信託銀行 (特定取引勘定設置銀行5行)

 信託銀行の平成21年度決算をみると、資金運用益は、国内業務部門では減益となったものの、国際業務部門では増益となったことから、全体では増益となった。経常利益は、株価の上昇により、株式等関係損益が損失超過から収益超過に転じたほか、貸出金償却および貸倒引当金繰入額が大幅に減少したこと等から、2,916億円の黒字(前年度は328億円の赤字)と赤字から黒字に転じた。また、当期純利益は、法人税、住民税及び事業税は減少したものの、特別損益が損失超過となったこと等から、1,649億円の黒字(前年度は514億円の赤字)と赤字から黒字に転じた。
 業容面(末残)をみると、預金は前年度末比1.7%減となった。信託勘定については、投資信託は増加したものの、金銭信託(合同運用指定金銭信託、単独運用指定金銭信託および特定金銭信託)、金銭債権の信託、年金信託等の他の信託は減少したことから、全体では同0.5%減となった。また、貸出金は、銀行勘定は同1.9%増、信託勘定は同14.1%減となった。

損益状況

信託報酬
 投資信託は増加したものの、他の信託の時価ベースでの受託資産残高が減少したことから、信託報酬は2,377億円(前年度比387億円、14.0%減)と減少した。
資金運用益
 資金運用収益、資金調達費用ともに減少したものの、資金調達費用の減少額が資金運用収益の減少額を上回ったことから、資金運用益は5,070億円(前年度比480億円、10.5%増)の増益となった。
 このうち、資金運用収益は8,127億円(前年度比1,521億円、15.8%減)と減少した。国内業務部門では、前年度における日本銀行の政策金利の引き下げの影響を受けて利回りが低下したことに伴い、有価証券利息配当金および貸出金利息が減少したこと等から、前年度比11.2%減となった。また、国際業務部門でも、有価証券残高(平残)は増加したものの、有価証券利回りが低下したことから有価証券利息配当金は減少し、貸出金利息も減少したこと等から、同27.6%減となった。
 一方、資金調達費用は3,056億円(前年度比2,002億円、39.6%減)と減少した。国内業務部門では、利回りの低下により譲渡性預金利息が減少したほか、預金利息も減少したこと等から、全体では前年度比18.7%減となった。また、国際業務部門でも、利回りの低下により預金利息が大幅に減少したほか、金利スワップ支払利息が大幅に減少したこと等から、同67.0%減と大幅に減少した。
 以上の結果から、資金運用収益から資金調達費用を引いた資金運用益は、国内業務部門では3,677億円(前年度比203億円、5.2%減)と減益となり、一方、国際業務部門では1,393億円(同683億円、96.1%増)と大幅な増益となった。これにより、全体では前年度比10.5%増と増益となった。
役務取引等収益・費用
 各種手数料等の受払収支をみると、為替手数料収支が前年度比24.7%減と減少したほか、不動産仲介業務の減少等により、その他の役務収支が同2.0%減と減少したことから、全体の収益超過額は1,878億円(前年度比44億円、2.3%減)と減少した。
特定取引収益・費用
 トレーディング業務に係る特定取引収益・費用は、国内業務部門においては収益超過(455億円)となり、国際業務部門においては損失超過(97億円)となったことから、全体では、359億円の収益超過と損失超過から収益超過に転じた(前年度は416億円の損失超過)。
その他業務収益・費用
 国際業務部門における国債等債券売却益の減少により、国債等債券関係損益の収益超過額が大幅に減少し、外国為替売買損益も収益超過から損失超過に転じたこと等から、全体の収益超過額は107億円(前年度比1,349億円、92.6%減)と大幅に減少した。
その他経常収益・費用
 株式等関係損益は、保有株式の減損処理の大幅な減少により株式等償却が減少したほか、株式等売却損も減少したことから、43億円の収益超過と損失超過から収益超過に転じた。また、企業の大型倒産や倒産件数の減少により、貸出金償却は190億円(前年度比424億円、69.0%減)と大幅に減少するとともに、貸倒引当金繰入額は、一般貸倒引当金純繰入額が戻入に転じたほか、個別貸倒引当金純繰入額が減少したことから、231億円(同190億円、45.1%減)と減少した。
 以上の結果、全体では739億円の損失超過と損失超過額は大幅に縮小した(前年度は4,814億円の損失超過)。
営業経費
 税金、物件費は減少したものの、退職給付関係費用の増加等により人件費が増加したことから、営業経費は6,137億円(前年度比306億円、5.2%増)と増加した。
経常利益・当期純利益
 以上の結果、経常収益(前年度比3,476億円、18.3%減)が減少した以上に、経常費用(同6,719億円、34.7%減)が減少したことから、経常利益は2,916億円の黒字(前年度は328億円の赤字)と赤字から黒字に転じた(増益3行、減益1行、黒字転換2行)。また、経常利益の黒字を受けて、当期純利益は1,649億円の黒字(前年度は514億円の赤字)と赤字から黒字に転じた(増益2行、減益2行、黒字転換2行)。
 なお、業務純益は、特定取引収支は損失超過から収益超過に転じたものの、国債等債券関係損益の収益超過額が大幅に縮小したことにより、その他業務収支の収益超過額が大幅に減少したこと等から、4,383億円(前年度比593億円、11.9%減)と減益となった(増益1行、減益5行)。また、国内業務粗利益は8,200億円(同683億円、7.7%減)、国際業務粗利益は1,593億円(同158億円、11.0%増)となった。

 

