2009年1月 4日

全国銀行協会会長 杉山 清次

年頭所感

 平成21年の新春を迎えるにあたり、所感の一端を申し述べ、新年のご挨拶に代えさせていただきます。

 昨年は、世界全体が金融不安と資源高に大きく揺さぶられた1年でした。年前半の資源価格の急騰に加え、夏場に金融不安が再燃し、欧米金融市場の「動揺」が「混乱」へと拡大して、遂には100年に一度の「危機」と言われるほど厳しい状況となりました。実体経済の弱体化も進み、とりわけ年央以降は、日米欧の同時失速によって先進国の景気が悪化の一途をたどるとともに、新興国経済の勢いも急速に失われてきています。全銀協会長に就任する際、経済環境が厳しさを増しているとの認識をお示ししましたが、現実はそれを遥かに凌ぐものでありました。

 外需に依存した成長を続けてきたわが国にとり、海外経済が停滞することの影響は大きく、本年もこうした厳しい状況が続くと考えられます。輸出の減少で生産活動が停滞し、業績悪化につながれば、企業の設備投資マインドが抑制されます。また、賃金や雇用の調整が続けば、個人消費の低迷も長引くでしょう。

 わが国の金融システムに目を転じても、欧米に比して相対的には安定していると言われてきたものの、景気の動向や株価急落をはじめとするグローバルな金融・資本市場の異常な状況が、いまや深刻な影響を及ぼすようになってきております。

 ただし、私は、バブル崩壊から立ち直り、その後約6年間に亘る経済成長を持続したわが国経済の底力を信じております。過度に悲観的になることなく、むしろ100年に一度の「危機」を迎えているこうした時にこそ、短期的な対処策に加え、長期的な視点も併せ持って「着実に前進する」ことが重要です。

 私どもとしても、本年を自らの「真価が問われる一年」と位置づけ、市場・規制環境の整備や金融機能の円滑化にかかわり、自主的・自律的に行動することで、銀行界としての役割を果たしていきたいと考えております。具体的には、以下の取り組みを重点的に進めてまいります。

 一点目は、「金融サービスの利便性・多様性の向上」です。
 6月迄に実施される銀行・証券のファイアーウォール規制見直しについては、その実効性が確保され、金融グループによる総合金融サービスの提供や統合リスク管理の拡充に繋がることが重要です。わが国金融・資本市場の利便性向上や競争力強化が促進される枠組みとなるよう働きかけるとともに、銀行界自身も「利用者利便」と「利用者保護」の両輪をバランスよく向上させ、多様で質の高い金融サービスの提供と適切な内部管理態勢の整備を目指してまいります。
 また、昨年12月に法律が施行された電子記録債権の枠組みは、中堅・中小企業等のお客さまに手形割引に代わる資金調達手段を提供する新しい金融インフラです。銀行界を挙げて取り組み、極力早期に電子債権記録機関を設立すべく検討を進めてまいります。
 なお、1月5日にはゆうちょ銀行が内国為替運営機構に加盟し、全銀システムとの接続が実現致しました。この接続は、利用者の方々にとって振込みの利便性を一段と向上させるものであり、今後とも円滑な運営に尽力したいと考えております。

 二点目は、「金融市場に対する信頼感・安心感の向上」です。昨年急増した振込め詐欺の被害は、銀行界と警察が協力して防止策を推進した結果、10月以降、減少傾向となりました。しかし、新しい手口が次々と出現するなど予断を許さない状況が続いており、被害の未然防止に向けた取組みや被害金返還の円滑化に向けた被害者救済法の告知など、引き続き精力的に取り組んでいく必要があると考えております。また、認定投資者保護団体となりました全銀協のあっせん委員会の運営を通じて紛争解決機能を一段と拡充するなど、利用者の方々に安心してご利用いただける環境整備に努めてまいります。
 この他、世界的な金融危機に対応するため昨年11月に開かれたG20金融サミットの「行動計画」などを踏まえ、金融機関の情報開示やリスク管理態勢、会計基準や自己資本比率規制についての国際機関等での議論にも、引き続き参画し、金融・資本市場の安定化・正常化に尽力していきたいと考えております。

 三点目は、「銀行の公共性を踏まえた社会貢献活動」です。銀行界としても、社会の一員として、環境問題や金融教育等の分野における貢献活動に主体的に取り組んでまいります。具体的には、小学生向けにECO壁新聞コンクールを実施するなど「全銀協エコプロジェクト」を継続するとともに、講師派遣や教材作成等で金融教育を推進し、次世代を担う子供たちの意識と知識の向上に貢献してまいります。

 この三点に加え、中堅・中小企業向け金融の円滑化については、政府の施策に盛り込まれた緊急保証制度等を踏まえ、銀行界として適切に金融仲介機能を発揮すべく引き続き全力で取り組んでまいります。

 いずれの重要課題についても「地道に、愚直に、正直に」、そして「利用者の視点」に立って取り組みを進めていくことが全銀協活動の基本になると固く信じております。銀行界を取り巻く環境が厳しさを増していく中においても、私どもとしては、多様で質の高い金融サービスの提供と、活力と信頼感のある金融市場の構築を実現することで、わが国経済の安定と持続的発展に貢献してまいりたいと考えております。

 最後になりますが、本年が皆様にとって、今後の発展に向けた実りのある年となることを祈念いたします。