2018年5月17日

藤原会長記者会見(みずほ銀行頭取)

岩本専務理事報告

 (なし)

 

会長記者会見の模様


(問)
 銀行の決算について伺う。加盟行各行の決算がかなり出てきたと思うが、今回も超低金利下の厳しい環境が続いているが、会長の所感と全体の概観を教えていただきたい。
(答)
 各社ごとに若干の違いはあると思うが、総じて言えば、当期利益は堅調、業務純益は苦戦ということで総括できるのではないかと思っている。
 まず、この1年間のマクロ環境を概括して見てみると、米国やユーロ圏については潜在成長率を上回るペースで成長を続けているほか、中国についても2017年は7年ぶりに前年の成長率を上回ったということで、世界経済のモメンタムは良好に推移したと考えている。
 一方、日本経済については、企業収益は過去最高水準を記録しており、日経平均も大幅に上昇した1年である。企業倒産件数もバブル期以来の低水準で推移しており、総じてよかったのではないかと思う。ただ一方で、マイナス金利政策の継続により、貸出あるいは市場の運用という面では大変厳しい状況が継続したということも言えよう。こうした環境も踏まえて、3メガバンクグループの決算についてポイントを3つだけお話ししたい。
 まず1点目、本業の収益を示す業務純益。先ほど苦戦と申しあげたが、国内事業については大規模な金融緩和の長期化に伴って預貸金利鞘の縮小が継続し、金利収益は下押し圧力を受けたということだと思う。さらに、市場部門についても、米国の金利が急激に上昇し、米国債を中心とする一部の外国債券の損失処理により、国債等債券損益も減少したことから、商業銀行単体の3行合計で言えば、実質業務純益が前年度比マイナス25%という非常に厳しい結果となっている。
 次に2点目として、当期純利益を見てみると、貸出先の業績改善等に伴い、与信関係費用の戻入益があったこと、また好調な株式相場を背景とする保有株式の売却益の増加があったことから、同じく3行合計で前年度比マイナス3%と微減に止まった。不良債権比率が低位で推移したこと、与信関係費用が抑えられたことは、財務の健全性の観点からは好材料と思っているが、本業収益が厳しい状況については変わっていないという認識である。
 3点目、こうした厳しい経営環境を踏まえて、各行とも例えばチャネルの戦略の見直しや人員・組織の最適化といった構造改革に踏み出し、収益体質の改善に向けた中長期的な取組みを開始した年であった。もちろんすぐ決算に影響を与えるということではないものの、2017年度は新たな銀行経営に向けた大きな転換期であったということも言えるのではないか。
 一方で、地域金融機関については、まだ全銀協として集計が完了していないので明確には申しあげられないが、実質業務純益は多くの銀行で前年比減益になったと認識している。その内訳を見てみると、好調な株式相場を背景に投資信託の販売は順調に推移し、役務取引等利益が回復傾向となったほか、人件費等の削減も図られたものの、3メガバンクグループと同様に国内貸出利鞘が縮小し、また、外国債券等を中心に国債等債券損益も悪化したというところだと思う。
 収益構造上、3メガバンクグループと比べて国内の貸出利鞘縮小の影響をより強く受ける構造ではあるものの、役務取引等利益や経費削減によって一定程度カバーしたかたちになったというのが実状ではないかと思う。
 一方で、2018年度の経営環境を見据えてみると、マイナス金利政策等による金利あるいは資金利益の下押し圧力は当面継続することが見込まれる。我々銀行界としてどのように対処していくのかであるが、まずは金融仲介機能の質をさらに高めるということが重要だと思っている。
 2018年4月末現在で全国銀行の貸出残高は80ヶ月連続で増加という傾向である。今後は先進的なテクノロジーや新産業の育成、事業性評価等、銀行自らが資金需要を創出するという、能動的かつ積極的なリスクマネーの供給が非常に重要になってくると思う。リスクに見合った適正なプライシングにより、残高だけではなくて利鞘の改善にもつなげていくことが考えられる。
 「貯蓄から資産形成へ」の促進、少子高齢化に伴う事業承継、相続、国内外でのビジネスマッチング、M&Aなど、お客さまの課題はさまざまである。こういった課題については銀行も一緒に考えながら、我々が持つノウハウやネットワークを活用して、付加価値の高いサービスを提供し、非金利収益を増強する、それによって収益基盤の拡充を図ることも重要なポイントかと思う。
 さらには、デジタルテクノロジーの進展等も踏まえた銀行自身の変革も挙げられる。先ほど申しあげたような構造改革を通じて、コスト競争力・生産性をしっかり高め、高度な金融サービスを提供することによって、わが国の経済・社会の持続的発展に貢献していくことが従来以上に求められる局面にきていると思う。
 いずれにしても、短期的にすぐさま収益を大きく改善させる特効薬はない。ただ、我々が創意工夫を凝らしつつ、中長期的、持続的なビジネスモデルを構築することによって、我々の役割をしっかり果たしていきたいと考えている。


