討を受け、金融持株会社の子会社の経営管理に関する銀行法の規制と会社法の規制の交錯という観点から、金融持株会社について、銀行法および金融コングロマリット監督指針が加えている監督法的な規制と、会社法上の役員の義務の間の緊張関係を明らかにし、その解決の方向性を分析、検討している。
まず、銀行持株会社による子会社管理に関する銀行法および金融コングロマリット監督指針の諸規定を概観し、持株会社の子会社指揮を可能とする会社法上の方法を検討し、監督指針が求める持株会社による子会社に対する内部統制は、会社法的限界があることを指摘し、また、銀行法に基づく子銀行の取締役の義務・責任に関して、会社法上の原則が変容されているとの学説を紹介、分析している。
ついで、子会社を監督する親会社取締役の親会社に対する義務について分析し、銀行持株会社における子会社を、一内部部門である場合とほぼ同様にコントロールし得る内部統制システムを構築する義務があるとしている。また、銀行法第52条の33に規定する「監督上必要な措置」に関して、銀行持株会社の子銀行に対する私法上の効力について分析している。

【本報告書に関する照会先】
金融法務研究会事務局
全国銀行協会 業務部 大野
Tel. 03-5252-4310
金融調査部 大山
Tel. 03-5252-3741