
2024年7月、「脱炭素成長型経済構造移行推進機構」、通称「GX推進機構」が業務を開始した。政府はGX(グリーン・トランスフォーメーション)、すなわち脱炭素化と産業競争力強化・経済成長の同時実現に向けた政策を強力に推進しており、今後10年間に、官民で150兆円超のGX投資実現を目指している。そのうち約20兆円は国による先行投資を行うこととしており、その資金調達のため、世界初の国債としてのトランジションボンドである「GX経済移行債」を導入し、2024年2月から発行を開始した。しかし、差し引き130兆円超については民間資金の動員が必要であり、サステナブルファイナンス、トランジション・ファイナンスといった金融手法の発展が求められる。こうした民間のGX投資の促進が、GX推進機構の主たる任務である。
GX推進機構には3つの業務の柱がある。最も中核的な業務は、金融支援の提供である。GXプロジェクトやトランジション・ファイナンスには、対象となる技術や市場の不確実性、コストの高さなど、民間だけではリスクが取りにくいものが多い。機構が、GXに取り組む企業やそのプロジェクトに対して債務保証ないし出資を行い、リスクを軽減することによって、GX事業を推進する。2025年7月、最初の金融支援案件(出資)を公表し、2026年3月には、4件の債務保証案件を公表した。その一つは、本コラムでJFEスチールの手塚氏が言及された、鉄鋼産業における革新的電炉への投資への支援である。
第2の業務の柱は、カーボンプライシング制度の運営である。GX政策の重要な柱として、「成長志向型カーボンプライシング」を今後段階的に導入していくが、その第一弾として、2026年4月から、排出量取引制度が開始した。機構は、2027年秋に予定する排出量取引市場の導入・運営を含め、この制度の実務の一端を担う。また、2028年度から導入される化石燃料賦課金の徴収も行うこととなっている。
それらに加え、第3の柱として、「GXハブ」機能を発揮する。機構が、産業・金融・政策を結ぶ結節点として、さまざまなステークホルダーと連携し、GXやサステナブルファイナンスに関する調査・研究、企業連携の推進、政策議論の促進と内外への発信等、幅広い取組みを行い、社会全体でのGX推進を図っていく。
「GXハブ機能」の一環として、関連企業を招いた定期的なセミナーを開催する等、ステークホルダー連携を推進している。2026年4月には、GXに取り組む企業間のネットワークとして活動してきた「TCFDコンソーシアム」および「GXリーグ」を統合・改組した「GXフューチャー・コンソーシアム」が発足し、機構がその事務局を担っている。同コンソーシアムでは、幅広い会員を対象に、リテラシー向上や交流に資する活動を行う「GXフューチャー・アカデミー」および、GXに関し一定のコミットメントを行う会員が、ルール形成等に向けた実践的な議論を行う「GXフューチャー・リーグ」を展開していく。また、2024年に「地域連携室」を設置して、地方との連携も進めており、全銀協・地銀協の協力もいただきながら、2025年には20行以上の地方銀行を訪問した。さらに、国際的なステークホルダーとも積極的に連携を図っている。その一環として、気候変動対策やサステナブルファイナンスに関する世界的な有識者達から構成される「Global Advisory Council」を設置し、機構への助言や、国際的発信への協力をいただいている。2025年11月に、経済産業省と共に開催したGGX Finance Summitでは、Global Advisory Councilのメンバーを集めたパネルディスカッションも行い、現下の世界情勢においても脱炭素への取組みはたゆまず進んでいることや、その中で日本のGX・GX推進機構の果たす役割への期待について、力強いメッセージが発信された。
筆者は財務省職員として30年以上勤務しているが、2015~18年にパリ・OECDに出向し、グリーンファイナンスを担当した。その後、私的にGreen Finance Network Japanを発足・運営するほか、2022~24年にかけて金融庁総合政策課長としてサステナブルファイナンスを担当するなど、さまざまなかたちでこの分野に関与している。こうした経緯もあり、2024年夏に機構が立ち上がる際、理事として出向することとなった。この2年の間に、米国における第2次トランプ政権の発足と政策転換等、逆風となる動きも生じているが、それでも世界の脱炭素への取組みは着実に進展している。そして、このような状況であるからこそ、日本、そして日本のGX推進機構の役割は増大している。上記のようなGX推進機構の活動が、サステナブルファイナンス、トランジション・ファイナンスのさらなる加速につながることを期待している。