都市銀行 (特定取引勘定設置銀行5行)

 都市銀行の平成20年度決算をみると、資金運用益は、国際業務部門において、収益、費用ともに大幅に減少したものの、費用が収益を上回って減少したこと等から、全体では増益となった。経常利益は、国際業務部門においてその他業務収支の損失超過額が大幅に改善したものの、国内業務部門における役務取引等収支の収益超過額および国際業務部門における特定取引収支の収益超過額が減少し、株式等償却や与信関係費用が大幅に増加したこと等から、全体では5年ぶりに黒字から赤字に転じた。また、当期純利益も、経常利益が赤字に転じたことに加え、貸倒引当金戻入益が大幅に減少したこと等から、5年ぶりに黒字から赤字に転じた。
 業容面(末残)をみると、資金調達では、預金が前年度末比1.0%増、資金運用では、貸出金が同5.6%増となった。

損益状況

資金運用益
 資金運用益は、3兆7,576億円(前年度比1,732億円、4.8%増)と増益となった。内訳をみると、国内業務部門においては、有価証券利回りの低下に伴い有価証券利息配当金が減少したものの、貸出金残高(平残)の増加により貸出金利息が増加したこと等から、3兆2,614億円(同59億円、0.2%増)と増益となった。また、国際業務部門においては、金融危機による米欧政策金利の引き下げにより、費用が収益を上回って減少し、総資金利鞘が拡大したことから、4,963億円(同1,673億円、50.9%増)と増益となった。
(国内業務部門)
 資金運用収益をみると、有価証券利息配当金は、国債の増加を主因に有価証券残高(平残)は増加したものの、有価証券利回りが低下したこと等から、7,285億円(前年度比375億円、4.9%減)と減少した。しかし、金融危機による大企業のコマーシャル・ペーパー(CP)や社債発行の急減による貸出金への振り替わりを受けて、貸出金残高(平残)が増加したことから、貸出金利息が3兆2,693億円(同244億円、0.8%増)と増加したほか、コールローン利息が607億円(同92億円、17.9%増)、金利スワップ受入利息が75億円(同44億円、143.1%増)と増加した結果、全体では4兆3,273億円(同43億円、0.1%増)と増加した。
 資金調達費用をみると、残高(平残)が増加したことから、譲渡性預金利息は1,195億円(前年度比149億円、14.2%増)、コールマネー利息は964億円(同68億円、7.6%増)と増加したものの、金利スワップ支払利息が541億円(同263億円、32.7%減)、その他の支払利息が109億円(同71億円、39.4%減)と減少したこと等から、全体では1兆660億円(同16億円、0.1%減)と減少した。
 以上の結果、国内業務部門における資金運用益は3兆2,614億円(同59億円、0.2%増)と増益となった。
(国際業務部門)
 資金運用収益をみると、貸出金利息は、米欧金融機関における信用収縮の影響により貸出金残高(平残)は増加したものの、利回りが低下したことから、1兆2,589億円(前年度比1,785億円、12.4%減)と減少した。また、金融危機による米欧政策金利の引き下げの影響等から、利回りが大幅に低下したことを主因として、有価証券利息配当金は5,459億円(同3,283億円、37.6%減)、預け金利息は2,259億円(同2,070億円、47.8%減)と減少した。この結果、全体では2兆4,001億円(同8,287億円、25.7%減)と減少した。
 資金調達費用をみると、借用金利息は3,916億円(前年度比179億円、4.8%増)、金利スワップ支払利息は644億円(同186億円、40.5%増)と増加したものの、金融危機による米欧政策金利の引き下げの影響等から、利回りが大幅に低下したことを主因として、預金利息は6,117億円(前年度比6,002億円、49.5%減)、譲渡性預金利息は909億円(同871億円、48.9%減)、その他の支払利息は3,194億円(同997億円、23.8%減)と減少した結果、全体では1兆9,039億円(同9,961億円、34.3%減)と減少した。
 以上の結果、国際業務部門における資金運用益は4,963億円(同1,673億円、50.9%増)と増益となった。
役務取引等収益・費用
 国際業務部門における融資関連手数料および国内業務部門におけるシンジケート・ローン関連手数料は増加したものの、株価の大幅な下落や円高等を背景として、投資信託、年金保険および対顧客デリバティブの販売手数料が大幅に減少したほか、為替手数料収支の収益超過額も減少したこと等から、全体の収益超過額は1兆152億円(前年度比995億円、8.9%減)と減少した。
特定取引収益・費用
 トレーディング業務に係る特定取引収益・費用は、国内業務部門において収益超過額が増加したものの、外貨調達に係る通貨スワップ取引関係費用が増加したこと等により、国際業務部門において収益超過額が大幅に減少したことから、全体の収益超過額は5,146億円(同5,832億円、53.1%減)と大幅に減少した。
その他業務収益・費用
 国内業務部門における国債等関係損益は、金融危機による市場の混乱を要因として証券化商品関連損失を計上したことに伴い、収益超過から損失超過に転じたものの、国際業務部門における外国為替売買損益が、通貨スワップ取引に見合う外貨建資産に係る為替差損益の改善等により、損失超過から収益超過に転じたこと、および金融派生商品損益が損失超過から収益超過に転じたこと等から、その他業務収支全体の損失超過額は、274億円(前年度比2,197億円減)と減少した。
その他経常収益・費用
 国内外の株価の大幅な下落により、株式等償却が大幅に増加したことから、株式等関係損益の損失超過額は、1兆1,625億円(前年度比1兆1,392億円増)と大幅に増加した。また、景気悪化に伴い、貸倒引当金繰入額全体は6,258億円(同5,937億円、1,848.7%増)と大幅に増加し、貸出金償却も1兆22億円(同5,317億円、113.0%増)と大幅に増加した。この結果、その他経常収支の損失超過額は、2兆8,848億円(前年度比2兆779億円増)と大幅に増加した。
営業経費
 営業経費は、物件費が1兆7,900億円(同504億円、2.7%減)、税金が1,662億円(同16億円、1.0%減)と減少したものの、派遣社員の直接雇用化や退職給付関係費用の増加に伴い、人件費が1兆346億円(前年度比1,469億円、16.6%増)と増加したことから、全体では2兆9,908億円(同948億円、3.3%増)となった。
経常利益・当期純利益
 以上の結果、経常収益は、9兆8,272億円(前年度比1兆6,470億円、14.4%減)となり、経常費用は、10兆4,336億円(同8,186億円、8.5%増)となったことから、経常利益は6,064億円の赤字(前年度1兆8,592億円の黒字)と5年ぶりに黒字から赤字に転じた(減益3行、経常損失3行)。また、特別利益は、一部の銀行において本社ビルの売却があったものの、貸倒引当金戻入益が大幅に減少したこと等から、3,563億円(同229億円、6.1%減)となり、特別損失は、1,419億円(同3,994億円、73.8%減)となった。この結果、税引前当期純利益は3,920億円の赤字(前年度は1兆6,971億円の黒字)と黒字から赤字に転じた。さらに、法人税、住民税及び事業税は1,054億円(同748億円、244.3%増)、法人税等調整額(税金費用)は6,082億円(同444億円、7.9%増)と増加した結果、当期純利益は1兆1,056億円の赤字(前年度は1兆1,027億円の黒字)と5年ぶりに黒字から赤字に転じた(減益2行、当期純損失4行)。
 なお、業務純益は2兆1,765億円(前年度比5,314億円、19.6%減)と減益となった(減益6行)。国内業務粗利益は4兆856億円(同1,656億円、3.9%減)、国際業務粗利益は1兆1,877億円(同1,301億円、9.9%減)となった。

