グローバルに通用する金融システムの整備に向けて

提言・報告書(2026年3月27日公表)

(肩書きは、2026年3月現在)

(参考)金融調査研究会名簿

第1章 グローバルに通用する金融システムの整備に向けて(福田慎一 東京大学大学院経済学研究科教授)

【エグゼクティブサマリー】

 グローバル化した今日の世界経済において、新しい金融環境のなか、日本の金融市場の競争力強化に向けていかなる改革が必要かを考察することの重要性が高まっている。日本経済が世界のフロントランナーとなった今日、従来型の金融システムで日本経済の発展を支えることは難しい。そうしたなか、金融市場をいかに改革してその国際競争力を強化していくかは、日本の喫緊の課題といえる。課題の克服には、(1)リスクマネーの供給、(2)金融のデジタル化への対応、(3)日本の特殊性・独自性の活用、(4)グローバルリスクに耐えられる金融システムの整備、の4つの視点が重要である。
 特に、リスクマネーの供給は、「貯蓄から投資へ」というスローガンが掲げられるようになって久しいが、遅々として進んでこなかった。長期低迷に陥った日本の金融市場では、「カネ余り」が顕著であった。しかし、資金余剰が広がるなかでも、日本では、潜在的には経済成長を牽引すべき企業やセクターが存在していたにもかかわらず、そこに十分な資金が供給されてこなかった可能性がある。特に、近年、世界経済でスタートアップ企業の果たす役割が増しているなか、日本では将来の経済成長を牽引すべきスーパースター企業の予備軍に十分な資金が供給できてこなかった。
 金融市場では、最先端の技術を持つ企業が、その技術開発に必要な資金を調達するには、リスク分散と情報生産の両面で資本市場が銀行より優れていることが知られている。未知の最先端技術は、銀行など少数の資金供給者が担うにはリスクが大きすぎる。しかし、多数の投資家からなる資本市場では、大きなリスクを分散することが可能となる。また、未知の最先端の技術は、専門性が高く、銀行がその良し悪しを判別することは難しい。しかし、幅広く公開された資本市場では、極めて専門性の高い最先端の技術であっても、その良し悪しを判別できる投資家を見つけることが可能となる。そうしたなか、日本経済では、銀行貸出市場の役割の低下に加えて、それを代替すべき資本市場の発展が十分でなかったことが大きな問題であった。
 日米の自己資本利益率(ROE)の平均を比較した場合、米国では、高収益企業も多いが、赤字企業も多いという特徴がある。これに対して、日本では、高収益企業が少ないだけでなく、赤字企業も非常に少ない。資産運用を行う際の醍醐味は、現在は赤字だが将来的に高い収益を生み出す可能性の高い企業を選別し、そこに積極的に投資を行うことである。日本では、このような魅力的な投資対象が極めて少なかったといえる。リスクを取りながら高いリターンを目指す投資資金で新産業を創造していくことが、持続的成長には不可欠である。しかし、日本では新陳代謝を伴う資本市場への資金の流れは十分に進んでこなかった。
 進歩が著しい世界の金融のデジタル化の分野でも、日本の金融機関の出遅れ感は否めない。日本で金融のデジタル化が遅れてきた理由はさまざまである。しかし、既存の金融機関を脅かす有望なスタートアップ企業が金融関連の分野で十分に育ってこなかったことも一因である。日本では、既存の金融機関がこれまで収益性の高い事業を数多く持ってきた分、既存の事業の改善には注力するが、デジタル技術を活用した革新的な金融商品・サービスの開発は軽視する傾向があった。金融のデジタル化の分野は、デジタル技術を駆使した最新のサービスを提供するものである一方で、あくまでお金を扱う金融サービスである。大きく進展するデジタル技術の下でも、既存の銀行にはその面で依然として大きなアドバンテージがあり、それを活かしたビジネスモデルの構築が必要である。
 既存の企業の中から有望な事業を持つものを選別し、それらを継承・発展していく上でも、銀行が果たすべき役割は少なくない。少子高齢化が進行する日本では、近年、中堅・中小企業で経営者の高齢化による後継者不足が深刻な課題となっている。そうしたなか、後継者不足に悩む企業と最も近い関係にあることが多い銀行は、事業承継問題への対策に重要な役割を果たせる可能性がある。もっとも、事業承継の問題に取り組む上では、これまでの事業を存続することが前提の議論であってはならない。日本経済が抱えてきた構造的な課題は、開業率と廃業率がいずれも低かったことで企業の新陳代謝が進んでこなかったことである。事業承継の問題を議論する際にも、企業の新陳代謝を促進するという観点から、生産性が低い低収益企業の市場からの退出を促すことが不可欠である。また、これまである程度収益をあげてきた企業の事業承継であっても、従来のビジネスモデルに満足するのではなく、より高みを目指す事業承継を実現する姿勢が求められる。事業承継は新しい経営者が新たなビジネスモデルに挑戦する格好の機会であり、そこで銀行には事業承継を通じて顧客企業に新たなチャレンジを積極的に促す役割が期待される。

