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有識者インタビュー

有識者インタビュー

合田 健一郎議長

合田 健一郎

日本円金利指標に関する
検討委員会議長

(三菱UFJ銀行経営企画部 副部長)
※肩書等はインタビュー時点

Q1: LIBOR監督当局(FCA:英国金融行為規制機構)は、LIBOR運営機関(IBA)の市中協議結果を踏まえ、LIBORの全テナーに関する公表停止時期等の明確化を行っているが、この影響をどのように見ているか。

まず、過去の経緯を振り返ると、2017年、FCAのベイリー長官(当時)が講演にて、2021年末以降はLIBORのパネル行に対してレート呈示の強制権を行使しないことを表明したことを受け、LIBORの公表が恒久的に停止する可能性が急速に高まった。しかしながら、その2021年末以降のLIBORの取り扱いについて、どの通貨のどのテナーがいつまで公表されるのか等の具体的な言及がなく、市場参加者の間で公表停止時期に対する見方が定まらない不透明な状況が続いていた。

こうした中、本年3月5日のFCAの声明により、パネル行の呈示レートを利用した現行の算出手法にもとづくLIBOR5通貨の全35テナーについて、公表停止時期が明確化されたことは、不透明性を払拭する上で大きな意義を持つ。具体的には、本件により、大きく2つの観点からLIBOR移行に対して前向きな影響が生じることを想定している。

1点目として、これまでLIBOR公表停止時期が確定しない中で、実際のLIBOR移行に関する意思決定や交渉に踏み切れなかった市場参加者は相応にいたものとの推測され、今回の明確化により、金利指標の移行対応をより進めやすくなったものと考えられる。
2点目として、LIBOR移行対応については、公表停止後に参照する金利指標等をあらかじめ定める、フォールバックと呼ばれる手法がある。今回の公表停止時期の公表がトリガーとなり、このLIBORの代わりとなる金利指標へ移行する際の、両指標間のスプレッド部分を調整する際に利用する値(スプレッド調整値)が確定したため、金利変更等に係る交渉が加速していくものと考えられる。

あわせて、今回のFCAの声明は、各パネル行に対して公表停止時期以降のレート呈示を一切強制しないことも強調している。これはすなわち、公表停止時期が更に後ろ倒しになることは、極めて想定し難いということである。したがって、LIBOR参照契約は、通貨・テナー毎に定められた公表停止時期までに、確実に移行対応を完了させることが求められる。

Q2: 日本円金利指標に関する検討委員会(以下「検討委員会」)からは、3月11日に「金融庁及び日本銀行による今後の LIBOR 移行対応に関する通知の公表について」が公表された。当該文書のポイントは何か。

Q1のとおり、本年3月5日のFCAの声明により、パネル行の呈示レートを利用した現行の算出手法にもとづくLIBOR5通貨の全35テナーについて、公表停止時期が明確化された。また、同声明においては、英ポンド、日本円の一部のテナー(1か月、3か月、6か月)について、パネル行が呈示したレートにもとづく現行の算出手法を変更し、市場データを用いて算出する擬似的なLIBOR(シンセティックLIBOR)を構築することについて、市中協議を行う意図が表明された。

FCAの声明を踏まえ、3月8日、金融庁および日本銀行が連名で、①LIBOR参照の既存契約における基本的な対応は、代替金利指標への「移行」、あるいは「フォールバック」条項の導入であり、引き続き本邦移行計画に則って移行対応を進めることが重要であること、②仮にシンセティック円LIBORが構築されたとしても、その利用は真に移行が困難な既存契約に限定され、いわばセーフティネットとして利用されるべきことをいち早く明確化し、公表した。
この金融庁および日本銀行の公表文書に対し、3月11日、検討委員会として「金融庁及び日本銀行による今後の LIBOR 移行対応に関する通知の公表について」を発表したという経緯である。当該文書のポイントは大きく2点である。

