2015年7月16日

佐藤会長記者会見(みずほフィナンシャルグループ執行役社長)

髙木専務理事報告

 事務局から1点ご報告する。
 本日の理事会において、お手許の資料のとおり、平成28年度税制改正の要望書を取りまとめた。今後、関係先に対し要望書を提出し、要望の実現に向けて働きかけてまいりたい。なお、本件に関する内容については、会見終了後、事務局にご照会いただきたい。
 事務局からの報告は、以上である。

 

会長記者会見の模様

(問)
 このところ、ギリシャの債務問題や中国の株式市場の問題で、マーケットの値動きが激しくなっている。特に中国については、特殊な株式市場の問題として捉えるという見方もあるが、一方で、中国当局に対する不信感が国民の間に募っている、実体経済の景気後退の始まりを表している、といった見方もある。こうした国際情勢の今後の金融市場への影響や中国経済の見通しについて、先行きの見方も含めて教えていただきたい。
(答)
 ご指摘いただいたとおり、ギリシャを中心とするヨーロッパの状況、あるいは中国の問題というのが、従来よりもかなり市場の注目を集めている。一週間ほど前にヨーロッパを回ってきたが、私の印象としては、ヨーロッパの投資家あるいは金融機関の関係者の間では、ギリシャの問題にも増して、中国の問題に対する懸念が強く出ていたと思う。
 ギリシャに関しては、12日のユーロ圏緊急首脳会合において、総額820~860億ユーロのいわゆる第3次支援が合意に至ったことで、まずは山場を越えつつあると思う。ただ、これでギリシャの債務問題が解決に向かうかというと、それほど単純ではないと思う。今回の合意内容は、ギリシャにとってかなり厳しいものになっている。支援条件となっている付加価値税改革や包括的な年金改革の一部先行実施などについては、すでにギリシャ議会では可決されたようであるが、多くの与党議員が反対しているのが実態であり、今後、数年かけての作業の中で安定的にそれが実行されていくかは、まだまだ予断を許さない。場合によっては、ギリシャの政局不安につながっていくリスクも理論的には十分あり得ると思う。また、今回の第3次支援策が実行されるまでのつなぎ融資については、具体策は未だ決まっていないという状況だと思う。
 支援プロセスがもしも途中で頓挫するようなことがあった場合、ギリシャのユーロ圏またはEUからの離脱が現実化してくる可能性もあり、ギリシャの問題は経済問題というよりはむしろ政治問題としての色が濃いということが、ヨーロッパの実業界の見方でもあった。ギリシャの経済そのものはEUの中でも2%程度と規模は小さいが、ギリシャが仮にEUから離脱するようなことになれば、EUという枠組みそのものに影響を与えるのではないかという懸念が、特にヨーロッパでは強かったという印象である。年末に選挙を控えているスペインではEUに懐疑的な左派政党が台頭しており、英国でもEU離脱の是非を問う国民投票が早ければ来年にも実施されるという見込みである。ギリシャの問題によって、EU統合プロセスそのものが後戻りするような事態となれば、EUの枠組み全体の問題となっていくリスクもあることから、そうした観点も踏まえて、状況を注視していく必要があるだろう。
 一方、中国の動向については、日本経済への影響を考えるうえでは、ギリシャ以上に注意が必要であると思う。現在、中国経済は減速圧力にさらされており、昨日発表された4~6月期の実質GDP成長率は前年比+7.0%と、1~3月期と同水準にとどまったが、4~6月期も投資の減速傾向が続いている。投資の伸びが鈍化している背景には、製造業セクターの過剰生産能力や、不動産セクターの過剰住宅在庫など、資本ストックの調整圧力にさらされている状況があるのだろうと思う。
 中国には、三つの構造問題があると考えている。第1に大きな意味での過剰生産能力の問題、第2に生産年齢人口の減少の問題、第3に環境問題であり、こうした中国経済を巡る基本的な構造問題がいよいよ表に出てくるタイミングになってきているのかもしれない。
 中国政府は、こういった問題を十分に認識しており、今年の全人代では、「ニューノーマル(新常態)」という考え方を提示している。3月に行われたチャイナデベロップメントフォーラムという李克強首相が主宰するフォーラムで、ニューノーマルの目的を聞いてきたが、その含蓄は大きくいうと三つあるのではないかと思う。第1に、これまでは輸出あるいは投資中心であった中国の経済構造を国内消費中心に変えていこうということ、第2に、今まで以上にイノベーションに力を入れて中国が発信源となる新しい技術といったものを何としても作りあげていくこと、特にこの問題は、中所得国の罠を逃れるためには、自国のイノベーションが必要だということ、第3に、環境問題がまったなしになっていることである。
 この三つの問題を解決するために、中国政府はニューノーマルという考え方を提示したが、昨年の暮れからの景気減速を受けて、4回にわたって金利の引下げを行っている。また、金融政策だけでなく、再び財政を使った社会インフラへの投資を中心とした景気の持上げに舵を切っている。このようにニューノーマルで目指した中国の経済構造の転換に逆行しているとも受け止められうる動きを足もとでみせているということは、それだけ経済の減速という問題に対して、中国政府がシリアスに考えているということだろうと思う。
 今後、このニューノーマルで目指した方向感を引続き中国政府が維持していくのか、あるいは経済の減速を受けて、とりあえず改革の速度を落としても経済成長のほうを重視するのか、という二つの問題のバランスをどうとっていくのかという、ある意味では非常にセンシティブな状況にあるのではないかと感じている。
 中国の株式市場については、上海総合株価指数が6月12日の5,166をピークに急落し、今月8日には3,507と、1カ月足らずで32%も下落している。同株価指数は、昨年後半から今年6月にかけて約2.5倍になるなど、経済のファンダメンタルズからかなり乖離していたのだったと思う。
 中国の株式市場は、株の売買において大半を個人が占めているという、先進国の株式マーケットとはかなり違う構造を持っており、それが株価の上昇・下落というボラティリティが非常に高くなるという問題に繋がっているのだろうと思う。6月半ば以降、それが株価急落という形で出てきたわけだが、中国政府が矢継ぎ早に株価の下支え対策を打ったことで、その効果が少なくとも足元では出ているということだと思う。ただ、一時全銘柄の半数が取引停止になるなど、政策的な力で市場がコントロールされている面も明らかになってきているため、今後の展開を注視する必要があろう。自力で底を打っているのかという点については、違う見方もあると思う。
 今回の財政出動や株価対策を見ると、中国経済の構造転換、あるいは将来の成長に向けた様々な課題の解決というのが未だ道半ばであると感じられる。中国政府は、課題を非常にはっきりと認識していると思うので、ある程度の時間をかけながら、世界経済に対する影響も見つつ、この難しい課題をうまく乗り越えていくであろう。そうした展開を、われわれ日本の金融機関としても、日本全体としても期待しつつ、何かできることがあればサポートしていくということがますます大事になっていくと感じている。


