地方銀行 (特定取引勘定設置銀行12行)

 地方銀行の平成21年度決算をみると、資金運用益は、資金運用収益および資金調達費用がともに減少したものの、減少額で収益が費用を上回ったことから、5年ぶりに減益となった。
 経常利益は、役務取引等収支の収益超過額が減少したものの、国債等債券関係損益が損失超過から収益超過に転じたこと、株式等関係損益の損失超過額が縮小したこと、および個別貸倒引当金純繰入額が減少したことから、前年度比9,412億円増益の8,066億円の黒字と赤字から黒字に転じた。また、当期純利益についても、経常利益が黒字となったことを受けて、同6,231億円増益(注)の5,527億円の黒字と赤字から黒字に転じた。
 業容面(末残)をみると、預金は前年度末比3.1%増、貸出金は同0.4%減となった。

(注)
本分析における前年度の当期純利益は、預金保険機構から足利銀行に実施された金銭贈与2,566億円を除いて集計している。

損益状況

資金運用益
 資金運用益は、3兆2,611億円(前年度比1,005億円、3.0%減)となり、減益となった。
 資金運用収益をみると、貸出金残高(平残、以下同じ。)やコールローン残高が増加したものの、前年度の金融危機前に比べわが国の金利水準が低下し、米欧の金利水準も大幅に低下したことから、貸出金利息は2兆9,764億円(前年度比2,130億円、6.7%減)、その他の受入利息は217億円(同171億円、44.0%減)、コールローン利息は105億円(同238億円、69.4%減)とそれぞれ減少した。また、有価証券利息配当金も、有価証券残高が国債を中心に増加したものの、国際業務部門において、外国証券残高が減少するとともに、利回りも低下したことから7,366億円(同822億円、10.0%減)と減少した。この結果、資金運用収益全体では、3兆7,603億円(同3,561億円、8.7%減)と減少した。
 次に、資金調達費用をみると、前年度の金融危機前に比べわが国の金利水準が低下し、米欧の政策金利水準も大幅に低下したことから、預金利息が3,833億円(前年度比1,805億円、32.0%減)、譲渡性預金利息が184億円(同136億円、42.5%減)とそれぞれ減少した。また、コールマネー残高(平残)が減少したことから、コールマネー利息が52億円(同220億円、80.9%減)と大幅に減少した。この結果、資金調達費用全体では、4,992億円(同2,556億円、33.9%減)と減少した。
役務取引等収益・費用
 受入為替手数料およびその他の役務収支が減少したことから、収益超過額は3,796億円(前年度比205億円、5.1%減)と減少した。
特定取引収益・費用
 トレーディング業務に係る特定取引収益・費用は、その他の特定取引収益が減少したことから、収益超過額は86億円(前年度比44億円、34.1%減)と減少した。
その他業務収益・費用
 国債等債券償却および国債等債券売却損が大幅に減少したこと等により、国債等債券関係損益が損失超過から収益超過に転じたことから、その他業務収益・費用全体では、1,292億円の収益超過(前年度は3,391億円の損失超過)と損失超過から収益超過に転じた。
その他経常収益・費用
 一般貸倒引当金純繰入額は増加したものの、 政府の経済対策効果による企業の大型倒産を中心とする倒産件数の減少等により、個別貸倒引当金純繰入額が減少したことから、貸倒引当金繰入額は3,072億円(前年度比2,203億円、41.8%減)と減少し、貸出金償却も1,612億円(同865億円、34.9%減)と減少した。また、株式相場の回復に伴う株価の上昇により、株式等関係損益の損失超過額は181億円と大幅に縮小した(前年度は3,005億円の損失超過)。この結果、その他経常収支の損失超過額は5,134億円となり、前年度に比べて損失超過額が大幅に縮小した(前年度は1兆1,055億円の損失超過)。
営業経費
 人件費は増加したものの、物件費が減少したことから、2兆4,589億円(前年度比64億円、0.3%減)となった。
経常利益・当期純利益
 以上の結果、経常収益は4兆8,284億円(前年度比4,506億円、8.5%減)、経常費用は4兆218億円(同1兆3,918億円、25.7%減)となり、経常利益は8,066億円の黒字(前年度は1,346億円の赤字)と赤字から黒字に転じた(増益31行、減益1行、黒字転換30行、経常損失2行)。当期純利益は、経常利益が大幅な増益により黒字となったほか、償却債権取立益が増加したことにより、特別損益の収益超過額が拡大したものの、法人税等が増加した結果、5,527億円の黒字(前年度は704億円の赤字)となり、赤字から黒字に転じた(増益30行、減益4行、黒字転換28行、当期純損失2行)。
 なお、業務純益は、1兆3,557億円(前年度比3,564億円、35.7%増)と増益となった(増益40行、減益13行、黒字転換11行)。また、国内業務粗利益は3兆6,081億円(同1,013億円、2.9%増)となり、国際業務粗利益は1,571億円の黒字(前年度は690億円の赤字)と赤字から黒字に転じた。

