2003年1月 5日

全国銀行協会会長
寺西 正司

「年頭所感」

平成15年の新春を迎えるにあたり、所感の一端を申し述べ、新年のご挨拶とさせていただきます。

昨年の金融界を振り返ると、厳しい経済環境下、各金融機関が自らの経営課題として不良債権処理に取り組むなか、金融システムに関して政府・当局からも様々な方針や対策が打ち出された1年でありました。2月「早急に取り組むべきデフレ対策」、6月「経済財政運営と構造改革の基本方針2002(第2骨太方針)」、10月「金融再生プログラム」と、金融システムの信頼性回復のための施策が相次いで示されました。また9月には、金融審議会の「中期的に展望したわが国金融システムの将来ビジョン」により、金融システムの中長期的な方向性が示されました。さらに昨年は、業務規制を中心に各種の規制緩和が実施され、より幅広い競争のなかで金融機関同士が切磋琢磨していく環境が整備された1年でもありました。

本年は、銀行界として、お客様から信頼される強固な金融システムを確立するための改革を加速・断行する年であると考えます。銀行界が取り組むべき課題は、大きく以下の3つであると考えます。

第1の課題は、不良債権問題の早期正常化、金融機関の財務体質強化等を通じて、金融システムに対する信頼を一刻も早く回復させることであります。不良債権問題については、これまで、銀行界としても経営の最重要課題として取り組んできましたが、デフレ経済下で新たな不良債権の発生が続いていることもあり、未だ市場の信認を勝ち得るには至っていません。こうした状況を打開するべく、銀行界としては、「金融再生プログラム」に示された項目も含め、信認回復のための諸課題解決に向け、一層努力を傾けて参りたいと存じます。具体的には、不良債権処理迅速化に資する貸出債権市場の育成、企業再生・産業再生を通じた真の収益力強化、「選択と集中」を更に徹底させた効率化の推進、収益力の安定性確保のための保有株式圧縮、情報開示の更なる充実の検討・体制整備などが重要と考えます。

第2の課題は、お客様の多様化するニーズに応え、より利便性の高い金融商品・サービスを提供していくことであります。企業金融の分野では、企業の抱える様々な金融ニーズにソリューション提供することがますます重要になってきています。個人金融の分野では、資産運用に関する多様なサービス、利便性の高いローン、多様な金融取引チャネル等が求められるようになってきています。銀行としては、近年大きな発展を遂げている情報技術等を駆使して、こうしたニーズに応え、顧客満足の向上に結び付くよう努力して参りたいと存じます。また、ここ数年で整備された会社法制やアライアンス等を活用した経営効率化や、業務規制緩和を活用したクロスセル等の推進も重要と考えます。

第3の課題は、自由で活力ある金融システムを構築するための環境整備を更に進めることであります。業務規制の緩和に関しては、保険分野を中心に見直しが必要な分野が残っています。銀行界としては、更なる規制緩和を期待すると同時に、我々がその成果を目に見える形でお客様に還元することにより、規制緩和がさらに促進されるといった好循環が生まれるよう、不断の努力を重ねて参りたいと存じます。また、自由で活力ある金融システムを構築するためには、市場における自由な競争が貫徹された金融・資本市場の実現が不可欠であり、そのためには肥大化した公的金融のあり方を抜本的に見直すことが必要と考えます。さらに、自己責任原則に基づくルール整備のひとつとして、新しいBIS規制導入の検討が進められています。本年春にはほぼ最終案に近い第3次市中協議案が公表される予定でありますが、今後は国内制度へのスムーズな適用等に向けて建設的な提案等を行って参りたいと存じます。

戦後復興期以降の銀行の役割は、効率的で安定的な資金仲介者として産業資金を円滑に供給することでありました。そして、現在銀行に課せられた重要な使命は、単純な資金仲介者ではなく、疲弊した日本経済の再生を全力で支援することであると考えます。様々な知恵を駆使して、お客様の再生をサポートし、新たな成長を促す。そして、それによって銀行も共に成長する。これをしっかり果たすことが、銀行の使命であると考えます。また、個人のお客様に対しても、従来の銀行という枠を超えて、多様な金融機能を提供し、お客さまにご満足いただくということが、銀行の今日的な使命と考えます。

金融界としては、本年もこうした課題と真正面から取り組みつつ、わが国経済の活性化に向け、出来る限りの貢献をして参る所存です。