1点目は、両当局(金融庁および日本銀行)による上記公表内容を踏まえ、検討委員会としても、本邦におけるLIBORの秩序ある移行を後押しする姿勢を示している。英米と同様、本邦においても、移行対応が一段と本格化していく中で、一部の契約・取引において、やむを得ず対応が遅延するリスクや不確実性は否定できないものの、FCAによるシンセティックLIBORの構築は未だ途上段階で先行きは不透明な事項も多い。この点、両当局の文書においては、本邦移行計画に則って、できる限り早期に移行対応を進めていくことが大前提であるという考え方が再確認されており、検討委員会としても同じ見解であることを改めて強調したい。

2点目は、我々が検討委員会として、両当局の文書で示された内容を前提として、一部の既存契約・取引において、やむを得ず移行対応が遅延するリスクや不確実性について、幅広い市場参加者と密接に協力して議論を深め、本邦におけるLIBORの秩序ある移行対応を後押ししていく方針を表明している点である。公表停止期限が迫る中で、今後のリスクシナリオを想定した重要な検討となることから、市場参加者の皆さまにおかれては、今後検討委員会から情報提供をお願いさせていただく際には、是非ともご協力をお願いしたい。

Q3: 本邦においては、検討委員会の市中協議で最も支持を集めたターム物リスク・フリー・レート(TORF)の「確定値」がQUICKベンチマークス社から4月26日以降に公表される予定である。「確定値」が公表されることで、本邦の移行対応にどのような影響があるか。

TORFは、金利適用開始時点で金利が決定する、いわゆる前決めの金利であり、既存の事務・システムや取引慣行等と親和性が高いこと等から、過去の市中協議においても、LIBORの代替金利指標ないしはフォールバック・レートとして最も支持された重要な金利指標である。
これまで各種業界団体や事業法人の財務担当者と直接意見交換させていただいた際にも、移行の必要性については認識しつつも、契約変更等に踏み切れない理由として、①LIBORの公表停止時期が確定しないこと、②TORFの確定値が未公表であり状況を見極めたいこと、を理由に挙げる声が多く聞かれている。
従って、FCAにより公表停止時期が明確化された(上記①に対応)ことに加え、TORFの確定値の公表開始時期がアナウンスされた(上記②に対応)ことで、いよいよ未確定事項が解消されたことから、契約当事者間での契約変更等が加速していくことを期待している。

検討委員会としては、TORFの頑健性を高めていくためにも、そのベースとなる日本円OIS取引の活性化等について議論を深めている。検討委員会傘下のターム物金利構築に関するサブグループにおいて、円金利スワップ市場におけるLIBOR公表停止への対応に関して、意見照会を行った。そのうえで、市場参加者が、①2021年末以降に満期を迎える円LIBOR 参照の金利スワップについて、前倒しで移行を進め、遅くとも2021年9月末までに新規取引を停止すること、②円金利スワップ市場において取引の中心となるべき代替金利指標は、無担保コールO/N 物レート(TONA)であること、但し、他の金利指標の利用は必ずしも妨げられないこと、③円金利スワップ市場における気配値呈示について、円LIBORベースからTONAベースにできる限り積極的に移行しつつ、遅くとも2021年7月末までに行うこと、を念頭に置いて所要の対応を進めていくべきことを示した。こうしたもとで、相応の円LIBORスワップ取引がOIS取引へと移行すれば、OIS取引の件数および金額は大きく増加し、市場流動性は向上することが想定される。ターム物金利構築に関するサブグループでは、2021年9月末といわず、6月末までに円LIBORスワップの新規取引を停止すべきとの意見もみられており、円LIBORスワップ取引からOIS取引への、早期の移行がしっかりと進むことが期待される。

なお、代替金利指標としては、TORF、TONA、TIBORなど、選択肢が広がることとなるが、どの金利指標を選択するかについては、金利指標ユーザー自身が、自社の事務・システム上のフィージビリティ―や、財務運営方針、取引の性質等を踏まえて選択・利用していくことが望ましい。もし、各金利指標の特徴等に関して不明な点があれば、全銀協のLIBOR特設ページに掲載されている説明資料「LIBORの恒久的な公表停止に備えた対応について」(2021年4月版)が参考になるほか、取引のある金融機関にも適宜相談してもらいたい。

Q4: 金融機関においては、検討委員会における検討の成果等を踏まえ、今後、LIBOR移行対応が本格化していくと思われるが、どのような動きが想定されるか。これに対して、企業側ではどのような点に留意して対応を進めるべきか。