 

利回り・利鞘

(国内業務部門)
 資金運用利回りをみると、貸出金利回りは前年度比0.03%ポイント低下して1.84%、有価証券利回りは同0.08%ポイント低下して0.96%、コールローン等利回りは同0.04%ポイント上昇して1.09%となった。この結果、資金運用利回り全体では、同0.04%ポイント低下して、1.48%となった。
 資金調達原価をみると、預金債券等利回りは前年度比変わらず0.27%、コールマネー等利回りは同0.05%ポイント低下して0.71%、経費率は同0.01%ポイント上昇して0.97%となった。この結果、資金調達原価全体では、同0.01%ポイント低下して、1.20%となった。なお、資金調達利回りは、同0.01%ポイント低下して、0.36%となった。
 以上の結果、国内業務部門における総資金利鞘(資金運用利回り-資金調達原価)は前年度比0.03%ポイント低下して0.28%、うち、経費部分を除いた総資金粗利鞘(資金運用利回り-資金調達利回り)は同0.03%ポイント低下して1.12%となった。
(国際業務部門)
 資金運用利回りをみると、貸出金利回りは前年度比1.41%ポイント低下して3.61%、有価証券利回りは同1.42%ポイント低下して2.74%、コールローン利回りは同2.11%ポイント低下して2.67%となった。この結果、資金運用利回り全体では、同1.22%ポイント低下して3.17%となった。
 資金調達利回りをみると、預金利回りは前年度比1.58%ポイント低下して1.85%、コールマネー利回りは同2.06%ポイント低下して2.40%、借用金利息の利回りは同1.08%ポイント低下して3.69%となった。この結果、資金調達利回り全体では、同1.38%ポイント低下して2.46%となった。
 以上の結果、国際業務部門における総資金粗利鞘(資金運用利回り-資金調達利回り)は、前年度比0.16%ポイント上昇して0.71%となった。

