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トランジション・ファイナンス関連情報

有識者コラム

トランジション・ファイナンス推進に向けた日本の取組み

金融庁総合政策局総合政策課サステナブルファイナンス推進室長(兼)チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー 髙岡文訓

 サステナブルファイナンスとは、直訳すれば持続可能な金融ということになりますが、要すれば、気候変動等の環境・社会課題に対応するうえで必要となる資金を供給して、持続可能な経済社会の実現を図るための金融活動ということになります。
 サステナビリティに関する課題の中でも、気候変動対応は当面、最も喫緊かつ重要な課題であり、脱炭素の取組みが世界的に進められてきています。こうした取組みに伴う設備投資や技術開発には巨額の資金が必要とされており、引き続き、サステナブルファイナンスの重要性が高まっているものと考えています。

 わが国では、2050年カーボンニュートラル実現という目標を掲げており、その達成に向けて、2023年度から10年間で、GX経済移行債を活用した20兆円規模の先行投資支援を含む150兆円規模のGX投資を実現することとしています。
 その一端を担う重要なファイナンス手法として、「トランジション・ファイナンス」が挙げられます。脱炭素化に関しては、特にその業種特性等から温室効果ガス(GHG)を多く排出する産業に属する企業においては、一足飛びに脱炭素を実現することは困難であることから、わが国としては、そうした直ちに脱炭素化が困難な産業・企業が、省エネやエネルギー転換などの「移行」を行ううえで必要となる資金の供給を行う「トランジション・ファイナンス」を推進してきました。
 具体的には、黎明期にあったトランジション・ファイナンスを普及させ、その信頼性を確保することで、脱炭素に向けた資金調達手段としてその地位を確立することを目的として、2021年5月に「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」を策定しました。また、2023年には、

  • 資金供給後のフォローアップに焦点を当てた「トランジション・ファイナンスにかかるフォローアップガイダンス」、
  • 金融庁の「脱炭素等に向けた金融機関等の取組みに関する検討会」で議論を行い、報告書として取りまとめた「ネットゼロに向けた金融機関等の取組みに関する提言(ガイド)」、
  • 金融機関がトランジション・ファイナンスを実行する際、投融資先の排出量(ファイナンスド・エミッション)が一時的に増加する課題に対する方策を示す「ファイナンスド・エミッションの課題解決に向けた考え方」

を公表するなど、様々な政策的なツールを打ち出してきました。
 こうした取組みもあり、多排出産業を中心にトランジション・ラベルでのローン調達やボンドの発行が進み、わが国の民間企業によるトランジション・ファイナンス市場は2024年末までの累計発行額2.3兆円超に成長しました。

 気候変動問題を巡っては、足許で米国における政策変更の動きが見られ、また、EUにおいてもこれまで推進されてきた規制の簡素化の動きが見られる中、世界で地球温暖化対策の機運が後退するのではないか等、様々な見方があります。
 しかし、気候変動問題は、国際社会全体での取組みが必要なグローバルな課題であり、全ての国の取組みが重要であることに変わりはないと考えています。脱炭素への現実的な移行に向けてトランジション・ファイナンス等の取組みを進めてきたわが国では、2050年カーボンニュートラルの実現という政府としての方針を維持し、引き続きその達成に向けた取組みを着実に進め、官民協調の下でトランジション・ファイナンス市場の健全な発展を推進していきます。

髙岡 文訓(たかおか ふみのり)金融庁総合政策局総合政策課サステナブルファイナンス推進室長
チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー

 足許の数年間は、金融庁において、副大臣秘書官、総合政策課総括課長補佐(企画担当)、監督管理官、保険監督調整官、地域銀行監督調整官等を歴任。経済対策・成長戦略等の取りまとめ、金融サービス仲介業者向けの総合的な監督指針の策定、行政手続きのデジタル化、保険会社や地域銀行のモニタリング業務等に従事。
 内閣官房郵政民営化推進室、外務省(在ドバイ日本国総領事館)及び財務省主税局(国際租税担当)への出向経験あり。
 2024年7月より現職で、「サステナブルファイナンス有識者会議」、「インパクトコンソーシアム」、「カーボン・クレジット取引に関する金融インフラのあり方等に係る検討会」等の事務局運営に従事。2025年7月からは、チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサーを兼任。