第2章 他業種との運用資金調達競争と金融機関(塩路悦朗 中央大学商学部教授)

【エグゼクティブサマリー】

 低金利時代がひとまず終わりを告げて運用金利が徐々に上昇するなか、銀行預金を主な資金調達手段とする伝統的金融機関は今後、資金調達面で他業態・他業種との競争に直面していくと思われる。本稿ではそのようなチャレンジとして、[1]「貯蓄から投資へ」の流れの中で銀行預金の重要性が低まる可能性、[2]一般事業会社から銀行業に参入した銀行グループの伸長、[3]ステーブルコインの台頭の3つを取り上げる。いずれについても、一見脅威と思われる中に実は発展へのヒントが隠されていることを論じる。
 論点[1]については、高齢化が進む日本においては、高度な金融知識を持つ独立した個人が自主的な判断に基づいてポートフォリオを組むというような、絵に描いたような「貯蓄から投資へ」の時代はおそらく来ない。高齢者の金融行動は粘着性が強く、彼らを未経験の投資活動に導くには、彼らから信頼を得ており、その財務状況をよく理解している機関による助言と誘導が必要である。彼らと長い取引関係を持つ銀行はそうした役割の担い手となり得る。銀行業と証券業の融合が進めば、そのようなビジネスチャンスはさらに広がり得る。ただし現時点では、多くの高齢者は自らの資産運用について専門家と相談することに消極的である。銀行には彼らからの信頼をさらに得るための努力が必要であろう。
 論点[2]についていえば、一般事業から銀行業への参入がこれまで多くみられた背景には、非対称な規制の存在があった。仮に今後規制改革が進み、銀行側からも電子商取引などの一般事業に参入することができるようになれば、預金・決済・証券・保険といった金融事業にショッピングなどの非金融事業を加えた、フルセットのオンラインサービスを1つの銀行グループがスマホ上でワンストップで提供できるようになる。グループ内各社間で業種をまたいだ顧客情報の共有と利活用が(利用者の承認の下で)進めば強力な範囲の経済性が発揮され、銀行の競争力強化につながるだろう。銀行グループは利用者の財務状況だけでなく購買行動なども含めてトータルに理解することで、個別顧客に最適化されたサービスや投資助言を提案することができる。銀行はそのような規制緩和が進んだ先の時代を見越して、業務多角化への準備を進めるべきであろう。
 論点[3]について、デジタル技術の進歩は決済の世界に大幅な効率化をもたらす可能性がある。しかし、もしステーブルコイン中心のシステムの構築を許せば、金融システムは不安定化するだろう。対抗して銀行がトークン化預金を発行し、これを決済の中心にすることができれば、金融システムの安定化に寄与するだろう。各銀行はポイント付与や金利・手数料優遇などの誘因を与えることで、トークン化された預金の自行グループ内での利用を促進することができる。銀行としても預金の魅力が高まれば利用者行動の粘着性が増し、経営が安定化することが期待できる。ただしこの分野での変化のスピードは速く、銀行は早期に準備を進める必要がある。仮に大手グループが合意して、共通のブロックチェーン上でトークン化預金を発行することができれば、日本の決済分野に大きなインパクトを与えることができるだろう。
 こうした動きに対して規制当局は、「銀」「証」「商」の連携を後押しする方向に舵を切ったうえで、業態間ではなく銀行グループ間の競争を促進する方向に転換すべきだろう。その一方で、預金保険や中央銀行の最後の貸し手機能などの恩恵を受ける預金取扱機関の特殊性は、グループ全体に占める銀行業務の比率に関わらず存在する。したがってグループの「出自」や「本業」といった伝統的概念にとらわれず、傘下に銀行を抱えるグループには一律の考え方に基づく規制を課すべきであろう。
 デジタル技術導入における固定費用の存在や範囲の経済性の強化により、フルセットの金融・非金融サービスを提供できるグループはごく少数にとどまるかもしれない。そうしたグループが利用者に対して過度に優位に立たないように、規制当局には、個人情報の保護や、利用者がグループを離れてもデジタルサービスへの最低限のアクセスに困らないようにリテール型CBDCを発行するなどの対策を取ることが期待される。

