提言「今後のわが国の金融所得課税のあり方」 [453 KB]
2006年度金融調査研究会
第1研究グループ
金融機関におけるCSR活動や環境配慮行動のあり方
報告書(平成19年7月23日公表)
- 研究とりまとめ「金融機関におけるCSR活動や環境配慮行動の充実に向けて」
金融機関にとってのCSRには、(1)自社の経営におけるCSRの確立(金融CSR)、(2)本業を通じた社会的課題の解決(CSR金融)、(3)社会との共存のための活動、の3つの側面があると整理し、このうち(2)が金融機関にとってCSRの中心になるのではないかと指摘している。
そのうえで、金融機関の投融資全体の仕組みに、いわゆるE(環境)・S(社会的責任)・G(ガバナンス)を組み込むこと等を通じて社会的課題に取組むことが重要と指摘している。また、業界にも、金融機関のCSR活動を積極的に支援することが求められるとしている。 - 第1章 金融機関のCSR(清水啓典 一橋大学大学院商学研究科教授)
金融機関の情報生産機能、外部性を内部化する能力等、経済学的視点から見て、金融機関にとってのCSRは他の一般企業とどのような点が異なるべきか、広告宣伝との相違点や金融機関として果たすべき社会的役割等を検討している。その結果、CSRは過大評価すべきではないが、金融機関として顧客への支援・指導等の本業を通じて一般企業以上の大きな貢献が可能であり、社会をリードする観点から模範的行動を示す必要があるとの結論を示している。
- 第2章 金融機関のCSR:その課題と提言(谷本寛治 一橋大学大学院商学研究科教授)
多様な視点からCSR活動についての現状分析を行い、社会的に責任ある企業経営を行うという意味での「金融CSR」と、産業界のCSRを評価し支援するという意味での「CSR金融」とに分けて検討を行っている。さらにここでは、個別企業、政府、各種団体等インターミディアリーレベルそれぞれの取り組むべき課題を示したうえで、金融機関のCSRには、CSRの視点を取り入れる方向で経営システム全般を問い直し、各部署における地道な取り組みや定着させるための努力が必要である点を強調している。
- 第3章 金融機関のコーポレート・ガバナンスとCSR戦略(首藤惠 早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授)
企業の多様なステークホルダーの利害を経営に反映させるツールとしてのコーポレート・ガバナンスの視点からCSRを分析している。CSRの実践に当たっては、CSRの組織への定着、組織の透明性と情報発信が求められるが、これらは、経営方針の徹底と情報開示体制の確立、外部への説明責任というガバナンスの問題とも一致するとしている。そのうえで、金融機関には、蓄積された情報能力や情報ネットワークを活用して積極的にCSR情報生産を行い、また、企業に企業価値の向上に必要なCSR情報開示を求めていく役割が期待されていることを指摘している。
- 第4章 金融機関にとってのCSRの重要性(柳川範之 東京大学大学院経済学研究科助教授)
金融仲介業は外部性を持っており、また企業の内部情報を入手可能な立場にある点に注目して、コンプライアンス体制の充実、健全性の確保、金融システム安定性への貢献なども金融機関のCSRとして重要であり、情報開示やCSRを実施する上でのプリンシプルを明示することの大切さを指摘している。
- 第5章 CSR経営の実証分析(馬奈木俊介 横浜国立大学大学院国際社会科学研究科助教授)
CSR経営の向上が企業の業績評価や環境効率に対して正の影響を持つかどうかに関する実証分析を行っている。その結果、CSR経営は企業の無形資産、収益性、効率性や環境効率に正の大きな影響を与えており、CSR経営は企業経営にとって重要な要素であることを示している。
第2研究グループ
諸外国の税制改革と金融所得課税のあり方
提言(平成19年3月1日公表)
報告書(平成19年7月23日公表)
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第1章 今後のわが国の金融所得課税のあり方
当研究会の提言として3月にとりまとめたものを再録している。具体的には、平成19年度の税制改正において、平成21年(度)から金融所得課税の見直しを実施するとされたこと等を踏まえ、(1)金融所得課税に関する基本的な考え方をまとめるとともに、(2)証券特定口座を活用した「新しい金融所得課税のスキーム」、(3)配当の二重課税調整を含めた「実施にあたっての検討課題」を整理している。 -
第2章 スウェーデンとノルウェーの金融所得課税一元化-わが国への教訓(馬場義久 早稲田大学政治経済学術院教授)
1990年代初頭に二元的所得税導入の一環として金融所得課税の一元化を実現したスウェーデンとノルウェーを取り上げ、一元化のねらいと成果・改革後の問題点を論じている。具体的には、(1)スウェーデンでは、各種金融収益を均一にかつ低率で課税し、損益通算を広範囲に認める包括的な金融所得課税一元化を実施して、金融所得税制を中立的で実効性のある税制として蘇らせた、(2)北欧型二元的所得税のもとでは、法人税の負担調整について問題が生じており、わが国でも法人税の課税ベース自体の再検討が求められる等を指摘している。 -
第3章 オランダの所得税改革(田近栄治 一橋大学国際・公共政策大学院教授)
先進的な開放経済であり、国際的な資本取引が活発に行われているオランダを取り上げ、同国の個人所得税改革の取組みと、改革後に残されている諸問題について論じている。具体的には、(1)所得を労働所得等、大口持ち株主所得および資本所得の3つに分類したボックスに焦点をあて、その成立過程をさぐっている。(2)グローバル化の進展のなかで、二元的所得税も安定した税制ではなく、さらに改革が迫られることが予想されるが、オランダのボックス・タックスも例外ではなく、ボックス間の所得の付け替えである「ボックス越え」等により、早晩、本質的な再検討が必要になると思われる。 -
第4章 米国における金融所得課税の影響と改革の方向性(前川聡子 関西大学経済学部助教授)
日本と同様に家計貯蓄率の低下が問題となっている米国において、2005年11月の大統領諮問委員会答申で提案された金融所得課税に関する改革案を紹介するとともに、同国における家計の資産選択と税制との関係に関する実証分析を紹介している。そのうえで、(1)低税率で分離課税することにより、金融資産の税引き後収益率を引き上げることができれば、金融資産に対する家計の需要を高めることができる、(2)損益通算の範囲拡大や繰越控除の導入によりリスクの平準化を図ることができれば、投資の期待収益率を高め、ひいてはリスクのある金融資産への需要を増やすことが期待できる、等を指摘している。 -
第5章 我が国の金融税制のあり方について(國枝繁樹 一橋大学国際・公共政策大学院助教授)
我が国家計の資産選択の特徴と望ましい金融税制改革の方向性、中立的な金融税制の構築等について検討を行っている。そのうえで、(1)我が国家計の資産構成をみると高齢者のリスク資産保有が高いと考えられることから、中立的な税制を目指しつつ、現役世代によるリスク資産保有を促進していくことが望ましい、(2)中立的な税制とは、法人・個人段階を通じ、かつ、時間を通じて中立な税制を意味しており、何らかの二重課税調整措置を行わず個人段階のみで一律課税することは中立的ではない、(3)確定拠出型年金の拡大を通じた現役世代による株式投資拡大を促進するためには、投資教育の拡充等に積極的に取り組むことが望まれる、等を指摘している。
(肩書きは、各研究グループともに平成19年3月現在)