2008年8月29日

各 位

金融法務研究会

金融法務研究会第1分科会報告書「金融機関の情報利用と守秘義務をめぐる法的問題」について(金融法務研究会)

 金融法務研究会(座長:前田 庸 学習院大学名誉教授)は、金融法務分野における研究者をメンバーとして、全銀協により平成2年10月に設置された研究会です。
 本研究会では、2つの分科会を設置し(第1分科会主査:岩原紳作 東京大学大学院法学政治学研究科教授、第2分科会主査:能見善久 学習院大学法科大学院教授)、金融法務・法制に関するテーマの検討を行っています。
 本報告書は、第1分科会における平成18年度の研究テーマに関する成果をとりまとめたもので、概要は下記のとおりです。
 なお、本報告書は研究会としてのもので、全銀協として意見を表明したものではありませんので、念のため申し添えます。

  1. 趣旨
     本研究会では、平成12・13年度において、金融機関のグループ化と守秘義務について検討を行い、報告書をとりまとめている(金融法務研究会報告書(5)「金融機関のグループ化と守秘義務」(以下、「前回報告書」という)が、その後、平成17年4月に個人情報保護法が全面施行され、改めて、金融機関の情報利用、グループ内の情報共有、あるいは第三者への情報提供のあり方等について様々な議論がなされているところである。
     そこで、個人情報保護法施行などの状況変化を踏まえて、金融機関の情報利用と守秘義務をめぐる問題について、再検討を行った。

  2. 概要
     報告書の各章の概要は以下のとおりである。

第1章 最近のアメリカにおける金融機関の守秘義務に関する動向

(東京大学 神田秀樹教授)

 本章では、前回報告書における「アメリカにおける金融機関の守秘義務」以後の同国における動向について取り上げている。
 まず、1999年に制定されたグラム・リーチ・ブライリー法(GLB法)における「プライバシー」の章の内容について、金融機関の非公開情報個人情報の開示の観点から、その概要を述べている。当該規制の基本的取扱いとその例外について述べ、さらに制定後の動向を述べている。1999年の制定後の動きとしては、GLB法および同法に基づく監督当局の規則違反行為に対する是正措置を理由として損害賠償請求等の訴訟の提起を認めない判例や、カリフォルニア州におけるGLB法に対する上乗せ規制である州法の成立について述べている。
 続いて、1970年に制定された連邦公正信用報告法について、金融機関が適用対象となる場合を中心にその概要を述べたうえで、2003年改正法の内容についても言及している。また、関係者間での情報共有を禁止ないし制限する州法が同法に抵触した場合につき、連邦信用報告法の優先適用を認めた判例を紹介し、同法と州法との関係について述べている。

第2章 ドイツの金融機関グループにおける個人情報の伝達・利用について

(学習院大学 前田重行教授)

 本章では、ドイツの金融グループにおける個人情報の伝達、利用に対する法制度上の対応、および銀行監督規制と連邦データ保護法による個人情報保護との調整の問題について取り上げている。
 まず、金融グループ内における個人情報の伝達・利用に対する、株式法上のコンツェルン法、銀行普通取引約款、連邦データ法(BDSG)上の取扱いを検討し、原則として顧客の同意を必要とする厳格な規制が定められている旨を述べている。
 次に、近年、金融機関が銀行監督規制に適切に対応するため、個人情報の収集・伝達が不可欠となっている状況に触れた後、連邦データ保護法の解釈により、顧客の同意なしにこれを認める考え方について述べている。さらに、2006年改正信用制度法制定により、連邦データ保護法の実質的な適用除外が認められ、連邦データ保護法との調整が図られた点につき、同法10条を拠点に検討している。

第3章 個人情報保護と守秘義務との関係

(東京大学 山下友信教授)

 本章では、平成15年に個人情報保護法が制定され、一定の要件のもとに、個人情報の第三者提供が認められたことから、同法と第三者に対する顧客情報の漏えいを禁止する守秘義務との関係について検討している。
 まず、個人情報保護法により個人情報の第三者提供が認められるための法定要件ついて、同法に関連して金融庁が定めた「金融分野における個人情報保護に関するガイドライン」に触れつつ、概要を述べている。
 次に、銀行の守秘義務には実体法規がなく、個人情報の第三者提供が認められる事由についても解釈に委ねられていることから、守秘義務の限界に関する問題点について概観している。
 さらに、ドイツにおける連邦データ保護法(BDSG)と銀行の守秘義務との関係や、他分野(医療、電気)における事業者の守秘義務と個人情報保護法による保護との関係等、類似のケースを検討したうえで、個人情報の類型と第三者提供が認められる類型の両面から、銀行における守秘義務の限界について検討している。

第4章 銀行の守秘義務の本質 -債権譲渡を題材に

(上智大学 森下哲朗教授)

 本章では、債権譲渡における顧客情報の提供に係る検討を通じて、銀行の守秘義務の本質について検討している。
 まず、守秘義務が認められる法的根拠、顧客情報を秘密とする実質的理由に関する議論を中心とした従来の学説の状況、裁判例を紹介する。
 次に、貸出債権譲渡や債権流動化が活発化する中、債権譲渡等における譲受人への情報提供を認める考え方について、情報漏えいが生じた場合の銀行の責任にも触れつつ、考察を述べている。さらに、ドイツにおける判例および判例を巡る学説の状況について述べている。
 そのうえで、銀行の守秘義務は、顧客の情報コントロール権を根拠とするものであり、利益衡量的な視点から具体的な義務の内容を確定することが望ましいとしたうえで、守秘義務違反に対する対応についても検討している。

第5章 金融機関のグループ内における顧客情報の管理

(東京大学 岩原紳作教授)

 本章では、金融機関グループ内における顧客情報管理に関する法制について、個人情報保護法に関する解釈論を中心に検討している。
 まず、金融機関グループ内における顧客情報の管理に係る法令およびそれを具体化した指針等につき、その内容に触れつつ、個人情報保護法に関連する規制および銀行法に基づく規制の2つに分類、整理している。
 次に、個人情報保護法上、企業グループ内における個人情報の提供は第三者提供にあたり、原則として本人の同意が必要なものの、かかる同意なしに情報共有ができる場合について、同法の例外規定を中心に検討している。
 さらに、金融機関グループの経営管理、財務管理等、銀行法上の規制のために顧客情報の提供を行うケースにつき、同法の例外規定に該当するか否かについて、金融商品取引法業に関する内閣府令にも言及しつつ、詳細な検討を行っている。

【本報告書に関する照会先】
金融法務研究会事務局
全国銀行協会
業務部 大野 Tel.03-5252-4310
     窪田 Tel.03-5252-3793