第1研究グループ

金融危機下における金融規制・監督等のあり方

提言(平成21年11月27日公表)

報告書(平成22年9月17日公表)

  • 提言「金融危機を踏まえた規制・監督のあり方」~世界一律規制から、地域特性を考慮した規制への転換~

    当研究会の提言として、平成21年11月27日に事務局である全国銀行協会ウェブサイトで公表したものを再掲している。
    本提言は、望ましい金融規制について、「自己資本比率規制-世界一律規制から各国ごとの特性を反映した規制への転換-」、「“Too big to fail”問題への対応」、「適切な流動性規制のあり方」に関し具体的な提言を行うとともに、「マクロ・プルーデンス政策のあり方」、「日本の経験から学ぶべきこと」という2つの留意点を指摘している。

  • 第1章 世界金融危機後の国際的金融規制-経験からの教訓-(清水啓典 一橋大学大学院商学研究科教授)

    国際的な金融規制の再構築を見据え、日本や世界の金融危機において実際に起こった事実からの教訓を整理している。そこでは、世界一律規制がかえって危機を生み出す原因となり、危機への対処に当たっては、世界一律規制に縛られない各国の柔軟な対応が不可欠であった点を教訓として、金融危機解決のために実際に採られた対応策を予め考慮した各国独自の規制体系への転換が図られるべきことを指摘している。

  • 第2章 マクロ・プルーデンスの視点(前原康宏 一橋大学国際・公共政策大学院教授)

    マクロ・プルーデンスの視点とは何か、当該視点が金融規制・監督や金融政策に対して持つ意味を検討した内容となっている。マクロ・プルーデンスの視点とは、個別の金融機関ではなく、金融システム全体に焦点を当て、金融システム全体のリスクを経済主体の集団的な行動の結果として生じた内生的なものと捉える政策的なアプローチとされる。当該視点は、ミクロ・プルーデンスの視点と補完関係にあり、各国間の協調的な政策対応に当該視点を取り入れる必要性が述べられている。

  • 第3章 早期是正措置と銀行のfunding liquidity risk(米澤康博 早稲田大学ファイナンス研究科教授)

    日本における金融危機を分析し、当時の自己資本比率規制(BIS規制)を強制する早期是正措置が実施された影響を検討している。当該措置が実施された結果、保有資産価値の減価による担保価値の低下によって資金調達ができなくなるfunding liquidity risk問題が生じたという経験を踏まえ、BIS規制の強化措置は流動性が十分でないような金融危機時に実施するのではなく、経済が堅調な時期に行うべきであるという結論を導いている。

  • 第4章 公的資金による資本増強が金融機関のリスク評価に与えた影響-株価データによる分析-(奥山英司 中央大学商学部准教授)

    日米金融機関における株価データにもとづく金融機関のリスク評価を行うことによって、公的資金注入の影響を検討している。公的資金の注入は、金融機関に対するモラル・ハザードを生む危険性があるため、公的資金注入時や注入後に金融機関へのフォローアップを実施するなど、モラル・ハザードへの対策を十分に検討しつつ実行するとともに、平時からモラル・ハザードをキーワードの1つとして制度を検討することが求められると指摘している。

  • 第5章 大規模金融機関の破綻処理-日本の金融危機からのインプリケーション-(鯉渕賢 千葉商科大学商経学部専任講師)

    日本における大規模金融機関の破綻が、借手企業や他の存続銀行の株価に与えたインパクトを検討し、金融システム全体の観点から大規模金融機関の円滑な破綻処理の枠組みを構築することの重要性を指摘している。そのうえで、金融システムの改革の方向性としては、強くなってしまった事後的な政府介入の程度を弱め、金融システムに市場規律を回復する方向性が望ましいと示唆されている。

第2研究グループ

経済対策と財政均衡

提言(平成22年2月24日公表)

報告書(平成22年9月17日公表)

  • 第1章 経済対策と財政規律(提言)
    本年2月に取りまとめた当研究会の提言を再録している。具体的には、近年の経済危機下におけるわが国の経済対策の状況を踏まえ、財政出動が財政に及ぼす影響を示したうえで、[1]財政健全化の必要性、[2]財政目標の設定、[3]経済対策と財政均衡のバランスといった観点からわが国に求められる財政運営のあり方について考え方を提起するとともに、歳出・歳入の改革に対する提言を行っている。

  • 第2章 財政健全化と長期金利の動向(中里透 上智大学経済学部准教授)
    わが国を対象に財政赤字と長期金利の関係を考える場合、財政状況の悪化がなぜ長期金利の上昇につながらないのか、国債市場の安定性を確保していくために財政の健全化に向けた中長期的な財政運営のフレームワークをどのようなかたちで策定すべきか、ということが重要なポイントとなってくる。
    本稿では、近年における財政状況の悪化とソブリンリスクに対する関心の高まりを踏まえて、財政赤字と長期金利の関係について論点整理を行うとともに、中長期的な財政運営のフレームワークのあり方について検討を行っている。

  • 第3章 ニューケインジアン・モデルによる財政政策の分析:展望(土居丈朗 慶應義塾大学経済学部教授)
    今般の世界同時不況に対応して、主要国では「財政出動」が提起され、ケインズ政策が復活したかのように報じられている。しかし、この政策は伝統的なケインズ政策を唱えているのではなく、幾多の論争を経て研究成果が蓄積されてできた、ニューケインジアンと呼ばれる学派が今日の論理的な支持基盤を与えている。
    本稿では、ニューケインジアン・モデルの基本的枠組みについて概観し、財政分析の中から財政政策の乗数効果を中心に近年の研究について比較衡量を行っており、近年におけるニューケインジアン・モデルを用いた財政政策の効果に関する分析を展望している。

  • 第4章 財政赤字の要因分析と予測の不確実性(畑農鋭矢 明治大学商学部教授)
    財政運営ルールの変化を統計データによって観測することは難しいが、財政収支決定プロセスの観察できない要因の変化について考慮できる状態空間モデルを用いれば、財政運営ルールのような観測不能な変数を定量的に把握することは可能である。
    本稿では、経済理論を背景とした財政収支決定モデルの概要説明を行い、推定を行った状態空間モデルの結果を基礎として、財政赤字の要因分析と2050年度までの予測を試みている。

  • 第5章 地方財政とコミットメント(別所俊一郎 一橋大学大学院経済学研究科/国際・公共政策大学院専任講師)
    財政赤字や公債は、課税平準化を達成するための緩衝装置として、あるいは世代重複モデルにおける黄金律達成の手段として有効と考えられるが、政治的影響を受けて過大となると言われている。
    本稿では、市場規律、再選動機、財政ルール、財政委員会等の財政規律を維持する仕組みに関する近年の実証研究をいくつか採りあげるとともに、わが国の都道府県財政の規律付けの1つの可能性としての人事交流の影響について検討している。

 

(肩書きは、各研究グループともに平成22年3月現在)