(問)
 7月1日に発表された日銀短観やさくらレポートでもかなり印象的に出ているが、最近日本経済のなかでインバウンドの消費の存在感が非常に高まっている。そのポテンシャルや日本経済へのインパクト、今後の課題や見通しについて、金融業界としてどのように見ているかご見解を伺いたい。
(答)
 本日、ある百貨店グループの社長とお話しする機会があったが、インバウンドの購買力は相当強く、特に高級品ではその傾向が顕著という話を聞いた。
 2014年の訪日外国人数は、前年比約30%増の1,341万人に達したが、今年に入ってからも1~5月の訪日外国人数は前年比約45%増とさらに増勢が強まっている。特に、中国からの訪問客数は2015年1~5月の累計で前年比約106%増と倍増しており、非常に強いトレンドを示している。
 政府は2020年に訪日外国人数2,000万人の達成を目標に掲げているが、この勢いが続けば来年早々にも達成する可能性がある。背景には、円安に加え、政府の国際観光推進政策、具体的には東南アジア諸国や中国向けのビザの発給要件の緩和、羽田・成田の国際線発着枠の拡大、免税対象品目の拡大などが非常に功を奏していることがあると思う。地方の空港に行くと、外国人観光客の数が非常に目立ち、特に免税店では長蛇の列になっているなど、非常に強い需要がある。政府は2014年度補正予算と2015年度当初予算で、訪日旅行促進を目的とするビジット・ジャパン事業の重点市場を従来の14カ国・地域から20カ国・地域に拡大するなど、訪日プロモーションを一段と強化していく方針であり、さらなる拡大も期待されている。
 訪日外国人の増加によって、国内市場におけるインバウンド消費の存在感は急速に高まっており、2015年の1~3月期のインバウンド消費額は年換算で2.4兆円と、1年前に比べて約1兆円増加している。俗に「爆買い」と言われる中国人観光客の購買意欲はほかの外国人よりもかなり強く、観光庁の調べでは、訪日客の日本滞在中の一人当たり消費額は約17万円だが、中国人は30万円と突出して高額である。2014年中の訪日中国人数は241万人であったので、単純計算では中国人観光客は2014年に7,230億円の経済効果を日本にもたらしたことになるが、これは日本人約30万人の年間消費額に匹敵する大きさである。日本では2014年に約30万人の人口が減っているため、その減少分を中国人観光客がちょうど埋め合わせた形となった。今後もインバウンド消費の拡大は、特に人口減少が激しい地方経済にとって非常に大きなプラス要因になるだろう。
 ただ、訪日外国人の国内訪問先は、引き続き東京や京都、大阪、福岡といったいわゆる「ゴールデンルート」に集中している。訪日外国人がリピーターとして地方も含めて幅広く日本を訪れていただけるよう政府や民間が努力を続けていけば、地方創生という意味においても非常に大きな効果をもたらすと思う。
 ただし一方で、訪日外国人数が増えてくると、例えばホテルのキャパシティといったインフラの問題の解決や外国人観光客に対する情報サービスの提供など、観光地側での受入れ体制の整備も必要となってこよう。また、例えば為替の変動や自然災害など不測の事態によってインバウンド観光客が急減するといったリスクも考えられるため、インバウンドの需要を確実に取り込むためには、インフラやリスク管理などの面で追加的な政策を継続的に立案・実行していくことが重要と考える。


