信託銀行(特定取引勘定設置銀行5行)

信託銀行の平成17年度決算をみると、資金運用益は微増にとどまったが、役務取引等収支は増加した。しかし、信託報酬が減少したことや一般貸倒引当金の積増し等から、業務純益は6,712億円(前年度比48億円、0.7%減)と減益となった。一方、株式等関係益が増加し、不良債権処理費用も大幅に減少したこと等から、経常利益は5,997億円(同1,504億円、33.5%増)と増益となり、また、特別利益の増加や法人税等調整額の減少等から、当期純利益は4,157億円(同1,682億円、68.0%増)と、過去最高益を記録した。

業容面をみると、預金は減少(前年度末比1.5%減)した。信託勘定については、貸付信託が減少したものの、投資信託や包括信託等が増加し、全体では増加(同13.2%増)した。また、貸出金は、銀行勘定は増加(同4.4%増)したが、信託勘定では減少(29.7%減)となった。

損益状況

信託報酬
信託報酬は3,679億円(前年度比214億円、5.5%減)と減少した。
このうち、長期金融部門(合同運用指定金銭信託、貸付信託)においては、貸付信託の新規取扱停止を表明した銀行が増えたこと等に伴い貸付信託の残高が減少(前年度末比26.6%減)し、関係の信託報酬は減少した。一方、財産管理部門(上記以外の信託)においては、投資信託の残高(同20.2%増)や包括信託の残高(同40.9%増)が増加し、関係の信託報酬は増加した。しかし、長期金融部門の信託報酬の減少が財産管理部門の増加を上回り、信託報酬全体では前年度比5.5%減と減少となった。
資金運用益
資金運用収益、資金調達費用ともに増加したが、運用収益の増加額が調達費用の増加額を上回り、資金運用益は5,044億円(前年度比62億円、1.2%増)と微増にとどまった。
このうち、資金運用収益は8,055億円(同490億円、6.5%増)と増加した。国内業務部門では貸出金利回りの低下を主因として貸出金利息が減少したものの、株式配当の増加やオルタナティブ投資等により有価証券利息配当金が増加したことから、全体では前年度比10.3%増と増加となった。また、国際業務部門では、米国金利の上昇や円安による為替換算の影響から貸出金利息が増加したものの、有価証券利息配当金が減少したこと等から、全体では同1.0%減と若干の減少となった。
一方、資金調達費用は3,011億円(同428億円、16.6%増)と増加した。
国内業務部門では、低金利が続いたことから、預金利息や借入金利息が減少し、全体では同19.7%減と減少した。また、国際業務部門では、米国金利の上昇や円安による為替換算の影響から、預金利息などが大幅に増加し、全体でも同45.8%増と大幅に増加した。
以上の結果、資金運用収益から資金調達費用を引いた資金運用益は、国内業務部門では4,445億円(同745億円、20.1%増)の増益となり、国際業務部門では599億円(同683億円、53.3%減)の減益となった。これにより、全体では同1.2%増と微増にとどまった。
役務取引等収益・費用
各種手数料等の受払収支をみると、為替手数料収支は前年度比2.9%増と若干の増加となったほか、投資信託の販売、シンジケートローンの組成や不動産仲介業務等の好調により、その他の役務収支が同27.0%増と大幅に増加したことから、全体の収益超過額は3,176億円(前年度比672億円、26.8%増)となった。
特定取引収益・費用
トレーディング業務に係る特定取引収益・費用は、国内業務部門において60億円の損失超過となり、国際業務部門においては120億円の収益超過となった。この結果、全体としては60億円(前年度比119億円、66.7%減)の収益超過となった。
その他業務収益・費用
下期に長期金利が上昇したことによる国債等債券売却益の減少を主因として、国債関係損益は106億円の損失超過となった。一方、外国為替売買損益や金融派生商品損益はいずれも収益超過となったことから、全体では234億円の収益超過(前年度比50億円、17.7%減)となった。
その他経常収益・費用
国内の株式市況が改善したことから、株式等償却が減少し、株式等関係損益は691億円の収益超過となった(前年度は224億円の収益超過)。また、不良債権処理が進展したことから、個別貸倒引当金は505億円の純取崩しとなり、貸倒引当金繰入額は234億円(前年度比377億円、61.7%減)にとどまった。また、貸出金償却は456億円(同266億円、36.8%減)と減少した。
以上の結果、全体では601億円の損失超過となった(前年度は1,875億円の損失超過)。
営業経費
人件費が増加したほか、事務委託費を中心に物件費が増加(前年度比87億円、2.9%増)したことから、営業経費は5,595億円(同120億円、2.2%増)と増加した。
経常利益・当期純利益
以上の結果、経常収益が増加(前年度比687億円、3.7%増)し、経常費用が減少(同817億円、5.8%減)したことから、経常利益は5,997億円(同1,504億円、33.5%増)と大幅な増益となった(増益6行、減益1行)。また、当期純利益は、特別利益の増加(同318億円、43.6%増)や法人税等調整額(税金費用)が減少(同124億円、5.3%減)したほか、法人税等について繰越欠損金による控除が行われたことから、4,157億円(同1,682億円、68.0%増)と、過去最高益を記録した(増益7行)。
業務純益は、役務取引等収支(前年度比672億円増)や資金運用益(同62億円増)が増加したものの、信託報酬が減少(同214億円減)したことや一般貸倒引当金繰入額が増加(同327億円増)したこと等から、6,712億円(同48億円、0.7%減)の減益となった(増益5行、減益2行)。また、国内業務粗利益は1兆1,514億円(同868億円、8.1%増)、国際業務粗利益は679億円(同517億円、43.2%減)となった。

