2024年1月 4日

一般社団法人全国銀行協会
会長 加藤 勝彦

年頭所感

 2024年の新春を迎えるに当たり、所感の一端を申し述べ、新年のご挨拶に代えさせていただきます。
 まず、このたびの令和6年能登半島地震において、被害を受けた皆さまへ心よりお見舞いを申しあげます。また、犠牲となられた方々に哀悼の意を表するとともに、ご遺族の皆さまに心よりお悔やみを申しあげます。被災地域が一日も早く復旧を果たし、被災された方々が通常の生活を取り戻すことができるよう、銀行界としても、金融上の措置への対応はもちろんのこと、自然災害ガイドラインの適用も含め、復旧・復興の取組みを全力で支援して参ります。
 さて、改めて昨年を振り返りますと、米地銀破綻に端を発した金融システム不安、欧米を中心とした物価高と金融引き締めが経済のハードランディングに繋がる懸念、ロシアによる軍事侵攻が長引く中での中東情勢の緊迫化等、先行き不透明な状況が続きました。IT技術の進展、人々の行動様式の変化、経済の複雑化もあり、将来予測が難しい中、各国の政府・金融当局は難しい舵取りを迫られましたが、世界経済は総じて底堅く推移しました。日本では、5月に新型コロナウイルスの感染症法上の分類が変更されて以降、訪日観光客の回復等、徐々にコロナ前の賑わいが戻ってきました。また、日本銀行による2023年度の消費者物価指数(除く生鮮食品)の見通しは前年度比+2.8%と高水準となる中、春闘賃上げ率も+3.6%と30年ぶりの高さとなりました。これらは「成長と分配の好循環」が間違いなく回転し出している証左であり、昨年は長くゼロインフレが続いてきた日本経済にとって「変化の兆しが見えた一年」となりました。
 こうした環境下、全銀協では、23年度を「社会・経済の持続的な発展を支え、明るい未来に繋げる1年」と位置づけ、以下の三つの柱を掲げて、活動を進めて参りました。
 第一の柱「経済の持続的成長と社会課題解決への貢献」についてです。スタートアップ支援では、2023年1月に実施した全銀協の申し合わせにもとづき、各行が事業性評価のノウハウ向上や資金供給方法の多様化等に取り組んでいます。中小企業支援では、早期の事業再生を一層促進するため、経営者保証や事業再生に関する各ガイドラインの改定を進めています。意欲のある事業者や経営者のチャレンジを今後も十分に支援し、産業の活性化に尽力していきます。また、貯蓄から投資の一環として、新NISA制度が本年1月からスタートしましたが、全銀協として様々なかたちで制度周知・広報活動に注力してきました。新NISA制度をきっかけに我が国の資産形成の裾野を広げ、「成長と分配の好循環」の実現に貢献して参ります。さらに資産形成支援も含めた金融経済教育の推進として、今年度から新たに職域へのセミナー講師派遣も開始しました。来年度には金融経済教育推進機構の設立が予定されていますが、全銀協も新機構に参画し、官民一体となった金融経済教育の推進に貢献していきます。そのほか、脱炭素社会実現に向けて、国際的な会議の企画や参画を通じて、トランジションの推進に関する情報発信を行いました。また、非財務情報開示の枠組み整備が進む中、中小企業も意識した情報開示の標準化の議論を進めています。
 第二の柱「デジタル技術進展を踏まえた安心・安全で利便性の高い金融インフラの構築」についてです。手形・小切手機能の全面的な電子化は、人手不足への対策として社会全体の業務効率化や生産性向上等が期待される中、全国各地で講演を行う等、利用者の理解を醸成する流れができてきました。同時に、金融機関向けの説明会や、手形帳・小切手帳に印字する広告媒体等を作成して幅広い金融機関に提供する等、金融機関の取組みも多面的に支援しています。また、昨年4月には自動車税や固定資産税等の一部の地方税でQR納付が始まり、スマホひとつでいつでも・どこでも納付が可能になりました。来年度には全ての地方税目がQR納付の対象となる予定です。さらに、サイバーセキュリティの領域では、共助の観点から各行の自律的対策に資するような好事例の共有を進めています。
 昨年10月の全国銀行資金決済ネットワークが運営する全国銀行データ通信システムの障害では、お客さまに多大なご迷惑をおかけしました。奇しくも昨年は同システム稼動から50年の節目の年でもありました。改善・再発防止も含め、銀行界も全銀ネットと一体となって、安心・安全の確保に努めていくとともに、利便性の向上にも取り組んで参ります。
 第三の柱「金融システムの健全性・強靭性向上」についてです。マネロン行為や口座の不正利用を排除するために、様々な媒体を通じて継続的顧客管理の周知・広報活動を展開しつつ、最新のお客さま情報のご提出をお願いしています。また、いよいよ今年4月からマネー・ローンダリング対策共同機構のサービスが始まります。まずはマネロン対応の実務手引や研修等の業務高度化支援サービスからスタートし、来年4月にはAIスコアリングサービスもスタートします。アンチマネロンは国際的なコンセンサス、かつ、わが国の経済活動にも関わる最重要課題であり、銀行界一丸となって対応力強化に取り組んで参ります。また、本年12月にはユーロ円TIBORの恒久的な公表停止が想定されています。同指標を参照する取引から円滑に移行できるよう、お客さまと連携しながら、準備を進めて参ります。
 本年は、各国の金融政策の行方、気候変動問題への対処、先鋭化するグローバルな対立構造の動向等、世界が複雑化する中で不確実性の高い状況が続くとみています。このような中、日本は長らく続いたデフレからの完全脱却の実現が期待される局面にあります。
 わが国が新たな成長軌道に乗れるよう、銀行界は、企業の投資活動を財務・成長戦略面からサポートするとともに個人の資産形成や消費活動を支え、経済の好循環の実現と社会の持続的な発展に貢献して参ります。