(問)
 金融政策について、日本銀行が2019年度を目途とされた物価目標の達成時期を削除した。この決定の評価を教えていただきたい。あと、物価目標の時期が削除されたことで、仮に2%に達しなくても、先ほど会長が言われたように金融仲介機能に対しての問題というか不安、懸念、副作用があれば、日銀は柔軟に政策変更に動くべきと考えるか。
(答)
 金融政策は日銀の専管事項であるので、全銀協会長としてコメントする立場になく、個人的な見解を述べさせていただきたい。
 まず、日銀が2016年9月にイールドカーブ・コントロールを導入して以来、物価目標の達成時期については、あくまでも見通しに過ぎないということにもかかわらず、それを期限ととらえ、その変化を政策変更に結び付けるという市場の思惑も残っていたことから、今回、コミュニケーションの改善という観点で打ち出されたものと認識している。それについては前向きに評価をしている。
 日銀の2016年9月の総括的検証においては、わが国の予想物価上昇率の形成メカニズムに適合的な要素が強く、予想物価上昇率の引上げに不確実性があり、時間を要する可能性があるとの分析が示されている。こうした分析を踏まえ、現在では、物価目標達成に向けた「モメンタム」の維持が目標とされ、物価目標の達成時期については「できるだけ早期に実現する」とされている。
 黒田総裁は、物価目標達成時期の記載削除を行った理由として、先ほど申しあげたような見方が残っており、計数に過度な注目が集まることは市場とのコミュニケーションの面から適当ではない、との説明を行っている。今回の変更は、市場とのコミュニケーションを改善するための取組みとまずは言えるかと思う。
 ただ一方で、物価目標2%の達成が依然として見通せないということも背景にあるのではないかと感じている。日銀が発表した経済・物価情勢の展望、いわゆる展望レポートでは、2020年度の物価見通しについて、前年度比1.8%との見通しが示されているが、総裁を含む政策委員9名のうち8名が下振れリスクが高いとの判断を示している。民間の予測でも2019年度の平均が0.9%となるなど、「2%の達成時期」については、いつになるか分からない、というのが実態であり、こうしたことも背景にあるのではないかと考えている。
 このように物価の上昇は依然として緩慢であるものの、私自身、日銀の金融政策は、わが国の経済情勢の改善に大きな効用・作用があったと思っている。日本の経済の需給ギャップは、前回利上げが行われた2007年の水準まで拡大するなど、日本経済は着実に改善している。失業率の低下や有効求人倍率の上昇など、雇用市場はバブル期以来のタイトな状況にある。企業収益が過去最高の水準になっていることも象徴的である。
 しかしながら、マイナス金利政策を含む強力な金融緩和措置がこれからも長く続けられた場合、人々のマインドや金融システムに与え得る副作用が懸念される。将来的に、銀行収益の圧迫が金融仲介機能を減退させる可能性がある。これからは、副作用にも軸足を置いてモニタリングレベルを上げていく時期だと考えている。日銀には政策の効用と副作用について引き続きしっかりと分析等を行っていただきたいと考えている。
 また、もう一つのご質問の、副作用懸念があれば政策変更に動くべきか、ということである。これは、過度な副作用が確認できるのであれば、やはり政策変更を検討すべきと考えている。政策運営については2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムが維持されているかどうかということを、毎回の金融政策決定会合で丹念に点検し、必要に応じて政策の調整を行うとされている。
 先般、黒田総裁は講演において、実質金利と自然利子率の変化による緩和効果の強弱についても言及していた。ご指摘の副作用については、先ほど申しあげたように、レベルを上げて点検すべきと考えているが、毎回の金融政策決定会合では「リスク」として点検材料になっていると思う。
 モメンタム、すなわち需給ギャップや中長期的な期待インフレ率、実質金利や自然利子率の動向、さらには副作用を含むリスクを踏まえて、金融政策決定会合では、毎回、政策変更の有無が判断されていると理解している。


(問)
 2点お伺いする。1点目は、今も、「副作用にも軸足を置いたモニタリングレベルを上げるべきで、副作用があれば政策変更すべき」という発言があったが、現時点で全銀協会長として副作用はあると思っているのか、ないと思っているのか。また、ある、ないしは今後出てくるとすれば、具体的にどういう副作用が現れ得るのかということを教えていただきたい。
 もう1点、6月1日に就職活動の面接解禁となるが、就活生向けのアンケートなどで、メガバンクはじめ銀行業界の人気が落ちている。これについて感想や対策があれば教えていただきたい。
(答)
 まず1点目、副作用があるかないかということである。副作用は突然現れるものではないと私は思っている。したがって、副作用のモニタリングポイントをあらかじめ押さえたうえで、経済情勢や景況感にどのような影響を与えているかを丁寧に点検していくということが大事だと思っている。また、その副作用が、金融緩和の効用を上回るようなレベルに来ているかどうか、これもおそらく重要なポイントかと思う。
 もちろん、金融政策は日銀の専管事項なので、個人的な見解ではあるが、副作用という面では、人々のマインド、あるいは金融システムに与える影響というものが挙げられる。例えば、金融政策が銀行の決算に影響を与え、これが結果として金融仲介機能を減退させることになっていないかは、副作用として注視すべきポイントの一つではないかと思う。これは、銀行収益そのものというより、企業あるいはお客さまに対する金融仲介機能が十分果たされているかどうかをしっかり点検すべきということである。
 また一方で、今、企業のバランスシートを見てみると、上場企業の半数以上が、手元資金が有利子負債を上回る実質無借金という状態である。もちろん低金利は調達面では極めて良好な環境をもたらしているものの、実質無借金の企業が、上場企業の半分に及んでいるなかでは、むしろ運用面において厳しい環境と言わざるを得ず、年金、あるいは企業・個人の資産運用への影響も検証ポイントの一つかと思う。
 いずれにしても、長引く低金利による累積的な影響に対するモニタリングレベルを上げていく必要があると考えている。
 就職人気ランキングの件だが、これは大変重要なテーマだと思っている。まずは、このランキングの結果を真摯に受け止めたい。全産業に共通ではあると思うものの、やはり銀行では人材が全てである。重要なことは、ランキングが低下している理由が何かということを、我々自身がしっかり認識することである。例えば、予定採用人員が減ったからなのか、あるいは銀行という職場自体の魅力が減退したからなのか、これには大きな違いがある。
 昨年来、メガバンクを中心に構造改革が打ち出された。例えば店舗や業務量、あるいは人員の削減という言葉から、ともするとリストラと映るようなネガティブイメージが出てきてしまっているように思う。そのような観点で言えば、我々の説明が十分ではなかったのかもしれない。ただ、我々はこの構造改革を、未来への投資、言い換えればテクノロジーの活用などによる次なる一手と考えており、決して後ろ向きのリストラではないと考えている。
 皆さまもご承知のとおり、銀行を取り巻く環境は大きな変革期、転換期を迎えている。AI(人工知能)の普及やブロックチェーン、ビッグデータ、ディープラーニングといったテクノロジーの発展、あるいはグローバル化の進展による多様性の取り込み等、刻一刻と変わってきている。このような時代の変化のなかで、多様な能力や個性を持った人材に、その力を最大限発揮してもらう時代に入ってきていると思う。
 重要なことは、我々が求める能力や個性が変わってきているということを、学生の皆さんにしっかり伝えていくことである。ともすると、規模や安定というキーワードが銀行のイメージにあったかもしれないが、学生の皆さんには、これからのチャレンジングな環境を「面白そうだ」「成長性がありそうだ」、さらには「働きがいがありそうだ」と感じてもらえるよう、しっかりと伝えていきたい。
 銀行業界に夢を持って飛び込んでもらいたいと思っている。


