第1研究グループ

資産デフレと政策対応

報告書(平成16年6月21日公表)

  • 金融調査研究会第1研究グループ政策提言「資産デフレ脱却への方策」
    平成16年3月16日に開催された金融調査研究会コンファレンスにおける、清水主査からの報告資料である。現在の日本経済の喫緊の課題である資産デフレからの脱却に向けて、「マネーサプライを拡大する」、「資産選好を変える」、「資産効率を高める」、そして「アセット・ファイナンス市場を拡大する」という4つの観点からの提言を行っている。
  • 第1章 資産デフレへの政策対応(清水啓典 一橋大学大学院商学研究科教授)
    デフレ脱却の方策として、ゼロ金利下でも日銀と財務省が協力することによって非伝統的手段によるマネーサプライ増大が可能であること、また、伝統的銀行貸出ルートを通ずるマネーサプライ増大のために、BIS規制の撤廃による借り手の期待の変化が有効であり、当局による過剰な規制が、銀行の自由なリスクテイクを阻害して金融市場の活性化を妨げている点を指摘している。自己資本比率を基準とした画一的規制に代えて、株式市場での評価自体を重視すべきであることを主張している。
  • 第2章 1927年銀行法の下での銀行の集中と貸出(寺西重郎 一橋大学経済研究所教授)

    昭和恐慌時の銀行合同がマクロ経済にどのような影響を及ぼしたかを詳細な実証分析によって明らかにし、現在へのインプリケーションを導き出している。銀行集中政策は不健全な銀行を整理しただけでなく、必ずしも不健全でない銀行についてもそれが持つ情報価値と情報チャネルを破壊し、マクロ経済に負の影響を及ぼした可能性がある。不良債権処理は長期的には望ましいことではあるが、不況期にはとりわけ短期的な負の影響をも勘案しつつ実施されなければならないことを指摘している。

  • 第3章 銀行による流動性需要と金融政策(小川一夫 大阪大学社会経済研究所教授)

    1990年代の不良債権の増大やコールレートのゼロ水準への低下によって引き起こされた銀行の流動性需要の高まりが、信用乗数を低下させて金融政策の効果を減じる影響を生んだことを指摘している。金融システムへの不安が払拭された段階で流動性の取引を市場に委ねれば、銀行の準備金保有需要も低下するので信用乗数が上昇し、金利の上昇、資金供給量の増大と好循環が生まれて、金融市場の正常化が達成される可能性を述べている。

  • 第4章 銀行破綻と借り手企業の株価の推移(福田慎一 東京大学大学院経済学研究科教授)
    1990年代に破綻した大手3行の借り手企業の株価動向を比較して、メインバンクの破綻は借り手企業に負の影響をもたらすこと、不振企業の整理が過度に進むと社会的に大きなコストを伴うが、反面、それが過小であった場合には非効率な企業の存続を許すことで、将来の倒産懸念を増大させて、他の健全な企業の業績にも悪影響を及ぼす可能性があることを見いだしている。それ故、倒産を過度に回避することも同様に社会的コストを伴うので、銀行の破綻処理に関してもその影響の持つ2面性を考慮して、バランスに配慮しながら進める必要性を説いている。
  • 第5章 銀行リスクと自己資本比率の関係(安田行宏 東京経済大学経営学部専任講師)

    銀行の自己資本比率とリスクとの関係を分析してそれらが正の関係にあり、自己資本比率が高い銀行ほどリスクも高いことを見いだしている。また、自己資本の質が基本項目(Tier I)か補完項目(Tier II)であるかによって市場評価が異なり、市場が自己資本の質の違いを考慮に入れていること、しかし、繰延税金資産は銀行の脆弱性の指標とは見なされていないことを指摘している。この分析結果は、自己資本比率が高いほど銀行の倒産リスクは高いことを意味し、自己資本比率を金融システム健全性の指標として用いて規制監督を行うことへの疑問を投げかけている。

  • 第6章 都市衰退の原因とその再生手段について(山崎福寿 上智大学経済学部教授)

