2002年10月22日

寺西会長記者会見(UFJ銀行頭取)

鵜飼専務理事報告

 本日の理事会では、銀行持株会社会員として、本日付けで、三菱東京フィナンシャル・グループの加入を承認した。
 銀行持株会社会員は、昨年4月に規約改正を行って新しく設けた会員資格であり、今回が初めての加入となる。
 この結果、全銀協の会員数は、正会員が140、銀行持株会社会員が1、準会員が45となり、72の特別会員とあわせて、合計258会員となる。


会長記者会見の模様


(問)
 不良債権処理の加速について、金融庁のPTが本日、中間報告を出す予定である。議論の中味として資産査定の厳格化、税効果会計の見直し、自己資本の質といったものがあるが、会長の不良債権処理加速の考えについて伺いたい。
(答)
 不良債権処理促進のための方策については、現在、竹中大臣のPTを中心に検討がなされている最中であり、具体的にコメントできる段階にはない。なお、現下の厳しい経済状況から脱するためには、不良債権処理の促進とともに、経済・産業全体の活性化を同時並行で進めることが必要不可欠と考える。現在、政府内で総合的なデフレ対策についても検討されているところであり、今後、早急に具体化されることを期待したい。
 当然のことながら、我々としては、お取引先の再生支援や既存の不良債権のオフバランス化に注力し、引き続き問題の早期解決に努めてまいる所存である。
 公的資金に関して敢えて申しあげれば、各金融機関は、基本的に現行ルールに従い厳格な査定・引当を実施した上で、十分な自己資本を有しており、資本不足ゆえに金融仲介機能に支障が生じているという事実はないものと認識している。したがって、現時点で公的資金による資本充実が必要とは考えていない。


(問)
 今、オフバランス化の話にも触れられ、前回の会見でもRCCの活用について触れられたと思うが、信託協会会長も残存簿価という言葉でRCCの活用について提案された。この点について伺いたい。
(答)
 RCCについては、前回会見でも売却価格についてはお話し申し上げたが、本日はまず、その機能を活かした実際の事例についてご紹介したい。
 先般、RCCと当行で、ある企業グループの再生案件をまとめ、既に公表も済んでいるが、こうした成功案件からの教訓として、RCCが企業再生に大いに貢献できるとの感触を得た。
 案件を極めて単純化すると、銀行団の債権を、RCCへファンド形式で売却し、これを第三者の投資家が購入したというものであるが、RCCが果たした役割は次の四つである。(1)ファンドの組成、(2)債権者間の調整、(3)メインバンクとの協力による再建計画の策定・検証、(4)再建計画の監視機能、とりわけ、RCCの中立性・透明性を生かした調整機能面での貢献が大であり、再生スタートへの時間を大幅に短縮できたと言える。
 なお、本件における売却価格については、銀行からみて大いに満足のいくレベルとなっている。引当金の一部が戻ってくるほどの価格が実現できた背景としては、キャッシュフローを生み出し得る本業が特定できたこと、担保不動産の売却に相応の目処が立ったこと、そして、こうした再生プロセスを短時間に実現できたこと、があげられよう。
 私は、RCCへの売却価格につき「現行制度の枠組みの中で、企業の継続事業価値をベースとした弾力的なプライシングを期待したい」と申しあげたが、本件はまさしくその好事例といえる。すべての案件がこのように理想的な成果をもたらすとは限らないが、メインバンクとRCCが、それぞれの役割を的確に果たすことによって、継続事業価値を保存することは十分可能ではないかと考える。
 高橋会長のおっしゃっている残存簿価も現行法の中で時価に対する一つの考え方を示されたと理解している。


(問)
 中小企業向け貸出の問題だが、先日UFJグループ含めて金融庁から業務改善命令が出されたが、貸し渋りではないかとの声がある一方、日銀支店長会議ではそうでないという意見もある。実態がわかりにくいが中小企業向け貸出の現状はどうか。
(答)
 処分を受けたのは個別行であり、個別行として回答させていただく。
 UFJは、平成13年度の中小企業向け貸出の計画未達などを理由に、先週業務改善命令を受けたところである。このような処分に至ったことは極めて遺憾であり、真摯に受け止めなければならないと考えている。実績が目標を大きく下回ったことについて、私どもの努力が至らなかったものであり深く反省している。
 申しあげるまでもなく、不良債権の早期処理による財務健全化及び健全な中小企業向け貸出の増強による収益力の強化はともに追求すべき重要な経営課題であり、両者は矛盾するものではなく、同時に達成しなければならない経営課題だと考えている。
 ただし、いずれの課題も、銀行の経営努力と並んで、マクロ経済環境の好転、すなわちデフレからの脱却が前提条件となる。現在検討されている総合デフレ対策の早期実現を切に期待したい。


