2024年1月18日

加藤会長記者会見(みずほ銀行頭取)

辻専務理事報告

(なし)

 

会長記者会見の模様


 まず能登半島地震について一言申しあげる。石川県能登半島地方で発生した地震により、甚大かつ広範囲にわたる被害が発生している。尊い命を落とされた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された方々に心からお見舞いを申しあげる。
 先日、全銀協としても、被災された方々をきめ細かく、弾力的かつ迅速にサポートしていく観点から令和6年能登半島地震にかかる災害等への対応について申し合わせを行った。具体的には、被災された方々の預金の払戻しや融資に関わる柔軟な対応、特定の義援金口座への振込手数料の無料化、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の周知・徹底などについて、真摯に取り組んでいく。被災地域が一日も早く復旧復興を果たすとともに、被災された方々が日常の生活を一刻も早く取り戻されるよう、銀行界として全力で支援して参りたい。


(問)
 2点お願いしたい。1点目、新年最初の会見ということで、2024年の経済見通し、銀行界にとっての展望と抱負について聞かせてほしい。
 2点目、今年から新しいNISAが始まったが、銀行界として期待していること、また新NISA制度を普及させるための課題をどのように捉えているか教えてほしい。
(答)
 1点目、経済見通しと抱負について。2024年の世界経済の見通しだが、世界経済は緩やかな成長が続くと見ている。
 欧米では、金融引締めの影響から年前半は減速するものの、利下げが予想されており、その効果から年後半から持ち直すと見ている。
 中国では、不動産業界の低迷長期化や消費マインドの落込みから成長が鈍化するものの、財務による下支えもあり、大きな落込みは避けられると考えている。
 日本を含むアジア諸国では、年後半にかけた外需の持ち直しに牽引されて、緩やかに成長することを予想している。
 次に、日本経済の見通しについて申しあげる。感染懸念後退に伴うサービス消費、インバウンド需要の回復は一巡に向かうが、しっかりとした賃上げが続くと思われ、実質賃金が改善することを受けて、個人消費の増加も期待される。
 金融政策に関しては、持続的・安定的な物価安定の目標の達成に向け、賃金・物価の好循環実現、すなわち物価から賃金への波及および賃金から物価への波及を見極める段階にある。これが見通せる場合には、マイナス金利解除などの金融政策変更の検討が行われるものと考えている。
 最後に、銀行界について申しあげる。
 日本は長らく続いたデフレからの完全脱却の実現が期待される局面にあり、金利のある世界における銀行の役割期待は大きいと考えている。日本が新たな成長軌道に乗れるよう、銀行界は、企業の投資活動を財務、成長戦略面からサポートするとともに、個人の資産形成や消費活動を支え、経済の好循環の実現と社会の持続的な発展に貢献して参りたい。
 2点目は新NISAへの期待について。新NISAには大変期待している。ご案内のとおり、新NISAはこれまでから投資上限が大きく拡大し、制度も恒久化されたことで、多くの人が各々のライフプランに合わせて長期の資産形成に取り組めるツールになった。資産形成は若干敷居の高いものと捉えられがちだが、この新NISAをきっかけに、多くの人が資産運用に踏み出していくことを期待している。特に若年層はNISAが資産運用の入り口になると思うので、NISAを入り口に将来に向けた本格的な資産形成に取り組んでいくことを期待している。銀行界としてもそうした資産運用の裾野拡大に向けて、新NISAの推進に引き続き取り組んでいく。
 次に、新NISA浸透のハードルや懸念について。一つ思うのは、いま各団体や個別行がさまざまなかたちで新NISAの広報活動やキャンペーン等を展開しているが、新NISAを一過性のブームにしてはいけないということである。この流れを持続的なものにしていくには、その投資の土台となる金融リテラシーや資産形成マインドの浸透が不可欠である。そのためには、金融経済教育の推進に地道に取り組んでいくことも必要と考えている。これについては、今年は新たに金融経済教育推進機構が設立される予定である。全銀協としても新機構に参画し、官民一体で金融経済教育の推進にしっかりと貢献して参りたい。