 

資金調達

 預金は、末残でみると、国内業務部門では241兆6,341億円(前年度末比5兆9,623億円、2.5%増)と増加し、国際業務部門では31兆8,892億円(同3兆1,525億円、9.0%減)と減少した。その結果、全体では273兆5,233億円(同2兆8,099億円、1.0%増)と増加した。内訳を見ると、当座預金は21兆8,071億円(同1兆5,698億円、7.8%増)、普通預金は125兆8,368億円(同1兆5,773億円、1.3%増)、定期預金は101兆1,235億円(同9,185億円、0.9%増)と増加し、外貨預金は9兆2,285億円(同7,397億円、7.4%減)と減少した。
 平残でみると、国内業務部門では230兆1,916億円(前年度比2兆3,286億円、1.0%増)と増加し、国際業務部門では33兆612億円(同2兆2,918億円、6.5%減)と減少した。この結果、全体では263兆2,527億円(同368億円、0.00%増)と増加した。
 譲渡性預金は、末残では24兆5,116億円(前年度末比4兆1,025億円、20.1%増)、平残では22兆8,189億円(前年度比2兆80億円、9.6%増)と増加した。

 

資金運用

 貸出金は、末残でみると、国内業務部門では、企業の資金需要が高まったことを受け、187兆7,814億円(前年度末比7兆3,298億円、4.1%増)、国際業務部門では、米欧金融機関における信用収縮の影響により、37兆757億円(同4兆6,294億円、14.3%増)と増加した。この結果、全体では224兆8,572億円(同11兆9,593億円、5.6%増)と増加した。
 平残でみると、国内業務部門では182兆6,883億円(前年度比3兆6,918億円、2.1%増)、国際業務部門では34兆8,710億円(同6兆2,564億円、21.9%増)と増加した。この結果、全体では217兆5,593億円(同9兆9,482億円、4.8%増)と増加した。
 銀行勘定のリスク管理債権については、破綻先債権額が4,819億円(前年度末比3,545億円、278.2%増)、延滞債権額が2兆3,907億円(同6,971億円、41.2%増)、3カ月以上延滞債権額が899億円(同388億円、75.7%増)、貸出条件緩和債権額が9,963億円(同3,930億円、28.3%減)となった。この結果、リスク管理債権額の合計は3兆9,590億円(同6,974億円、21.4%増)となり、貸出金総額に占める比率は前年度比0.23%ポイント上昇して、1.76%となった。
 金融再生法第7条にもとづき開示が義務付けられている資産査定の各区分の内容は、破産更生債権及びこれらに準ずる債権が9,094億円(前年度末比5,166億円、131.5%増)、危険債権が2兆1,895億円(同6,331億円、40.7%増)、要管理債権が1兆863億円(同3,542億円、24.6%減)、正常債権が246兆6,357億円(同8兆3,729億円、3.5%増)となった。
 有価証券は、末残でみると、国内外の株価の大幅な下落により、株式が10兆3,960億円(前年度末比4兆3,387億円、29.4%減)となったものの、国債が56兆7,072億円(同14兆1,696億円、33.3%増)と増加したことから、全体では102兆8,729億円(同8兆2,239億円、8.7%増)と増加した。平残でも、95兆7,249億円(前年度比7,230億円、0.8%増)と増加した。

 

自己資本

 資本金は、期中に1行で増資が行われたことから、3兆9,321億円(前年度末比1,993億円、5.3%増)となり、資本剰余金は6兆2,750億円(同5,893億円、10.4%増)となった。また、利益剰余金は2兆959億円(同1兆9,155億円、47.8%減)となった。
 以上のほか、国内外の株価の大幅な下落に伴い、その他有価証券評価差額金が1兆2,558億円の評価差損(前年度末は1兆2,689億円の評価差益)となったこと等から、純資産の部合計は11兆7,799億円(同3兆4,936億円、22.9%減)となった。

 

[担当:福田]