第1研究グループ

金融のコングロマリット化等に対応した金融制度の整備

報告書(平成18年7月20日公表)

  • 金融調査研究会第1研究グループ研究総括「金融のコングロマリット化等に対応した金融制度の整備」

    平成18年3月10日に開催された金融調査研究会・金融法務研究会合同コンファレンスにおける、清水主査からの報告資料である。
    論点を、「金融コングロマリット」と「銀行と商業の分離規制」の2つに大別して研究会での検討結果を整理し、情報共有規制や業務範囲規制といった事前規制を極力少なくし、金融監督を、市場規律を効かせるためのルール整備等に限定していくこと、商業から銀行業への参入のみを認める現行の“One Way” 規制を見直し、利用者へのメリットが大きいと考えられる分野を中心に、相互に参入を認める“Two Way”とすること、等を望ましいとしている。

  • 第1章 銀行と商業の分離規制-青い鳥はどこに-(清水啓典 一橋大学大学院商学研究科教授)

    世界の銀・商分離規制の歴史と現状を整理した上で、その理論的根拠を分析し、飛躍的な情報・通信技術の進歩が金融市場の産業構造を変革しつつあるという視点から、その成果を生かす金融制度のあり方と金融機関の対応について検討したものである。現制度下でニーズのある境界領域開拓の必要性と、不動産業とのシナジー効果を指摘している。

  • 第2章 銀行の業務範囲規制について(渡辺努 一橋大学経済研究所教授)

    世界銀行が作成したデータに基づいて、銀行の業務範囲規制の世界的な動向を分析したものである。その結果、日本では規制緩和の余地があること、商業から銀行への“One Way”規制の問題は世界的な傾向であること、世界的に見ると、業務範囲規制の緩和は銀行収益の改善に資すること、さらに業務範囲規制の緩い国で金融危機が生じにくい傾向があること、等を指摘している。

  • 第3章 銀行業の兼業規制に関する理論的整理(柳川範之 東京大学大学院経済学研究科助教授)

    銀行の兼業規制の意義や今後のあり方に関して、その根拠となる(1)金融システムの安定性確保、(2)規制レントの拡大防止、(3)銀行による集中力排除、という論点を巡って理論的整理を行っている。その上で、“One Way”規制に関しては再検討の余地はあるものの、他の規制やルールとの併用や、銀行の慎重な経営判断が必要となることを指摘している。

  • 第4章 金融コングロマリットと市場規律(前多康男 慶應義塾大学経済学部教授)

    複雑化した金融コングロマリットに対して市場規律を働かせる方法として、劣後債発行を義務づける方法の有効性等について検討したものである。欧米における実証的分析の結果、劣後債発行は市場規律付けとして機能しており、銀行や銀行を含む金融コングロマリットに対する監督・規制体系も市場規律を前提としたものに変換できるであろうとしている。

  • 第5章 金融コングロマリット化と保険会社-保険会社は金融コングロマリットのなかで融和できるか-(小藤康夫 専修大学商学部教授)

    保険会社に焦点を絞って、保険業に関する多様な側面を国際的に比較検討して、保険会社を含む金融コングロマリットが成功する条件を探ったものである。そのためには、範囲の経済の活用が鍵となるが、銀行と保険業との間の情報共有規制がシナジー効果を減殺しているため、情報共有規制の緩和が必要である点等を指摘している。

第2研究グループ

わが国の財政のあり方と財政再建の影響

提言(平成18年4月2日公表)

報告書(平成18年7月20日公表)

  • 第1章 わが国の財政の現状と欧米主要国における財政再建の取り組み(事務局)
    わが国の財政の現状について概観した後、1990年代の欧米主要国における財政再建の事例等を概観し、政策的含意の検討を行っている。具体的には、財政再建にあたっては、国民の合意を得た形で歳出抑制ルールを導入すること、また、財政再建の過程では内需主導の自律的な景気回復が重要であること、等を指摘している。

  • 第2章 歳入面から見た課題(吉野直行 慶應義塾大学経済学部教授)
    税収の変化が財政赤字の変化をどの程度説明できるかについて考察した後、近年の税制改革による歳入面の影響について分析し、望ましい歳入改革のあり方について検討を行っている。その結果、近年の税制改革は所得税および法人税の所得弾力性を低下させ、租税の自動安定化機能を弱める方向に働いたこと、を指摘している。そのうえで、歳入面の改革にあたっては、(1)租税の自動安定化機能を回復する観点から、所得税について累進度や税率の引き上げを行う、(2)安定した税収が確保でき、水平的な公平性の高い消費税の引き上げを行う、といったことが考えられるが、どちらも一長一短あるため、最終的には政策的に判断する必要があること、等を指摘している。

  • 第3章 今後の財政政策・金融政策の運営のあり方について(中里透 上智大学経済学部助教授)
    財政の健全化と金融の正常化に関する最近の議論の動向を踏まえつつ、今後の財政政策と金融政策の運営のあり方について検討を行っている。その結果、(1)財政政策と金融政策のポリシーミックスについては、金利の非負制約を考慮に入れて慎重なペースで財政健全化を進めていくことが必要であること、(2)財政健全化を進めていくにあたっては、「負債による規律付け」を活用して、増税よりも歳出削減に重点を置くことが適切であること、(3)財政の健全化について明示的なコミットメントを行うことが必要であること、等を指摘している。

  • 第4章 財政健全化と地方分権を両立させる地方財政改革(土居丈朗 慶應義塾大学経済学部助教授)
    国の財政健全化を、地方財政の分権的な運営といかに両立する形で進められるかについて検討を行っている。その結果、国と地方が協力して歳出削減に取り組むという方針の下、地方交付税総額の削減を出発点にして、国と地方の権限・事務事業の再配分、地方が担う事務事業の効率化を検討することで、地方の行財政改革を進めるべきであること、等を指摘している。また、中長期的には、地方交付税の算定を簡素化するとともに、国庫補助負担金を洗練化させる必要があること、等を指摘している。

  • 第5章 2025年に向けての財政運営の戦略(岩本康志 東京大学大学院経済学研究科教授)
    歳出・歳入一体改革の手順の組み立て方、および選択肢の提示等のあるべき姿について検討を行っている。その結果、(1)これまで積み上げてきた巨額の債務残高対GDP比率を引き下げ、将来にわたって持続可能な財政運営(債務の安定化)を目指すため、基礎的財政収支の黒字幅(対GDP比)は3%以上が必要であること、(2)収支改善を達成するための具体的な手段としては、まず歳出削減がどこまでできるかを考え、目標達成に足りない部分を負担増で補うという組み立てをすることが妥当であること、(3)歳出削減については、OECD諸国との比較を通じて削減項目を検討した結果、公共事業支出を他国並みに削って、教育支出を若年人口の減少にあわせて縮小し、さらに社会保障費を含めたその他の支出の削減に努力するのが妥当な選択肢であること、等を指摘している。

 

(肩書きは、各研究グループともに平成18年3月現在)