2010年9月17日

各 位

金融調査研究会

金融調査研究会第1研究グループ報告書「金融危機下における金融規制・監督等のあり方」について(金融調査研究会)

 金融調査研究会(座長:貝塚啓明東京大学名誉教授・金融教育研究センター長)の第1研究グループ(主査:清水啓典一橋大学教授)は、今般、標記報告書を取りまとめました。

 本研究会では、平成21年度において、「金融危機下における規制・監督等のあり方」を研究テーマとして取りあげ、この課題に向けた取組みについて検討を行いました。その成果は、「金融危機を踏まえた規制・監督のあり方~世界一律規制から、地域特性を考慮した規制への転換~」と題する提言として取りまとめ、平成21年11月27日に事務局である全国銀行協会ウェブサイトにおいて公表するとともに、同年12月4日にはシンポジウム「金融危機を踏まえた規制・監督のあり方を考える」を開催しております。
 本報告書は、同提言に加え、研究会の各メンバーが執筆した研究論文を収録し、金融危機下における規制・監督のあり方やその課題等を理論面から論じたものとなっています。本報告書に所収された論文は、研究グループのメンバー各人の責任で執筆されたものであり、執筆者の所属する機関の意見を反映したものでも、また、全国銀行協会の意見を表明したものでもありません。
 本研究会としては、この報告書が、本分野に関心を持つ企業関係者、研究者等、多くの方々にご活用いただけることを期待しています。

【本件に関するご照会先】
金融調査研究会事務局
全国銀行協会 金融調査部 福田、藤澤
〒100-8216 東京都千代田区丸の内1-3-1
Tel.03-5252-3789
Fax.03-3214-3429

 

別紙

 

「金融危機下における金融規制・監督等のあり方」の概要

 

提言 「金融危機を踏まえた規制・監督のあり方」~世界一律規制から、地域特性を考慮した規制への転換~

 当研究会の提言として、平成21年11月27日に事務局である全国銀行協会ウェブサイトで公表したものを再掲している。
 本提言は、望ましい金融規制について、「自己資本比率規制―世界一律規制から各国ごとの特性を反映した規制への転換―」、「“Too big to fail”問題への対応」、「適切な流動性規制のあり方」に関し具体的な提言を行うとともに、「マクロ・プルーデンス政策のあり方」、「日本の経験から学ぶべきこと」という2つの留意点を指摘している。

 

第1章 世界金融危機後の国際的金融規制 ― 経験からの教訓 ―

(清水啓典 一橋大学大学院商学研究科教授)

 国際的な金融規制の再構築を見据え、日本や世界の金融危機において実際に起こった事実からの教訓を整理している。そこでは、世界一律規制がかえって危機を生み出す原因となり、危機への対処に当たっては、世界一律規制に縛られない各国の柔軟な対応が不可欠であった点を教訓として、金融危機解決のために実際に採られた対応策を予め考慮した各国独自の規制体系への転換が図られるべきことを指摘している。

 

第2章 マクロ・プルーデンスの視点

(前原康宏 一橋大学国際・公共政策大学院教授)

 マクロ・プルーデンスの視点とは何か、当該視点が金融規制・監督や金融政策に対して持つ意味を検討した内容となっている。マクロ・プルーデンスの視点とは、個別の金融機関ではなく、金融システム全体に焦点を当て、金融システム全体のリスクを経済主体の集団的な行動の結果として生じた内生的なものと捉える政策的なアプローチとされる。当該視点は、ミクロ・プルーデンスの視点と補完関係にあり、各国間の協調的な政策対応に当該視点を取り入れる必要性が述べられている。

 

第3章 早期是正措置と銀行のfunding liquidity risk

(米澤 康博 早稲田大学ファイナンス研究科教授)

 日本における金融危機を分析し、当時の自己資本比率規制(BIS規制)を強制する早期是正措置が実施された影響を検討している。当該措置が実施された結果、保有資産価値の減価による担保価値の低下によって資金調達ができなくなるfunding liquidity risk問題が生じたという経験を踏まえ、BIS規制の強化措置は流動性が十分でないような金融危機時に実施するのではなく、経済が堅調な時期に行うべきであるという結論を導いている。

 

第4章 公的資金による資本増強が金融機関のリスク評価に与えた影響― 株価データによる分析 ―

(奥山英司 中央大学商学部准教授)

 日米金融機関における株価データにもとづく金融機関のリスク評価を行うことによって、公的資金注入の影響を検討している。公的資金の注入は、金融機関に対するモラル・ハザードを生む危険性があるため、公的資金注入時や注入後に金融機関へのフォローアップを実施するなど、モラル・ハザードへの対策を十分に検討しつつ実行するとともに、平時からモラル・ハザードをキーワードの1つとして制度を検討することが求められると指摘している。

 

第5章 大規模金融機関の破綻処理― 日本の金融危機からのインプリケーション ―

 

(鯉渕賢 千葉商科大学商経学部専任講師)

 日本における大規模金融機関の破綻が、借手企業や他の存続銀行の株価に与えたインパクトを検討し、金融システム全体の観点から大規模金融機関の円滑な破綻処理の枠組みを構築することの重要性を指摘している。そのうえで、金融システムの改革の方向性としては、強くなってしまった事後的な政府介入の程度を弱め、金融システムに市場規律を回復する方向性が望ましいと示唆されている。

 

(※ 肩書きは平成22年3月現在)

以上