金融機関においては、本邦移行計画のマイルストーン上、本年3月末までに貸出・債券取引における“後決め複利に対応した体制整備”が求められていたことから、実務上、後継金利を取扱う態勢は整っているものと期待される。また、多くの金融機関では、顧客への包括的な説明や移行方法に関するヒアリングを着々と進めているとも伺っている。およそ3か月後の6月末には、“LIBOR参照貸出・債券の新規取引・発行停止”、9月末には”LIBORエクスポージャーの顕著な削減”という重要なマイルストーンも控えていることから、今後まさにLIBOR移行対応が本格化していくフェーズにあると考えている。

企業側においては、早急にLIBOR移行に関する準備を進めていただいたうえで、できる限り余裕を持って意思決定プロセスに臨んでいただきたい。今後、取引金融機関からの金利変更等に関する相談・依頼が一層増加するなかで、必要な情報を取得していただき、“移行/フォールバックのどちらの対応を選ぶのか”、“LIBORに代わる金利指標を何にするのか”等の事項について、十分なご理解のもと、意思決定していくことが肝要かと思われる。
特に、フォールバックを選択される場合には、我々検討委員会のホームページに検討委員会としてのフォールバック推奨案を掲載しているほか、より実務的な情報としては、全銀協のホームページに「相対貸出のフォールバック条項の参考例」が、日本ローン債権市場協会(JSLA)のホームページに「シンジケートローンのフォールバック条項参考例」が、それぞれ解説とともに掲載されているので、是非契約に当たって参考にしていただきたい。全銀協のホームページには、分かり易い説明資料やQ&A等も掲載しており、これらはタイムリーに更新もされているので、適宜一度目を通すことをお勧めしたい。

Q5: 本邦の市場関係者に期待することと、今後検討委員会として取り組むことは何か。

コロナ禍において、LIBOR移行対応に携わってきた市場関係者の皆さまに対して、まずは感謝を申しあげたい。とりわけ、システム開発や当事者間での対話等は平時とは異なる進め方を強いられ、ご苦労もされてきたと聞いている。検討委員会議長の立場からこの「LIBORプロジェクト」を見渡すと、事業法人、金融機関をはじめとする契約当事者のみならず、システム、会計・税務、法務、決済など各専門分野の方々の並々ならぬご尽力を目の当たりにするところであり、LIBORが「市場インフラとしての機能」を秩序だった形で終えつつあることを改めて実感している。

今後、日本円LIBORが公表停止を迎えるまで残り僅か9か月弱、市場関係者の皆さまにおかれては、本邦移行計画に沿ってしっかりとご対応いただくことを、そして、もしご対応が思うように進んでいない方におかれては早急にキャッチアップいただくことを、改めてお願いしたい。検討委員会では、これまでも事業法人の業界団体に対してLIBOR対応のヒアリングを行ってきたが、未確定事項の存在や金融機関側の事情等もあり、契約の変更に向けて着実に準備を進めているご様子までは必ずしもお伺い出来なかった。本邦の移行対応で残された時間的余裕はあとわずかである。少なくとも貸出に関しては、既に「準備」の段階は終わっているということを市場全体の共通の認識として、早急にLIBORから代替金利指標への移行交渉そして契約変更を進めていただくことをお願いしたい。

検討委員会としては、引き続き、移行計画の進捗状況をフォローしつつ情報発信するとともに、先般の検討委員会第21回会合のとおり、TORFの頑健性向上に向けた取組みとして、日本円OIS市場活性化等をサポートしていく。加えて、Q2でも触れたとおり、一部の既存契約・取引において、やむを得ず移行対応が遅延するリスクや不確実性についても検討を進めていく予定である。新たな課題が発見されれば、解決に向けて迅速に動いていく。移行における主な実務上の検討は概ね完了しているという認識だが、今後とも検討委員会として、LIBOR公表停止後までを見据え、本邦の健全な市場を維持するために必要な検討を継続し、幅広い市場関係者と密接に協力して議論を進めていく。市場関係者の皆さまの取組みがしっかりと実を結び、LIBORの秩序ある移行が実現できるよう、引き続き検討委員会としても注力していきたい。

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