(問)
 ペイオフ延期の問題だが、地域金融機関の合併の気運が下がる懸念があるとの声も一部ではあるが、ペイオフ延期についての会長の見解を伺いたい。
(答)
 先般、政府よりペイオフの全面解禁の実施は平成17年4月からとする方針が示されたが、これは、現下の経済・金融情勢等を踏まえて総合的に判断されたものと考えている。
 ペイオフに関してはこれまでもいろいろな議論があったが、私どもとしては、今般の政府方針をあらためて重く受け止め、預金者、市場からの信頼を早期に回復すべく、不良債権問題の克服、財務体質の健全化等に努めてまいる所存である。


(問)
 日銀の株式買取の枠組みが決まったが、銀行界としてどう活用していく予定か。
(答)
 先般日銀から発表のあった基本要領をみるかぎり、格付条件や銘柄あたりの買入上限など一定の制約があるものの、実効性において特段問題のないスキームと考えている。本件については、銀行の短期集中売却によるマーケットへの混乱を避けるためのセーフティネットと理解しており、UFJ銀行としては、株式処分の選択肢の一つとして、どのように活用していくかを検討してまいりたい。


(問)
 本日竹中大臣のPTから発表される中間報告の中に、繰延税金資産の算入基準の見直しが盛込まれる見通しであるが、これについてのお考えをお聞きしたい。
(答)
 現段階では繰延税金資産の問題がどのように取り扱われるのか何も示されていないので、具体的なコメントは持ち合わせていない。一般論で申しあげると、現行の制度そのものに批判があることは我々も承知しているが、少なくとも現状では、わが国固有の事情も踏まえた正当に定めたルールであると認識しており、こうしたルールがある日突然、急激に変更されるということになると、銀行経営はもとより市場ならびに投資家に与える影響は小さくないと考える。急激な制度の見直しについては、慎重な検討が必要かと思う。


(問)
 竹中大臣の誕生以来、UFJ、みずほの株価が低迷しているが、どうしてだとお思いか。
(答)
 株のことはマーケットに聞くしかないが、個別行について申しあげると、株価が下落していることについては、非常に残念である。我々は経営改革に全力を挙げて取り組んできたつもりであるし、実際にいろいろな経営改革が進展しているという手応えを感じている。中間決算は現在取りまとめているところであり、詳細は申しあげられないが、マーケットに公約した、例えば貸出金利の引き上げについては、法人貸しで前期10bp程度の引き上げを実現してきており、またリストラについても計画どおりきっちりと進行している。加えて、非金利収入の増強といった観点からも、例えば法人の収益に占める非金利収入比率は99年度で 18%程度であったが、本年度上期には27%程度まで上がっている。さらに、力を入れている消費者金融の合弁会社についても黒字化達成が見込まれており、経営者としては、この6ヵ月間の経営改革について手応えを感じている。なかなかこうしたことが市場に認められないということについては、非常に残念に思っている。


(問)
 RCCの企業再生の考え方について、私は会長と考え方が違うのであるが、そもそもRCCに売却しなくとも再生できる案件については、自前で再生部隊を持っているわけであるから、そこでやれば良いのではないか。また、成功案件があったとのことであるが、おそらくそれはRCCなりUFJなりが相当な債権放棄をして債務がカットされたうえで再建の道筋がついたのだと思う。こうした債権放棄については、私的整理ガイドラインの適用はなされないため、モラルハザードが生じる惧れがあるのではないか。
(答)
 先ほどRCCの4つの機能について申しあげたが、我々が実際に活用してみて、そのなかでもっとも大きな機能であると感じたのは、「債権者間の調整」という機能である。RCCの持っている透明性、中立性といった特性から、利害関係の調整がうまく進み、すべての関係者が受け入れられるような再建計画になっていく。こうしたRCCの役割によって再建のスピードが上がることは、企業価値を保存していく観点から非常に意義が大きいのではないかと感じている。また、債権放棄の額が大きいのではないかというご指摘については、RCCにもご理解いただき、かつ投資家にも引き受けていただけるファンドとなったわけであり、我々としては非常に良いプライスで売却できたということである。さらに経営者のモラルハザードという点については、確かに私的整理ガイドラインは使ってはいないが、その精神は常に踏まえて対応しており、一定の歯止めになっている。