利回り・利鞘

国内業務部門

資金運用利回りをみると、貸出金利回りは前年度比0.18%ポイント低下して1.08%、有価証券利回りは同0.53%ポイント上昇して1.33%となった。この結果、資金運用利回り全体では、同0.06%ポイント上昇して1.12%となった。
資金調達利回りをみると、預金債券等利回りは前年度比0.03%ポイント低下して0.15%、コールマネー等利回りは同0.28%ポイント低下して0.38%となった。この結果、資金調達利回り(資金調達費用/資金調達勘定平残)全体では、同0.06%ポイント低下して0.20%となった。

以上の結果、資金運用利回りが上昇し、資金調達利回りが低下したことから、総資金粗利鞘(資金運用利回り-資金調達利回り)は、前年度比0.12%ポイント拡大して0.92%となった。

国際業務部門

資金運用利回りをみると、貸出金利回りは前年度比1.04%ポイント上昇して3.53%、有価証券利回りは同0.12%ポイント低下して3.32%、預け金利回りは同1.18%ポイント上昇して2.92%となった。この結果、資金運用利回り全体では、同0.16%ポイント上昇して3.27%となった。
資金調達利回りをみると、預金利回りが前年度比1.32%ポイント上昇して3.31%、譲渡性預金利回りは同0.82%ポイント上昇して4.04%となった。この結果、資金調達利回り全体では、同0.89%ポイント上昇して2.47%となった。

以上の結果、資金運用利回り、資金調達利回りともに上昇したが、資金調達利回りの上昇が資金運用利回りの上昇を上回ったことから、国際業務部門における総資金粗利鞘は、前年度比0.74%ポイント縮小して0.80%となった。

資金調達

預金は、末残でみると、国内業務部門が減少(前年度末比5,684億円、1.8%減)、国際業務部門が増加(同731億円、3.2%増)となり、全体では33兆2,295億円(同4,953億円、1.5%減)と減少になった。なお、平残では34兆7,087億円(前年度比1兆1,078億円、3.3%増)となった。譲渡性預金は、末残では4兆8,015億円(前年度末比8,337億円、21.0%増)、平残では4兆5,706億円(前年度比6,708億円、17.2%増)となった。また、信託勘定借は、末残では5兆8,110億円(前年度末比5,484億円、8.6%減)、平残では7兆1,216億円(前年度比2,391億円、3.5%増)となった。

信託勘定をみると、貸付信託は新規取扱停止を表明した銀行が増えたこと等に伴い減少(前年度末比26.6%減)したほか、有価証券の信託が減少(同2.2%減)した。一方、金銭信託(合同運用指定金銭信託、単独運用指定金銭信託および特定金銭信託)が増加(同7.3%増)したほか、投資信託(同20.2%増)、包括信託(同40.9%増)、年金信託(同2.6%増)が増加した。この結果、信託勘定の負債合計額は、305兆3,884億円(同35兆5,672億円、13.2%増)と前年度に引き続き増加した。

資金運用

貸出金は、末残でみると、国内業務部門(前年度末比3.9%増)、国際業務部門(同13.7%増)ともに増加し、全体では31兆7,319億円(同1兆3,250億円、4.4%増)となった。また、平残では32兆4,927億円(前年度比1兆9,786億円、6.5%増)と増加となった。

一方、信託勘定(末残)をみると、貸付信託の残高の減少に伴い貸出金は、3兆4,346億円(前年度末比1兆4,520億円、29.7%減)と減少した。
ここで、不良債権の状況として、リスク管理債権の残高についてみると、延滞債権額は、銀行勘定で1,668億円(前年度末比2,864億円、63.2%減)、信託勘定で158億円(同153億円、49.1%減)となり、貸出条件緩和債権額は、銀行勘定で3,093億円(同45億円、1.4%減)、信託勘定で343億円(同366億円、51.6%減)となった。このほか、3カ月以上延滞債権額は銀行勘定が若干増加したものの信託勘定が減少し、破綻先債権額は銀行勘定、信託勘定ともに減少したことから、リスク管理債権の総額は、銀行勘定で4,994億円(同2,952億円、37.1%減)、信託勘定で546億円(同579億円、51.5%減)となった(信託勘定については、いずれも元本補填契約のある信託勘定の計数)。

なお、金融再生法第7条に基づき開示が義務付けられている資産査定の各区分の内容(銀行勘定)は、破産更生債権及びこれらに準ずる債権が492億円(前年度末比402億円、45.0%減)、危険債権が1,505億円(同2,555億円、62.9%減)、要管理債権が3,117億円(同41億円、1.3%減)といずれも減少した。また、正常債権は32兆5,432億円(同1兆6,194億円、5.2%増)となった。

有価証券については、銀行勘定の末残では、株式や社債が増加したものの、国債(前年度末比13.8%減)やその他の証券(同6.9%減)が減少したことから、全体では17兆5,060億円(同1,766億円、1.0%減)となった(平残では18兆2,629億円、前年度比130億円、0.1%増)。一方、信託勘定の末残では、国債や社債など、いずれも増加したことから、全体では79兆1,965億円(前年度末比14兆4,303億円、22.3%増)となった。

自己資本

資本金は、期中に2行で転換社債型新株予約権付社債の転換が行われたほか、信託銀行どうしの合併があったことから、1兆2,662億円(前年度末比2,802億円、18.1%減)となった。

資本剰余金は9,804億円(前年度末比2,535億円、34.9%増)となり、任意積立金が3,810億円(同1,400億円、58.1%増)と積み上げられたこと等から、利益剰余金は9,184億円(同1,821億円、24.7%増)となった。以上のほか、株式等評価差額金の評価益が8,787億円(同5,038億円、134.4%増)と大幅に拡大したことから、資本勘定全体では4兆136億円(同6,628億円、19.8%増)となった。

担当:飯島