(問)
 2点お願いする。1点目は、日本銀行の金融政策決定会合が来週開催されるが、市場では今年前半にも日本銀行がマイナス金利政策の解除に踏み切るのではないかという観測が高まっている。政策変更の是非や企業経営への影響をどう見ているか。また、冒頭にもあったが、能登半島地震を踏まえて適切な解除の時期はどういうふうに見ているのか、ご見解をお願いしたい。
(答)
 金融政策については、植田総裁がご説明されているように、物価安定の目標の達成に向けて、賃金・物価の好循環の実現を見極める段階にあると思っている。これが見通せるとの判断に至った場合には、マイナス金利解除など金融政策変更の検討が行われると考えている。デフレからの完全脱却、金利のある世界の実現が期待される局面にあると受け止めている。
 企業経営に対する影響については、マイナス金利解除による直接的な金利上昇幅は、米国に比べると小さく、貸出金利上昇による影響は限定的だと考えている。また、むしろ日米の金利差縮小による過度な円安の緩和も予想されている。原材料の輸入価格が低下し、個社の事業採算性が改善するなど、プラス面もあると考えている。
 次に、能登半島地震の金融政策への影響である。1月11日に公表されている日本銀行の「さくらレポート」では、北陸地域の経済に関して、「緩やかに回復しているものの、(この地震の)影響を注視する必要がある」と記載されている。今回の地震では、大変甚大な被害が出ている。現時点では、直ちに経済や金融政策に大きな影響が現れるものではないとは考えているが、影響がどの程度長引くかなど、状況をしっかりと注視していく必要があると考えている。
(問)
 もう1点、賃上げのところを伺いたい。2024年も賃上げの機運が高まっているが、経済状況はどういうふうに見ているか。2024年の賃上げも前年を上回る水準を期待できそうかどうか、その辺りのご見解をお願いしたい。
(答)
 足元、物価高が続いており、実質賃金の減少による緩慢な個人消費、設備投資の伸び悩みが一部では見られるが、日本経済は緩やかな景気回復基調にあると評価している。
 2024年は、コロナ感染懸念後退に伴うサービス消費・インバウンド需要の回復は一巡に向かう。しかし、物価高が徐々に落ち着きを取り戻すなか、しっかりとした賃上げが続くことで実質賃金の改善による堅調な個人消費が期待される。また、需要回復やコスト高の緩和に伴い、設備投資も持ち直すことで、引き続き日本経済は緩やかな回復基調が続くと考えている。
 2024年の賃上げ水準に関しては、2023年を上回る高水準となる可能性が高いと見ている。企業収益は歴史的な高水準になっており、企業の賃上げ余力は相応に確保されていると考えている。また、人的資本経営の浸透、人手不足感の高まりも企業に賃上げを促す要因になると思っている。
 一方、相対的に賃上げ余力の乏しい中小企業からは、前年を上回る賃金に対して慎重な声も聞かれている。政府においては、「賃上げ促進税制の強化」や「政労使の意見交換の開催」などの支援策を打ち出している。こうした支援策が中小企業経営者の背中を押し、より多くの企業の賃上げにつながることを期待するとともに、銀行界としても意欲ある中小企業の成長戦略を全力でサポートしていきたいと考えている。


(問)
 先ほど、アメリカ経済について、年前半は減速だが、利下げ効果で年後半から持ち直すという見通しを示されたが、仮にアメリカの金利が引き下げられた場合、邦銀のアメリカビジネスにどのような影響があるとご覧になっているか。
(答)
 米国の政策金利の動向は、中長期金利や資産価格、為替市場など、さまざまな金融市場の変化を通じて実体経済に大小さまざまな影響を及ぼしているのはご案内のとおりである。
 お客さまへの影響を申しあげると、一般論として、金利水準が高いときにはお客さまの利払い負担が増加することから、資金需要は減少し、一方、金利水準が低いときには、逆に資金需要は増加する傾向がある。資金需要は、景気動向にも左右されるので一概には言えないが、FRBが利下げを始めると景気の下支えに対する期待感が高まる。それとともに利払い負担の軽減による効果も相まって、徐々に資金需要が上向き、銀行の貸出残高の増加ぺースは持ち直しに転じると予想している。
 銀行への影響に関しては、政策金利の引下げは、預貸金利鞘の縮小を通じて銀行収益を下押しする可能性がある。ただし、邦銀は必ずしも米国でリテールビジネスを展開しているわけではなく、外貨貸出、外貨調達ともに市場金利に連動しやすい傾向がある。したがって、政策金利引下げによる影響は、米国の大手銀行との対比では小さくなると考えている。


