平成22年1月 3日

全国銀行協会会長  永易 克典

年頭所感

 平成22年の新春を迎えるにあたり、所感の一端を申し述べ、新年のご挨拶に代えさせていただきます。

 昨年、世界経済は、米国発の世界金融危機に端を発した厳しい景気後退で幕を開け、わが国経済も、一昨年末から昨年初にかけて戦後最悪の落ち込みに見舞われました。しかしながら、経済危機の脱却に向けて、政府・日銀が政策を総動員される一方、銀行界も、その本来の使命である金融仲介機能の発揮に全力で取り組んできた結果、夏場以降、景気は、緩やかながら回復傾向に転じております。私は、昨年4月に全銀協会長に就任した際、「わが国経済にとって流れを変える年」になろうとの認識をお示ししましたが、着実に流れは変わりつつあるといえます。

 但し、民需は依然として弱く、物価の下落傾向も続いているため、回復ピッチはかなり鈍く、下振れリスクも意識せざるを得ない状況にあります。このため、今年は、まずもって、持ち直しに転じた経済の流れを確固たるものとすることが必要であり、これに向けて、引き続き政・官・民が緊密に連携しつつ、各々の役割を全うすることが重要です。私ども銀行界としても、金融円滑化に一段と力を尽くし、景気の力強い回復に最大限の貢献を果たしたいと思います。
 同時に、今年は、わが国経済の中長期的な成長力強化に向けた土台づくりにも取り組むべき年であります。すでに産業界では、景気悪化への対処にとどまらず、次なる成長期をにらんで業務の高度化・多様化、新商品開発や海外展開の強化等の取り組みが進んでおります。これを金融面からも後押しするため、今般の危機への反省も踏まえて、わが国金融・資本市場の機能を一段と強化し、資金の効率的な運用と成長分野への供給を確保することが必要です。これに向けて、今年は国内外で具体的な議論もなされる予定であり、銀行界も積極的に参画し意見を述べたいと考えております。

 このような観点から、今年、銀行界では、以下2点を重要課題として取り組んでまいります。

 第1に、景気の着実な回復に最大限貢献するべく、「資金供給の一段の円滑化」に注力いたします。
 昨年12月の「中小企業等金融円滑化法」施行もあって、各行は金融円滑化の取り組みをさらに徹底しておりますが、全銀協としても、会員各行の対応をフォローするとともに、自ら主体的・能動的に金融円滑化対応を進めてまいります。具体的には、企業の新たなビジネスチャンス創出を支援する「企業情報掲載サイト(仮称)」の開設、住宅ローン等利用者に対するきめ細かな返済相談など「個人のお客さまに優しい銀行利用環境の整備」を行うべく準備を進めており、21年度中のなるべく早い時期にスタートさせたいと思います。

 第2に、中長期の成長力強化に資するとの観点から、わが国金融・資本市場の機能強化に向けた制度およびインフラ整備にも対応してまいります。
 まず、新たな金融・資本市場の枠組みづくりに向けたグローバルな取り組みへの参画です。昨年来、議論が活発化している金融規制改革では、バーゼル銀行監督委員会の市中協議案に対する影響度調査等を踏まえ、今年一杯をかけて検討が行われる予定です。ただ、新たな規制の内容によっては、銀行業務を過度に制約し景気の回復に水を差す可能性もなしとしません。また、国際的に公平な競争条件を確保するため、各国の制度や各金融機関のビジネスモデルの差異等への配慮も必要です。こうした観点から、日本の銀行界として様々な機会を捉えて積極的に主張を行いたいと思います。加えて、国際会計基準への対応についても、銀行の財務や実務対応への影響を十分注視し、必要に応じて意見を述べてまいります。
 また、今年は、公的金融、なかでも郵政改革問題で大きな転換点も予想されます。全銀協は、かねてより郵政改革について、「適正な規模への縮小」、「民間金融機関との公正な競争条件の確保」、「事業間の適切なリスク遮断」を進めることで、国民の利便向上および民間への資金還流を図ることが重要と主張してまいりました。今後の議論・検討では、ゆうちょ銀行と民間金融機関の公正な競争条件を確保しつつ、利用者利便の向上に資する健全な金融・資本市場が構築されるよう、慎重な議論が尽くされることが重要です。斯かる観点から銀行界としても積極的に意見を述べてまいります。
 つぎに、金融取引の安全性向上・利用者保護の徹底を図るべく、引き続き金融犯罪の未然防止に取り組んでまいります。昨年は、6月、10月の2度にわたり振り込め詐欺被害防止キャンペーンを実施いたしました。今年も、関係当局との連携により、金融犯罪の撲滅に向けた対応を徹底してまいります。また、金融ADR(裁判外紛争解決制度)について、既存の「あっせん委員会」の枠組みを法律に即して整備し、今年中に「指定紛争解決機関」の指定を受けるべく、所要の対応を進めてまいります。さらに、足許では、利用者保護強化の一環として、店頭デリバティブ取引に関する規制の見直しや、デリバティブ取引等における公正確保等の議論も始まっております。利用者保護とともに利用者利便の向上にも資するよう、銀行界も実務の見地から意見を申し上げていきたいと思います。
 加えて、効率的な市場インフラの整備も進めてまいります。昨年、全銀協では、平成24年5月を目指して電子債権記録機関を開業することを正式に決定いたしました。今年12月には設立準備会社を立ち上げる予定であり、これに向けてシステム開発・組織運営体制等の具体的作業を確実に推進いたします。併せて、昨年成立した「資金決済に関する法律」に基づき、今年4月には資金清算機関も設立する予定です。所要の体制整備を経て10月からの事業開始を目指しており、そのための準備作業にも、しっかり取り組んでまいります。

 目下、わが国にとっては、上向きに転じた経済の確実な回復が最重要の課題ですが、それを果たした後も、グローバル化や高齢化・人口減少の進展など問題は数多く残されています。しかし、高い潜在成長力を有するアジアに位置する地の利や、環境、IT等で世界をリードしうる高度な技術力等、わが国が持つ強みを適切に活かしていけば、諸問題を乗り越え、中長期にわたって持続的な成長を遂げていくことは十分に可能と考えます。これに必要な資金の円滑な供給、金融資産の安定的・効率的な運用等において銀行界が果たすべき役割もまた非常に大きいといえます。
 金融の成長は実体経済の拡大とともにあることを常に念頭におきつつ、利用者保護と商品・サービスの高度化・多様化による利用者利便の向上を高次元で両立させることで、わが国経済の成長に貢献していきたいと考えております。

 結びに、今年が皆様にとって、実り多い年となることを祈念いたします。