利回り・利鞘

(国内業務部門)
 資金運用利回りをみると、貸出金利回りは前年度比0.16%ポイント低下して1.42%、有価証券利回りは同0.33%ポイント低下して0.91%となった。この結果、資金運用利回り全体では、同0.17%ポイント低下して1.22%となった。
 資金調達利回りをみると、預金債券等利回りは前年度比0.11%ポイント低下して0.48%、譲渡性預金利回りは同0.42%ポイント低下して0.29%となった。この結果、資金調達利回り全体では、同0.12%ポイント低下して0.5%となった。
 以上の結果、総資金粗利鞘は、前年度比0.05%ポイント縮小して0.72%となった。
(国際業務部門)
 資金運用利回りをみると、貸出金利回りは前年度比1.48%ポイント低下して1.53%、有価証券利回りは同1.13%ポイント低下して2.30%となった。この結果、資金運用利回り全体では、同0.98%ポイント低下して2.08%となった。
 資金調達利回りをみると、預金利回りが前年度比1.86%ポイント低下して0.63%、譲渡性預金利回りは同2.54%ポイント低下して0.52%となった。この結果、資金調達利回り全体では、同1.53%ポイント低下して0.68%となった。
 以上の結果、総資金粗利鞘は、前年度比0.55%ポイント上昇して1.40%となった。

 

資金調達等

 預金は、末残でみると、国内業務部門(前年度末比6,081億円、1.7%減)、国際業務部門(同52億円、0.3%減)ともに減少したことから、全体では36兆2,393億円(同6,133億円、1.7%減)と減少した。平残では36兆3,876億円(前年度比3,641億円、1.0%増)となった。
 譲渡性預金は、末残では5兆4,502億円(前年度末比5,115億円、10.4%増)、平残では5兆3,209億円(前年度比6,517億円、10.9%減)となった。
 また、信託勘定借は、末残では3兆6,156億円(前年度末比1,659億円、4.4%減)、平残では3兆9,624億円(前年度比1,917億円、5.1%増)となった。
 信託勘定をみると、新規の取扱停止により、前年度に引き続き貸付信託が減少(前年度末比40.1%減)したほか、金銭信託(合同運用指定金銭信託、単独運用指定金銭信託および特定金銭信託)(同9.9%減)、金銭信託以外の金銭の信託(同6.1%減)、年金信託(同3.2%減)が減少した。一方、投資信託(同5.8%増)、有価証券の信託(同4.2%増)および包括信託(同1.8%増)は増加した。この結果、信託勘定の負債合計額は、297兆19億円(同1兆4,477億円、0.5%減)と前年度に引き続き減少した。

 

資金運用等

 貸出金は、末残でみると、国内業務部門(前年度末比1.7%増)、国際業務部門(同3.8%増)ともに増加し、全体では34兆7,894億円(同6,322億円、1.9%増)となった。また、平残でも33兆4,470億円(前年度比1兆4,613億円、4.6%増)と増加した。
 一方、信託勘定(末残)をみると、貸出金は、3兆1,126億円(前年度末比5,094億円、14.1%減)と減少した。
 ここで、不良債権の状況として、リスク管理債権の残高についてみると、延滞債権額は、銀行勘定で2,199億円(前年度末比148億円、7.2%増)、信託勘定で165億円(同161億円、49.2%減)となった。破綻先債権額は、銀行勘定で327億円(同432億円、56.9%減)、信託勘定で1億円(同0.6億円、33.5%減)と減少した。一方、3カ月以上延滞債権額は銀行勘定で16億円(同5億円、40.0%増)、信託勘定で0.7億円(同0.01億円、1.3%増)と増加した。この他、貸出条件緩和債権額は、銀行勘定で1,409億円(同968億円、219.0%増)、信託勘定で98億円(同17億円、14.6%減)となった。この結果、リスク管理債権の総額は、銀行勘定で3,952億円(同689億円、21.1%増)、信託勘定で266億円(同178億円、40.1%減)となった(信託勘定については、いずれも元本補填契約のある信託勘定の計数)。なお、銀行勘定のリスク管理債権額の貸出金総額に占める比率は、同0.18%ポイント上昇して1.14%となった。
 また、金融再生法第7条にもとづき開示が義務付けられている資産査定の各区分の内容(銀行勘定)は、破産更生債権及びこれらに準ずる債権が874億円(前年度末比518億円、37.2%減)、危険債権が2,080億円(同273億円、15.1%増)、要管理債権は1,427億円(同964億円、207.9%増)、正常債権は35兆3,582億円(同2,452億円、0.7%増)となった。
 有価証券は、銀行勘定の末残では、国債(前年度末比15.1%減)等は減少したものの、その他の証券(同16.8%増)、株式(同20.0%増)等が増加したことから、全体では20兆4,098億円(同307億円、0.2%増)となった(平残では20兆7,545億円、前年度比1兆2,250億円、6.3%増)。一方、信託勘定の末残では、短期社債や株式は増加したものの、社債や地方債等が減少したことから、全体では54兆1,390億円(前年度末比1兆5,666億円、2.8%減)となった。

 

自己資本

 資本金は、期中に1行で増資、1行で新株予約権付社債の転換が行われたことから、1兆3,542億円(前年度末比545億円、4.2%増)となった。
 資本剰余金は8,950億円(前年度末比545億円、6.5%増)、利益剰余金は1兆1,796億円(同1,174億円、11.1%増)とそれぞれ増加した。
 以上のほか、その他有価証券評価差額金が1,296億円(同4,860億円増)の評価差益(前年度末は3,563億円の評価差損)と評価差損から評価差益に転じたこと等から、純資産の部合計は3兆5,238億円となった。

[担当:石井(良)]