(問)
 副作用のところで確認だが、決算の悪化による融資姿勢の変化というのは、黒田総裁もおっしゃるように、まだ起きていないと思ってよろしいか。
(答)
 今、貸出態度判断DIなどの指標を見ても、足元それほど大きな変化はない。現場感覚からも、銀行業界全体としては、何とか融資を掘り起こして増やしていきたいという姿勢は変わっていない。昨今の好調な企業業績を踏まえれば、総じて資金需要が高まる局面となる。このように積極的な融資姿勢については変化がないという認識である。


(問)
 石炭火力発電事業について、邦銀が融資を停止すべきだという論調があるかと思う。国内の火力発電と海外のプロジェクトファイナンスでそれぞれ事情は異なるかと思うが、それぞれについてそもそも邦銀はこの融資を停止すべきなのか、停止ができないとしたらその理由は一体何なのか、ご所見を伺いたい。
(答)
 社会的関心の高いタイムリーなテーマである。これは、エネルギーの安定供給を確保しつつ、環境に配慮した脱炭素社会に貢献するという、いわばデュアル・マンデートの達成が求められるものではないかと思う。
 最終的には、個別に案件やプロジェクトを見ていくことになるが、全銀協で言えば、もともと行動憲章のなかに「環境問題への取組み」と題した条文があり、銀行の本業を通じて環境問題に貢献することの重要性は盛り込まれている。
 とりわけ、石炭火力あるいは脱炭素という問題については、社会的な目線も上がっており、重要なテーマと認識している。金融機関は、企業活動を通して環境等に大きな影響を与えうるという自覚を持ち、しっかりと対応することが大前提であり、社会的使命であると思っている。
 その方法論として、例えば、特定の業種への投融資ポリシーの策定、あるいはお客さまの事業が環境等に及ぼす影響を分析するためのガイダンスを作るといったこと等も考えられる。全銀協では、今年3月15日に対外発表したSDGs/ESGの推進に係る取組みのなかで、「環境、人権等に関する融資ポリシー策定に関する研究、調査等の実施」を掲げている。会員行における責任ある投融資に向けた態勢整備の後押しをしていきたい。
 なお、個別行としては、持続可能な社会の実現に向けて、エクエーター原則等を踏まえながら、新たに出てきている国際的なガイドラインも強く意識して、この問題に向き合って行きたいと考えている。


(問)
 先ほどの就職の関係で、銀行が採る人材が結構変わってきていると、みずほ銀行も打ち出されているが、理系、STEM人材などを採っているということだが、あらゆる業界がデジタル化のなかで、そういう人材を欲しがっているということで、銀行にそういう人材に来てもらうために何が必要か。銀行に来てもらうインセンティブというのは、どのように示されるのかを教えてほしい。
(答)
 ひとことで言えばカルチャーに帰結すると思う。私も新入社員あるいは就職活動をしている学生の方々とお話しする機会がある。もちろん処遇への関心は高いが、それ以上に自分の夢を実現できるのかという純粋な志を持った方が多くいることがわかる。そういう人材に活躍の場と企業風土を提供できるかが鍵だろう。ご指摘のとおり、STEMと言われるScience、Technology、Engineering、Mathematics、といった分野の能力は、金融のみならず全ての産業において必要とされるものになってきたと思う。
 お取引先とお話しすると、いつも出てくる三つのテーマがある。一つ目が人手不足、二つ目がグローバル展開、三つ目が事業ポートフォリオ。いつも最初に出てくるテーマは人手不足である。ただ、その人手不足という意味は、量的なものだけではなく、「質的な人手不足」という課題も突き付けられていることがわかる。
 先ほど、カルチャーと申しあげたが、多様な人材に活躍してもらうためには、経営者が、従来の連続的な思考のみならず、バックキャスティングの発想を持ち、30年後、50年後のビジョンを示し、そこに向かって共に頑張っていこうという環境、自由闊達に活躍できる企業文化・風土をつくっていくことが最も重要なことだと思っている。
 その環境作りには、例えばスタートアップやベンチャー企業との協働が非常に有効だと思っている。この協働によって、外からの大きな刺激を受ける。銀行だけで自己完結的にビジネスモデルを作り上げるという発想ではなく、我々がプラットフォーマーとなり、スタートアップあるいはベンチャーの方々に活躍していただく。この協働によって、銀行の中と外を往来しながら目利き力を身につけ、プロジェクトを組成するような人材を求めていく。そのような開かれた風土のなかで、魅力ある職場をつくっていきたいと考えている。


