第1研究グループ

わが国金融産業の国際競争力強化に向けて

提言(平成19年10月31日公表)

報告書(平成20年12月22日公表)

  • 提言「わが国金融産業の国際競争力強化に向けて」

    当研究会の提言として、平成19年10月31日に開催したシンポジウムにおいて公表したものを再録している。「I.規制改革が可能にする国際競争力の強化」において、わが国金融産業が、欧米の金融機関と互角に競争できる国際競争力を備えるためには、世界標準に合致する規制環境への変革などを通じて、金融機関間競争を一層促進することが望まれるとし、「II.規制改革に向けた個別提言」において、諸外国における規制改革の取組み等を参考に、わが国の規制改革における課題とともに、金融機関自らが取り組むべき課題を示している。

  • 第1章 わが国金融資本市場の競争力強化に向けて(清水啓典 一橋大学大学院商学研究科教授)

    長年に亘って議論され尽くしてきた感のある金融産業の国際競争力強化が、一向に成果を上げているように見えない根本的原因がどこにあるのかを検討している。その上で、国家的課題としての政治的リーダーシップの必要性と金融機関が努力すべき課題として、国内に海外から資本を受け入れる体制整備や、そのための人材育成、金融機関の人材の国際化、などの具体的方向性を示している。

  • 第2章 顧客情報の共有は経済厚生を高めるか?(渡辺努 一橋大学経済研究所教授)

    ファイアーウオール規制が緩和されつつある現状の下で、金融機関による顧客情報の共有の得失を過去のデータを踏まえつつ検討している。その結果、情報共有は資金調達費用の低下をもたらす反面、顧客側に情報を誤用する懸念が生じて経済厚生を低下させる可能性も生まれるため、金融機関側が投資家に信頼される誤用防止ルールを整え実践する必要性がある点を指摘している。

  • 第3章 アジア金融市場の制度とコーポレート・ガバナンス(福田慎一 東京大学大学院経済学研究科教授)

    今後日本が有望な市場として競争力を高める対象となると考えられるアジア各国に特徴的な、欧米諸国の金融制度とは異なる金融制度の特徴を抽出して、いくつかの視点から望ましいアジア型金融システムのあり方を探ろうとしている。所有と経営が尚未分化のアジア諸国において、アジア債券市場育成の意義が指摘されている。

  • 第4章 日本の金融業のアジア展開(吉野直行 慶應義塾大学経済学部教授)

    これまでアングロサクソンを中心とする欧米金融機関がアジアでの資金仲介を行い金融取引で収益をあげてきた事実に言及したうえで、今後、日本の金融機関が人材育成、金融商品・金融技術の開発、金融情報の生産・発信を通じて、アジアを基礎にグローバルな展開ができるようにする必要性を指摘している。

  • 第5章 自己資本比率規制と国際競争力(佐々木百合 明治学院大学経済学部教授)

    BISの自己資本比率規制導入の経緯から金融危機の期間中の金融機関に与えた影響について検討し、それが必ずしも市場から評価されず競争力強化に貢献したとは言えない点を指摘している。

第2研究グループ

パブリック・ファイナンスの今後の方向性

提言(平成20年2月27日公表)

報告書(平成20年7月18日公表)

  • 第1章 パブリック・ファイナンスの今後の方向性 -自治体の外部資金調達のあり方に関する提言-
    当研究会の提言として2月にとりまとめたものを再録している。具体的には、パブリック・ファイナンスの現状や制度改革の動きを概観した上で、今後の方向性として、(1)自治体の財政規律の確立、(2)自治体に求められる対応、(3)国に求められる対応、(4)自治体の規模に応じた制度設計、(5)国の関与が残る行政事務の財源のあり方、について提言するとともに、金融機関が自治体の効率的な経営などをサポートしていくことが有用、としている。

  • 第2章 地方債制度のあり方-市場規律との関連で-(持田信樹 東京大学大学院経済学研究科教授)
    わが国の近年の地方債制度の変容を概観したうえで、地方債の現状を取り上げるとともに、既存の財政ルールの限界と市場規律の役割について論じている。
    そして、わが国や米国の地方債の破綻法制に係る議論のサーベイから、(1)マクロの財源保証は必要だが、任意的地方債の新規発行分についてミクロ面での交付税措置を縮小・廃止すべき、(2)予算のソフト化を招かずに地方政府を集権体制から移行させるためには、短期的に情報開示の徹底や透明性の高いルールで地方債をコントロールするのが基本であり、市場化から取り残される弱小な自治体には「共同発行機関」の創設が不可欠、(3)短期的な市場規律強化のためにオープンな地方債市場を育成し、地方政府に説明責任・監査などの情報提供を促すインセンティブを与えるべき、といった政策的な含意をまとめている。

  • 第3章 地方債の政府資金と民間等資金の役割分担(土居丈朗 慶應義塾大学経済学部准教授)
    地方債に係る政府資金の引受状況や地方自治体への貸付状況について関連統計を用いて分析し、次に、より低利の政府資金とより高利の民間等資金が地方自治体の資金調達に与える効果について経済学的な分析を行っている。そして、以上を踏まえ、今後の地方自治体の資金調達において政府資金が果たすべき役割についてモデルをもとに検証し、政府資金と民間等資金の役割分担のあり方について、(1)政府資金を充当する事業の重点化が必要であり、その対象として外部性の強い事業が挙げられること、(2)地方債の金利機能の強化は重要であり、地方債版ペッキングオーダー理論の活用が一つの活路となるが、そのためには、民間等資金引受け地方債について、早期に元利償還金の交付税措置を撤廃することが必要であること、を指摘している。

  • 第4章 地方自治体を監視するインセンティブ(西川雅史 埼玉大学経済学部准教授)
    地方自治体監査のパフォーマンスの良否は、監査する者に付与されているインセンティブに依存することを指摘し、地方自治体を監視する仕組みについて、(1)住民による直接的な監視、(2)住民による間接的な監視(議会や専門家による監視)、という2つの視座から論点を整理し、また、監査の前提となる正確な行財政情報の重要性について述べている。そして、市場を活用した監視の強化について、金融機関には地方自治体の行財政を監視するインセンティブがあると考えられること等を指摘している。

  • 第5章 日本の地方財政制度の特徴とその国際的位相(林正義 一橋大学大学院経済学研究科准教授)
    地方財政制度のあり方は、中央と地方の財政上の役割分担等によって変わるため、地方自治体のパブリック・ファイナンスのあり方について考察する場合、国と地方の役割分担やそれを取り巻く財政制度を考察することが必要であることを述べ、先進諸国における公的部門との比較において、わが国の公的部門の歳出と歳入を特徴付けている。
    その上で、地方債の起債が、地方自治体が全国的に期待されている歳出の資金を調達するものか、地方に本来期待されている以外の追加的なサービスのための資金調達をするものかによって、債券市場活用の是非も変わることを指摘している。

 

(肩書きは、各研究グループともに平成20年3月現在)