(問)
 さきほど会長が繰延税金資産などをある日突然変更されたら、混乱、影響が大きいと述べられたが、一般論として、繰延税金資産の期間を短くされたり、査定の方法をある日突然変えられたら、銀行はどうなるのか、大丈夫なのか。
 また、実際に、ある日突然制度を変えようとしている金融庁に対してどう思われるか。混乱するではないかということを主張するつもりはないか。
(答)
 繰延税金資産の取扱いについては、現行のルールにおいては5年分の算入が認められているが、どういう形に変更されるのか、どこまで繰延税金資産を認めるのか、具体的内容が分からない以上、仮定の上の議論は難しいと考える。どのように変更されるかにより財務への影響も異なるし、各行の財務状況も異なるので一概には言えないであろう。
 ただ、我々が申しあげたいのは、我々は一定のルールの中で経営しているということである。例えば、手を使ってはいけないというルールでサッカーをやっている中で、突然、アメフトのルールに従うべきだということになると、企業を継続的に経営している者としては、非常に困惑するところである。
 金融庁からはまだ何も聞いていない中で、今このタイミングで意見を申しあげるのは適切さを欠くのではないかと思う。


(問)
 繰延税金資産のルール変更についてお伺いしたい。変更の程度にもよるかと思うが、いきなりがまずいということであれば、どのくらいの猶予期間を置けば銀行界としては望ましいと考えるのか。
(答)
 繰延税金資産等の会計上のルール変更が行われた場合、どこまで準備をすれば足りるのかということについては、答を持ち合わせていない。仮に発表されることになれば、その内容を見て、我々としても、そもそもそれが適当なのかどうか、妥当性があるものかどうか、ということも含めて議論していきたい。


(問)
 RCCの買取の話があったが、この件に関して一つの問題となるのが、担保不動産の買取価格だと思う。現在、査定では、おおよそ路線価の7割ぐらいで査定されていて、RCCが買うとガクッと落ち込んでしまう。先ほど言及された成功事例の場合、担保不動産はどのくらいに評価されて成功したのか。どのくらいで買ってもらえば、銀行界としては満足なのか。
(答)
 細かい数字を持ち合わせていないが、RCCの場合、担保評価とキャッシュフローを総合勘案することになっていると認識しており、先ほどの例の場合、我々の引当金控除後の価格を上回ったということである。担保価格で何%、キャッシュフローで何%という割合については、私は聞き及んでいない。


(問)
 中小企業融資の件についてお伺いしたい。政治的な背景もあり、経営健全化計画の中で中小企業融資の義務付けがあるが、そもそもこういった制約はやめてほしいという意見を出すつもりはないか。
(答)
 中小企業融資についての考え方は、先ほど申しあげたとおりであり、我々は、貸出を主食、つまり、経営していく上で不可欠なものと認識している。我々が貸出を疎かにするということはあり得ない。全力をあげて中小企業融資の強化を進めていく所存である。さらに、このような時代にあって、我々は、やはりリスクを取っていかなければならないと考える。きちんとリスクを取れるような体制、考え方を行内に広めていきたい。


(問)
 日銀による株の買取が始まるわけであるが、民間で立ち上げた銀行株式取得機構の使い勝手の悪さを改良していくというような検討に入る予定はないのか。
(答)
 会員の中にも、使い勝手が悪いという意見もあるということは聞いている。もし会員のニーズが強ければ、どういう改革ができるかということも併せて考えていきたい。民間主導の取得機構、日銀という二つのセーフティネットが存在することとなるが、その中で、例えば、株式取得機構では、8%の拠出金が必要、日銀は不要といった違いがある。一方、取得機構へ持ち込んだ株については、将来の値上がりの一部について銀行が権利を有することができるという面はある。さらには、買取対象の銘柄を見た場合、取得機構の方が対象が広いという印象を受けており、各々の特色、メリットを勘案し、両者を使い分けていくことになるのではないかと考えている。


