2011年9月16日

各 位

金融調査研究会

金融調査研究会第2研究グループ報告書「超高齢社会における社会保障・財政のあり方」について(金融調査研究会)

 金融調査研究会(座長:貝塚啓明東京大学名誉教授)の第2研究グループ(主査:井堀利宏東京大学教授)は、今般、標記報告書を取りまとめました。

 わが国の社会保障制度を取り巻く環境をみると、制度設計が行われた1960~70年代と現在では、総人口・人口構成、就業形態、生活形態、地域基盤等の状況は大きく変化しています。このような社会構造の変化にあわせて社会保障制度も一定周期で見直され、現在も公的年金・医療・介護等の各制度について議論が続けられていますが、抜本的な制度改正までには至っていません。
 社会保障制度を支える財源に視点を移してみると、わが国の一般歳出において社会保障費はすでに大きな割合を占めています。少子高齢化が急速に進む中、現行の枠組みを維持する限り、社会保障関係の給付は今後も増加し続けることは確実であり、債務残高の対GDP比が主要欧米諸国対比で現時点でも突出するなど危機的状況にあるとも言われるわが国財政の現況を考えると、持続可能な社会保障のあり方を早急に検討する必要があります。

 上記のような問題意識に立ち、金融調査研究会第2研究グループでは、平成22年度のテーマとして、超高齢社会における社会保障・財政のあり方を取りあげて研究を行い、今般、その成果を報告書として取りまとめました。本報告書に所収された論文は、研究グループのメンバー各人の責任で執筆されたものであり、執筆者の所属する機関の意見を反映したものでも、また、全国銀行協会の意見を表明したものでもありません。
 本研究会としては、この報告書が学術面だけでなく、わが国の財政状況の実態を踏まえた財政健全化に関する議論に対しても、有益な示唆を与えるものと期待しています。

【本件に関するご照会先】
金融調査研究会事務局
一般社団法人全国銀行協会 金融調査部 遠藤(績)、石井
〒100-8216 東京都千代田区丸の内1-3-1
Tel.03-5252-3741
Fax.03-3214-3429

 

別紙

 

「超高齢社会における社会保障・財政のあり方」の概要

第1章 超高齢社会における社会保障・財政のあり方(提言)

 本年2月に取りまとめた当研究会の提言を再録している。具体的には、近年のわが国の社会保障制度の現状と課題を踏まえ、社会保障制度のあるべき姿を示したうえで、(1)財政との一体改革、(2)社会保障制度における自助の機能の強化に向けた取組といった観点から、今後求められる社会保障・財政のあり方について考え方を提起している。

 

第2章 社会保障財政の長期的課題

(岩本康志 東京大学大学院経済学研究科教授)

 今後の少子高齢化の進展による社会保障費の増加は、財政運営の大きな課題となっている。同時に、巨額の財政赤字が続いている現状から財政健全化を図らなければいけないという課題を今、抱えている。
 本稿では、2050年度に至る長期的視点から、持続可能な社会保障財政のあり方を検討することを目的としている。また、社会保障の財源として税と社会保険料をどのように組み合わせるのか、という問題について、経済に与える攪乱効果をできるだけ小さくすること、政治的維持可能性を保つことの2つの視点から検討を行っている。

 

第3章 1990年、2000年代の世代間再分配政策の変遷:世代会計を用いた分析

(宮里尚三 日本大学経済学部准教授)

 少子高齢化の進展は賦課方式を前提とした社会保障制度を持つ場合、世代間の負担の格差を生み出すことは多く指摘されてきた。その世代間の負担の格差を定量的に捉える場合、世代会計の手法が有益であると考えられる。
 留意すべき点はあるが、人々がライフサイクル的に行動し、また流動性制約などに直面していない場合、世代会計は有益な指標になりうる。さらに、出生年齢別の各世代の生涯の政府からの純受益額の割引現在価値を計測するのが世代会計の特徴であるため、世代間の負担の格差や世代間の再分配政策を定量的に捉える場合、重要な情報を提供している。
 本稿では、わが国の90年代以降の世代間再分配政策を世代会計の手法を用いて考察しており、世代会計の概略と問題点について述べるとともに、データや推計結果を取りまとめている。

 

第4章 公的年金と子育て支援:出生率内生化モデルによる分析

(小塩隆士 一橋大学経済研究所教授)

 公的年金が賦課方式で運営されている場合、少子高齢化によって現役層が先細ると、給付を引き下げるか、あるいは負担を引き上げるしかない。これは、生涯を通じた効用の低下や世代間格差の拡大にもつながる。こうした事態を回避するために、子育て支援によって出生率の回復が求められる。一方で、公的年金は、その充実によって子供に対する需要を引き下げると同時に、その結果進行する少子化によって財政的な存立基盤が揺らぐという、自己否定的な性格も有している。
 本稿では、こうした公的年金の自己否定性を考慮に入れたうえで、子供数の累積的減少を回避し、公的年金の持続可能性を高めるための方策を検討している。

 

第5章 日本における地方財政と社会保障の課題

 

(林正義 東京大学大学院経済学研究科准教授)

 多くの国における公的支出の大半は、現金や現物の移転を通じた再分配的な歳出が大部分を占めているように、現代国家における財政上の課題は、ほとんどが社会保障に係わる課題である。またわが国において社会保障の課題を考える場合、地方の役割を理解することも重要である。
 本稿では、わが国の地方が社会保障歳出において大きな役割を担っており、わが国の社会保障の課題は地方財政の考察なしに議論することはできないという視点をもって、わが国の社会保障に係る環境変化を特定し、社会的安全網の綻びに係る問題を指摘するとともに、社会保障財源についてとりあげ、国税としての消費税増税、国と地方を通じての徴税機関の一体化および強化、そして、地方税の増税に関する考え方を述べている。

 

(※ 肩書きは平成23年3月現在)

以上