(問)
 もう1点、全銀協のモアタイムの件で、10月から始まるが、直接的な振込みの時間拡大というところがあると思うが、そこから発展的に何か期待することがあれば教えていただきたい。
(答)
 モアタイム、すなわち全銀システムの24時間365日化は、大きなステップだと思っている。まず、2018年10月9日から全銀システムの稼動時間を拡大する予定にしており、銀行の営業日や時間を意識することが少なくなるなかで、銀行振込ができるようになるということかと思う。
 休日中に、例えば、家族、知人から振込依頼があった場合にも対応できる。また、流通業において、よりタイムリーに代金の振込が確認でき、商品が発送できる。ネットショッピングやオークション等の需要も高まりを見せているなか、こうした多様なニーズに対応できる可能性が広がっていくと思う。
 もちろん、サービスの開始に当たっては、多くの方にご利用いただけるよう広くご案内するとともに、混乱がないようにしなければいけない。例えば、夜間あるいは休日に口座入金が発生する可能性についてお伝えする必要がある。逆に、そこは入金を止めてほしいというお客さまもいらっしゃるかもしれない。いずれにしても、周知徹底をしていきたいと思っている。


(問)
 先ほど藤原会長のお話のなかで、上場企業の半分が実質無借金というなかで、金余り時代のなかでずっと続いているわけだが、改めてメインバンクの意味は何があるか伺いたい。企業にとって銀行は必要だろうが、メインバンクは日本の産業構造を支えてきた制度の一つだと思うが、もはや必要ないのではないかという意見も出ているなかで、藤原会長はどのようにお考えか。
(答)
 私は、時代が変わっても変わらないものがあると思う。それは人と人との絆、あるいは組織と組織との信頼関係だと思っている。今は比較的平穏な時代だが、この先何が起きるか分からない。そういう面で、メインバンクが銀行の矜持を持って企業と向き合う、いかなる時も取引先と真摯に向き合うことは極めて重要で、私は普遍的なテーマだと思っている。
 デットガバナンスの関連の話でいうと、確かに足元、少し外部環境が変わってきているように思う。何が変わってきているかと言えば、例えば、バブル崩壊以降、日本では企業努力により、債務の過剰を含む三つの過剰が解消され、ネットデットがゼロである実質無借金企業がいまや上場企業の過半数となっている。その他にも、銀行が担う間接金融から、資本市場での直接金融にシフトするといったことも、着実に進行している。
 一方で、大規模な金融緩和により、資金供給の圧力が資金需要を上回る状況が続いている。こうした観点から、金融仲介・資金仲介という機能が提供できるということだけをもって、デットガバナンスが確保される、あるいはその強さが測られるという時代ではなくなってきている。
 そういう意味では、情報機能が重要である。継続的な対話を通じて、事業内容や成長可能性を深く理解したうえで、いかに企業の成長戦略に関与できるかという勝負にきている。私は、こうした課題解決力や提案力が、メインバンクに求められている中心的な機能になっていると思う。
 冒頭に申しあげたとおり、これから何が起きるか分からない。平時においてはやはり知恵を出さなければいけない。しかし、急時においてはそれに加えて資金を提供しなければいけない。平時には知恵を、急時には加えて資金を出すことを、メインバンクの矜持としてしっかりと守るべきだと思う。そのためには、我々銀行自身が、強くて頼りがいのある存在であることが大前提だ。
 付け加えて言えば、もはやメインバンクだからという理由で商売がもらえるような時代ではない。そうした基本認識を持つことが大事だと思っており、今後とも、より一層努力を重ねていきたい。


(問)
 2点ある。一つは、マネー・ローンダリング対策に関連して、昨年度来、全銀協のブロックチェーンのプラットフォームを活用して、3メガバンクが、本人確認、KYCに関するデータプールをつくる実証実験を進めてきたと思う。この実証実験の進捗状況と、今年度さらにそのフェーズを進める計画があるならば教えていただきたい。
 もう1点は、昨今、金融サービスのデジタル化が先の決算でもテーマになっていたかと思う。デジタル化が進むことで高齢の方が取り残される可能性もあるのではないかという見方があると思う。高齢の方のインターネットに対するリテラシーも増えているという見方もあるが、デジタル化に伴う高齢者対応についてどのように考えているか、所見をお聞かせ願いたい。
(答)
 まず1点目の、ブロックチェーンのプラットフォームを使ったKYC情報の共有化だが、これについては概念実証(PoC)レベルの確認を終えた段階である。全銀協では今後、KYC情報の共有化の将来的な可能性について、研究会を立ち上げて、実務面から研究を進めていくことにしている。
 まだ実務的なフィージビリティの確認に入っている段階ではないが、将来に向けた発想としては、例えばリソースの集約による事務効率化、あるいはマネロン対策レベルの高度化などに資する可能性があるのではないかと思う。規制要件を含めた実務的なフィージビリティについては、これからの課題だと認識している。
 ブロックチェーン技術に限らず、KYC情報共有化の実用可能性は実務面から広く探っていく。ベネフィットやニーズは広く銀行界にまたがるものであることから、全銀協の傘下に研究会を立ち上げて研究を始める予定だ。3メガ中心のブロックチェーン技術に関する実証実験の結果も踏まえたうえで、研究を進めていきたいと考えている。
 一方、斯かる共有化が、日本のKYC実務に馴染むのかどうか、馴染むとすると「あるべきスキーム」はどのようなものか、その実現のために何が必要なのか、といったことは、中期的な取組みになるが、十分に研究の価値があると考えている。
 ご質問の二つ目は、デジタルテクノロジーの進展に伴う高齢者の方々との関係である。いまや“高齢者の方々”をひとくくりにできない時代になっている。例えば、80歳を過ぎてプログラミングを始め、スマートフォン向けのゲームアプリを開発された若宮正子さんという方のことをご存知の方も多いと思う。もちろん、若宮さんは、特別な方だと思うが、「習うより慣れよ」ではないが、一度、電子的な方法を試していただければ、現金や手形・小切手などの現物のハンドリングよりも“安全で便利”だということを実感していただき、意識が変わってくる可能性もあるかと思う。
 また、デジタルテクノロジーというと少し難しく考えがちだが、例えば、AIスピーカーが出ており、利用者とのインターフェースも工夫されている。これは、声で何か話しかけたり、要望を声に出して言うだけで、それに呼応して作動を始めるというものである。そうすると、物を書いたり提出したりという物理的負担がなくなる。むしろAIスピーカーは高齢者との親和性が高いのではないか、という観点もある。もちろん、これからそうした研究を進めていくということだが、このようなサービスが浸透しつつあるという側面もある。
 2012年のスマートフォンの普及率は60代で4%、50代では17%であった。これが2016年には60代が33%、50代では66%まで跳ね上がっている。遠からず高齢者のほとんどがスマホをお使いになる時代が来るかと思う。ただ、足元においては、そういう状況では必ずしもないと思っている。人による対応が適切なケースもある。我々が目指しているのは、利用者にデジタル利用を強いることではない。あらゆる利用者にとって利便性の高い、リテラシーに応じた金融サービスを提供するという観点から、デジタル格差と言われているようなものにもしっかり配慮し、丁寧に対応していきたいと思っている。


