第1研究グループ

安定的な経済成長のためのプルーデンス政策のあり方

提言(平成22年12月20日公表)

報告書(平成23年7月15日公表)

  • 提言「安定的な経済成長のためのプルーデンス政策のあり方」

    当研究会の提言として、平成22年12月20日に事務局である全国銀行協会ウェブサイトで公表したものを再録している。
    本提言は、平成22年、11月のソウルにおける20か国・地域首脳会合(G20)において合意された金融規制改革パッケージについて、評価と残された課題を指摘したうえで、「各国毎の特性を反映した規制とすることにより、経済の安定的な成長との両立を図るべき」、「マクロ・プルーデンスの視点と各国金融市場の実態に合った監督を重視すべき」、「プロシクリカリティにより配慮して規制の見直しを検討すべき」等の具体的な提言を行っている。

  • 第1章 グローバル金融危機後の国際的金融規制(清水啓典 一橋大学大学院商学研究科教授)

    金融規制改革にとって学ぶべきグローバル金融危機の教訓を整理したうえで、バーゼルIIIの評価を行い、その問題点を指摘して今後のあるべき方向性を示している。そこでは過去四半世紀、銀行規制の中核であった自己資本比率規制は既に陳腐化しており、今後は世界一律規制から各国ごとの特性を考慮した個別的規制に移行すべきであることを指摘している。

  • 第2章 マクロ・プルーデンス政策の枠組みについて(黒田晁生 明治大学政治経済学部教授)

    欧米主要国における金融規制監督体制の改革とその問題点を整理し、さらに日本の金融政策の失敗の教訓を振り返ったうえで、日本における今後のマクロ・プルーデンス政策のあり方を検討し、ミクロ・プルーデンス政策を担ってきた金融庁と金融政策を担う日本銀行との間で後者が過大な役割を負わない形で、両者が連携しつつ適切な役割分担をする重要性を指摘している。

  • 第3章 バーゼル銀行監督委員会による自己資本規制の経済学的評価について:資産価格決定モデルから見た不可思議さ(齊藤誠 一橋大学大学院経済学研究科教授)

    バーゼルIIIの中核である自己資本比率規制の強化に関する理論的説明として、バーゼル銀行監督委員会から発表された資産価格決定モデルについてその妥当性を検討している。そこでは、この自己資本比率規制強化の理論的基礎が経済学的には正当化されない不自然なものであり、規制強化案が政治的影響の下に決定された可能性を示唆している。

  • 第4章 世界金融危機前後における日本の銀行行動に関する実証分析(安田行宏 東京経済大学経営学部准教授)

    国際的金融危機時における日本の銀行の貸出行動を分析し、大企業の資金需要に対応して大企業向け貸出が増加した一方で中小企業貸出は減少していたこと、日本の金融システムでは直接金融市場の困難を間接金融市場が補完した形で大企業の資金調達が行われ、またそれ故に緊急保証などの公的な中小企業支援策は合理的な政策対応であった点などを指摘している。

  • 第5章 条件付き転換保険証券の金融システム安定効果(中村恒 東京大学大学院経済学研究科常勤講師)

    規制回避行動やToo-big-to-fail問題など、数量規制の強化による規制改革に存在する限界を克服する可能性の一つとして、条件付き転換保険証券による金融システム安定化効果を検討したものである。現状ではなお実効性に問題があるが、数量規制偏重の規制体系からの転換の可能性を探る必要性を指摘している。

第2研究グループ

超高齢社会における社会保障・財政のあり方

提言(平成23年2月25日公表)

報告書(平成23年9月16日公表)

  • 第1章 超高齢社会における社会保障・財政のあり方(提言)
    本年2月に取りまとめた当研究会の提言を再録している。具体的には、近年のわが国の社会保障制度の現状と課題を踏まえ、社会保障制度のあるべき姿を示したうえで、(1)財政との一体改革、(2)社会保障制度における自助の機能の強化に向けた取組といった観点から、今後求められる社会保障・財政のあり方について考え方を提起している。

  • 第2章 社会保障財政の長期的課題(岩本康志 東京大学大学院経済学研究科教授)
    今後の少子高齢化の進展による社会保障費の増加は、財政運営の大きな課題となっている。同時に、巨額の財政赤字が続いている現状から財政健全化を図らなければいけないという課題を今、抱えている。
    本稿では、2050年度に至る長期的視点から、持続可能な社会保障財政のあり方を検討することを目的としている。また、社会保障の財源として税と社会保険料をどのように組み合わせるのか、という問題について、経済に与える攪乱効果をできるだけ小さくすること、政治的維持可能性を保つことの2つの視点から検討を行っている。

  • 第3章 1990年、2000年代の世代間再分配政策の変遷:世代会計を用いた分析(宮里尚三 日本大学経済学部准教授)
    少子高齢化の進展は賦課方式を前提とした社会保障制度を持つ場合、世代間の負担の格差を生み出すことは多く指摘されてきた。その世代間の負担の格差を定量的に捉える場合、世代会計の手法が有益であると考えられる。
    留意すべき点はあるが、人々がライフサイクル的に行動し、また流動性制約などに直面していない場合、世代会計は有益な指標になりうる。さらに、出生年齢別の各世代の生涯の政府からの純受益額の割引現在価値を計測するのが世代会計の特徴であるため、世代間の負担の格差や世代間の再分配政策を定量的に捉える場合、重要な情報を提供している。
    本稿では、わが国の90年代以降の世代間再分配政策を世代会計の手法を用いて考察しており、世代会計の概略と問題点について述べるとともに、データや推計結果を取りまとめている。

  • 第4章 公的年金と子育て支援:出生率内生化モデルによる分析(小塩隆士 一橋大学経済研究所教授)
    公的年金が賦課方式で運営されている場合、少子高齢化によって現役層が先細ると、給付を引き下げるか、あるいは負担を引き上げるしかない。これは、生涯を通じた効用の低下や世代間格差の拡大にもつながる。こうした事態を回避するために、子育て支援によって出生率の回復が求められる。一方で、公的年金は、その充実によって子供に対する需要を引き下げると同時に、その結果進行する少子化によって財政的な存立基盤が揺らぐという、自己否定的な性格も有している。
    本稿では、こうした公的年金の自己否定性を考慮に入れたうえで、子供数の累積的減少を回避し、公的年金の持続可能性を高めるための方策を検討している。

  • 第5章 日本における地方財政と社会保障の課題(林正義 東京大学大学院経済学研究科准教授)
    多くの国における公的支出の大半は、現金や現物の移転を通じた再分配的な歳出が大部分を占めているように、現代国家における財政上の課題は、ほとんどが社会保障に係わる課題である。またわが国において社会保障の課題を考える場合、地方の役割を理解することも重要である。
    本稿では、わが国の地方が社会保障歳出において大きな役割を担っており、わが国の社会保障の課題は地方財政の考察なしに議論することはできないという視点をもって、わが国の社会保障に係る環境変化を特定し、社会的安全網の綻びに係る問題を指摘するとともに、社会保障財源についてとりあげ、国税としての消費税増税、国と地方を通じての徴税機関の一体化および強化、そして、地方税の増税に関する考え方を述べている。

 

(肩書きは、各研究グループともに平成23年3月現在)