平成22年9月17日

各 位

金融調査研究会

金融調査研究会第2研究グループ報告書「経済対策と財政均衡」について(金融調査研究会)

 金融調査研究会(座長:貝塚啓明東京大学名誉教授・金融教育研究センター長)の第2研究グループ(主査:井堀利宏東京大学教授)は、今般、標記報告書を取りまとめました。

 平成20年9月の米国投資銀行の経営破綻を契機として、世界経済は戦後最大の同時不況に陥りました。主要先進国では金融支援策とあわせて財政出動による経済対策が協調して講じられたことから、世界経済は回復傾向にあります。わが国でも財政面を通じた経済対策が数次にわたり実行に移され、平成21年以降は持ち直しの動きがみられています。
 一方、大規模な財政出動をともなう経済対策の実施は、主要先進国における財政収支の赤字幅拡大と債務残高の増加につながるものであり、今後の財政に与える影響は大きいと考えられています。
 特に、わが国の場合、今回の経済対策を実施する前から既に債務残高の対GDP比が高水準であり、財政状況の一層の深刻化も懸念されていることから、将来の財政健全化を見据えた議論に当たっては、経済対策・財政出動の効果と財政均衡の検証と双方のバランスのあり方が大きな論点であると考えることができます。

 上記のような問題意識に立ち、金融調査研究会第2研究グループでは、平成21年度のテーマとして「経済対策と財政均衡」を取りあげて研究を行い、今般、その成果を報告書として取りまとめました。本報告書に所収された論文は、研究グループのメンバー各人の責任で執筆されたものであり、執筆者の所属する機関の意見を反映したものでも、また、全国銀行協会の意見を表明したものでもありません。
 本研究会としては、この報告書が学術面だけでなく、わが国の財政状況の実態を踏まえた財政健全化に関する議論に対しても、有益な示唆を与えるものと期待しています。

【本件に関するご照会先】
金融調査研究会事務局
全国銀行協会 金融調査部 石井(誉)、石井(良)
〒100-8216 東京都千代田区丸の内1-3-1
Tel.03-5252-3741
Fax.03-3214-3429

 

別紙

 

「経済対策と財政均衡」の概要

 

第1章 経済対策と財政規律(提言)

 本年2月に取りまとめた当研究会の提言を再録している。具体的には、近年の経済危機下におけるわが国の経済対策の状況を踏まえ、財政出動が財政に及ぼす影響を示したうえで、[1]財政健全化の必要性、[2]財政目標の設定、[3]経済対策と財政均衡のバランスといった観点からわが国に求められる財政運営のあり方について考え方を提起するとともに、歳出・歳入の改革に対する提言を行っている。

 

第2章 財政健全化と長期金利の動向

(中里透 上智大学経済学部准教授)

 わが国を対象に財政赤字と長期金利の関係を考える場合、財政状況の悪化がなぜ長期金利の上昇につながらないのか、国債市場の安定性を確保していくために財政の健全化に向けた中長期的な財政運営のフレームワークをどのようなかたちで策定すべきか、ということが重要なポイントとなってくる。
 本稿では、近年における財政状況の悪化とソブリンリスクに対する関心の高まりを踏まえて、財政赤字と長期金利の関係について論点整理を行うとともに、中長期的な財政運営のフレームワークのあり方について検討を行っている。

 

第3章 ニューケインジアン・モデルによる財政政策の分析:展望

(土居丈朗 慶應義塾大学経済学部教授)

 今般の世界同時不況に対応して、主要国では「財政出動」が提起され、ケインズ政策が復活したかのように報じられている。しかし、この政策は伝統的なケインズ政策を唱えているのではなく、幾多の論争を経て研究成果が蓄積されてできた、ニューケインジアンと呼ばれる学派が今日の論理的な支持基盤を与えている。
 本稿では、ニューケインジアン・モデルの基本的枠組みについて概観し、財政分析の中から財政政策の乗数効果を中心に近年の研究について比較衡量を行っており、近年におけるニューケインジアン・モデルを用いた財政政策の効果に関する分析を展望している。

 

第4章 財政赤字の要因分析と予測の不確実性

(畑農鋭矢 明治大学商学部教授)

 財政運営ルールの変化を統計データによって観測することは難しいが、財政収支決定プロセスの観察できない要因の変化について考慮できる状態空間モデルを用いれば、財政運営ルールのような観測不能な変数を定量的に把握することは可能である。
 本稿では、経済理論を背景とした財政収支決定モデルの概要説明を行い、推定を行った状態空間モデルの結果を基礎として、財政赤字の要因分析と2050年度までの予測を試みている。

 

第5章 地方財政とコミットメント

 

(別所俊一郎 一橋大学大学院経済学研究科/国際・公共政策大学院専任講師)

 財政赤字や公債は、課税平準化を達成するための緩衝装置として、あるいは世代重複モデルにおける黄金律達成の手段として有効と考えられるが、政治的影響を受けて過大となると言われている。
 本稿では、市場規律、再選動機、財政ルール、財政委員会等の財政規律を維持する仕組みに関する近年の実証研究をいくつか採りあげるとともに、わが国の都道府県財政の規律付けの1つの可能性としての人事交流の影響について検討している。

 

(※ 肩書きは平成22年3月現在)

以上