地方銀行 (特定取引勘定設置銀行12行)

 地方銀行の平成20年度決算をみると、資金運用益は、資金運用収益および資金調達費用がともに減少したものの、貸出金の伸びに伴う貸出金利息の増加等により、前者の増加額が後者のそれを上回ったことから、4年連続で増益となった。
 経常利益は、役務取引等収益が減益となったほか、国債等債券償却および株式等償却の大幅な増加等から、前年度比1兆278億円減益の1,341億円の赤字となり、また、当期純利益については、経常利益が赤字となったこと等から、同5,805億円減益の699億円の赤字となり、経常利益とならび5年ぶりに黒字から赤字に転じた。
 業容面(末残)をみると、預金は前年度末比2.3%増、貸出金は同4.4%増となった。

  • 本分析は、預金保険法第102条第1項第3号措置の認定を受けた特別危機管理銀行1行を含んでいる(なお、当該銀行の特別危機管理は、20年7月1日に終了した)。また、本分析における当期純利益は、預金保険機構から足利銀行に実施された金銭贈与2,566億円を除いて集計している。

損益状況

資金運用益
 資金運用益は、3兆3,467億円(前年度比175億円、0.5%増)となり、増益となった。
 資金運用収益をみると、貸出金利息は、貸出金の大幅な伸びから3兆1,746億円(前年度比346億円、1.1%増)と増加したものの、10月および12月の日本銀行の金融政策の変更に伴い、無担保コールレートが年末から0.1%前後で維持されたことや、米欧政策金利の引き下げの影響等から、コールローン利息は343億円(同242億円、41.4%減)、その他の受入利息は388億円(同265億円、40.6%減)とそれぞれ大幅に減少した。また、有価証券利息配当金は、国際業務部門において、外国証券残高(平残)が大幅に減少するとともに、利回りも低下したこと等から、8,171億円(同919億円、10.1%減)と減少した。この結果、資金運用収益全体では、4兆991億円(同1,056億円、2.5%減)と減少した。
 次に、資金調達費用をみると、米欧政策金利の引き下げの影響等に伴う国際業務部門における調達金利の低下等から、預金利息が5,619億円(前年度比297億円、5.0%減)と減少し、コールマネー利息が272億円(同273億円、50.1%減)、金利スワップ支払利息が326億円(同269億円、45.2%減)とそれぞれ大幅に減少した。この結果、資金調達費用全体では、7,525億円(同1,231億円、14.1%減)と大幅に減少した。
役務取引等収益・費用
 9月の米国市場における信用不安を受けた株価の大幅な下落等に伴い、投資信託等の販売手数料等が減少し、その他の役務収支の収益超過額が減少したことから、収益超過額は4,000億円(前年度比873億円、17.9%減)と減少した。
特定取引収益・費用
 トレーディング業務に係る特定取引収益・費用は、特定金融派生商品収益が減少したことから、収益超過額は130億円(前年度比22億円、14.7%減)と減少した。
その他業務収益・費用
 金融派生商品損益は、費用の減少等に伴い、収益超過に転じたが、国債等債券償却の大幅な増加を主因として、国債等債券関係損益の損失超過額が拡大したことから、全体の損失超過額は、3,390億円(前年度比2,194億円増)と大幅に増加した。
その他経常収益・費用
 国内景気の悪化により一般貸倒引当金純繰入額および個別貸倒引当金純繰入額がともに増加したことから、貸倒引当金繰入額は5,261億円(前年度比1,932億円、58.0%増)と大幅に増加し、貸出金償却も2,464億円(同1,074億円、77.2%増)と大幅に増加した。また、株価の大幅な下落に伴う保有株式の減損を主因として、株式等関係損益は3,000億円と大幅な損失超過に転じた(前年度は844億円の収益超過)。この結果、その他経常収支の損失超過額は1兆1,027億円となり、前年度に比べて損失超過が大幅に拡大した(前年度は4,322億円の損失超過)。
営業経費
 営業経費は、人件費および物件費がともに増加したため、2兆4,527億円(前年度比659億円、2.8%増)となった。
経常利益・当期純利益
 以上の結果、経常収益は5兆2,585億円(前年度比2,938億円、5.3%減)、経常費用は5兆3,925億円(同7,340億円、15.8%増)となり、経常利益は1,341億円の赤字(前年度は8,937億円の黒字)と、5年ぶりに黒字から赤字に転じた(減益33行、経常損失31行)。当期純利益は、償却債権取立益や貸倒引当金戻入益が減少したものの、その他の特別損失の減少額が前者のそれを上回ったこと等を受け、特別損益の収益超過は拡大したが、経常利益が大幅な減益により赤字となったこと等から、699億円の赤字(前年度は5,106億円の黒字)となり、経常利益とならび5年ぶりに黒字から赤字に転じた(増益6行、減益29行、当期純損失29行)。
 なお、業務純益は、9,957億円(前年度比3,320億円、25.0%減)と減益となった(増益7行、減益45行、黒字転換1行、赤字11行)。また、国内業務粗利益は3兆4,921億円(同2,049億円、5.5%減)となり、国際業務粗利益は693億円の赤字(前年度は177億円の黒字)と黒字から赤字に転じた。

