第1研究グループ

電子マネーの発展と金融・経済システム

報告書(平成17年7月29日公表)

  • 金融調査研究会第1研究グループ研究総括「電子マネーの経済と法制」

    平成17年3月1日に開催された金融調査研究会・金融法務研究会合同コンファレンスにおける、清水主査からの報告資料である。近年、電子マネーはICカード型を中心に急速な普及を見せているが、今後一層普及していくには、電子マネーに貨幣と同じ「一般受容性」を持たせることが重要であるという観点から、民間事業会社のみで行うことの限界、政府や金融機関に期待される役割等について言及している。

  • 第1章 電子マネー成長の条件(清水啓典 一橋大学大学院商学研究科教授)

    電子マネーを現金と預金に代わる決済手段と定義して、発行者と利用者の費用便益の観点から、電子マネーがより広範囲かつ高額の決済に利用される条件を検討している。同時に、電子マネーは財・サービス販売に伴う付随的サービスの一環として一般企業から提供されている面があり、金融機関と一般企業との密接な連携と自由な競争環境が今後の成長にとって重要である点を指摘している。

  • 第2章 電子マネーの普及と決済手段の選択(北村行伸 一橋大学経済研究所附属社会科学統計情報研究センター教授)

    電子マネーの利用は主として少額の範囲で行われ、現金と、クレジットカードとの棲み分けが可能としている。また、将来の技術進歩によって電子マネーとクレジットカードの範囲が拡大し現金の利用域の収縮が予想されること、取引費用のみならず1店舗あたりの利用者数が電子マネーの利用拡大にとって重要である点が示されている。

  • 第3章 小額決済媒体に対する需要と電子マネーの可能性(齊藤誠 一橋大学大学院経済学研究科教授)

    少額決済に使われる紙幣や硬貨に対する需要関数を計測し、需要面から電子マネーの可能性を考察している。少額決済手段(=硬貨や少額紙幣)に対する需要は金利水準の影響を受けにくいため、硬貨等に代替する決済媒体としての電子マネーの発行が現在の低金利下で拡大すれば、将来の金利が上昇した段階では、発行者はより大きな収益を期待できるとしている。

  • 第4章 電子マネーの影響に関する整理(柳川範之 東京大学大学院経済学研究科助教授)

    多様な側面を持つ電子マネーの分析に関して、マネーサプライ、物価、物価のコントローラビリティ、シニョレッジの発生と帰属先、取引活性化、貨幣保有リスクのそれぞれに与える影響、という6つの視点から多様な論点を整理している。

  • 第5章 電子マネーと現金等他の決済手段との共存について(松井彰彦 東京大学大学院経済学研究科教授)

    電子マネーと現金通貨との競合関係に注目して、それぞれが選択される条件を理論的に分析している。そこでは、電子マネーの普及にはその受容性が重要な要因であり、ある一定のレベルを超えると、その利用が一挙に拡大する可能性が指摘されている。

第2研究グループ

政策金融改革のあり方

提言(平成17年3月1日公表)

報告書(平成17年7月29日公表)

  • 第1章 資金の流れと公的金融改革(跡田直澄 慶應義塾大学商学部教授)
    郵政民営化や財投改革、政策金融改革等による資金の流れの改革により日本の資金循環がどのように変化するかを数量的に明らかにし、一連の公的金融改革の全体像を示している。その結果に基づき、民間金融機関がその金融機能を十分に発揮できるようにするため、公的金融の役割は民間金融の補完に限定し、その手法も革新し、規模的にも組織的にも必要最低限のものに変革すべきであること、また、政策金融のあるべき姿としては、対象分野の限定が不可欠であること、さらに、政策金融の存在意義が認められるごく限られた場合でも、最も低コストの金融手法を選択すべきであること、等を指摘している。

  • 第2章 事業再生と資金市場への政策介入(三井清 学習院大学経済学部教授)
    事業再生を促進するための公的な取り組みの政策効果を検討するため、債権者間の協調の失敗に着目し、それによりもたらされるマイナスの効果を抑制してプラスの効果を可能な限り残すための政策手段について、二期間モデルを用いて分析を行っている。その結果、(1)信用保証制度は、資源配分の効率性を高めないケースも存在すること、(2)政策金融機関が信用枠を設定する形でDIPファイナンスを行うことにより、協調の失敗を回避して効率的な資源配分を実現できるが、同様の効果は最優先弁済性の制度を整備すること等でも実現できること、(3)また、DESの枠組みを整備することにより、協調の失敗のケースにとどまらず囚人のディレンマのケースに関しても、効率的な資源配分が実現できるケースが存在すること、等を指摘している。

  • 第3章 融資・保証・補助金をめぐる政策金融に関する比較分析(土居丈朗 慶應義塾大学経済学部助教授)
    直接融資、信用保証、補助金給付の3つの政策手段を統一的な理論モデルで描写して定性的な分析を行うとともに、そのモデルを基に数値解析を行い、政策金融の妥当性を議論している。その結果、同じ租税負担を前提とすると、社会厚生は補助金給付のケースが最も高くなるが、給付に伴うコストの度合いによっては、必ずしも最も望ましい政策手段ではなくなる可能性があること、また、金融的手段として政策金融機関による直接融資と信用保証を比較すると、直接融資より信用保証の方が経済厚生は高くなること、等を指摘している。

  • 第4章 公的金融機関の企業統治と組織形態(岩本康志 一橋大学大学院経済学研究科教授)(現:東京大学大学院経済学研究科教授)
    特殊法人や独立行政法人などの公的機関の類型を整理し、そこで得られた考え方を公的金融機関に応用することにより、公的金融機関を改革した後の望ましい組織形態について理論的分析を行っている。その結果、直接融資の必要がないとされた機関は廃止ないし民間金融機関に転換されるべきであり、直接融資の必要性が認められる機関は、効果的な企業統治を働かせるための組織形態を選択する必要があること、を指摘している。そして、公的金融機関として存続する必要性が認められた機関については、市場で金融サービスを供給し、民間企業で類似の業務を行っていることから、課税法人とすることが適当であり、独立行政法人ではなく、国が支配株主となる特殊会社とすることが望ましいこと、等を指摘している。

 

(肩書きは、各研究グループともに平成17年3月現在)