(問)
 先ほど話のあった金融政策において、過度な副作用が確認できるなら2%達成前に動くべきというお話があったと思う。実際動いた場合、円高のリスク、株価の下落、あと何よりも財政のほうがさらに悪化することがあって、本当に日銀ができるのかと疑問視する声が大変あると思う。この出口の困難度を、どれだけ難しいものか、今のところ会長としてどう理解しているか伺いたいというのがまず1点。
 あともう1点は、全く関係ないATMの関係だが、メガバンクの共通化の話、ずっと無料を続けてきた新生銀行が有料化する話が出ている。もうATMを持つことが銀行にとって重荷になってきているのか。今後の見通しも含めてATMの役割の変化をどう考えているか伺いたい。
(答)
 まず出口政策については、日銀の専管事項であり、あくまでも個人的な意見として申しあげる。出口政策を整理すると、政策金利を引き上げるということと、バランスシートを正常化させるということ、の二つが論点になると思っている。
 その規模、タイミングについて、絶対的な水準は定めにくいし、非常に難しい問題だと思う。インフレ目標や景況感、実体経済の状況を総合的に評価し検証する必要がある。金融政策転換のタイミングは簡単ではないが、例えば、米国ではデュアル・マンデートを用い、物価安定と最大限の雇用の両面から点検を行い、フォワード・ルッキングな運営として、2%に達する前でも政策転換を行っているということは、示唆に富んだ事例だと思う。
 いずれにしても、物価目標は手段であって目的ではない。すなわち、物価の安定を図ることを通じて持続的な経済成長を実現するという理念に照らし、どの時点で政策転換を図るべきかを検討すべきだろう。もちろん、非常に難しい判断が迫られるものだと思っている。
 また、現在の日銀の金融政策は、「期待」に働きかけるものであり、出口を前もって意識させてしまうと、政策効果の減退を招く可能性もある。その点も踏まえ、今回も市場とのコミュニケーションを改善するという観点からの物価目標達成時期を削除するという判断だったのだろうと考えている。
 次に、ATMについては、報道でいろいろ出ているが、一般論としてコメントする。ATMは今や高齢者の方々を含めお客さまに広く浸透した、社会的インフラ、重要なインフラになっていると思う。もちろんその一方で、機器本体や維持管理にかかるコストの問題、あるいはコンビニATMを含むネットワーク全体を見たときの重複の問題、さらには、キャッシュレス化がこれから進んでいくなかでのATMの減少といった課題があるということも確かだと思う。
 ATMが負担だというよりは、逆にこれはお客さまとの接点であり、私はお客さまのニーズがある限り提供すべきだと思っている。その際、重要なことは、効率的あるいは生産性が高いやり方を考えることである。
 ここは各行間の競争と各行による協調があり得る分野だと思っている。相互無料開放、あるいは共同運営の取組みは、これまでも進んできたという経緯もある。そういう意味で、最近の報道のような検討がされるということについて違和感はない。
 わが国の現金ハンドリングコストはマクロで約8兆円に達する。これを効率化していく、あるいはキャッシュレス化でこうした問題を解決に導いていくことはとても大事なことである。キャッシュレス化を推進することにより、約4兆円のコスト削減効果があるとも言われている。
 今後もお客さまの利便性が第一だと思っているので、より良いサービスを目指して、銀行界としては検討を深めて参りたいと思う。


