2004年1月 4日

全国銀行協会会長 三木 繁光

年頭所感

平成16年の新春を迎えるにあたり、所感の一端を申し述べ、新年のご挨拶に代えさせていただきます。

昨年の金融界は、二度にわたり預金保険法102条による金融危機対応を余儀なくされた一方で、長年の懸案である不良債権問題の解決に向けた懸命の努力が続けられた一年でありました。各行の積極的な取り組みにより、15年度上期の決算では、多くの金融機関で不良債権比率が低下し、半減目標の達成も視野に入ってきました。不良債権処理費用も業務純益の範囲内に収まり、斑模様は残りますが、全体として不良債権問題は峠を越しつつあるように思います。
一方、昨年は前向きな業務展開においても、シンジケート・ローンの拡大や中小企業向け新型無担保ローンの投入、リテール分野での新サービス・新商品の提供など、各行で創意工夫に溢れた積極的な取組みが多くみられたことも特徴でした。いわば、不良債権処理という"守り"から"攻め"へのギアチェンジが着実に進んだ一年だったと感じています。

本年はこうした流れを更に加速させ、銀行界としてその金融機能を十二分に発揮することを通じ、お客様の期待に確りとお応えし、また、わが国の産業や経済の発展に大きく貢献できるよう以下の諸課題に取り組んで参ります。

第一に、不良債権問題からの決別を図り、金融システムに対する信頼をより強固なものとすることです。
平成16年度は不良債権の集中処理期間の最終年にあたります。また、ペイオフ完全解禁も一年後に控えています。不良債権問題は峠を越しつつあるとはいえ、金融システムの安定にとって引き続き最大の懸案であることは変わりません。不良債権問題への対応も最終局面を迎え、処理から企業再生へとその軸足が移りつつあり、ここ一年の企業再生への取組みが今後の日本経済の活力や成長力そのものを左右しかねないまさに正念場にあると認識しております。産業再生機構をはじめ金融・産業一体再生に向けた枠組みも整備されてきており、こうした機能も活用しつつ、問題先への集中対応や再生業務に積極的に取り組むことで、不良債権問題に名実共にピリオドを打つ年にしなければならないと思っております。

第二が、金融サービス業として自己改革を徹底し、時代の要請に基づいた、お客様にとって真に価値があり、利便性に富んだ商品・サービスを迅速に提供していくことです。そのためには各行が多様なニーズに応える先駆性の高い独自のビジネスモデルを開発し、互いにサービスの充実・強化を競い合っていくことが必要です。昨年はその萌芽的な動きが色々と見られた年でしたが、今年はその流れが一段と強くなり、いわば"特色発揮競争"が本格化する年になるのではないかと思います。金融機関にとっては、この競争に打ち勝って顧客基盤や収益基盤を固めることが不良債権問題克服後の大きな経営課題となります。
また、全銀協としてもそうした各行の取組みを後押しし、経営の幅を広げるような市場環境、競争環境の整備に力を注いで参りたいと思っております。先般、金融審議会第一部会で報告書が取り纏められ、金融機関にも証券仲介業を解禁するとの方針が示されましたが、引き続き、保険商品の販売規制の撤廃をはじめ金融業務規制の一段の緩和や企業金融の円滑化に資する貸出債権市場の整備、育成等に積極的に取り組んでいきたいと考えております。

第三が、公的金融改革への対応です。政府は郵政事業民営化の方針を打ち出しており、今春には、経済財政諮問会議で中間報告の取り纏めが予定されています。昨年12月には郵便貯金の改革についての全銀協の考え方を公表しました。国営の郵便貯金が「簡易で確実な少額貯蓄手段」を提供する意義はもはや失われているにもかかわらず、現在もなお230兆円という巨大な規模を有しております。経済の活力を高め、金融資本市場の活性化を図るには、もはや抜本改革を避けて通ることはできないと考えます。但し、現状の規模を維持したまま郵便貯金を民営化しても問題が解決するわけではありません。民間金融機関、就中、地域金融機関に深刻な影響を与えることが懸念されるほか、民営化後に経営困難に直面した場合の金融システムに与える影響も極めて甚大なものになるからです。私どもとしては、こうした観点や利用者利便の観点を踏まえ、郵便貯金の民営化後の姿として、定額貯金などの貯蓄性商品は廃止した上で、引き続き郵便局ネットワークを通じて通常貯金の受入れなどによる決済サービスの提供と、国債や民間金融商品の販売などを扱うナローバンクとなることを提案しております。改革案の内容については関係各方面に確りとご説明し、幅広い理解が得られるよう努めて参ります。

日本経済・産業の有するポテンシャルは依然大きいと言えます。企業部門は世界最大の経常黒字を稼ぎ出す競争力、技術力を有しており、家計部門は巨額の金融資産を蓄積しています。日本経済が長期低迷に甘んじてよい理由はありません。私ども金融機関としてもそうしたポテンシャルに積極果敢に挑み、新産業の育成やマネーフローの円滑化を通じて経済の新陳代謝を促し、日本経済が新たな成長軌道に乗ることができるよう、最大限の貢献をして参りたいと考えております。