(問)
 本日、経済産業省が2030年の電源構成の案を正式決定する予定である。すでに公表されている案では、原発の比率が20~22%となり、先般の事故の前よりは原発を減らして再生可能エネルギーを増やす一方、事故はあったけれども原発は将来も使い続けるという姿勢を政府が示している。
 この内容について経済界の一員としてどのような見解をもっているか。
(答)
 エネルギー政策については全銀協会長としてコメントする立場にはないので、一般論として回答する。
 エネルギーミックス(電源構成)は、いわば日本経済の生命線ともいうべき重要なテーマだと考えている。東日本大震災が発生して以来、我が国のエネルギー環境は大きく変化したが、将来のエネルギーミックスをどう展望するかについて、今まで提示できていなかった。それが今回、経済産業省の調査会における議論を経て、新たなエネルギーミックスについての案が策定されたものと認識している。
 エネルギーについては、安全性(Safety)の確保を大前提として、安定供給(Energy Security)、経済性(Economy)、環境保全(Environmental Conservation)という、いわゆる「3E+S」が適切に充足されるということが重要であるが、今回の案の策定プロセスでは、そうした観点も含めて、現実的でバランスのとれた議論が行われたものと認識している。
 例えば、震災後には40%くらいまで下がっていたベースロード電源比率を60%におくという考え方についてであるが、これは、特にエネルギーに高く依存している日本経済・産業の一種の弱みというものをしっかりと認識したうえで、家庭も含めた電力料金のあるべき姿も展望したしっかりした議論が行われたのではないかと理解している。
 また、電源構成の内訳において、再生可能エネルギーの構成比が22~24%ということについては、温暖化の問題等も含めた配慮がなされていると思う。ただし、日本では、再生可能エネルギーの中でも突出して太陽光エネルギーに依存しており、これは今後大きな課題になってくるであろう。またエネルギー全体で考えても、国際的な水準から比べれば自給率の低さや電力コストの高さといった問題も残っている。今般のエネルギーミックスの基本方針の考え方をさらに推し進めながら、日本経済の成長をより強力に支えるようなエネルギーミックスの形になっていくことが強く望まれるのではないかと思う。