(問)
 今年は世界的な選挙イヤーであり、ウクライナ、ガザ地区の問題も解決の糸口が見えないなかで地政学リスクは一段と高まっている。銀行業界として、特にどういった点に着眼し、そして何か備えるべきことがあるのか。必要なことがあるならばどういった点なのか、ご所見をお願いしたい。
(答)
 地政学リスクの高まり、あるいは選挙イヤーの中での、日本経済のリスクに関するご質問である。ご指摘のとおり、2024年は多くの国で選挙が予定されており、国際情勢の不確実性が極めて高い局面にあると認識している。
 国際政治面では、選挙結果次第で、地政学的な緊張がさらに高まることが不安材料になる。経済面でいえば、国内市場を得んがための保護主義的な動きが過度に広まることで、自由貿易・多角的貿易体制の弱体化や世界貿易の分断が進展することが懸念される。
 仮に、地政学リスクが顕在化、あるいは世界貿易が分断される事態となれば、原油などの資源、あるいは半導体といった幅広い品目の調達に甚大な影響が生じるリスクがある。その場合、日本の生産活動が停滞するほか、物価高が国民生活を逼迫させるということが懸念される。
 一方で、リスクのないビジネスはない。我々経営者には、リスク回避一辺倒ではなく、適切なリスクテイクにより、ビジネスを回していくこと、動かしていくことが求められている。大切なことは、潜在するリスクをしっかりと可視化し、対応策を準備していくこと、あるいは外部環境の変化から新たなビジネスチャンスを見出すことだと考えている。


(問)
 冒頭にあった今年の経済見通しについて改めて伺いたい。会長は4日の「新年の集い」で、高い賃上げ率の実現やサービス消費の回復を背景に、「好循環が回転し出している」「失われた30年の向こうにある成長軌道を描きたい」と挨拶されたと思うが、その経済の好循環が今年どの程度まで実現するとお考えか。また、そうしたなかでの銀行業界のあり方も併せて所見を伺いたい。
(答)
 冒頭、幹事社からも同様の質問があったので、ここでは経済の好循環が期待されるなかでの銀行界のあり方について申しあげる。銀行界に求められることは、日本の屋台骨である中堅・中小企業の挑戦をしっかりと支援することだと考えている。特に多くの中小企業では、利益率の低さなどから、賃上げ余力が十分にないなど、経済の好循環の波に乗れない可能性も懸念される。経営者にはデジタル化や従業員のスキルアップ支援を進めることで経営資源を有効に活用し、新たなビジネスへのチャレンジが求められている。この挑戦を続けることで、日本の経済成長の果実を共有することができると考えている。
 銀行界としても、伝統的な資金供給機能にとどまらず、ビジネスマッチングや事業再編、各種アドバイザリーといった情報仲介機能、コンサルティング機能も発揮しながら、中堅・中小企業の挑戦を支援していきたいと思っている。