 

利回り・利鞘(国内業務部門)

 資金運用利回りをみると、貸出金利回りは前年度比0.18%ポイント低下して1.94%、有価証券利回りは同0.09%ポイント低下して1.18%、コールローン等利回りは同0.33%ポイント低下して0.21%となった。この結果、資金運用利回り全体では、同0.16%ポイント低下して1.67%となった。
 一方、資金調達原価をみると、預金債券等利回りは前年度比0.08%ポイント低下して0.19%、コールマネー等利回りは同0.30%ポイント上昇して1.16%となった。また、経費率は、同0.05%ポイント低下して1.12%となった。この結果、資金調達原価全体では、同0.12%ポイント低下して1.32%となった。
 以上の結果、総資金利鞘は、前年度比0.04%ポイント低下して0.35%となった。

 

資金調達

 預金は、普通預金および定期預金を中心に増加したことから、末残で207兆5,208億円(前年度末比6兆2,349億円、3.1%増)となった。また、平残では201兆7,061億円(前年度比5兆606億円、2.6%増)となった。
 譲渡性預金は、末残で5兆6,789億円(前年度末比8,057億円、16.5%増)となった。また、平残では6兆3,494億円(前年度比5,172億円、8.9%増)となった。

 

資金運用

 貸出金は、住宅ローンを中心とする個人向け貸出等が増加したものの、末残で154兆9,575億円(前年度末比6,393億円、0.4%減)となった。また、平残では153兆445億円(前年度比2兆5,814億円、1.7%増)となった。
 銀行勘定のリスク管理債権についてみると、破綻先債権額は4,457億円(前年度末比1,536億円、25.6%減)となり、延滞債権額は3兆5,554億円(同1,522億円、4.1%減)、3カ月以上延滞債権額は528億円(同39億円、6.8%減)、貸出条件緩和債権額は6,650億円(同355億円、5.1%減)となった。この結果、リスク管理債権額の合計は、4兆7,192億円(同3,452億円、6.8%減)となり、貸出金総額に占める割合は、前年度末に比べて0.20%ポイント低下して、3.05%となった。
 なお、金融再生法第7条にもとづき開示が義務付けられている資産査定の各区分の内容(信託勘定の計数は除く。)は、破産更生債権及びこれらに準ずる債権は1兆2,495億円(前年度末比2,100億円、14.4%減)、危険債権は2兆8,086億円(同1,074億円、3.7%減)、要管理債権額は7,180億円(同394億円、5.2%減)、正常債権は152兆9,871億円(同5,548億円、0.4%減)となった。
 有価証券は、国債が大幅に増加したことから、末残で61兆7,696億円(前年度末比6兆7,315億円、12.2%増)となった。また、平残では58兆1,580億円(前年度比6,932億円、1.2%増)となった。

 

自己資本

 資本金は、期中に10行で増資、1行で転換社債型新株予約権付社債の転換等が行われたものの、4行で減資が行われたこと等から、2兆5,757億円(前年度末比506億円、1.9%減)となった。また、その他有価証券評価差額金は、株式相場の回復に伴う株価の上昇により、1兆628億円の評価差益(前年度末は660億円の評価差損)と評価差損から評価差益に転じたこと等から、純資産の部合計は、12兆3,355億円となった。

 

[担当:昆]