2006年10月27日

各 位

金融法務研究会

金融法務研究会第2分科会報告書
「担保法制をめぐる諸問題」について(金融法務研究会)

今般、標記金融法務研究会報告書を刊行いたしました。
金融法務研究会(座長:前田 庸学習院大学名誉教授)は、金融法務分野における研究者をメンバーとして、全銀協により平成2年10月に設置された研究会です。
本研究会では、2つの分科会を設置し(第1分科会主査:岩原紳作東京大学大学院法学政治学研究科教授、第2分科会主査:能見善久東京大学大学院法学政治学研究科教授)、金融法務・法制に関するテーマの検討を行っています。
本報告書は、第2分科会における平成17年度の研究成果をとりまとめたもので、概要は下記のとおりです。
なお、本報告書は研究会としてのもので、全銀協として意見を表明したものではありませんので、念のため申し添えます。

  1. 趣旨
    担保制度は、金融取引において様々な形態により利用されている中、近時の立法動向等を踏まえ、担保法制の現代的な課題について検討を行った。具体的には、根担保法制の問題、「口座」に係る担保の問題、信託法制と関連してセキュリティ・トラスト等の問題をとりあげた。
  2. 概要
    報告書の各章の概要は以下のとおりである。

第1章 根担保-根保証を中心に

(能見善久 東京大学教授)

本章では、根担保法制の問題について、平成16年に貸金等根保証契約を対象とする民法改正が行われたことを踏まえ、根保証に関する問題を中心として検討、分析を行っている。
まず、根保証について定義した上で、根保証契約の法的問題を、平成16年民法改正前後に分けて、前者を中心に、包括根保証に関する判例・学説を検討、分析している。具体的には、被保証債務の範囲、極度額、根抵当権との併用の場合の根保証の責任の範囲、解約権、相続性、附従性、元本確定の各項目について検討されている。また、民法改正後については、改正法について概観し、改正法により従来の根保証理論が受ける影響について分析している。
結びでは、その他の根担保として、根質や根譲渡担保について言及している。

第2章 根担保の随伴性

(野村豊弘 学習院大学教授)

本章では、根担保の随伴性、特に、根抵当権および根保証について、この問題を検討している。
まず、具体的事例を用いて、根抵当権および根保証の随伴性が問題になるケースを示し、問題点を明らかにしている。
第1章においてとりあげられた包括根保証に係る平成16年の民法改正について、立法の経緯およびその内容を概観した後、根抵当権における随伴性および根保証における随伴性のそれぞれについて論じている。前者の根抵当権については、すでに立法的に解決されており、その規定内容を指摘し、後者の根保証については、随伴性を認める学説と認めない学説をそれぞれ分析し、実務の実態に即した解釈の重要性について指摘し、結んでいる。

第3章 「口座」の担保化

(中田裕康 一橋大学教授)

本章では、銀行の普通預金口座などの「口座」自体を担保とすることができるかという問題について、従来の預金債権を担保の目的とする考え方と「口座」そのものを担保の目的とする考え方とを比較しつつ、検討している。
まず、普通預金の担保化に関する議論について、1960年前後の普通預金債権に係る根質権設定契約の有効性に関する下級審判例をめぐる議論の状況、さらに、2000年前後の最近の普通預金担保化を巡る学説の状況について概観している。
ついで、「口座」担保の内容について、目的(対象)財産、担保の種類(質権、譲渡担保)、担保権者のそれぞれの観点から分析、整理し、その上で、普通預金債権担保化の議論との比較において、普通預金口座の担保の可能性およびその問題点を検討している。さらに、担保のプロセスにおけるイベント(設定の合意、対抗要件、変動、実行方法)ごとに、分析、検討を行っている。
最後に、「口座」担保の利点を示し、結んでいる。

第4章 セキュリティ・トラストの実体法上の問題

(山田誠一 神戸大学教授)

本章では、信託を用いて行われる、債権者でない者に担保権を設定し、債権者でない者が担保権者となるセキュリティ・トラストについて、実体法上の問題を検討している。
まず、セキュリティ・トラストを巡るこれまでの議論を概観し、民法における原則的な規律を示し、信託を用いて担保権者と債権者を分離した社債発行を可能とする担保付社債信託法の内容等に言及している。
ついで、セキュリティ・トラストのニーズについて概観した後、平成18年通常国会に提出された信託法案の内容を踏まえ、当該法案において明文によって認められたセキュリティ・トラストの内容を示している。この法案内容を踏まえ、通常の抵当権あるいは根抵当権をセキュリティ・トラストにより設定する場合、セキュリティ・トラストにおける被担保債権の管理、被担保債権の譲渡、抵当権の実行と配当金の受領にかかる抵当権・被担保債権消滅等の問題について分析、検討を行っている。

第5章 セキュリティ・トラストの民事手続法上の問題 -担保権と債権との分離に関連して-

(青山善充 明治大学教授)

本章は、第4章においてセキュリティ・トラストに関する実体法上の問題が検討されていることに対し、民事手続法上の問題をとりあげ検討しているものである。
まず、平成18年通常国会に提出された信託法案を踏まえ、セキュリティ・トラストに係る民事手続法上の問題について、担保権者と債権者が異なることに起因する検討課題を明らかにしている。
その上で、民事執行法、破産法、会社更生法のそれぞれの手続法におけるセキュリティ・トラストの問題を分析、検討している。
例えば、民事執行法では、担保権者が民事執行手続に登場する場面を概観し、その上で、セキュリティ・トラストの担保目的財産に対する民事執行における執行法上の地位・権限は誰に認められるかといった問題について検討が行われている。破産法については、破産手続において、委託者である債務者破産の場合に受託者に別除権者の地位・権限が認められるかという問題などが検討されている。

第6章 平成17年担信法改正 -社債発行と担保権設定との関係を中心に-

(前田 庸 学習院大学名誉教授)

本章は、平成17年担保付社債信託法の改正を踏まえ、社債発行と担保権設定との関係について、平成5年社債法改正をめぐる審議の過程で問題となった点が、今回の改正法でどのように手当てされているのかを解説しているものである。

【本報告書に関する照会先】
金融法務研究会事務局
全国銀行協会 業務部 大野
Tel. 03-5252-4310
金融調査部 大山
Tel. 03-5252-3741