2004年6月21日

各 位

全国銀行協会

金融調査研究会第2研究グループ報告書
「公的債務管理と公的金融のあり方」について

本日、標記金融調査研究会報告書を刊行いたしました。
金融調査研究会(座長:貝塚啓明中央大学教授)は、財政・金融分野における研究者をメンバーとして、全銀協により昭和59年2月に設置された研究会です。

本研究会では、2つの研究グループを設置し、第1研究グループ(主査:清水啓典一橋大学教授)は金融分野、第2研究グループ(主査:井堀利宏東京大学教授)は財政・政策金融分野のテーマの研究を行っています。

今回の報告書は、平成15年度の第2研究グループの研究成果をとりまとめたもので概要は下記のとおりです。

なお、本報告書は研究会としてのもので、全銀協としての意見を表明したものではありませんので、念のため申し添えます。

1.趣旨

今回の報告書では、巨額な公的債務を縮小することがわが国財政の緊急の課題であることに鑑み、公的債務管理と公的金融のあり方をテーマとして取り上げている。本研究会の報告書が、従来アカデミックな議論に偏る傾向が見られたことにも留意しつつ、今回はとりわけ具体的な政策提言につながるインプリケーションを得ることに留意した研究を行った。

研究会では、関係当局を含め、外部から講師の方々をお招きしてヒアリングを実施した。また、年度末には、学界・銀行界双方の関係者の参加を得て、政策提言(報告書に所収)を発表するコンファレンスを開催し、財政の維持可能性、国債管理政策、政策金融および財政投融資等に関して具体的な提言を行った。このような政策提言がより多くの議論を呼び、巨額な公的債務の縮小のため、適切な公的債務管理の実施と(公的債務のひとつである)公的金融の縮小に繋がれば幸いである。

(注)コンファレンスの模様については、全銀協機関誌「金融」2004年4月号に掲載。

2.概要

報告書の各章の概要は以下のとおりである(執筆者の肩書は2004年3月現在)。

第1章 公的債務管理と公的金融のあり方

(井堀利宏 東京大学大学院経済学研究科教授)

平成16年3月16日に開催された金融調査研究会コンファレンスにおいて井堀主査から報告された政策提言である。公的債務の累積とわが国財政の維持可能性への懸念を背景として、国債管理政策のあり方、政策金融のあり方および財政投融資計画の見直しについて提言を行っている。具体的には、課税平準化政策・公債のクッション政策の実施、一般会計の歳出抑制、個人向け国債マーケティングの強化、物価連動債の積極活用、郵便貯金のナローバンク化、公的金融の縮小と証券化の活用、財政投融資計画の見直し、公債管理担当者の権限強化、等を提言している。

第2章 公的債務管理と資金循環-マクロ金融モデルを用いた実証分析-

(亀田啓悟 新潟大学経済学部助教授)

郵貯等を含む公的債務の現状について吟味し、マクロ計量モデルにより財政改革・公的金融改革の効果について実証分析を行っている。その結果に基づき、1.現状のマクロ経済は不安定であり、公的債務の縮小が急務であること、2.「経済財政運営と構造改革に関する基本方針 2003」の歳出方針を堅持し、政府債務の拡大を最低限に抑えることが必要であること、3.郵便貯金は国債引受専門のナローバンクに改組し、政府系金融機関による貸出は全廃すべきであること、等を提言している。

第3章 わが国の国債管理政策に関する一考察

(土居丈朗 慶應義塾大学経済学部客員助教授)

近年の国債管理政策の動向を様々なデータから検証したうえで、国債管理政策のあり方に関する経済理論の展望およびそれに基づく分析、国債管理政策に関する政治経済学的研究の展望およびそれに基づく分析、ならびに満期構成と債務構成に関する国債管理政策について分析を行っている。これらに基づき、今後のわが国の財政運営として、歳出削減または税収の増加による債務削減の努力と、適切な国債管理政策が強く求められること等を提言している。

第4章 公的金融機関の社会的便益

(岩本康志 一橋大学大学院経済学研究科教授)

政策金融が必要とされる理由に関する理論的分析を行うとともに、公的金融機関の政策評価を整備するための課題の検討、および日本政策投資銀行を例として公的金融機関の活動の評価を行っている。その結果、政策評価について、政府において政策目的および手段としての直接融資の妥当性について検討が必要であること、個々の案件において費用便益分析の積極的な活用が図られるべきであること、等を提言している。また、公的金融機関の活動を市場テストによってチェックすること、さらには政府保証廃止等により公的金融機関を財政投融資から切り離すこと、等を提言している。

第5章 金融の証券化と公的金融の役割

(三井 清 明治学院大学経済学部教授)

金融の証券化と公的金融の関連性等について分析するとともに、証券化の促進と政府の介入について、証券化市場の揺籃期における市場規模拡大等のためには政府が介入する余地があること等を指摘している。そして、住宅金融公庫の証券化支援事業等について概観したうえで、公的金融仲介のより広い範囲で、証券化手法を用いたスリム化を検討すべきであること、公的債権・債務管理を行ううえで、公的金融の証券化を活用し、公的リスク負担を軽減することが考えられること、等を提言している。

(本件に関するご照会先)
金融調査研究会事務局 全国銀行協会
金融調査部 小川
〒100-8216 東京都千代田区丸の内1-3-1
電話 03-5252-3789
FAX 03-3214-3429