(問)
 地方銀行関連で2点。先ほど冒頭に日銀の金融政策、金融仲介機能のところでリスクマネーの供給が地方銀行にとって大事だというお話があったが、そうした意味で、スルガ銀行がいろいろリスクを取ったうえでやっているなかで、金融庁も評価していたところだが、それに対して今回、かぼちゃの馬車というアパート向けの融資で問題化している。
 地銀が、メガバンクのように海外ビジネスがないなかでリスクマネーをやろうというときに、あのような突出した動きにつながってしまう。それに対しては金融庁も厳しいスタンスをとっているが、これは低金利環境でどのようにやっていったら地域の持続性という意味でできるのか。そこをまず1点、お考えがあれば、金融行政を含めてどのような対応をしたらいいか教えてほしい。
(答)
 スルガ銀行の事案は個別金融機関の事案であり、まだ確定的な事実認定がなされていないということ、さらには第三者委員会を設置してこれから検討していくということなので、現時点での評価は差し控えたい。
 ただ、スルガ銀行が発表した危機管理委員会の調査結果によれば、1点目に、営業が審査に対して優位に立ち圧力をかける等の営業および審査の体制、2点目に、通帳の偽造や改ざん、あるいは二重契約の事実を相当数の社員が認識していた可能性や融資の条件としてフリーローンのセット販売を推進するといったコンプライアンスの体制、3点目に、全体的な規模感やビジネスリスクを把握せず、ガバナンス機能が不十分であったという経営管理の体制などが指摘されている。
 スルガ銀行では、問題認識を踏まえた改善対応策を実施していくものと理解している。
 ここからは一般論で申しあげるが、新しいビジネスに挑戦をしていく、イノベーティブな発想を持って新しいスキームを作っていくこと自体は大事なことだと思っている。
 他方、フィデューシャリー・デューティという言葉は決して資産運用だけに当てはまるものではない。お客さま本位を忘れてはならないということは、我々銀行業の一丁目一番地だ。お客さまやお取引先のためにイノベーティブな発想を持ち新しいスキームを考えるべきであり、その順番が逆になると本末転倒である。これは、我々銀行経営者がしっかりと心しておかなければいけないことである。以上、これは一般論として申しあげた。


(問)
 金融行政というか、マイナス金利、低金利は政府の施策でもあるとは思うが、そのなかでこういったミドルリスクを取るということを、ほかにどういう選択肢が地銀にとってはあり得るのか。上場地銀も厳しい決算状況になっているが、メガバンクと違う点、地銀に何ができるかをもう少し具体的にお考えを伺いたい。
(答)
 地域金融機関のビジネスには、基本的にグローバルの領域が少ない。また、足元、証券子会社をお持ちの地域金融機関が増えてきているが、銀行・信託・証券が揃っているところも相対的には少ない。そうすると、やはり国内の金利収支に依存するところが大きいビジネスモデルになっていることは確かだと思う。
 そういうなかで何ができるかというと、一つは、こういった厳しい環境を奇貨として、構造改革、自己改革に踏み出していくこと。これは非常に大きなポイントだと思う。すでにそこに踏み出していて、好事例を作っておられる地域金融機関もある。また、こうした構造改革に加えて、地方創生にコミットするということも重要である。私も地方出身者であり、難しさはよく分かるが、前向きに取り組むところだろう。例えば、事業承継について言えば、現在127万社の中堅・中小企業の経営者の方々は後継者がまだ見つからずに困っておられるという現状がある。事業承継税制が10年間の期間限定で新たに手当てされたなか、徹底的にここをやってみるということも考えられる。メガバンクと協働して新しいビジネスを作る、さらには地域金融機関のなかで協働してコスト削減を図る、あるいは新しいビジネスとして国内横断的な事業紹介や取引先紹介、ビジネスマッチング等に取り組むなど、あらゆる手を尽くしておられるし、さらに踏み出していくことも可能だと思っている。


(問)
 ゆうちょ銀行の限度額はまだ結論が出ていないが、これについて最終、撤廃論もあったようだが、まだいろいろ協議が続いている。預金集めも苦しむような地銀が出てきているなかでどうお考えか、現状のお考えを教えてほしい。
(答)
 ゆうちょ銀行の限度額に対する我々の意見は変わっていない。大前提として、民営化はスタートしているものの、依然として完全民営化の道筋は示されておらず、公正な競争条件が確保されていない。民間金融機関のエゴでこの話をしているつもりは全くない。日本の金融システム全体への影響や、ゆうちょ銀行にとっての影響をよく考えなければいけない。さらには、民間金融機関との連携、あるいは協働といった機運が盛り上がっているなかで、やはり水を差しかねないと思っている。
 金融システム全体の話を申しあげると、そもそも肥大化した郵貯事業を段階的に縮小し、民間市場に対する資金還流を通じて国民経済の健全な発展を促すことが、郵貯事業改革の本来の目的である。それに逆行するようなことになれば、本来の趣旨を逸脱してしまう。また、ゆうちょ銀行にとっても、これ以上バランスシートが大きくなれば、海外の金利が上がるなかでは、外債運用も難しくなってくる。そのようななかで、あえて限度額規制を緩和することについては、違和感を覚えざるを得ない。
 協働について言うと、ATMの相互開放、投資信託運用会社の共同設立、民間金融商品の販売、あるいは地域活性化ファンドの共同出資などがすでに行われていて、機運も盛り上がってきたところである。ゆうちょ銀行と民間金融機関が手を携えて、金融システムの全体最適をしっかり実現していきたいと考えている。


(問)
 アメリカ政府がイランに対して経済制裁を再開する方針だが、日本の金融機関に与える影響、取り得る対策についてお考えがあれば伺いたい。また、一国の外交政策がその他の国々の多くの金融機関や事業体に多大な影響を与え得ることについてどのような所見をお持ちか。
(答)
 今回の経済制裁では、イランで事業を行っている企業に対して一定の猶予期間を経て撤退するように促し、撤退しない場合は制裁を課すことが米国政府の方針として示されている。日系企業で言うと、我々の取引先も含めて、追加制裁の発動を警戒し、少し前から長期的な投資や進出について慎重であったと理解している。経済制裁の再開決定を受け、残念ながらイランでビジネスを進めることは一層難しい状況になっていると思うが、金融取引や日本企業の活動が制裁対象になるか等も含め、引き続きよく注視しなければいけないと思っている。
 また、核合意前には、イラン中央銀行と取引する海外の金融機関に対して、米国の金融機関とのドル取引を制限したため、金融機関は米国で活動するためにはイラン中央銀行との取引を停止する必要もあった。今後、同様の措置がなされるとイランは海外との決済がなかなか行われなくなり、銀行としてもこうした金融制裁措置に対応していくことになる。
 日本経済への影響という観点で言えば、一番心配なのは原油相場を通じた影響だと思っている。今後、イランは海外との決済が行えなくなる可能性があり、その場合、原油の輸出が困難になる。原油相場が高騰し、我が国の実体経済にも影響が及ぶ可能性があり、動向を注意深く見守っていくことが必要かと思っている。