(問)
 ゆうちょ銀行の預入限度額引上げに関して質問したい。会長は、先月の記者会見でも、強い反対の意を表明しており、6月末には、全銀協を含む民間金融機関8団体が共同声明を出している。一方で、全銀協の会員銀行には、持株会社傘下に日本郵政の上場の主幹事となる証券会社があるほか、ゆうちょ銀行と共同で資産運用会社を設立するといった動きも一部で報じられている。外部からみると整合性という面でやや分かりにくさがあるように感じており、所見を伺いたい。
(答)
 ご承知のとおり、7月9日に、麻生金融担当大臣と高市総務大臣から郵政民営化委員会に対して調査審議の要請があった。要請では「株式上場により、新たな株主の登場と、経営に対する市場規律の浸透を通じて、郵政民営化は新たな局面を迎えることとなる。日本郵政グループの企業価値向上を通じて上場の成功を確実なものとしていくことが重要であり、今後の郵政民営化の推進の在り方について幅広く検討し、新たな行政運営に活かしていくことが必要と考えられる。」とし、そのうえで、「今後の郵政民営化の推進の在り方について改めて調査審議を行うこと。」とされている。
 ゆうちょ銀行については、規模の肥大化をはじめとして、これまで我々が申しあげてきた民営化推進に関するさまざまな課題がある一方、日本郵政株式の売却代金は震災復興資金として財政的にも期待されていることから、その上場は成功させなければならない。これは日本経済にとっても、我々金融界にとっても非常に重要な課題である。そういう観点では、金融界は、ご指摘にあった「日本郵政グループの上場」あるいは「ゆうちょ銀行の成長戦略」に対してできる限りサポートしていくという立場にある。では、ゆうちょ銀行がどういう金融グループ、金融機関になっていくのかということについては、いくつかの議論がある。基本的には広い意味における機関投資家として、日本経済の中で貢献していくということが、すでにコンセンサスを得ている方向感であろうと思う。
 ゆうちょ銀行と民間金融機関との関係について申しあげれば、本来的にはゆうちょ銀行自身の成長戦略やその着実な実行に対して、民間金融機関としても十分連携・協調していけると思う。特に地域金融機関との関係では、郵便局との代理店契約の締結や、ATM提携の拡充などが考えられる。また、地方創生ファンドの共同組成や共同での資産運用会社の設立など、ゆうちょ銀行と民間金融機関が持つそれぞれの機能や経営基盤を活用して、連携・協調し成長していくというストーリーが十分に描ける。そういう方向に向かって議論が進んでいくことがゆうちょ銀行の上場を成功させ、また、民間金融機関との協調関係のもとで双方が成長していくという方向に繋がることとなる。
 最後に若干付言すると、預入限度額の引上げは、郵政民営化に対する私どもの基本的な考え方に反するということはもちろん、上場の成功のための取組みにも逆行するほか、地方創生のために地域金融機関と協働していく可能性をつぶしてしまうという観点からも賛成できない。
 私どもの立場は以上のとおりであり、上場の成功のために協力するということと、預入限度額の引上げに反対するということとは矛盾することではない。


(問)
 2点お伺いしたい。
 一つ目は、先ほど中国経済と中国の株式の話があったが、一方で、インバウンドについては中国人の爆買いへの期待感の大きさもあるというなかで、今後、中国経済の減速、これが構造的なものであるとしたら、日本経済にどういった影響が及んでくるのか、このあたりのリスクについて会長はどのようにお考えか。
 二つ目は金融業界の話とは関係ないが、現在、東芝の不適切な会計の問題が非常に広がりをみせており、組織的な関与があったのではないかなどということも報道されている。金融業界のトップとして、もしくは民間企業のトップとして、この問題をどのように受け止めているのかということと、本当の意味での再発防止に向けて何が必要なのかということをお聞きしたい。
(答)
 中国経済の減速というリスクシナリオに対する日本経済の対応可能性というご質問であるが、日本企業は中国で相当なオペレーションを行っており、万が一中国経済がかなりの混乱をきたすことになると、金融機関だけでなく、日本経済の様々な分野の産業がその影響を受けるということになると思う。したがって、中国経済がクラッシュを起こすということは絶対に避けなければいけない。その蓋然性が高いか低いかということについては、様々な考え方があると思うが、中国政府の課題認識はできており、対応策についてもしっかりと分かっていると思う。ただ、経済の動きのスピードに合わせて、最適な形で政策出動ができるかということになると、実体経済の動きというのは予測を超える場合がある。クラッシュを起こさないと100%保証されるわけではないものの、中国政府は要因分析と対応案の整備について十分に対応する能力を持っていると思う。したがって、日本、あるいは日本企業としてやるべきことは、クラッシュを起こさないように何ができるかということを考えていくということだと思う。
 例えば環境問題などは典型であり、これは中国の持続的な成長などの問題と絡んでくる。日中関係がさらに良化していけば、例えば、石炭火力などについては、日本のメーカーはCO2の排出量を削減する世界トップの技術を持っているので、こうした技術を積極的に提供していくことで、先に申しあげた三つの構造問題の一つである環境問題に有効な手段を打つことが可能である。
 また、同じく構造問題の一つである生産年齢人口の減少や急速な高齢化についても日本は課題先進国であり、年金のあり方、健康保険のあり方をはじめ、我々自身が直面している課題や、それに対するソリューションを中国政府と一緒に考えていくことによって、ポジティブに解決していく方向に行くことができるだろう。
 過剰設備の問題についても、日本でも過去に問題となった石油関係の過剰設備の償却などについて、中国政府は日本がどのようにして問題を解決したのかを非常によく勉強しており、どういう法律が適用され何が行われたのかをよく知っている。日本の経験を中国政府にさらに伝えることによって、中国政府の取組みを助けることができるだろうと思うし、我々の最も大切な隣国の一つである中国がクラッシュを起こさない方向に持っていく、それが今、日本、あるいは日本の企業がやるべきことだろうと思う。
 東芝の話は個別の企業の話であり、何が実態だったのかということを知っている立場にない。したがって今のご質問には、お答えする事実関係を持っていない。
 ガバナンスということで申しあげれば、形式面では東芝は指名委員会等設置会社であり、例えば私どもみずほフィナンシャルグループも指名委員会等設置会社であるので、全く同じといえる。そのなかでどういう議論が行われていたのか、そういった事実関係が第三者委員会の報告書でレポートされると思うが、それによって問題の所在が明らかになってくるのではないか。そのうえで初めて、どう対応すべきか、ということが見えてくるであろう。