(問)
 2点質問する。1点目が、手形小切手の利用廃止に向けた動きについて、2026年の全面廃止を目指して、大手行を中心に昨年動きや発表があったが、今後、銀行界としてどのように進めていくのか、会長の思いを伺いたい。
 2点目は、昨年、デジタル領域で生成AIが急激に広まってきたかと思うが、銀行界として、生成AIを今後どのような分野や領域で活用されていくのか、お考えを伺いたい。
(答)
 1点目の手形・小切手の電子化についての質問であるが、昨年は、手形・小切手の全面電子化に向けた機運醸成と流れをしっかりと創り出せた年だったと思っている。引続き今年度しっかりとこだわって取り組んでいきたい。
 具体的な動きとして三つ挙げると、一つ目に、「新しい資本主義の実行計画」に手形・小切手利用廃止の方針が掲げられ、わが国全体としてその推進がコミットされた。
 二つ目に、手形・小切手の利用者の実態調査を行い、改めて利用者目線で電子化が進まない理由を分析した。
 三つ目に、全銀協が事務局を務める「手形・小切手機能の『全面的な電子化』に関する検討会」において、政府方針や実態調査の分析を踏まえ、関係者間で課題認識の共有や推進施策の協議を行った。
 こうした取組みを経て、大手金融機関を中心に、新規取引先への手形・小切手の発行停止などの動きが広まりつつある。
 今後も、創り上げた機運醸成と流れを大切にしながら、利用者への周知活動や業界内の取組事例の横展開などを強化していく。具体的には、各地商工会議所での講演や、事業者向けの電子化周知ツールを作成して金融機関に展開するなどの取組みに注力していく。
 手形・小切手の全面的な電子化を実現するには、各事業者における長年の経理事務や慣習の見直し、場合によってはサプライチェーン全体での支払方法の見直しなども必要である。決して簡単なことではないが、人手不足が深刻化する中、電子化の歩みを止めるべきではなく、不可逆的な流れである。銀行界としても引き続きこだわってしっかりと取り組んで参りたい。
 2点目は生成AIについて。2023年は生成AIが、ポジティブとネガティブの両面で大いに話題になった。生成AIは、生産性向上に資するのみならず、ビジネスや仕事のあり方を大きく変革するものだと考えている。
 銀行界でも、社内業務の効率化を目的に、貸出審査の省力化、手続や書類作成サポートなどの分野で生成AIの導入が進んでいる。
 今後は、テキストのみならず、動画や画像、音声などの生成AIにも注目している。例えば、多言語に対応する対話アプリや個人投資家向けサービス、新たな金融商品設計など、顧客接点やサービスの分野での活用も十分に考えられる段階に来ているのではないか。
 AIが多くのタスクを人間と同等に代行してくれることで、人間が一層付加価値の高い業務に取り組める、あるいは取り組める環境が早晩訪れるものと期待している。
 私個人としては、このような記者会見でも生成AIが活用され、一層豊かな表現で適切な回答を支援してくれる日が来てくれることを期待している。
 一方、こうした技術発展に伴い、フェイク動画の拡散といったネガティブな事象も発生している。AIには機密情報の漏えい、あるいはプライバシー侵害、犯罪への利用など多面的なリスクもある。こうしたリスクにもしっかり対応していくことが必要であり、昨年12月のG7関係閣僚会合では、「広島AIプロセス」が最終合意された。AI関係者向けの国際指針が示され、懸念されるリスクへの対応などが盛り込まれている。
 銀行界においてもAI関連サービスが安心・安全であることは最優先のテーマである。こうした規制やルール作りの動向をしっかりと踏まえ、利活用に取り組んで参りたい。


(問)
 2点お伺いする。冒頭で地震に関してご発言があったが、改めて被災された方や、法人に対するサポート支援策について具体的なものを伺いたい。復旧・復興に向けては中長期的な支援が必要になるかと思うが、銀行界としてその辺りをどうお考えかも併せて伺いたい。
 もう1点、株価について伺う。年初からバブル期以来の高値水準を更新しているが、日経平均の現時点での株価の評価と、今年の株価の見通しについて教えてほしい。
(答)
 1点目は能登半島地震について。冒頭で少し申しあげたとおり、1月12日に申し合わせをしており、全銀協の加盟銀行は、被災された方々の状況に応じてできる限りの対応に取り組んで参る。全銀協で作成したチラシにも記載しているが、「銀行取引でお困りのことがあれば、まずは取引銀行にご連絡ください」ということをお伝えしたい。
 例えば、個人のお客さまに対しては、通帳や印鑑を紛失した場合でも、本人確認さえできれば払戻しを行う。また、既往の住宅ローンを抱えての再スタートが困難な場合は返済条件の見直しのほか、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」をご案内し、債務整理の支援を行っている。
 また、法人のお客さまにおいても、災害により工場や商品などに大きな被害が発生しており、そうしたお客さまに対する融資の迅速化や既存融資の返済猶予など、柔軟かつきめ細やかな資金繰り支援を徹底していく。
 また、災害のために支払いができない手形・小切手について、不渡報告への掲載や取引停止処分に対する配慮のほか、支払期日が経過した手形についても取立ができるように対応していく。
 依然として一部地域では断水が続いており、必要な物資も不足している状況である。そうした報道を見聞きするなかで、本当に胸が痛むばかりである。常務時代と副頭取時代、合わせて2年間、私は北陸地域を担当させていただいていた。実際に何度もお邪魔させていただいた。励ましのお電話をさせていただいたりするなかで、お客さまのお顔も浮かんで、本当に胸が痛むところである。
 被災地域が一日も早く復旧・復興を果たすとともに、被災された方々が日常の生活を一刻も早く取り戻されるよう、私自身、銀行界の先頭に立って全力を尽くして参りたい。
 2点目は株価について。日本株は年初から連日上昇しており、日経平均株価は、一時、3万6000円台を回復するなど、非常に力強いスタートとなった。背景は、堅調な企業収益や、日本銀行の金融緩和の長期化期待、円安などが挙げられるが、私個人としては、やはり日本企業の収益見通しへの期待の現れではないかと評価をしている。
 ご質問いただいた日本株の見通しだが、日米の金融政策、それに伴うドル円相場の行方次第で、年央に一時的に弱含む場面があるかとは思うが、年後半にかけては持ち直していくのではないかと見ている。TOPIXの12ヶ月先予想PERを見ても、特に割高感はなく、株価上昇余地は十分にあると思っている。
 日本の企業収益は歴史的な高水準となっている。賃上げを通じて家計に利益が還元されることで、個人消費の喚起も期待される。堅調な企業収益、1月の東証による経営改革要請の本格化が日本株の下支えに繋がると見ている。申しあげるまでもないが、短期的な株価変動に一喜一憂すべきではないと思っており、中長期的な目線でしっかりと経営構造改革を進めて投資家の期待に応えていくことが重要であると思っている。