(問)
 メガバンクと企業の関係という意味で伺いたい。先日、武田薬品がアイルランドの企業の買収案件を発表した。外銀が取りまとめ役になっていたが、こういうビッグディールにおいてメガバンクと企業の関係は変化してきているのか。
 関連して、個別行の話になるが、2メガは入っていたがみずほは今回入っていなかった。それに関する受止めと見解を伺いたい。
(答)
 個社の話なので、それ以外の切り口でお答えしたい。
 あくまでも一般論としてお話をすると、日本企業が事業展開していくうえで、M&Aは海外の成長を取り込んでいくために必要な手段であり、グローバルな産業再編、競争激化に備えていくという観点から、常に重要な選択肢であると思っている。そういうなかで邦銀がいかに絡めるかについては、デットガバナンスのところでも少し触れた。我々もこうした案件の相手先を紹介する、あるいは、海外の事業展開についてしっかりご案内ができるよう、まさに「平時においては知恵を」と申しあげたが、日本企業にご提案する努力が必要だと思っている。
 後段は個別行の話なので、回答を差し控えさせていただく。


(問)
 先日、金融庁から休日規定を含む銀行規制の規制緩和方針が出た。平日を休日にすることもあり得るということで、読者を中心とする世間の反応は、「平日を休むのはいいが、土日を開けてくれないか」とか、「3時で閉まるが、仕事が終わってから行きたいのに、銀行は果たして本当にサービス業をやっているのか」というもの。「使いにくいところといえば銀行と役所と病院だ」ということを書く読者もいた。「役所では、婚姻届は祝日でも受け取ってくれるし、子供が病気になったら近所の病院は土日もやっているので、銀行よりもいいのではないか」とか、「まず、土日の営業をやってほしい」という声もあった。考えを伺いたい。
(答)
 そのような声については、真摯に向き合っていかなければいけないと思う。今回示された対応方針の意味するところは何かと考えると、実は平日休業ではなく、休日営業を促しているとも受け止められる。営業時間の延長や短縮と併せれば、全店舗一律の運営ではなく、お店ごと、地域ごと、お客さまのニーズごとに店舗運営を考える大きな契機になりうる。そのような意味では、今回の対応方針はいわばウェイクアップ・コールではないかとも思う。
 すでに銀行窓口の営業時間を平日17時まで延長したり、休日にローンや資産運用の相談会を行ったり、店舗営業のメリハリをつけている銀行もある。平日休業が可能になることにより、例えば共働きの方々、平日でもゆっくりご相談をされたい高齢の方々など、多様なお客さまのライフスタイルにどのように対応するのかという、本来マーケティングとして考えるべき根幹部分を見つめ直すいい契機になっていると思う。
 サラリーマン世帯が多く居住する住宅地の店舗を平日に休業し、代わりに駅前店舗の営業時間を延長することも考えられる。繰り返しになるが、今後、平日休業が認められることにより、平日が休めるということではなく、休日の営業や営業時間をいかに考えていくかという意味で非常に大きな契機だと思っている。
 例えば過疎地域などで、日中開けておかなくてもいい、隔日でもいいというところがあるかもしれないし、一方でその逆もあるかもしれない。5W1Hという言葉がある。その発想で、店舗のあり方を見直したいと考えている。


(問)
 先ほどのゆうちょの質問に対する会長のお答えのところで確認したかったのだが、地域金融機関、民間との協働に水を差しかねないとおっしゃったが、そもそもこういう協働の取組みは、お客さまのため、地域のためにやっているものである。いじわるな聞き方をすると、ゆうちょにむかついたからもうやりたくないというと、これこそ本当に業界のエゴに聞こえるが、そういうものなのだろうか。
(答)
 常にお客さまの方を向く、地域の方を向くのは当然のことである。ゆうちょ銀行との関係を前向きに進めていくためには、お互いの理解と信頼関係が一番大事なことだと思っている。形式的にタッグを組むのではなく、地域のためにお互いに何ができるのか。例えば、ゆうちょ銀行の約2万4,000局という大きなインフラを活用して、民間金融機関は何ができるかということを、ひざを突き合わせて、腹を割って話し合う、そういう関係にすべきだと思っている。そのような土壌をつくるために、私どもはしっかり主張していかなければならないし、ゆうちょ側の主張もしっかり聞かなければならないと思っている。
 先ほど全体最適にならないということを申しあげた。ゆうちょ銀行の肥大化は、バランスシートを縮小するという本来の目的から乖離しており、最終的にリスク要因が顕在化したときには、国民や利用者の皆さまに返ってくるような話になりかねない。つまり、金融システムの全体最適にならないし、場合によっては、ゆうちょ銀行の部分最適にすらならないかもしれない。そこについては、虚心坦懐にお話しすべきだと考えている。


(問)
 2点伺う。スルガ銀行の件について重ねて伺う。確定的な事実はないという答え方をされていると思うが、営業が審査に圧力をかけたり等、コンプライアンスあるいはガバナンスの体制について、一般論でないと今は言えないのか。銀行員、銀行としてはあってはならない体制だと思うが、個人的には。
(答)
 これが仮に事実であるとすれば、大変残念なことで、これについて改善をする必要があると思うが、これから第三者委員会も含めて事実認定が行なわれる段階であり、現時点での評価は差し控えると申しあげた。