(問)
 冒頭にもご説明いただいた中国株のボラティリティの問題について、今回の中国政府の露骨な株式市場への介入に対し、国際的なマーケット関係者からは中国の進める金融市場の自由化に逆行する動きではないかという批判も高まっている。
 そうした中、人民元の国際化やSDR入りに対する批判的な声も出てきているが、これまでもみずほを含めたメガバンク各行は中国の金融ビジネスにかなり力を入れて取り組んできたと思うが、このまま突き進んでいいのかご見解を教えていただきたい。
(答)
 ご指摘いただいたように、日本の金融機関、特に3メガは中国でオペレーションを拡大してきており、みずほでいえば17拠点を持っている。その結果、右肩上がりで業績も拡大している。この背景には日本企業の中国進出への対応に加え、中資系の大企業との取引拡大もある。したがって、中国経済が安定的、持続的に発展していくことが我々にとって大切である。
 今回の株価の下落に対する中国政府の対応は、ご指摘いただいたように自由な市場を作るという観点からは逆行する動きに見える可能性はあるが、これはあくまで一時的な市場の下落に対する対応であると認識している。
 自由化に向けた基本的な方向感、例えば人民元の国際化について申しあげれば、中央銀行はすでに金利自由化の方針を発表しており、それに伴いセーフティーネットとしての預金保険制度も整備している。残っている最大の問題は資本取引の自由化であるが、これは少し時間をかけてやらなければ国内経済に大きな影響を与えるということを中国政府は十分理解しているものと考えている。資本取引の自由化についても、具体的なスケジュールを立てて徐々に進めていこうとしており、自由貿易試験区もその一つのステップである。それらを踏まえると、着実に人民元の国際化は進んでいると考えている。
 SDRに入れるかどうかということについて言えば、中国政府側もまだ克服すべき課題もあると認識しているのではないか。
 今回の株式市場への介入については、自由化に向けた流れを大きく後退させることにはならないと考えている。ただし、今回の対応が世界の投資家あるいは関係者に結局中国はイレギュラーな対応をしてくるという印象を与えてしまったのだとすれば、それは決して良いことではないかもしれない。したがって、これからの対応がどうなるかということを注意深く見ていく必要があろうと考えている。中国は中長期的な戦略を持っているため、自由化の流れが途絶えた、あるいは逆行したという印象を与える対策をこれからもずっと打ち続けることのデメリットについてはよく理解しており、したがってその可能性は小さいと私は考えている。そのため、大きな意味では人民元の国際化という流れは変わらないし、中国政府も変えようとはしないだろうと理解している。


