1999年10月19日

杉田会長記者会見(第一勧業銀行頭取)



(問)
 先週、住友銀行とさくら銀行の合併が発表された。最近、大型の金融統合が相次いでいるが、金融再編の動きについての評価および今後の見通しについて伺いたい。
(答)
 今お話があったように、今月に入ってからも相次ぐ統合や合併に向けての動きが出てきた。その動きは、すさまじいとさえいえるものかと思う。それぞれ新世紀を見据えて、経営者は思い切ったご判断、ご決断をされたのだろうと思う。こうした動きは、わが国の金融システムの一層の安定化、ひいては強化に寄与するものと評価したいと思っている。 合併や統合は基本的には個別金融機関の経営戦略に係わる問題であるが、一般論として申しあげれば、個々の金融機関にとって、どのように収益力を強化していくかが大きな課題であり、どの分野に比較優位性を見出し、どの分野に資源を集中的に投下していくか、そして経営の効率化を図っていくか、ということが経営上の課題といえよう。その際、自分の足らざるところをどのように補完していくか、求めていくかということも、経営戦略上の有力な選択肢の一つとなろう。 このように各金融機関が収益力強化に向けて、いろいろと経営戦略を展開していく中で、今後とも結果としてこのような金融再編の動きがまだまだ出てくるのではないかと思う。

(問)
 第一勧業銀行の頭取として、住友・さくらグループのライバル行としての感想をお聞きしたい。
(答)
 3行の事業統合の準備を進めている当事者として申しあげれば、大変強力なライバルの出現と思っており、我々としても一層緊張感を持って、事業統合を進めていくことができると思う。また、今後は切磋琢磨して、それぞれ、より良い金融サービスをお客さまに提供していく努力が必要と思っている。

(問)
 与党の中からデノミ論議がまた起きている。ただ、デノミを実施する場合、金融機関にとってはシステムの変更やATMの改造等かなりコスト負担も大きくなると思うが、どう考えるか。
(答)
 個人的な見解として申しあげる。 円の国際化を進め、円をドルやユーロに対抗できる基軸通貨とするという観点から、このようなデノミの論議がなされているものと思う。 実施にあたっては、金融機関のこともさる事ながら、国民経済全体のコストの負担をどうするかということもあり、現状あえてデノミを実施しなければならないかどうかについては、更なる慎重な議論が必要ではなかろうかと思っている。

(問)
 本日の金融審議会総会でペイオフ解禁に関する基本的な考え方というか、中間報告的なものが発表された。現在、議論の焦点となっていることは1つはペイオフの延期論、もう1つは決済性預金の保護であろうが、この2点についてどのようにお考えか。
(答)
 本日の金融審議会総会で「特例措置終了後の預金保険制度等に関する基本的考え方」が公表されたが、まだ私としては詳細を検討していないので、それを前提に申しあげる。 2001年4月からのペイオフ解禁は、政府が96年の預金保険法改正の際に公式に示した既定方針であり、その背景には、ペイオフ凍結自体が例外的・臨時的な措置であり、本来金融機関や預金者は自己責任原則に則って市場規律のもとに行動することが必要であり、また、それが金融システム安定化には不可欠であるとの考え方、判断があるものと認識している。 私どもとしては、こうしたペイオフ解禁に備え、自らの財務基盤・体質を強化して、金融ビックバンを乗り切っていくという経営努力が必要であると考えている。 次に、ペイオフ解禁後の平時におけるわが国の金融システムの在り方を考える場合には、モラルハザードをできるだけ最小限に抑えることが望ましく、また、恒久的制度を考える際には、基本的には「小さな制度」を目指すべきであると考えている。 そこで、決済性預金の保護についてであるが、金融機関の破綻処理を進める際に、預金者の流動性を最大限確保し、資金決済や資金仲介など金融機能の継続性・連続性に支障をきたさないようにすることは大変重要なことである。 こういった意味で、例えば、米国におけるP&Aのような方式により破綻処理が迅速かつスムーズに行われれば、預金が全額は保護されない可能性は残るものの、決済機能の連続性は一義的には確保されるのではないかと考える。 その上でなお、「決済性預金を全額保護すべきである」ということであれば、負担の増大やモラルハザードの増大につながることからも、元来少額預金者の保護を目的とする預金保険制度とは別の制度的な工夫が必要ではないか、その場合は誰がコストを負担するのかという点を含めて議論が更に必要になる。 また、「決済性預金に優先権を与え、他の債権に優先して弁済を受けられるようにしてはどうか」との意見も出ているようであるが、これは只今申しあげたような意味で預金保険制度とは別の制度的な工夫の一つ、あるいは選択肢の一つとして、よく検討してみる必要があるのではないかと思う。 ただ、決済性預金に優先権を付与するということにより、非決済性預金から決済性預金への資金シフトが加速されるのではないか、更には金融機関の調達が安定性を損なうのではないかといった論点があることについては留意する必要があると思う。 このあたりの問題については、今後金融審議会等の場で更に議論されるものと思う。

(問)
 金融審議会第二部会の議論では、付保対象商品について主に3つの論点があがっており、1つは公金預金、それと金融債、最後に利子についてどうするかということが論点かと思うが、これらについてはどのようにお考えか。
(答)
 公金預金について、保護すべきであるという議論があることは承知している。しかし、その場合は、誰がそのコストを負担するのか、また、本来、少額預金者の預金を保護することが目的の預金保険制度の枠組みの中で、対応すべきであるかどうかという議論もある。 また、金融債については、転々流通する有価証券であり、誰が持ち主か、誰に所有権があるのかを特定できないという問題がある。ただし、個人の貯蓄手段として金融債を運用しており、例えば保護預りになっているとかで、個人を特定できるというものであれば保護すべきである、という意見もある。 利子については、郵便貯金とのイコールフッティングの観点から、保護すべきであるという議論があることも承知しているが、預金者と金融機関経営者双方のモラルハザードを招くという意見もある。 いずれの問題についても、更に金融審議会等の場で議論されるものと思う。

(問)
 預金者の預金については、全額は保護されないということで自己責任が厳しく求められている。これに対して、銀行については、例えば、名寄せのコストがかかりすぎるとか、預金のシフトが起こるのは困るとか、あるいは可変保険料率の導入による経営への影響など、此の期に及んで、という印象が否めないが、この点についてはどうお考えか。
(答)
 金融機関および預金者はともに本来、自己責任原則・市場規律の下で行動することが求められているということは先程申しあげたとおりである。特段、金融機関の責任が軽減されるとは考えていない。 金融機関としては、当然のことながら、ディスクロージャーを充実させることが必要であり、市場規律に則った行動をとることが前提であると考えている。

(問)
 11月の中間決算に向けての見通しを伺いたい。地価の下落等で不良債権が膨らんでいるのではないかとの話が出ているが、今回の中間決算について、現時点でどのような見通しをお持ちか。
(答)
 個別行として申しあげる。 私どもとしては11月19日に中間決算の発表をする予定である。現在、集計・精査中であり、その結果、当初発表させていただいている見通しを大幅に乖離する場合には、諸規則に則って、修正の報告をさせていただく。 地価の下落に関する不良債権の増大の問題については、確かに8年連続で基準地価は下落しているが、私どもとしては不動産については、適時評価を行い修正をしているし、今後の動向についても、それなりのものを見込んでいるので、地価の下落幅が直ちに不良債権あるいは損失処理額の増大につながるということにはならないと考えている。