(問)
 繰延税金資産について、アメリカなどから現行のルールでは、銀行の自己資本が嵩上げされているのではないか、という批判があるわけだが、その批判に対する会長のお考えを伺いたい。
(答)
 まず、自己資本比率規制上の繰延税金資産の取扱いといった問題についてもう少し述べてみると、バーゼル合意でも特段の記述がされているというわけではない。基本的には会計上の取扱いとBISの計算上の取扱いを一致させるということが暗黙の了解になっているということであり、米国以外の国においても日本と同様の適用がなされていると理解している。米国においてなぜ保守的な取扱いがされているのかということは私もよく存じ上げないが、税務事情が全く異なるわが国において、米国ルールを一律そのまま適用すると言うことは、保守性が高くなりすぎるのではないかと感じている。その結果、銀行の信用創造機能にも影響が及び、全体として社会的コストが発生する可能性もあり得ると感じている。長年にわたって運用されているルールを大きく変更するということについては、極めて慎重に検討すべきだろうと思っている。


(問)
 先日、金融庁のPTに招かれて意見を聞かれたというように伺っているが、実際にどういった話があったのか。
(答)
 10月15日にPTのヒアリングがあり、全銀協を代表して私、地銀協を代表して平澤会長、信用金庫を代表して長野会長の3人が出て意見陳述を行った。私からは大臣が掲げられている3原則について、我々の考え方や取組みについて意見を申しあげた。細かな内容については、対外秘ということになっているので、ご容赦をいただきたい。


(問)
 頭取の受けた印象として、かなり厳しく追及されたという感じであったか。
(答)
 それも含めてご容赦いただきたい。


(問)
 個別行の話であるが、経営再建中のダイエーについて、先般、企業再建ファンド等で国の支援がつき、再建のめどがたったというように市場では受け止められているが、主力行としてどう受け止めているか。
 また、新生銀行が支払いの肩代わりを求めている件で大筋合意しているというように伺っているが、支払いのめど等がついたのであれば教えていただきたい。
(答)
 ダイエーについては、新3ヵ年計画を、この春先にスタートさせた。金融支援が8月に完了したことに加え、今般、企業再建ファンドが立ち上がったということである。政策投資銀行が、非常にきっちりと、あらゆる角度から検討されて、独自の判断でファンドに参加されたということで、ダイエーの新3ヵ年計画の客観性や透明性が非常に高まったと思っている。支援の枠組みは整ったと感じており、これからが新生ダイエーのスタートだと思っている。
 二つ目の新生銀行の問題については、関係者の間でほぼ合意は得られたと聞いているが、現在、詳細を詰めているところであり、個別企業の問題でもあるので、ご容赦いただきたいと思う。


(問)
 PTでもう一つ議論になっているといわれるディスカウント・キャッシュ・フローについて、会長はどのような考えを持っているか。
 また、個別行の問題になるが、今朝の報道で大日本土木に対して日本舗道が経営支援するという報道があり、その日本舗道側はメインバンクであるUFJ側のさらなる支援が条件だというように言っているが、この点についてはどうか。
(答)
 ディスカウント・キャッシュ・フロー方式については、まず、米国で一般的に採用されていると認識している。また現在わが国の会計実務指針においても認められていること、実際に導入している例もあるということも認識しているところである。ただ、具体的な手法については様々な形があり、私どもとしては、算定方法、その他有効性について研究しているところであり、今後の課題の一つであると受け止めている。なお、米国との間では金融慣行が違うということも頭に入れておかなければならないと考える。米国ではプロジェクトファイナンス形式の融資形態が一般的であるが日本ではそうではないし、日本では信用度に応じた貸出金利の設定は緒についたばかりである。また、有利子負債比率や間接金融の比率が非常に高いという日本独特の金融慣行も存在する。こうした点を踏まえると、米国流を即時にかつ強制的に適用することは、適当ではないと思っている。わが国の独特の事情も十分に勘案して、検討する必要があると考えている。
 大日本土木については、我々は主力行として支援してきており、その再建計画についても検討を進めてきたわけであるが、報道が事実で、再建計画を支えるスポンサーが現れたということであれば、非常に望ましいことだと思う。具体的な要請はまだ受け取っていないが、今後、どういう形で我々が協力できるか、真摯に検討していきたいと思う。