(問)
 金利の影響について伺いたい。イールドカーブが立つ世界になると、保有債券の含み損が膨らむ局面になる。銀行のうち、国際基準行の場合は厳しい規制に向き合っているのでALMなどの技術も発展しているが、そうではない銀行もあり、こういったALM技術の差が、今後銀行の優勝劣敗を決めてしまう可能性があるのではないかと思っている。特に地銀だが、こうした金利リスクをどのように認識して、どのようにコントロールするべきか、会長の考えを伺いたい。
(答)
 一般的な見解となるが、ご指摘のとおり、金利がある世界、あるいは金利が動く世界においては、流動性リスクや金利リスクなどのALM管理に対する態勢の重要性が増すことは申しあげるまでもない。
 ご指摘のとおり、有価証券投資に関しては、金利上昇による国債などの保有債券の一時的な評価損益の悪化が懸念される。これまでよりも、各行の金利見通しの差異やポジションに対する損益の振れ幅が大きくなると予想されるため、運用の巧拙が銀行の収益に与える影響は大きくなると考えている。
 また、金利のある世界においては、銀行ビジネスの起点である預金の重要性が高まると思っている。利便性の高い決済サービスなど預金にひもづくサービスの強化が、ALMの安定性や収益性を高め、銀行の優勝劣敗を決める一つの鍵になると考えている。
 次に、金利リスクの認識、コントロールについてである。有価証券投資を含めたALM管理は、市場環境や財務状況を踏まえ、金利のリスク量、損失限度、ストレス時の資金流出テストなど、各行がそれぞれ定めたリスク許容度の範囲内で、現在も適切に運営している。この全体の枠組みや運営をより一層高度化しながらしっかりと継続することが大事だと考えている。