(問)
 業績について伺いたい。
 第1四半期が6月末に締められて、個別の決算は今月末に発表されると思うが、全体感として第1四半期の経営環境に対する所見、第2四半期以降の見通し、そして、何か課題があれば教えてほしい。
(答)
 決算が出揃っているわけではないが、国内経済のマクロ的な動きに沿った状況になっているのではないかと思う。一つは、設備投資がかなり右肩上がりになってきており、貸出残高は引き続き伸びている。全銀協の統計によると、6月まで前年同月比46カ月間連続で増加しているなど、貸出の趨勢は強いと思う。一方、ずっと以前からの国内貸出スプレッドの縮小傾向は続いている。貸出残高の増加を貸出スプレッドの縮小が打ち消しており、国内銀行の貸出ビジネスの環境は目立って改善しているわけではないと考えている。
 一方で、海外について申しあげると、景気はヨーロッパでの若干の足踏みや中国経済の減速がある一方、アメリカは非常に好調で、そこでは貸出だけではなく付随ビジネスを含めて非常に強い。中国以外のアジア諸国も一時は随分落ち込んだものの、基本的には強いアメリカ経済に引っ張られる形で回復基調にある。なお、みずほ銀行について申しあげると、海外においては金融ビジネス全般において引き続き強いトレンドを示しており、これが今期の収益を牽引すると思う。
 市場部門については、為替や金利など市場の乱高下が非常に激しく、昨年度に比べると基本的には市場収益を上げることは易しい状況ではない。まだ3ヶ月間が経過しただけなので何とも言えないが、元々3メガとも去年に比べると保守的な目標を設定しており、実際に予想どおりの環境になっていると個人的に認識している。
 四半期決算が出揃ってくるのは7月末頃からだと思うが、総じて申しあげると、国内の貸出については、それなりに残高は伸びているものの、収益は決して大きく伸びていない。したがって、環境は目立って改善していないけれども、特に悪くなっているということもないと見ている。一方で、海外は引き続き伸びているであろう。そして、市場収益が去年に比べれば少し低い、という感じで第1四半期の収益ができあがっているのではないか。
 第2四半期以降について申しあげると、日本経済の回復トレンドは第2四半期および第3四半期と続いていくと思っている。貸出スプレッドの低下が底打ちして右肩に上がるというほど楽観的には考えていないが、貸出の増勢は続くと見ており、基本的にはこの勢いを年末に向けて維持することはおそらく可能であろう。海外は中国あるいはヨーロッパの環境をかなり注視していく必要がある。さらに、もう一つの不確定要素はアメリカの金利引上げがいつ、どの程度行われるのか、ということである。25bpsくらいの引上げであれば年内であっても十分対応可能であると思うが、その時のFRBのアナウンスメント次第では日本の金利もかなり動くので、今年後半にかけて金利のボラティリティは高まる可能性があると思う。その際、市場ビジネスにおいて、どのようにしてチャンスを掴み、またはリスクを軽減するか、ということが問われる環境になると思う。


(問)
 経済の話と少しずれるが、本日衆議院の本会議で安保関連法案が可決された。内容として集団的自衛権が行使できるということで、野党や国民からも反対の意見が出ているなかで、与党が強行したということであるが、こうした動きについて佐藤会長としてどのように見ておられるか見解を聞かせていただきたい。
(答)
 それは、全銀協会長として答えるご質問ではなく、個人的な政治信条について答える場所でもないので、コメントは差し控えさせていただく。


