平成22年8月16日

各 位

金融法務研究会

金融法務研究会第1分科会報告書「金融機関における利益相反の類型と対応のあり方」について(金融法務研究会)

 金融法務研究会は、金融法務分野における研究者をメンバーとして、全銀協により平成2年10月に設置された研究会です。
 本研究会では、2つの分科会を設置し、金融法務・法制に関するテーマの検討を行っています。
 本報告書は、第1分科会における研究テーマに関する成果をとりまとめたもので、概要は下記のとおりです。
 なお、本報告書は研究会としてとりまとめたものであり、全銀協として意見を表明したものではありませんので、念のため申し添えます。

  1. 趣旨
     本研究会では、平成17年度に「金融持株会社グループにおけるコーポレート・ガバナンス(金融法務研究会報告書(13))」においても、コングロマリット化の進展に伴う金融グループにおける利益相反の問題について検討を行っているが、近時においては、銀行単体を考えても、M&Aやプロジェクトファイナンス等のアドバイザー、シンジケーションのエージェント等について、自行の貸付業務、または他の顧客との取引業務と利益相反の可能性について指摘がある。
     こうした状況を踏まえて、金融機関における利益相反の類型を整理したうえ、その対応のあり方について、欧米諸国の比較法制を踏まえながら、検討を行っている。

  2. 概要
     報告書の各章の概要は以下のとおりである。

第1章 金融機関と利益相反-EUの規制

(東京大学 山下友信教授)

 本章では、EUの金融機関の利益相反規制について、投資サービス指令(ISD)から金融商品市場指令(Mifid)および実施指令の制定過程を辿りながら、その法規制の内容を概観している。
 まず、EUで金融機関に関する法規制において利益相反問題が最初に具体化された1993年のISDを取り上げ、続いて、ISDを改正した2004年のMifidの制定までの動きを概観し、ISDからの変更点を指摘している。
 次いで、Mifidを具体的に実施するために必要な事項を規定する2006年実施指令の立案過程を取り上げ、その際にCESRより提出された意見書を概観し、さらに当該実施指令による具体的な利益相反規制の内容について説明している。Mifidの基本的考え方として、利益相反の所在をアイデンティファイし、存在する利益に対しては、コンフリクト・ポリシーに基づく顧客の不利益を防止するよう努めなければならないというものであり、実施指令は、当該考え方に基づく基準等を設けていることを示す。

第2章 ドイツにおける金融機関の利益相反行為とその規制

(学習院大学 前田重行教授)

 本章では、ドイツにおいて、銀行が種々の業務を兼営するユニバーサル・バンク・システムが採用されていることから、その利益相反行為とその規制の問題について検討している。
 まず、ドイツにおける利益相反規制の背景および経緯について概観している。次いで、銀行による利益相反行為について、貸付業務における利益相反、貸付業務と証券業務との兼営から生じる利益相反、銀行の証券業務における利益相反等のそれぞれの様態について具体的に検討している。
 そして、近時の新たな証券取引法における利益相反規制につき検討し、同法が求める利益相反の回避のための構築が要求される組織上の体制に対する具体策として、従来の法規制でも規定されていたチャイニーズ・ウォール設定の必要性が引き続き要求されていると指摘している。

第3章 英国における金融取引と利益相反

(上智大学 森下哲朗教授)

 本章では、英国の利益相反に関する私法上の理論や判例の状況を紹介し、銀行が顧客に対して利益相反に関してどのような義務を負うかという問題の議論の状況を概観したうえで、英国FSAによる規制内容を紹介している。
 まず、Hollander & Salzedoの著書である”Conflicts of Interest”にもとづき、英国における利益相反についての一般的な私法上の理論を紹介している。
 次に、英国において銀行が顧客に対し信認義務を負うかが問題となった事例を紹介するとともに、文献等で利益相反が指摘される証券取引、ディーラー、シンジケートローンおよびM&A取引を取り上げている。さらに利益相反をマネージする方法として、顧客のインフォームド・コンセント、契約条項による方法、組織体制の工夫およびチャイニーズ・ウォールについて問題点とともに紹介している。
 また、英国における金融機関監督上の利益相反規制として、英国FSAによる規制内容を紹介している。

第4章 アメリカにおける銀行の証券業務に関する規制

(東京大学 神田秀樹教授)

 本章では、アメリカにおける銀行の証券業務に関する業法規制について概観している。
 まず、アメリカにおける利益相反の意義と業法規制以外の法制について取り上げている。次いで銀行に関する証券業務以外の業法規制を紹介し、銀行の固有業務については、顧客との関係が私法上契約関係になるのか信認関係になるのかが重要であるとしている。そのうえで、銀行の証券業務における利益相反に関する法律による規制を概観し、さらにグラム・リーチ・ブライリー法による銀行持株会社に対する利益相反規制を紹介している。

第5章 金融機関と利益相反:総括と我が国における方向性

(東京大学 岩原紳作教授)

 本章では、利益相反に関する比較法的検討を総括したうえで、わが国の法律による規制および判例を検討のうえ、その方向性を示している。
 まず、英米法、ドイツおよびEUにおける利益相反規制を総括している。
 次に、日本の銀行法等による監督法的規制、その私法規定および金融商品取引法の規定を取り上げたうえで、利益相反事例に係る判例を検討している。そこでは、金融機関と顧客の間では、利益相反に関する義務について、法令や契約により忠実義務・誠実義務を負う場合だけでなく、信義則違反や不法行為といった一般的責任原因という形で判例上その例外が認められていることを明らかにしている。
 そのうえで、わが国の利益相反問題の方向性について、まず、判例に見られる金融機関の責任に関する例外的取扱いについて、法と経済学の議論を参考に分析している。さらに、シンジケートローンのアレンジャーやエージェント、プロジェクトファイナンスにおけるアドバイザリー業務、M&A業務を取り上げ、説明義務違反や信義則違反となりうる場合について分析し、対処方法について検討を行っている。

【本報告書に関する照会先】
金融法務研究会事務局
全国銀行協会 業務部
大野 Tel.03-5252-4310
永田 Tel.03-5252-4714