(問)
 賃上げの話があり、日本経済全体にとって好循環を支えるために非常に重要で、銀行界としても後押ししたいと言っていたが、後押しという面で、貴行を含めて銀行界はまだ賃上げの報道も出てこないなかで、なかなか難しい中、どれくらいの規模を考えているのか、どれくらいの規模で支えるべきなのか、見通しを含めて伺いたい。
 大阪万博で気になることがある。能登半島地震を受けて、今後復旧等で人材や機材が必要になるなか、開催に向けて非常に厳しい意見もあるが、これについても伺いたい。
 昨年来はジャニーズ問題で、いろいろな企業を含めCM等を見合わせた。今度は吉本興業、ダウンタウンの松本さんの問題でCM等を見合わせたという話を我々テレビ業界も受けている。こういった動きをどう考えているか。
(答)
 1点目は、銀行界の賃上げについて。ご案内のとおり、賃上げは各行の経営環境、経営戦略が一様でないため、銀行界として一律に定めているものではない。個人的見解になるが、足元の物価水準や人材確保の観点、あるいは人的資本経営の観点からも、賃上げは十分あり得ると考えている。
 賃上げに関しては、先ほど申しあげたとおり、中小企業は大企業に比べて賃上げ余力の乏しい先が多いことから、前年を上回る賃上げに対して慎重な声も聞かれている。先ほども申しあげたが、こうした声を踏まえて、政府は、「賃上げ促進税制の強化」などを通じて中小企業の賃上げを強力にサポートしている。こうした政府の取組みが、中小企業経営者の背中を押し、より多くの企業での賃上げに繋がることを期待している。
 個別行の話はこの場では相応しくないので詳細は申しあげないが、みずほとしても「新たな人事の枠組み」へ移行する中で、しっかりと処遇を見直していきたい。また、物価上昇も踏まえた対応も検討していく。
 2点目の大阪・関西万博に関するご質問だが、今回の能登半島地震において万博が遅れるのではないかというご質問か。
(問)
 場合によっては中止すべきじゃないかといった声まで、ネットやいろいろなところを見ているとあがってきているので、そういったところを踏まえて、お答えいただきたい。
(答)
 能登半島地震からの復旧・復興と、日本の魅力を発信するための大阪・関西万博の準備は、それぞれの位置づけが異なる。それを前提に個人的な見解になるが、震災の復旧あるいは復興が万博の準備に支障を来すかどうかを評価する材料を残念ながら持ち合わせていない。ただし、当然、今回の震災で被災された方々が、いち早く日常生活に戻れるよう取り組むことが最優先事項であると考えている。
 3点目は、吉本興業、松本人志さんの話だが、著名人のスキャンダルということで、多くの報道がなされているのは承知しているが、個別の事案であり、コメントは差し控えさせていただく。


(問)
 マネー・ローンダリングについて伺いたい。大手行はマネー・ローンダリングの入り口のところからしっかりと取り組んでいると思うが、私自身、自分の話で言うと、最近、娘の銀行口座を開いたときも詳しい書面を書かされて、行員から窓口で「すみません」と言われたときに、「大丈夫です。KYCですから。私の家族はPEPsではありません」と言ったら唖然とされた。脅威と対策の必要性について、本当に会員行全部が認識しているのか。別に外為送金をやっていないし、関係ないと、他人事に思っているところもあるのではないか。会長として、全会員行をまとめていく、認識を醸成するうえにおいて、どのような課題があると考えているのか伺いたい。
(答)
 マネロン対策が十分でない国は、国際的な信用が得られず、例えば海外送金が取り扱えなくなるなど、経済活動に非常に大きな影響が及ぶ可能性がある。
 FATFや関係当局の指摘もあり、マネロン対策の重要性はすべての会員銀行が認識していると私は思っている。その一方で、求められる水準や具体的な対応については、ご指摘のように認識や理解にばらつきがあることから、一層の対策の高度化に取り組む必要がある。
 意識醸成や対策の底上げに当たって一番大切なことは、各行の自助努力である。ただしそれだけではなく、官による指導や、銀行の垣根を越えたサポートも重要と考えている。
 官による指導については、2018年に金融庁が「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」を公表した。金融機関における実効的なマネロン対策の基本的な考え方が示されており、各行が自らの態勢とのギャップ分析を行ったうえで、本年3月の期限に向けて規程類の整備等、まずは形式面の態勢整備に取り組んでいるところである。
 なお、マネロン対策においては実際の運用面が重要であり、金融庁からは、「マネロン等リスク管理体制に問題があると認められた場合には、必要に応じ、法令にもとづく行政対応を行う」という強い警鐘が鳴らされている。
 また、銀行の垣根を越えたサポートについては、全銀協が昨年1月にマネロン対策共同機構を設立しており、今後、銀行の垣根を越えた互助・互恵的な取組みを通じて、業界全体の対応力の底上げを目指していく。
 昨年7月の会見で説明させていただいたので詳細は割愛するが、大手の銀行のノウハウや先進的な取組み事例の横展開、金融機関同士で情報共有・情報交換を行う場を設けるなどのサービスを、今年の4月からスタートする。実務面に加え、各行経営陣向けの研修を通じて、マネロン対策への意識醸成も図る予定である。
 会員銀行の規模や経営状況はさまざまであり、意識醸成や対策の底上げは決して簡単ではない。一つの施策で解決できるものでもない。官民での地道な取組みを継続することで、マネロン対策の高度化をしっかり図っていきたいと考えている。


