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トランジション・ファイナンス関連情報

有識者コラム

トランジションとトランスフォーメーション/その温度差を探る

株式会社日本総合研究所フェロー 足達英一郎

 気候変動対策の文脈でトランジションという言葉が海外からわが国に移入されたのは、2019年頃だった。その後、「環境イノベーションに向けたファイナンスのあり方研究会」が発足し、「クライメート・トランジション・ファイナンスの考え方」を公表した。「タクソノミー」を設定して、化石燃料など非グリーン資産への資金供給を規制する動きを先行させた欧州に対して、技術・コストの両面から一足飛びに脱炭素化が難しい地域や産業における、省エネルギー・燃料転換などの漸進的な取組みを重視し、そこへの資金供給を確実なものにする政策を優先させる判断がそこには色濃く反映された。その後、グリーン・トランスフォーメーション(GX)を気候変動対策のキャッチフレーズとして使用するようになると、トランジションとトランスフォーメーションの境界は、相当、曖昧になった。

 興味深いのは、欧州では従来から、この両者は別の用語として認識されてきた点である。例えば、K Hölscherらの論文Transition versus transformation: What’s the difference? (2018)(注) は、「トランジション(移行)」と「トランスフォーメーション(変革)」という用語が科学文献においてどのように適用され、解釈されているかを比較した。トランスフォーメーションに関する研究は、社会全体の大規模な変化を指すために適用されることがより一般的であり、それは世界的、国家的、あるいは局地的なものであり、相互作用する人間および生物物理学的システムの構成要素を内包するという。対照的に、トランジションは主に、社会的サブシステム(例:エネルギー、モビリティ、都市)の変化を分析するために用いられており、社会的、技術的、制度的相互作用に焦点を当てていると指摘している。

 重要なのは、この論文の筆者らが、トランジションの概念は既存の権力ダイナミクスに疑問を投げかけない狭いシステム変化の概念を招くという批判を受けやすいことを指摘したうえで、トランジションとトランスフォーメーションの対比は二元論ではなく、双対性(duality)であり、両者は排他的ではないとも論じている点にある。

 わが国において、トランジション・ファイナンスの推進が打ち出されるようになって、ほぼ7年が経過することを踏まえれば、調達された資金がどのような使途に使用され、それが温室効果ガス排出削減にどれだけの効果を上げたのかを客観的に検証するタイミングを迎えていると言えるだろう。国の発行したクライメート・トランジション・ボンドに関しては、研究開発投資をトランジション・ファイナンスとすることへの違和感を指摘する声が依然、絶えない。そうした懸念を解消するためにも、研究開発の過程で削減効果の蓋然性がどこまで高まったかを率直に評価することが急務である。とりわけ、終了に至った事業については、成果の詳細な公表が欠かせない。そして何より、追加性と改善効果が確実に見込める設備投資支援に可能な限り資金使途を収斂させていくことが、トランジションとトランスフォーメーションの相互補完性を高める観点から再確認されるべきである。

 2023年度から2032年度の10年間に、官民で合わせて150兆円超の投資を実行していく政策を、真に実効的なものにするためには、いま一度立ち止まって、トランジションの意味やトランジション・ファイナンスのあり方を再検証してみることが有効なのではないか?これまでの資金使途が、一足飛びに脱炭素化が難しい地域や産業において省エネルギー・燃料転換などの漸進的な取組みを支援することになっているのか、皆が確信を持てるようにすることが、民間資金を本格動員するためには不可欠である。

(注)論文は、オランダ・エラスムス大学のサイトからダウンロード可能である。

足達 英一郎(あだち えいいちろう)株式会社日本総合研究所フェロー

一橋大学経済学部卒。
株式会社日本総合研究所入社後、1999年から同社で、環境問題を始めとするサステナビリティの諸課題を切り口にした産業調査、企業評価の業務に従事し、2006年からはESGリサーチセンター長なども務めた。2002年からは経済同友会「『市場の進化と21世紀の企業』研究会」ワーキンググループメンバーとして、第15回企業白書の編集に携わる。2005年から2010年にISO26000(組織の社会的責任に関する国際規格)作業部会の日本国エクスパート。現在はISO/TC322(サステナブルファイナンス)の日本国エクスパート・国内委員会委員長、一般社団法人鎌倉サステナビリティ研究所特別顧問、法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科兼任教員など。