令和2年2月4日(火)14:25~15:15

 5時間目は、「若者が狙われやすい悪質商法」についてジグソー法※での活動から理解を深める授業が実施されました。

 ※学習者同士が協力し合い、教え合いながら学習を進めいていく学習方法の一つ

 はじめにホームグループに分かれ、活動の流れ(タイムスケジュール)について確認しました。

 14:30から10分間のエキスパート活動(同じ資料を読み合うグループを作り、資料に書かれた内容や意味を話し合って理解を深める活動)、席替えの後10分間のジグソー活動(異なる資料を読んだ人が一人ずついる新しいグループに組み替え、エキスパート活動で分かった内容を説明し合う活動)、ホームグループに戻って10分間のクロストーク活動の後、各班の発表という流れです。

 エキスパート活動では、エキスパートA、B、Cに分かれ、それぞれ以下を目標に担当する内容についてワークシートを読み込んで理解を深めていきました。

  エキスパートA(被害者):若者が狙われやすい悪質商法の事例の状況を理解し他者に説明できる

  エキスパートB(カウンセラー):人はなぜ騙されるのか消費者心理を理解し、若者にアドバイスできる

  エキスパートC(弁護士):悪質商法防止のための法律を理解し、若者に適切な解決策を提示できる

 被害者役の生徒は、複数ある被害事例を読み込み、自分の言葉で状況を説明できるようワークシートにまとめ直していきました。被害事例の一つは以下の内容でした。

 被害事例:20歳の誕生日に高校時代の友人から「人生を変えてやる」と電話で呼び出された。食事をしながら友人から、投資用DVDを購入してから自分の人生が変わったことなどを聞かされた。さらに、「投資の話に詳しい人がいて、話だけでも聞いてほしい」と言われ、断りきれずにそのまま別の喫茶店で販売業者と会った。販売業者から「月に少なくとも20万円は稼げる」と言われ、投資用DVDの説明を受けた。
 この時には人を紹介することでお金をもらえるとは思ってもみなかったし、友人を信頼していたので、とても断れる雰囲気ではなく、約60万円で投資用DVDを購入する契約に同意した。
 翌日、お金の借り方を友人から指南されたとおり、指定された学生ローン複数社から「車を買う」という名目で合計約60万円を借りた。再び喫茶店に行き、販売業者に代金として現金約60万円を渡し、契約書に記入して投資用DVDを受け取った。
 実際の投資のやり方などについて販売業者に聞いたがなかなか教えてもらえず、やっと証券口座の開設について教えてもらった。しかし、既に投資用DVDを購入した際の借金を返済するのに精一杯で投資するお金自体がなかった。
 販売業者に「借金の返済に困っている」と言うと、誰かを紹介すると1人につき10万円渡すということばかりを強調された。そもそも誰かを紹介することで利益を得られるということを知っていたら絶対に契約はしなかった。解約・返金してほしい。 

 カウンセラー役の生徒は、消費者を騙すテクニック(フット・イン・ザ・ドアやハロー効果等)や消費者の心理がゆがめられてしまう理由(確証性バイアスや正常性バイアス等)を確認し、被害者にアドバイスできるよう理解を深めていきました。弁護士役の生徒は、悪質商法防止のための複数の法律や制度を理解しなければいけません。専門用語が多く似たような法律もあることから、被害者に解決策を提示できるようになるためにとても苦労している様子が伺えました。

 10分間のエキスパート活動の後、ジグソー活動に進んでいきました。

 被害者から事例を聞いて、カウンセラーは消費者心理を踏まえたアドバイスを、弁護士は法律や制度を踏まえた解決策の提示を行っていきました。カウンセラーは、事例のどの部分(場面)が騙しのテクニックなのか、消費者の心理がゆがめられてしまう理由なのかを明確にすることに苦労していました。弁護士は、加害者の行動(どの時点で契約に関する大事なことを告知しているか、契約をさせる際の説明内容など)を時系列に沿って慎重に確認しながら、どの法律や制度に当てはまるのか、時間をかけて解決策を提示していきました。10分間で内容を取りまとめ、ホームグループに戻りました。

 次は、ホームグループでのクロストーク活動です。それぞれがエキスパート活動・ジグソー活動で収集した情報を説明し、事例について「騙されてしまった心理」、「それを選んだ理由」、「解約に使える法律・制度」をグループの意見として取りまとめ、発表を行いました。

【各班の発表内容】
騙すテクニック 選んだ理由(被害者心理) 解約に使える法律・制度
1 ハロー効果 「月に少なくとも20万円は稼げる」と販売業者に言われた 消費者契約法
2 ハロー効果 消費者契約法
3 ハロー効果 消費者基本法?消費者契約法?

 発表の後、先生から以下のとおり解説がありました。その際、騙される心理は1つとは限らないので、1つの例として捉えるよう注意がありました。

騙すテクニック 被害者心理 解約に使える法律・制度
フット・イン・ザ・ドア
(「話だけでも聞いて欲しい」という小さな頼みごとを受けてもらってから、「60万円で投資用のDVDを購入」という大きな頼みごとも受けてもらう。)
認知バイアス
(高校時代の友人を信頼し、「まさか騙すはずがない、本当に儲かるのだろう」という先入観を持ってしまった。)
消費者契約法:不実告知(誰かを紹介することで利益を得られるということを言わなかった)、断定的判断(「月に少なくとも20万円は稼げる」と言った)
特定商取引法:訪問販売での契約のクーリングオフ(モノでないと解約が難しい場合もあり) 〈番外編〉
埼玉県の条例(望まない取引の禁止)
民法(虚偽)

 消費者トラブルは少し状況が違うだけで、消費者が騙す側にも騙される側にもなる可能性があります。この事例でも、もし被害者が販売業者の誘導に従って別の友人を勧誘していた場合には、トラブルの加害者側となっていました。

 先生からは、規制緩和や国際化、IT化により社会は一層複雑化し、地域・家族の弱体化により相談やチェック機能が働かない現状において、消費者は弱者であり保護すべき立場であると考えられていると共に、集まれば巨大な力を持つ強者としての側面、総体として社会に影響を与える存在であるという自覚を持ち、日々生活していくことの大切さが伝えられました。

 最後に消費者被害の事例研究授業を受けた感想をまとめ、授業は終了しました。

【生徒の感想(抜粋)】

  • 今回の授業で、自分が被害者にも加害者にもなることが分かった。自分はどちらかというと騙されやすいと思うので、友達だからといって深く信用せず、細かなところまで確認して騙されないようにしたい。
    また、自分の買い物が世界を変えるとはいえ、生活の事情もあるのでどうしても安い物を買ってしまう場合もあると思う。何とかならないものかと思う。
  • 自分には関係ないというのではなく、一人ひとりが意識を高めておくことが必要だと思う。自分も加害者や被害者になる可能性が十分にあることを考えると、とても恐ろしい事であり、気を付けることが大切だと思った。
  • 自分は騙された(被害者)と思っていても、知らぬ間に加害者になっているかもしれないと知り、とても驚いたし怖くなった。自分が人や環境に影響をもたらす存在であることを自覚する必要があることが分かった。私たちの周りには気づいていないだけで危険が潜んでいると思うので、授業で学んだ消費に関する知識を生かしていきたいと思った。