第3章 バーゼルIII下の邦銀-規制の在り方について(佐々木百合 明治学院大学経済学部教授)

【エグゼクティブサマリー】

 国際的な銀行規制であるバーゼル規制は、銀行の健全性を確保し、金融システムの安定を維持することを目的として発展してきた。バーゼルIIでは内部格付手法(IRB)が導入され、銀行が推計するデフォルト確率(PD)やデフォルト時損失率(LGD)などのリスクパラメータを用いることで、よりリスク感応的な自己資本規制が構築された。しかし2007~2009年の世界金融危機を契機に、銀行規制をさらに強化する必要性が認識され、バーゼルIIIが策定された。
 バーゼルIIの下では、内部モデルによって算出されるリスク加重資産(RWA)のばらつきが銀行間で大きいことが問題視されるようになった。この問題を検証するため、バーゼル委員会はRCAP(Regulatory Consistency Assessment Programme)を実施し、仮想ポートフォリオ分析などを用いてリスクウェイトの差異を分析した。その結果、内部モデルによるリスクウェイトの違いが、自己資本比率の比較可能性に影響を与える可能性があることが示された。
 こうした問題への対応として導入されたのが、資本フロア規制およびレバレッジ比率規制である。資本フロア規制は、内部モデルによるRWAが標準的手法によるRWAの72.5%を下回らないようにするものであり、レバレッジ比率規制はリスクウェイトを用いず総エクスポージャーに対する自己資本の最低比率を求めるものである。しかしこれらの規制は、RCAPで行われたような詳細なリスク分析を直接反映するものではなく、一律の制約として機能するという問題がある。そのため、実際にはリスクが低い資産を多く保有する銀行であっても、規制に抵触する可能性が生じる。
 日本の銀行は、欧米と比較して銀行貸出への依存度が高く、特にメガバンクでは信用力の高い大企業向け貸出の比率が高い。また担保や保証の利用、長期的な取引関係などにより信用リスクが低く、内部モデルによるリスクウェイトが低く算出されやすい。IMFの金融セクター評価プログラム(FSAP, 2024)でも、日本の銀行は相対的に信用力の高い借り手を多く抱えているため、信用リスクパラメータの悪化が資本に与える影響が比較的小さいことが示されている。
 実際のデータをみると、3メガバンクでは内部モデルによるRWAが標準的手法によるRWAの約6割程度にとどまっている。資本フロア規制は段階的に導入され、2027年には72.5%が適用される予定であるため、今後銀行はポートフォリオ調整や資本政策の変更を迫られる可能性がある。またレバレッジ比率についても、日銀当座預金の扱いなどによって大きく変動し得るため、金融政策の変化が銀行の規制比率に影響を与える可能性がある。
 以上の分析から、日本の銀行が資本フロア規制やレバレッジ比率規制の影響を受けやすい背景は、必ずしもリスク評価の甘さではなく、貸出ポートフォリオの特性に起因する可能性が高いことが示唆される。内部モデルによる精緻なリスク評価が行われているにもかかわらず、それが規制上十分に反映されない場合、銀行がリスク管理を高度化するインセンティブが弱まるおそれがある。したがって、金融システムの安定という本来の目的を踏まえつつ、規制の設計や運用について再検討する余地があると考えられる。