(問)
 政策保有株がらみの質問であるが、ガバナンス・コードに伴い各銀行が持合い株の削減に努めている。御行は、株式保有の合理性を説明できないものは保有しないとのスタンスを公表されているが、例えば、東芝のように長期にわたり不適切な会計処理やガバナンスの問題が発覚した企業については、保有する合理性は見出せるのか。
 一般論で結構なので、持合い株の保有の合理性をどのようにジャッジするのか、何らかの問題が発覚した場合でも保有する合理性はあり得るのかなど、お伺いしたい。
(答)
 個別行の話であるが、みずほフィナンシャルグループは6月1日に「コーポレート・ガバナンス報告書」を東京証券取引所に提出した。今後、どこに基準をおいて株式を保有するか否かを決めていくのか、というクライテリアについて、しっかり議論していきたいと考えている。
 これからの議論であるが、クライテリアのベースの一つは、経済合理性の観点であると思う。銀行にとってその会社の株式を保有する意義を取締役会で説明していくうえで、経済合理性の観点は重要である。
 では、経済合理性というのは一体何を意味しているのかというと、これはまさにこれからの議論であり、いくつかのコンポーネントがあると思う。例えば、資本コストというものがある。資本コストという考え方も銀行によって異なるので、その定義から議論していかなければならないが、長期にわたって資本コストより明らかに低い収益しか得られない株式であれば、保有意義はないと認めざるを得ない。ただし、資本コストだけで判断していいのかという観点もあるし、将来の収益見通しをどのように勘案すべきなのか、あるいは勘案すべきではないのか、収益というものを足もとの収益だけで考えていいのか、あるいは中長期的な収益という観点で時間軸を入れるべきなのか等、様々な要素をこれから徹底的に議論して、お客さまにも銀行の株主にも十分説明できる合理性をもったクライテリアを作っていく。そのうえで、個別のお客さまに対する説明や議論を開始することになろう。
 6月1日の「コーポレート・ガバナンス報告書」の反響は大きく、お客さまから問い合わせを受けたり、こちらからご説明したりということをここ2ヶ月ぐらいで行ってきた。総じて申しあげれば、この「コーポレート・ガバナンス報告書」というものが何であって、みずほがどうしてこうした形で報告書を出したのかということに関するご理解は非常に進んでいると感じている。それは、上場しているお客さま自身が「コーポレート・ガバナンス報告書」を提出する立場でもあり、ガバナンスの強化という大きな流れのなかにおいて、政策保有株式の問題に関する理解が進みつつあるためであろう。繰り返しになるが、これから先は個別の話になるので、丁寧でしっかりとした議論を個別のお客さまと積み重ねていくということが、非常に大事であると考えている。
 一般論として、個別の会社に事故が発生した場合や何かの事象が起こった場合には、その会社の将来性や成長性にどの程度のインパクトを与えるのか、そして金融機関自身の成長性や収益性にどのようなインパクトを与えるのかなどを総合的に判断して対応を決めるべきものであると思う。したがって、個人的には、一概にある特定の事象が発生したから株式を売却するという判断には決してならないと思う。


(問)
 銀行グループによる資産運用ビジネスについて伺いたい。
 各大手行とも資産運用ビジネスを新たな収益源として打ち出しておられるが、一方で「貯蓄から投資へ」という話は日本ではずっと言われてきているのになかなか進んでいない。なぜ今、資産運用ビジネスなのか。それは供給側の論理で、資本が厳しくなってもアセットを使わないでできるビジネスだからか、なぜ今日本で資産運用ビジネスがこんなに注目を浴びているのか。
(答)
 一部個別行の話になるかもしれないが、一般論で申しあげれば、明らかに日本の経済構造のなかで資産運用ビジネスの占める位置、重要性が変わってきているのだと思う。その意味は大きく分けて二つある。
 一つ目は、機関投資家の動きである。象徴的には、GPIFあるいはゆうちょ銀行が、従来、その大宗をJGBで保有していたポートフォリオを大きく変えつつあるということである。株式、あるいはオルタナティブ・アセットにまで投資をしようといった大きな流れが、金融機関にとってはビジネスチャンスとして捉えられるということである。例えば、機関投資家が求めるような様々な運用プロダクツを提供することで、我々が最も重要視している非金利収入の獲得へと結び付くことから、いま目の前にあるビジネスチャンスであると感じている。
 もっとも、日本の機関投資家が希望する運用のレベルは、彼ら自身が世界の資産運用会社からのアプローチを受けていることもあり、非常に高い。一方で、日本の資産運用会社のレベルは、様々な分野がある中で、必ずしも世界のトップレベルではない分野もある。そうした意味において、資産運用ビジネスを切り出して強化していこうとする動き自体は、そこにリソースを割いて世界のグローバルレベルに追い付こうという経営の意思の顕れであろうと思う。
 二つ目は、個人の方である。日本証券業協会によると、NISAの口座稼働率がようやく5割程度にまで上昇したということであるが、もう5割というのかまだ5割というのか、しかも口座を開設してから最初の投資ということでもあり、これが本当に基本的なトレンドとして「貯蓄から投資へ」の動きにつながっていくのか、今後も引き続き我々の努力が必要になると思う。
 全銀協の平成28年度税制改正要望にも、NISA口座の恒久化を挙げている。これはある意味、個人の資産運用ビジネスは、国策として強化する方向に進むべきであると思うし、進んでいくのであろうと思う。そこにも金融機関としてのビジネスチャンスは大いにあり、機関投資家と個人の両面において、資産運用業務が今後のビジネスとして大きく拡大していくという考えのもと、各社が業務を強化していくのであろうと思う。
 ただ一方で気を付けるべきは、こうした「貯蓄から投資へ」という流れをしっかりと定着させていくためにも、金融機関側で、独立性やコンプライアンス、アカウンタビリティなどといった点についてのしっかりとしたガバナンスや、投資フィロソフィーなどを確立していくことが重要になるということである。逆にそこがうまくいかないということになれば、大きなトレンドが損なわれることにもなりかねないので、今の大きな流れをしっかりと捉えていくためにも、資産運用会社側に課せられた責任は極めて重いと感じている。


