2005年7月29日

各 位

金融調査研究会

金融調査研究会第1研究グループ報告書
「電子マネーの発展と金融・経済システム」について

このたび、標記金融調査研究会報告書を刊行いたしました。
金融調査研究会(座長:貝塚啓明中央大学教授)は、財政・金融分野における研究者をメンバーとして、全銀協により昭和59年2月に設置された研究会です。

本研究会では、2つの研究グループを設置し、第1研究グループ(主査:清水啓典一橋大学教授)は金融分野、第2研究グループ(主査:井堀利宏東京大学教授)は財政・政策金融分野のテーマの研究を行っています。

今回の報告書は、平成16年度の第1研究グループの研究成果をとりまとめたもので概要は下記のとおりです。

なお、本報告書は研究会としてのもので、全銀協として意見を表明したものではありませんので、念のため申し添えます。

1.趣旨

平成16年度は、ごく最近になって急速な普及の様相を見せている電子マネーを取り上げ、それが金融・経済システム全般にどのような影響を与えるのか、またその普及に伴う制度的対応の必要性如何や、金融政策や決済システムへの影響など、広範な視点からの分析と検討を行った。

研究会では、関連業界の方々からのヒアリングによって、様々な最新の情報を得ることができた。また、年度末には、電子マネーの法制面の対応を研究した金融法務研究会と合同で、多数の外部の方々にもご参加頂いたコンファレンスを開催した。

  • コンファレンスの模様については、全銀協機関誌「金融」2005年4月号に掲載。

2.概要

報告書の各章の概要は以下のとおりである。

金融調査研究会第1研究グループ研究総括「電子マネーの経済と法制」
平成17年3月1日に開催された金融調査研究会・金融法務研究会合同コンファレンスにおける、清水主査からの報告資料である。近年、電子マネーはICカード型を中心に急速な普及を見せているが、今後一層普及していくには、電子マネーに貨幣と同じ「一般受容性」を持たせることが重要であるという観点から、民間事業会社のみで行うことの限界、政府や金融機関に期待される役割等について言及している。

第1章 電子マネー成長の条件

(清水啓典 一橋大学大学院商学研究科教授)

電子マネーを現金と預金に代わる決済手段と定義して、発行者と利用者の費用便益の観点から、電子マネーがより広範囲かつ高額の決済に利用される条件を検討している。同時に、電子マネーは財・サービス販売に伴う付随的サービスの一環として一般企業から提供されている面があり、金融機関と一般企業との密接な連携と自由な競争環境が今後の成長にとって重要である点を指摘している。

第2章 電子マネーの普及と決済手段の選択

(北村行伸 一橋大学経済研究所附属社会科学
統計情報研究センター教授)

電子マネーの利用は主として少額の範囲で行われ、現金と、クレジットカードとの棲み分けが可能としている。また、将来の技術進歩によって電子マネーとクレジットカードの範囲が拡大し現金の利用域の収縮が予想されること、取引費用のみならず1店舗あたりの利用者数が電子マネーの利用拡大にとって重要である点が示されている。

第3章 小額決済媒体に対する需要と電子マネーの可能性

(齊藤 誠 一橋大学大学院経済学研究科教授)

 少額決済に使われる紙幣や硬貨に対する需要関数を計測し、需要面から電子マネーの可能性を考察している。少額決済手段(=硬貨や少額紙幣)に対する需要は金利水準の影響を受けにくいため、硬貨等に代替する決済媒体としての電子マネーの発行が現在の低金利下で拡大すれば、将来の金利が上昇した段階では、発行者はより大きな収益を期待できるとしている。

第4章 電子マネーの影響に関する整理

(柳川範之 東京大学大学院経済学研究科助教授)

多様な側面を持つ電子マネーの分析に関して、マネーサプライ、物価、物価のコントローラビリティ、シニョレッジの発生と帰属先、取引活性化、貨幣保有リスクのそれぞれに与える影響、という6つの視点から多様な論点を整理している。

第5章 電子マネーと現金等他の決済手段との共存について

(松井彰彦 東京大学大学院経済学研究科教授)

電子マネーと現金通貨との競合関係に注目して、それぞれが選択される条件を理論的に分析している。そこでは、電子マネーの普及にはその受容性が重要な要因であり、ある一定のレベルを超えると、その利用が一挙に拡大する可能性が指摘されている。

(本件に関するご照会先)
金融調査研究会事務局 全国銀行協会
金融調査部 世良、大山
〒100-8216 東京都千代田区丸の内1-3-1
電話 03-5252-3741
FAX 03-3214-3429