第4章 デジタル社会における金融システム設計 -オープンバンキングと貸出市場-(長田健 埼玉大学大学院人文社会科学研究科・経済学部教授)

【エグゼクティブサマリー】

 本章は、デジタル社会の進展とオープンバンキングによる情報共有の拡大によって、銀行業、特に貸出市場における競争環境がどのように変化し、その中で銀行の役割がいかに変容するのかを検討することを目的とした。従来、銀行と銀行業はほぼ同義であり、預金・融資・決済といった銀行業務は銀行によって独占的に担われてきた。その背景には、銀行が顧客の金融データを集約的に保有し、情報の非対称性を緩和する中心的な担い手であったという構造がある。しかし2010年代以降、フィンテックの台頭と各国政府によるオープンバンキング政策の推進により、銀行業は他業種との競争に直面するようになった。オープンバンキングの本質は、単なるAPI公開ではなく、金融データの主権と情報共有の主導権が銀行から顧客(借り手)へと移行する点にある。
 本章ではまず、オープンバンキングの制度的背景と国際的な導入状況を整理し、情報共有は規制当局や金融機関の意図だけで進むものではなく、顧客が自らのデータを共有するか否かを選択することによって初めて成立する仕組みであることを確認した。この点は、オープンバンキングが銀行中心の情報構造を転換し得る制度であることを理解する上で重要である。
 続いて、オープンバンキングが貸出市場に与える影響に関する理論・実証研究を整理した。理論研究は、借り手主導のデータ共有が信用スクリーニングを改善し競争と厚生を高め得る一方で、金融機関間の能力格差を拡大させる場合には、競争が緩和され借り手に不利な結果が生じ得ることを示している。実証研究は、英国やインドの事例を通じて、オープンバンキングや公共デジタル決済インフラが金融アクセス拡大、フィンテック参入、金融包摂の進展に寄与していることを明らかにするが、その効果はデータの利用目的や借り手の属性によって異なることも示される。これらの先行研究は、オープンバンキングが一様に銀行の役割を低下させるわけではなく、制度設計と市場構造に強く依存することを示唆している。
 さらに本章は、借り手情報をハード情報とソフト情報に区別し、情報共有の含意を整理した。ハード情報とは、定量的で標準化・保存・伝達が容易な情報であり、オープンバンキングによって主に共有が進むのはこの領域である。技術進歩により、従来は定性的と考えられてきた情報も部分的に定量化・構造化され、金融取引におけるハード情報の比重は今後さらに高まると考えられる。この結果、ハード情報に大きく依存する融資は、フィンテックなど他業種との競争にさらされ、銀行の相対的役割は低下する可能性が高い。一方で、借り手との継続的関係や現場的理解に基づくソフト情報は、本質的に完全な共有が困難であり、特に法人融資においては銀行の比較優位を形成し続ける。もっとも、ソフト情報の活用には裁量が伴い、予測力向上という便益と同時に判断のばらつきというノイズが生じ得る点にも留意が必要である。
 以上の分析を踏まえ、本章はグローバルに通用する金融システム構築に向けた政策的含意を提示する。具体的には、欧州のFiDAに準じ、金融データの主権を借り手に帰属させ、取引履歴や残高情報などのハード情報を原則共有とする包括的な金融データアクセス規制が、日本においても有力な制度選択肢であると論じる。この枠組みの下では、銀行・その他金融機関・フィンテックが対等な立場で競争する市場構造が形成され、貸し手側の情報独占や金融グループ内の利益相反問題の緩和にも資する可能性がある。
 結論として、本章は、デジタル社会・情報共有社会において銀行の役割が消滅するのではなく、ハード情報の独占から、ソフト情報の生産・活用と適切なリスク判断を通じた付加価値創出へと重心を移しつつ、金融仲介の中核的役割を担い続けることを示している。明治維新後や戦後期と同様に、時代に適応した形で銀行が銀行業をけん引する可能性が、現代においてもなお存在すると結論づけられる。