(問)
 金融庁の行政手法についての質問である。
 金融庁は検査方針と監督方針を統合した金融モニタリング基本方針を示しており、明確に検査、監督行政の連携を進めている。銀行界としてはこの連携をどう感じているのか。その評価と課題もしくは要望があれば教えていただきたい。
(答)
 金融当局から直接監督・検査を受ける私どもが何か申しあげるべきものではないが、あえてお答えするならば、という前提でお話しする。
 金融庁は、平成19事務年度から「ベター・レギュレーション」という、金融規制の質的な向上という発想での取組みを進めている。そして平成25年9月公表の「平成25事務年度金融モニタリング基本方針」において、金融機関や金融システムに対し、より深度ある実態把握のために、オンサイト・モニタリングとオフサイト・モニタリングを組み合わせた運用の一体化が政策の方向感として示された。さらに平成26年9月には、「平成26事務年度金融モニタリング基本方針」において、監督方針と金融モニタリング基本方針が統合された共通の方針のもとで、監督局と検査局が緊密に連携し、役割分担をしながら事務を進め、金融機関の負担軽減を図るということが打ち出されてきた。
 監督・検査を受ける私ども金融機関としては、当局との建設的な対話が非常に大事であり、そうした方向感に合致した考え方であると思う。また、同じ業態の金融機関に横串を刺して、例えば、我々はどこが欠けており、どこが先行しているのかといったことが検査のなかで明らかにされ、それにもとづいて監督行政が一体となって進むという考え方は、より優れた業務運営を追求していくという観点や、自分の会社だけを見ているとわからない我々自身の課題が見えてくるという観点からも、非常にありがたい方向感である。
 監督や検査を行う側と受ける側が、日本の金融システムの強靭性をさらに増していくという同じ方向を目指していくこと、これは海外からも非常に高く評価されていると思う。今後とも深度ある議論を当局と進めさせていただきたいと考えている。


(問)
 先ほどの政策保有株式についてだが、大きな方向性として削減の方向を御行も出されており、クライテリアについてはこれから議論ということだが、考え方として確認させていただきたい。
 経済の合理性から保有が認められる場合に、例えば、新興の会社の株式について新たに保有するということも選択肢として認められ得るものなのか。
(答)
 先ほど申しあげたようなクライテリアをしっかり決めていくことになった場合、例えば、ある企業から株式の取得についてお話があった際には、それが私どもの経済合理性の基準あるいはクライテリアを満たしているのであれば、その株式を取得するということもありえると思う。ガバナンスの側面から見ると、個別の政策保有株式の保有の判断は基本的にはこういう面がある。
 一方で、ガバナンスの側面でどのような議論が行われようとも、株式であるが故に変わらない部分が一つある。それは、私ども日本の金融機関の持っている政策保有株式の含み益は、バーゼル規制上の中核的自己資本に含まれているということである。これは、仮に株価が大きく下落すれば含み益もなくなり、私どものCET1比率が下がるということである。政策保有株式を保有することで、自己資本の質が株価に影響されるという面を持っていることも事実である。そういった観点から、私どもが「コーポレート・ガバナンス報告書」でお示ししているような、基本的には政策保有株式を削減する方針について、ガバナンスの側面というよりも自己資本の質という側面も見ていくべきだという考え方があるだろう。
 ただし、実際には個別のお客さまとの丁寧な議論が必要になってくる。その時に、私どもはガバナンスの考え方というものを基軸に据えながら、クライテリアをしっかり示し、かつ、個別の会社との丁寧な議論や長い取引の歴史等も加味しながら、実績を積み重ねていく方向で議論していく流れになっている。そういう観点からは、新しく株式を取得することも理論的には当然あり得ると申しあげた。