(問)
 1点目は、事業成長担保に関わる新法案が今国会に提出される見通しだが、これに関して銀行界としてどう対応し、活用していくのか考えを伺いたい。
 2点目は、先日、民間の調査会社の統計で、昨年の企業倒産件数が8年ぶりに高水準だという結果が出て、今後も企業倒産件数が増えていくとみられている。特に中小企業の経営環境をどうみていて、どう支援していくのか考えを伺いたい。
(答)
 1点目は、事業成長担保に対する評価と活用方法について。事業成長担保権は無形資産を含む事業全体を担保とする新しい制度である。事業性評価にもとづく融資の一つの選択肢になり得るものと捉えている。
 昨年2月に公表された金融審議会の報告書によれば、事業成長担保権は返済が困難な局面における保全・回収手段にとどまらず、金融機関が事業者と緊密な関係を構築し、事業性や将来性の理解を動機づけることを目指している、とされている。具体的な活用局面については、例えばスタートアップへの融資が考えられる。スタートアップは先行投資を積極的に行う一方で、有形資産に乏しいため、資金調達上の課題が指摘されている。担保としての事業評価を通じて、事業の優位性や成長性、将来キャッシュフローに関する定量的な目線合わせや相互理解が高まれば、これまで以上に資金調達の円滑化に資すると考えている。また、これらの理解が事業支援にもつながっていくことが期待される。
 昨年12月1日には、「事業性融資推進に関する基本方針」が閣議決定され、事業性融資推進の施策がまとめられている。事業成長担保の創設に加えて、金融機関や事業者を支援する事業性融資推進支援機関の認定などが盛り込まれている。法案成立後、関連する法案の施行までには、年単位の時間を要することが想定されている。今後、本制度の活用を見据えて、銀行界として担保や保証に過度に依存しない事業性融資の取組みを進めて参りたい。
 2点目は、中小企業の倒産と資金繰り支援について。東京商工リサーチによれば、中小企業の倒産件数は、2023年は8,690件とコロナ前をやや上回る水準であった。業種別の増加幅をみると、2022年との対比では情報通信・サービス業、建設業が、コロナ前の2019年との対比では運輸業が大きくなっている。
 1月11日に公表された日本銀行の「さくらレポート」によると、国内各地の景気は持ち直している、または緩やかに回復している、とされている。他方、わが国の構造的課題である人手不足や物価高が足かせとなっている声も多くみられる。これらは短期的に解消が難しい課題であることから、2024年も倒産件数は現状の水準、もしくはそれを上回る水準で推移するとみている。
 このような環境下、先月の会見でも申しあげたとおり、全銀協はコロナ禍の資金繰り支援から経営改善・事業再生支援に取り組む段階に移行すべく、昨年11月に、「常日ごろから丁寧かつ継続的な対話を通じて経営課題を見極め、早期の解決策の提案を行っていく」、旨の申し合わせを行った。また、これらの趣旨を反映・改正した「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」を1月17日に公表している。
 早期の経営改善・事業再生について、物流事業者を例に挙げると、例えば、単独で事業意欲が旺盛な企業には、人手不足への対応として、配達ルートの最適化や倉庫作業のロボット化など省力化に資するDX支援を行うことが考えられる。また、経営者が高齢であることなどを理由に退出を希望する場合には、有力な中堅企業へのM&Aの仲介や、円滑な廃業をサポートすることも有効と考えている。
 経営状況や事業意欲に応じて、一定程度、企業の退出が発生することは、産業の新陳代謝や活性化の観点からは必要と考えている。他方、倒産、すなわち法的破綻等に至る前に、早期にこうした各社の経営課題に応じた解決策の提案を行うことが、退出後の経営者、従業員の再チャレンジの観点で重要になってくると考えている。