第5章 邦銀の外貨資金調達力の強化(田中茉莉子 武蔵野大学経済学部教授)

【エグゼクティブサマリー】

 本章では、邦銀がグローバル展開を進める上で不可欠となる外貨資金調達、とりわけ米ドル資金調達力の強化に焦点を当て、長期的・短期的課題を整理したうえで、金融当局・邦銀の対応を検討し、政策提言を行う。
 ゼロ金利時代が終わりを迎え、金利のある世界が戻ってきたが、収益が見込まれる海外への投資需要は根強く、グローバル競争社会の中で邦銀の外貨資金調達力の強化が重要な検討課題となっている。米ドルの基軸通貨としての優位性が続く中で、1.マクロ経済環境の改善、2.政策対応、3.邦銀の自助努力の三本柱により、特に米ドル調達コストを低減させることで邦銀の国際競争力を強化することが求められる。
 邦銀が米ドルを調達する際、主として現地預金で調達を行う他通貨とは異なり、米ドルの入手が市場調達に依存しており、流動性プレミアムの上昇時に調達コストが急騰しやすいことから、米ドルの調達コストをいかにして低下させるかが重要な課題となっている。
 世界金融危機や欧州ソブリン危機といった危機時には、FRBとの無制限米ドルスワップ協定が発動される可能性が高く、日本銀行がドル供給を行うことにより邦銀の米ドル調達コストの急騰を抑制することができる。一方、平時は米ドルスワップ協定が発動される可能性が低いため、市場調達コスト上昇への対応が難しい。特に、近年、日本円の避難通貨としての地位が低下していること、そして低金利環境下で日本円に対する魅力が低下していることから、邦銀が米銀との交渉において不利な立場に置かれている。邦銀の交渉力を高めるためには、低金利環境を是正することが重要である。
 平時における政策対応の観点からは、日本の巨額の外貨準備を有効活用することも考えられる。政府は、これまで、外為特会を活用し、海外展開企業に外貨貸付を行うJBICに対して、補完的な外貨貸付を行ってきた。JBICは邦銀と連携した協調融資も行っている。このため、政府が邦銀に対してJBICを通じた米ドル貸付により米ドルを供給することで、邦銀の米ドル調達コストを低減させることも一案として考えられる。
 以上のマクロ経済環境の改善、政策対応に加えて、邦銀の自助努力も課題となる。特に平時からの短期調達手段の安定化は喫緊の課題となっている。邦銀は米ドルを主にCD/CPの発行や為替スワップといった市場調達に依存しているが、その調達は市場環境の影響を受けやすい。邦銀が平時の米ドル調達リスクに対処するためには、短期調達の分散化・多様化を進めることが重要となる。
 本章では、邦銀の外貨資金調達力、特に米ドルの資金調達力を高めるために何が必要となるのかを検討するため、まず前半では、邦銀の外貨資金調達力に影響を与える要因および課題について、主として米ドルの資金調達に焦点を当てて整理する。そこでは、グローバルな観点からは脱米ドルの動きはあるものの、基軸通貨としての米ドルの地位は維持されていること、わが国においては円の国際化が失敗し、アジアにおいて共通通貨等通貨バスケットは道半ばとなっている中、短期的に安定的な米ドル資金調達が重要となっていることを示す。続く後半では、グローバルに通用する金融システムの整備に向けて、低金利環境、世界有数の外貨準備高の保有といった日本固有の事情を踏まえ、マクロ経済環境、政策対応、邦銀の自助努力の観点から、課題解決に向けた以下の提言を行う。

