信託銀行 (特定取引勘定設置銀行5行)

 信託銀行の平成20年度決算をみると、資金運用益、役務取引等収支、および特定取引収支が減少したこと等から、業務純益は5,131億円(前年度比922億円、15.2%減)と減益となった。経常利益は、9月の米リーマン・ブラザーズの経営破綻およびその後の金融危機による市場の混乱等の結果、株式等関係損益が損失超過となったほか、貸倒引当金繰入額および貸出金償却の大幅な増加等から、173億円の赤字(前年度は5,038億円の黒字)となり、黒字から赤字に転じた。また、当期純利益は、特別利益が増加したものの、法人税、住民税及び事業税および法人税等調整額がこれを上回ったこと等から、423億円の赤字(前年度は3,655億円の黒字)となり、経常利益とならび6年ぶりに黒字から赤字に転じた。
 業容面(末残)をみると、預金は前年度末比4.8%増となった。信託勘定については、包括信託は増加したものの、貸付信託、金銭信託(合同運用指定金銭信託、単独運用指定金銭信託および特定金銭信託)、金銭信託以外の金銭の信託、年金信託、投資信託が減少したことから、全体では同11.2%減となった。また、貸出金は、銀行勘定では同5.8%増、信託勘定では同8.2%減となった。

損益状況

信託報酬
 株価の下落等により年金信託、投資信託等の時価ベースでの受託資産残高が減少したほか、不動産関連報酬も減少したことなどから、信託報酬は3,047億円(前年度比555億円、15.4%減)と減少した。
資金運用益
 資金運用収益、資金調達費用ともに減少したが、運用収益の減少額が調達費用の減少額を上回り、資金運用益は4,591億円(前年度比256億円、5.3%減)と減益となった。
 このうち、資金運用収益は9,650億円(前年度比874億円、8.3%減)と減少した。国内業務部門では、有価証券利息配当金が有価証券利回りの低下により減少したものの、貸出金利息が貸出金残高(平残)の増加および利回りの上昇により増加したこと等から、全体では同0.8%増と増加した。しかし、国際業務部門では、金融危機による米欧政策金利の引き下げを受けて貸出金利息および有価証券利息配当金が減少し、預け金利息も減少したこと等から、全体では同22.4%減と減少した。
 一方、資金調達費用は5,058億円(前年度比618億円、10.9%減)と減少した。国内業務部門では、預金利息が預金残高(平残)の増加および利回りの上昇により増加したほか、譲渡性預金利息が増加し、全体では同19.3%増と増加した。しかし、国際業務部門では、預金利息が預金残高(平残)の減少および金融危機による米欧政策金利の引き下げを受けて減少したほか、譲渡性預金利息が減少したこと等から、全体では同31.7%減と減少した。
 以上の結果、資金運用収益から資金調達費用を引いた資金運用益は、国内業務部門では3,881億円(同441億円、10.2%減)と減益となり、一方、国際業務部門では710億円(同185億円、35.3%増)と増益となった。これにより、全体では同5.3%減と減益となった。
役務取引等収益・費用
 各種手数料等の受払収支をみると、為替手数料収支の収益超過額は前年度比4.3%増と増加したものの、金融危機による市場の混乱に伴う投資信託の販売や不動産仲介業務等の減少により、その他の役務収支の収益超過額が同34.0%減と減少したことから、全体の収益超過額は1,913億円(前年度比974億円、33.7%減)となった。
特定取引収益・費用
 トレーディング業務に係る特定取引収益・費用は、国内業務部門においては前年度に引き続き収益超過(217億円)となったものの、国際業務部門においては632億円の損失超過となった。その結果、全体としては416億円の損失超過に転じた(前年度は190億円の収益超過)。
その他業務収益・費用
 金融派生商品損益は、前年度に引き続き損失超過となったものの、国債等債券関係損益が1,529億円、外国為替売買損益が179億円の収益超過となったことから、全体では1,456億円の収益超過(前年度比1,312億円、910.1%増)となった。
その他経常収益・費用
 株式等関係損益は、金融危機による市場の混乱に起因した株価の大幅な下落により、保有株式を減損処理したこと等から株式等償却が増加し、株式等売却損も増加したことから、3,046億円の損失超過となった。貸出金償却は、615億円(前年度比428億円、229.5%増)と増加した。貸倒引当金繰入額は、一般貸倒引当金が純取崩しとなったものの、個別貸倒引当金は純繰入れとなったことから421億円(同419億円、24,354.1%増)と大幅に増加した。また、その他の経常費用は、1,000億円(同82億円、7.6%減)と減少した。
 以上の結果、全体では4,814億円の損失超過となった(前年度は1,052億円の損失超過)。
営業経費
 税金、物件費は減少したものの、退職給付費用の増加等により人件費が増加したことから、営業経費は5,950億円(前年度比371億円、6.7%増)と増加した。
経常利益・当期純利益
 以上の結果、経常収益は1兆9,399億円(前年度比1,388億円、6.7%減)と減少したうえに、経常費用が1兆9,572億円(同3,823億円、24.3%増)と増加したことから、経常利益は173億円の赤字(前年度は5,038億円の黒字)となり、6年ぶりに黒字から赤字に転じた(減益5行、経常損失2行)。また、当期純利益は、その他の特別利益(252億円)を主因として特別利益が767億円(同13億円、1.7%増)と増加したものの、法人税、住民税及び事業税が516億円(同334億円、39.2%減)および法人税等調整額が398億円(同777億円、66.1%減)とこれを上回ったこと等から、423億円の赤字(前年度は3,655億円の黒字)となり、経常利益とならび6年ぶりに黒字から赤字に転じた(減益5行、当期純損失2行)。
 なお、業務純益は、5,131億円(前年度比922億円、15.2%減)と減益となった(増益1行、減益6行)。また、国内業務粗利益は9,158億円(同2,163億円、19.1%減)、国際業務粗利益は1,435億円(同1,084億円、309.2%増)となった。