    大都市圏への人口流入が経済成長の要因として重要であり、土地の高度利用によってこそ、自然破壊や混雑がなく、通勤時間が短く、オープンスペースのある快適でコンパクトな街が形成され、都市の再生が可能となることを主張している。
    そのためには、高度利用を妨げているさまざまな規制を撤廃し、混雑料金を設定し、高度利用される土地への固定資産税や譲渡所得税の適切な課税によって、所得分配の公平を図り、全年齢層の人々にとって便利で豊かな都市生活が実現可能であることを、多様な分析に基づいて説明している。
    土地の高度利用は最終的には地価を高めて、資産デフレを解決する道に繋がる可能性がある。

第2研究グループ

公的債務管理と公的金融のあり方

報告書(平成16年6月21日公表)

  • 第1章 公的債務管理と公的金融のあり方(井堀利宏 東京大学大学院経済学研究科教授)
    平成16年3月16日に開催された金融調査研究会コンファレンスにおいて井堀主査から報告された政策提言である。公的債務の累積とわが国財政の維持可能性への懸念を背景として、国債管理政策のあり方、政策金融のあり方および財政投融資計画の見直しについて提言を行っている。具体的には、課税平準化政策・公債のクッション政策の実施、一般会計の歳出抑制、個人向け国債マーケティングの強化、物価連動債の積極活用、郵便貯金のナローバンク化、公的金融の縮小と証券化の活用、財政投融資計画の見直し、公債管理担当者の権限強化、等を提言している。

  • 第2章 公的債務管理と資金循環-マクロ金融モデルを用いた実証分析-(亀田啓悟 新潟大学経済学部助教授)
    郵貯等を含む公的債務の現状について吟味し、マクロ計量モデルにより財政改革・公的金融改革の効果について実証分析を行っている。その結果に基づき、1.現状のマクロ経済は不安定であり、公的債務の縮小が急務であること、2.「経済財政運営と構造改革に関する基本方針 2003」の歳出方針を堅持し、政府債務の拡大を最低限に抑えることが必要であること、3.郵便貯金は国債引受専門のナローバンクに改組し、政府系金融機関による貸出は全廃すべきであること、等を提言している。

  • 第3章 わが国の国債管理政策に関する一考察(土居丈朗 慶應義塾大学経済学部客員助教授)
    近年の国債管理政策の動向を様々なデータから検証したうえで、国債管理政策のあり方に関する経済理論の展望およびそれに基づく分析、国債管理政策に関する政治経済学的研究の展望およびそれに基づく分析、ならびに満期構成と債務構成に関する国債管理政策について分析を行っている。これらに基づき、今後のわが国の財政運営として、歳出削減または税収の増加による債務削減の努力と、適切な国債管理政策が強く求められること等を提言している。

  • 第4章 公的金融機関の社会的便益(岩本康志 一橋大学大学院経済学研究科教授)
    政策金融が必要とされる理由に関する理論的分析を行うとともに、公的金融機関の政策評価を整備するための課題の検討、および日本政策投資銀行を例として公的金融機関の活動の評価を行っている。その結果、政策評価について、政府において政策目的および手段としての直接融資の妥当性について検討が必要であること、個々の案件において費用便益分析の積極的な活用が図られるべきであること、等を提言している。また、公的金融機関の活動を市場テストによってチェックすること、さらには政府保証廃止等により公的金融機関を財政投融資から切り離すこと、等を提言している。

  • 第5章 金融の証券化と公的金融の役割(三井清 明治学院大学経済学部教授)
    金融の証券化と公的金融の関連性等について分析するとともに、証券化の促進と政府の介入について、証券化市場の揺籃期における市場規模拡大等のためには政府が介入する余地があること等を指摘している。そして、住宅金融公庫の証券化支援事業等について概観したうえで、公的金融仲介のより広い範囲で、証券化手法を用いたスリム化を検討すべきであること、公的債権・債務管理を行ううえで、公的金融の証券化を活用し、公的リスク負担を軽減することが考えられること、等を提言している。

 

(肩書きは、各研究グループともに平成16年3月現在)