  1. 利上げできないマクロ経済環境を改善する。
  2. 政策対応としては、(株)国際協力銀行(JBIC)をハブとして、巨額の外貨準備の活用により邦銀の米ドル資金調達コストを低減させる。
  3. 邦銀の自助努力の観点から、邦銀の短期的な米ドル資金の調達先を分散化・多様化させる。

第6章 金融制度の国際的機能等価性の確保 -信用リスクの市場分散と長期成長資金供給-(清水啓典 一橋大学名誉教授)

【エグゼクティブサマリー】

 経済成長の源泉は技術進歩であり、新技術の社会実装には本質的にリスクが伴う。預金を基礎とする銀行は、制度上、信用リスクの集中負担には構造的制約があり、持続的な経済成長には、銀行単体ではなく、金融市場全体でリスクを分散・負担する資金供給システム構築が必要である。
 技術進歩が加速し、成長分野のリスクが高度化・多様化する現在、金融システム安定性を維持しつつ、市場参加者の合理的行動が長期成長資金供給につながる制度への進化が求められる。諸外国では、各国の実情に応じた柔軟な規制運用により、流動性を市場経由で長期資本へ転換する制度整備が進む。一方、日本では1990年代の危機対応として形成された実質責任重視の規制運用が維持され、銀行貸出資産の市場化やリスク分散は限定的に留まっている。
 「国際的機能等価性」とは制度形式の同一化ではなく、日本の現行制度下でも、金融仲介・リスク分散・成長資金供給の中核的機能が国際的に同等に発揮される状態を指す。中心的視点は、銀行のオリジネーション責任とモニタリング責任を維持しつつ、市場に分散された信用リスクを資本規制・監督評価に適切に反映する制度運用の高度化である。
 第一の柱は、銀行・証券・保険間のファイアーウォール規制の在り方の見直しである。国際的には、情報遮断よりも、情報共有を前提とした利益相反管理が主流である。情報技術が進展する中、情報遮断規制には実効性や持続性の面で課題が大きく、今後は情報共有を通じた、透明性向上と監督精度強化へと規制の重点を移す必要がある。
 第二の柱は、資本規制の運用に関する国際的機能等価性の確保である。米欧では、銀行規模や融資先特性等を踏まえた資本要件の調整や、中小企業向け融資のリスクウェイト軽減など、成長資金供給を意識した制度設計が進む。一方、日本では相対的に厳格な運用が融資余力の制約要因となっており、国際的規制枠組みと整合的な形で運用精緻化を図るべきである。
 第三の柱は、証券化を通じたリスク分散機能の活用である。銀行がオリジネイトした債権を証券化し、トランシュ構造により市場へ配分することで、リスク負担能力の異なる投資家による合理的な信用リスク引き受けが可能となる。SRT(Significant Risk Transfer)は、銀行の責任免除ではなく、実質的リスク移転が生じた範囲で資本規制に反映する仕組みである。SRTの定量的かつ透明な評価基準と判断プロセスの明確化は規制緩和ではなく、金融安定と成長資金供給の両立を図る監督精度の向上である。
 銀行の情報は社会的価値を有する無形資産であり、その適切な共有を前提とする制度環境整備は、ハイイールドボンドやメザニン・社債市場の発展を通じて、「貯蓄から投資へ」の発展を促す。金融市場全体の横断的監督体制高度化により、利益相反やモラルハザードを抑制しつつ、市場型リスク分散機能の活用を最大化できる。信用リスク分散は金融理論の基本原理であり、理論に整合的な制度高度化こそが、安定性を前提とした金融市場の国際競争力強化と、財政支出に過度に依存しない自律的経済成長の基盤となる。
 本提言は、新たな立法を前提とせず、実証・限定・段階的導入を通じて、既存制度の枠内での運用高度化により実施可能な制度進化の道筋を示す。豊富な銀行預金を長期成長資金として活用する制度環境整備は、日本経済の持続的成長と金融市場の国際競争力強化の先送りできない課題である。対応が遅れるほど成長分野への資本循環は停滞し、技術革新の社会実装の速度と国際競争力に不可逆的な差が生じる可能性がある。