 

利回り・利鞘

(国内業務部門)
 資金運用利回りをみると、貸出金利回りは前年度比0.04%ポイント上昇して1.58%、有価証券利回りは同0.30%ポイント低下して1.24%となった。この結果、資金運用利回り全体では、同0.07%ポイント低下して1.39%となった。
 資金調達利回りをみると、預金債券等利回りは前年度比0.10%ポイント上昇して0.59%、譲渡性預金利回りは同0.03%ポイント上昇して0.71%となった。この結果、資金調達利回り(資金調達費用/資金調達勘定平残)全体では、同0.07%ポイント上昇して0.62%となった。
 以上の結果、総資金粗利鞘(資金運用利回り-資金調達利回り)は、前年度比0.14%ポイント縮小して0.77%となった。
(国際業務部門)
 資金運用利回りをみると、貸出金利回りは前年度比1.40%ポイント低下して3.02%、有価証券利回りは同1.16%ポイント低下して3.44%となった。この結果、資金運用利回り全体では、同1.18%ポイント低下して3.07%となった。
 資金調達利回りをみると、預金利回りが前年度比1.56%ポイント低下して2.49%、譲渡性預金利回りは同2.20%ポイント低下して3.05%となった。この結果、資金調達利回り全体では、同1.37%ポイント低下して2.22%となった。
 以上の結果、総資金粗利鞘は、前年度比0.19%ポイント上昇して0.85%となった。

 

資金調達等

 預金は、末残でみると、国際業務部門(前年度末比5,811億円、26.5%減)は減少したものの、国内業務部門(同2兆2,612億円、6.9%増)は増加したことから、全体では36兆8,670億円(同1兆6,801億円、4.8%増)と増加した。平残では36兆353億円(前年度比1兆8,075億円、5.3%増)となった。
 譲渡性預金は、末残では4兆9,387億円(前年度末比9,831億円、16.6%減)、平残では5兆9,727億円(前年度比4,535億円、8.2%増)となった。
 また、信託勘定借は、末残では3兆7,815億円(前年度末比1,552億円、3.9%減)、平残では3兆7,707億円(前年度比8,391億円、18.2%減)となった。
 信託勘定をみると、新規の取扱停止等に伴い、前年度に引き続き貸付信託が減少(前年度末比33.5%減)したほか、金銭信託(合同運用指定金銭信託、単独運用指定金銭信託および特定金銭信託)(同34.8%減)、金銭信託以外の金銭の信託(同16.4%減)、年金信託(同7.1%減)、投資信託(同0.4%減)が減少した。一方、包括信託(同3.3%増)および有価証券の信託(同1.2%増)は増加した。この結果、信託勘定の負債合計額は、331兆3,411億円(同41兆8,021億円、11.2%減)と減少に転じた。

 

資金運用等

 貸出金は、末残でみると、国内業務部門(前年度末比5.2%増)、国際業務部門(同13.6%増)ともに増加し、全体では34兆1,572億円(同1兆8,640億円、5.8%増)となった。また、平残でも31兆9,858億円(前年度比6,667億円、2.1%増)と増加した。
 一方、信託勘定(末残)をみると、貸出金は、3兆6,219億円(前年度末比3,253億円、8.2%減)と減少した。
 ここで、不良債権の状況として、リスク管理債権の残高についてみると、延滞債権額は、銀行勘定で2,050億円(前年度末比783億円、61.8%増)、信託勘定で326億円(同12億円、3.6%減)となった。破綻先債権額は、銀行勘定で758億円(同642億円、550.6%増)、信託勘定で1億円(同0.1億円、7.2%増)と増加した。一方、貸出条件緩和債権額は、銀行勘定で442億円(同1,730億円、79.6%減)、信託勘定で115億円(同6億円、5.1%減)と減少した。この結果、リスク管理債権の総額は、銀行勘定で3,262億円(同312億円、8.7%減)、信託勘定で444億円(同19億円、4.1%減)と減少した(信託勘定については、いずれも元本補填契約のある信託勘定の計数)。なお、銀行勘定のリスク管理債権額の貸出金総額に占める比率は、同0.15%ポイント低下して0.96%となった。
 また、金融再生法第7条にもとづき開示が義務付けられている資産査定の各区分の内容(銀行勘定)は、破産更生債権及びこれらに準ずる債権が1,392億円(前年度末比825億円、145.5%増)、危険債権が1,806億円(同670億円、59.0%増)、要管理債権は463億円(同1,729億円、78.9%減)、正常債権は35兆1,130億円(同1兆8,098億円、5.4%増)となった。
 有価証券は、銀行勘定の末残では、株式(前年度末比28.1%減)等は減少したものの、国債(同38.8%増)が増加したことから、全体では20兆3,941億円(同1兆8,688億円、10.1%増)となった(平残では19兆5,481億円、前年度比1兆9,007億円、10.8%増)。一方、信託勘定の末残では、国債、株式、外国証券などが、いずれも減少したことから、全体では62兆722億円(前年度末比36兆5,884億円、37.1%減)となった。

 

自己資本

 資本金は、期中に1行で増資が行われたことから、1兆3,097億円(前年度末比205億円、1.6%増)となった。
 資本剰余金は8,554億円(前年度末比205億円、2.5%増)と増加したが、利益剰余金は1兆731億円(同2,327億円、17.8%減)となった。
 以上のほか、その他有価証券評価差額金が3,563億円の評価差損(前年度末は2,718億円の評価差益)に転じたこと等から、純資産の部合計は2兆8,310億円となった。

[担当:昆]