(問)
 アルゼンチンやトルコなどで新興国の通貨が下落している。過去何度も新興国発の危機が訪れてきたが、今、業界団体の長として、世界経済、日本経済への影響をどう見ているのか、簡潔にいただければ幸いである。
(答)
 確かに、新興国のリスクは十把一絡げにできないと思う。トルコ、アルゼンチンについては、やはり目線を上げなければいけない状況だと認識している。特に、アルゼンチンについては政策金利が40%というところまで来ているので、どういった影響が出てくるのかということ、例えば南米の各地域にどういった副次的な影響が出てくるのかということをしっかり見ていきたいと思う。
 ただ、グローバル経済全体のモメンタム自体が崩れているということではないと思っているので、局所的な部分でモニタリングレベルを上げていくのが今の段階かと思っている。

(問)  
 天皇陛下の退位に伴う改元の影響についてお尋ねしたい。改元が来年5月1日に予定されているが、新しい元号の発表が来年4月1日と、改元の1ヶ月前と決まったようだが、直前1ヶ月しか時間がないといろいろさまざまな国民生活への影響とか、そういう面が予想されるし、改元の後も行政のシステムのほうでは一部平成という元号が継続して使われるようなことも報道されていて、税金の納付や年金の支払いと、いろいろな影響が出てくることが想定される。新しい元号の発表が改元の1ヶ月と、直前になることについて、銀行界としての受止めをお願いしたい。
(答)  
 皇位の継承は、我々国民一人一人にとって大きな出来事だと思っているし、おそらくこちらにいる皆さまにもそれぞれの思いがあろうかと思う。一人の国民として、陛下がこれまで平和国家日本の象徴として、お力をお尽くしになってこられたことに、まずは心から深く敬意を表したいと思う。
 全銀協の会長として銀行界の対応について申しあげれば、今、言われたような和暦を使用するような帳票、申込書、契約書、店頭のポスターやパンフレット、これらの差替えの事務やシステムを中心とした対応が出てくるが、これは元号が国民生活に広く浸透していることの表れだと思う。
 全銀協としても、旧元号が記載された手形や小切手の、改元以降の取扱いをどうしていくかなど、業界全体で決めることが望ましいルールについてもこれから検討していく。
 また、システム面でも、改元の対応に加えて、仮に即位の日である来年5月1日が祝日となった場合、前後を含めて10連休ということになり、その準備も必要になると思っている。
 全銀システムなど、業界インフラの対応をしっかり行い、会員各行への注意喚起を行うなど万全の対応をして参りたいと思う。


(問)  
 同じく改元の話で聞く。特に1ヶ月前ということについては、長いのか短いのか難しいところであると思うが、そこについての受止めを。
(答)  
 ここは決められたなかで最善を尽くすということだと思っている。しっかり対応して参りたい。


(問)
 最後に禅問答みたいなことを聞く。アメリカのウェルズ・ファーゴが処分を受けて、上院の銀行委員会で「too big to manage」と言われ批判されたわけである。単に大きいからだめだと言われたのではなくて、その大きさに見合う経営者じゃないだろうと批判された。
 今、日本はデジタル革命のまっ最中にあって、その分野の先端の人はこう言う。「デジタルの先端にいればいるほど、経営者は夢を語らなくてはいけない、将来の夢を語らなくてはいけない」と言っている。今、銀行はまさにそこにおり、戦後最大級の大きな変革期だと思っている。そういうなかで、銀行の頭取でもホールディングカンパニーの社長でも、どういう条件が求められるか。どういう経営者であるべきか。
 皆さま就任すると支店にポスターを貼る勇気があることはよく知っているが、そういうことではなく、どういう条件が求められると思われるか。
(答)
 ダーウィンの進化論に、「生き残る者は、強い者でも賢い者でもなくて、変化に対応できる者だ」という言葉があった。私はそれを越えて、変化をつくり出す、そういう気概あるいは挑戦意欲が、これからの経営者として必要な資質ではないかと思う。
(問)
 これから銀行に入る若者たちに云々というのも重要だが、今、現場で粗利をたたき出している現場の行員たちに対して、どういうことを言える経営者が必要なのか。
(答)
 私は経営者として、社員、行員を大事にしない経営者は失格だと思っている。まず真っ直ぐに愛情を注ぎ、ひとり一人の人生、キャリアを考えてあげられること、それが経営者にとっての必要条件だと思っている。
 十分条件は、先ほど申しあげたような挑戦のマインドや、新しいものに対する意欲だと思っているが、何よりも社員を大事にできない人は、お客さまや取引先を大事にできないと思う。
 そういう意味で言うと、昨年来出てきた構造改革をどのように伝え、どういう意図だったのかということについて、社員としっかりコミュニケーションをとることは、非常に大事だと思っている。もともと構造改革の意図には、各行にいろいろな思いがあるだろうが、会社で働く社員を大事にするというメッセージもある。これからは大量採用、大量退職という時代ではない。生産労働人口がどんどん減っていくなか、銀行が大量採用をして他の産業に人を供給できないような状況をつくってはならないという社会的使命からも、この問題に向き合うべきだと私は思っている。そういうなかで、仕事のやりがい、あるいは働きがい、これは働き方改革のど真ん中の話である。
 先ほど、夢を語る経営者とおっしゃった。しっかり志を持って、気力を養って、ただそれだけでは学者にすぎないので、旺盛な行動力を持って行動せよ、という吉田松陰の言葉がある。私は、その言葉をしっかり胸に秘めて、頑張っていきたいと思う。