2005年1月 4日

全国銀行協会
会長 西川 善文

年頭所感

平成17年の新春を迎えるにあたり、所感の一端を申し述べ、新年のご挨拶に代えさせていただきます。
わが国経済は、昨年後半にスローダウンしたものの、輸出の増加や設備投資の拡大等により、景気の拡大基調は維持され、デフレからの脱却も視野に入りつつあります。また、銀行界においても、不良債権問題が解決に向けた最終段階に入っており、金融機関の創意工夫により、質の高い商品、サービスを積極的に展開していくステージに移りつつあります。
こうした状況下、銀行界としては、本年、以下のような諸課題に取り組んでまいりたいと思います。

第一の課題は、わが国金融システムを一層強固で信頼性の高いものとするため、リスク管理のさらなる高度化を図りつつ、バランスシートの改善や収益力の向上に向けた取り組みを、一段と推進していくことです。
不良債権処理の進捗により、金融システムの健全性に対する評価は着実に改善してきておりますが、新たな問題債権の発生等を防止しつつ、安定的かつ戦略的な経営を可能とする観点から、リスク管理の一層の高度化等を実現することが不可欠であります。
この点に関して、昨年6月にバーゼル銀行監督委員会より公表された新たなBIS規制は、リスクに対する感応度を高めるとともに、より先進的なリスク計測手法を採用した場合にリスクウエイトの低下を可能とする等、リスク管理能力の向上に向けたインセンティブを与える仕組みとなっております。このため、与信取り組み時のリスク管理に加えて、期中管理の徹底による不良債権への早期対応が従来以上に重要になる一方、リスク管理体制における新規制への対応を進め、効果的なポートフォリオ・マネジメントに積極的に取り組むことが課題となります。
また、昨今、企業による不祥事が相次いで表面化するなか、法令順守体制を一段と強化することも、お客さまから高い信頼を得る上で必要不可欠な課題です。当協会においても「倫理憲章」の制定や、コンプライアンス推進検討部会における法令順守の徹底に向けた各種の活動等に取り組んでおりますが、各行においても内部管理体制の一段の向上等に不断の努力をもって取り組む必要があります。
さらに、お客さまに銀行を安心して利用して頂くためには、顧客情報の一層厳格な取扱いや、システム面でのセキュリティ向上等に努めていくことも不可欠の課題です。本年4月には個人情報保護法の施行が予定されており、各金融機関が情報管理体制の一層の強化や情報システムのセキュリティ向上等に努めていくことに加えて、当協会においても適切な対策を講じてまいりたいと考えております。

第二の課題は、規制緩和や競争環境の整備が進められるなか、金融機関として、利用者のニーズに対応した多様で質の高い金融商品・サービス等を一層積極的に提供していくことです。
この数年間、金融機関は規制緩和の進展や金融・情報技術の革新を活かしつつ、新規分野への積極果敢な参入や従来型のビジネスモデルの転換、新たな金融取引手法の開発を通じて、より付加価値の高い金融サービスの提供に向けた取り組みを強めてまいりました。具体的には、個人の効率的な資産運用ニーズが高まるなか、銀行における投資信託や個人年金保険といった運用商品の販売が拡大するとともに、法人分野では所謂ポートフォリオ管理型の小口無担保ローンやシンジケートローンが拡がりを見せる等、ファイナンス手法の多様化・高度化が進んでおります。
今後、こうした取り組みをさらに進めていくに当たっては、お客さまの幅広いニーズにできる限り対応し、競争力の高い新たなビジネスモデルの構築等を可能とするための、一層の環境整備が重要となります。そのためには、銀行の保険販売の全面解禁を早期に行い、提供商品の多様化を図るとともに、銀行代理店規制を緩和し、様々なチャネルを通じた商品・サービスの提供を可能とする等、顧客利便性の観点に立った規制緩和が求められます。
さらに、金融サービスにおける環境整備では、公正かつ公平な競争条件を確保することが極めて重要であります。私ども銀行界は、現在、具体的な制度設計が進められております郵政民営化において郵便貯金が抱える問題の解決に向けた具体的な提言を行なうとともに、政策金融のうち、とりわけ先行して改革が実施される住宅金融公庫について、「民間に出来ることは民間に任せる」との基本原則に則った抜本的な見直しの実現を主張してきたところです。

わが国経済は、政府や日本銀行、民間企業等が一体となった懸命の努力の成果がようやく結実し、前向きな方向に向かって着実に進み始めております。本年は、こうした改革の取り組みをさらに進め、持続的な成長を図る上で、重要な1年になると考えております。こうしたなか、銀行界においても、前述した諸課題をクリアしつつ、わが国の企業や個人の前向きな活動を確りとサポートしていくため、十二分の体力と、環境変化に対する揺るぎない体制を基礎として、お客さまのニーズを絶え間なく探り、より付加価値の高い金融商品・サービスを提供していくための努力を重ねていきたいと思います。