 

利回り・利鞘(国内業務部門)

 資金運用利回りをみると、貸出金利回りは前年度比0.05%ポイント低下して2.12%、有価証券利回りは同0.01%ポイント低下して1.27%、コールローン等利回りは同0.14%ポイント低下して0.54%となった。この結果、資金運用利回り全体では、同0.02%ポイント低下して1.83%となった。
 一方、資金調達原価をみると、預金債券等利回りは前年度比0.01%ポイント上昇して0.27%、コールマネー等利回りは同0.19%ポイント低下して0.86%となった。また、経費率は、同0.01%ポイント低下して1.17%となった。この結果、資金調達原価全体では、前年度比変わらず1.44%となった。
 以上の結果、総資金利鞘は、前年度比0.02%ポイント低下して0.39%となった。

 

資金調達

 預金は、定期性預金を中心に増加したことから、末残で200兆5,627億円(前年度末比4兆4,451億円、2.3%増)となった。また、平残では195兆9,372億円(前年度比3兆5,315億円、1.8%増)となった。
 譲渡性預金は、末残で4兆8,731億円(前年度末比255億円、0.5%減)となった。また、平残では5兆8,322億円(前年度比205億円、0.4%増)となった。

 

資金運用

 貸出金は、国内業務部門において大企業・中堅企業向けを中心とする企業向け貸出および住宅ローン等が増加したことから、末残で155兆371億円(前年度末比6兆4,903億円、4.4%増)となった。また、平残では149兆9,140億円(前年度比5兆5,998億円、3.9%増)となった。
 銀行勘定のリスク管理債権についてみると、破綻先債権額は6,117億円(前年度末比3,009億円、96.8%増)となり、延滞債権額は3兆6,925億円(同330億円、0.9%増)、3カ月以上延滞債権額は563億円(同98億円、21.0%増)、貸出条件緩和債権額は6,950億円(同7,640億円、52.4%減)となった。この結果、銀行勘定のリスク管理債権全体では、5兆558億円(同4,202億円、7.7%減)となり、貸出金総額に占める割合は、前年度末に比べて0.43%ポイント低下して、3.26%となった。
 なお、金融再生法第7条にもとづき開示が義務付けられている資産査定の各区分の内容(信託勘定の計数は除く。)は、破産更生債権及びこれらに準じる債権は1兆4,727億円(前年度末比3,916億円、36.2%増)、危険債権は2兆8,999億円(同428億円、1.5%減)、要管理債権額は7,514億円(同7,542億円、50.1%減)、正常債権は153兆101億円(同6兆6,476億円、4.5%増)となった。
 有価証券は、株式および外国証券等が減少したことから、末残で54兆9,147億円(前年度末比2兆406億円、3.6%減)となった。また、平残では57兆3,414億円(前年度比4,592億円、0.8%減)となった。

 

自己資本

 資本金は、期中に4行で増資、4行で転換社債型新株予約権付社債の転換等が行われたものの、2行で減資が行われたこと等から、2兆6,107億円(前年度末比65億円、0.2%減)となった。また、その他有価証券評価差額金は、9月の米国市場における信用不安を受けて株価が大幅に下落し、期末にかけても株価が低迷したこと等から、622億円の評価差損(前年度末は1兆511億円の評価差益)に転じた。以上の結果等から、純資産の部合計は、10兆9,179億円となった。

 

[担当:石井(誉)]