(問)
 冒頭の新NISAに関する発言で伺いたい。会長から「金融リテラシーの向上」や「資産形成マインド」という単語が出たり、一過性のブームにしてはならないというお話があった。随分と消費者に寄せている印象を受けたが、確かに今回大きな制度改正で、これまで何十年も「貯蓄から投資」とか「資産形成へ」という掛け声倒れだったわけだが、それが進まなかった理由の一つは、消費者の期待に応えてこなかった、あるいは裏切り続けたと言ってもいいと思っているが、販売会社としての銀行、証券会社、資産運用会社の責任も重いと思っている。新NISAのスタートに合わせて、金融機関としてそもそも過去をどのように総括して、これから一段と責任が重くなるわけだが、その責任を果たせる体制ができているのか、あるいは過去と違う、過去の延長線ではない覚悟を持っているのか、会長のお考えをお聞きしたい。
(答)
 覚悟という意味では、資産運用立国の実現は、日本の経済成長あるいは国民の安心できる生活の実現に必要だと思っており、しっかりと覚悟を持って取り組んでいきたい。
 過去どういった取組みをしてきたかという部分については、もちろん経営戦略として取り組んできたが、やはり外部環境もあるかと思っている。失われた30年という表現もあるが、経済成長も金利もフラットな環境下で、なかなか資産運用というものを十分に訴求できなかった点は、我々としても真摯に反省しなければいけない。ただし、事実として外部環境は厳しかったと思っている。
 一方で、ようやく経済が活性化してくるなかにおいて、販売会社として貢献をしていくために、しっかりと取り組んでいきたいと思っているが、我々として肝に銘じなければいけないことは、お客さまのニーズを適切に把握して、お客さまに寄り添ったかたちで運用商品を提供していくことが一番大事だということである。すなわちFDをしっかり遵守するということである。加えて、金融経済教育にも取り組み、お客さまサイドにも運用のリスクなどをしっかり理解いただけるようリテラシーの向上にも努めていく。こうした取組みを進めていきたいと思っている。


(問)
 日本銀行の金融政策に関する質問だが、正常化に至った場合、金利が上昇する局面において、銀行の法人貸出の環境にどのような変化があると見ているか。また、金利負担が中小企業の経営にどのような負担を与えると考えているか、返済猶予などに至るケースもあるのか。見解をお願いしたい。
(答)
 1点目は、法人貸出に対する変化について。金利が実体経済に沿って、緩やかに上昇する局面では、企業の借入需要は堅調に推移するものと期待している。銀行界として、こうした借入需要にしっかりと応えていきたいと考えている。
 マイナス金利の解除後、緩やかな利上げなど金融政策の正常化の過程におけるマクロ環境は、持続的な賃上げが期待され、モノやサービスの価格も持続的に上昇することが予想される。このような環境において、企業にとっては、よいモノ・サービスには高くとも適正な料金を支払うビジネス環境が整い、新たな価値創造に向けた投資需要が喚起されることが期待される。また、今後もGX・DX関連の投資に伴う借入需要も根強いと考えている。お客さまからは、借入の適用金利を懸念する声よりも、日米金利差が縮小し、過度な円安が修正されることで、輸入資材価格などが低下することを期待する声を聞いている。
 一方、銀行にとっては、マイナス金利解除により貸出や預金を中心とするバランスシート構造から生まれる基礎的な収益力が強化されることも事実である。こうした収益力で、例えばこれまでリスクを取りづらかったスタートアップなどの資金需要に対しても、しっかりと応えることもできるようになってくるのではないか。
 2点目は、中小企業の経営に与える影響について。借入のある中小企業にとっては、金利が上昇すれば企業の直接的な金利負担は増加することとなる。ただ、先ほど申しあげたように、商品・サービスに対して適正な対価が支払われる環境が期待されている。高い事業意欲を持って、よりよい商品・サービスを提供する中小企業が、金利をはじめとするさまざまなコスト上昇を上回る売上、収益の増加を実現していくことで、経済の好循環が生まれてくると考えている。
 銀行界としては、金利動向に関する情報提供は当然ながら、借入金額や期間、変動あるいは固定金利の選択について、最適なコストシミュレーションを提案することが必要である。日本では、米国のような急激な金利上昇は想定されにくい環境だが、長らく低金利、マイナス金利の環境が続いたことも踏まえ、丁寧に資金繰り負担への影響を極小化して参りたい。ただし、価格転嫁が追い付かない、あるいは競争力がなくコスト負担に耐え切れない企業も生じてくるのではないかと思っており、返済猶予や事業再生が必要になる兆候については早期に把握できるよう、平時から経営課題の把握に努めて参りたい。